A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (846)
837話 溶ける
「海斗、自分でどうにかできないの?」
ミクに言われて、右手に持つ白麗剣で凍った左腕を叩いてみると、氷に傷が入る。
「自分でやるのは結構厳しい。剣が扱い辛いし、力加減が難しい。表面だけならいけると思うけど、それ以上は腕まで斬れそうで怖いな」
氷の強度はそこまででもないので白麗剣で十分に傷つける事は出来るが、かなり危ない。
「やっぱりわたしが燃やしてやるよ」
「いや、いい。そもそも燃やすんじゃなくて溶かすんだからな」
「せっかく親切で言ってやってるのに」
「いや、本当に大丈夫だから」
ルシェにお願いしたら本当に燃えてしまう。
「海斗、私がやってみようか?」
「どうするつもり?」
「人に使ったことなから自信はないけど『ファイアスターターで燃やしてみる?」
「ミク、燃やすんじゃなくて溶かしてほしいんだ」
「そんなのわかってるわよ。言葉のあやってやつよ」
ミクもルシェに影響されたのか燃やすとか言うのはやめてほしいけど、確かに『ファイアスターター』で溶かしてもらうのが1番いい気がする。
「それじゃあお願いします。腕は燃やさないように。頼んだよ」
「わかってるわよ。それじゃあいくわね。『ファイアスターター』」
ミクのスキルが発動して俺の腕が燃えている。
いや、正確には腕を覆っている氷の上から炎が包み込むように生じている。
そのおかげで徐々に氷が溶け、水蒸気が上がっている。
「ミク、いけそうだ。結構溶けてきてる」
「海斗、話しかけないで。集中できないと本当に燃えちゃうわよ!」
「ご、ごめん」
氷が溶けてきたのが嬉しくて声をかけてしまったが、ミクの邪魔をしちゃダメだ。
さっきまで冷たさと痛みに苛まれていた腕が、なんとなく熱さを感じるようになってきたような気がする。
「あっっ! ミク、熱い熱い! 燃える。燃えちゃう」
しばらくすると、ほんのりと熱かった腕は、徐々にその温度を上げやけるような熱さにかわった。
「海斗、もうちょっと我慢して。まだ氷が溶けきってないわ」
「え〜っ、我慢って、無理無理」
昇華した苦痛耐性(中)が既に活躍してくれているとは思うが、いくらスキルでも火で炙られるのを耐え切るような破格の性能は備えていない。
もしそれが可能ならもう人では無くなってしまっている気もするが、今はそれどころではない。
氷が溶けきってはいないので腕が燃えている訳ではないが、燃えるように熱い。
「ご主人様、お力になれればいいのですが」
シルの優しい言葉も今は耳に入らない。
「熱い! 痛い! 燃えるって!」
「マスター回復を! 『キュアリアル』」
ティターニアが回復スキルをかけてくれるが、正直痛みには効果が薄い。
もしかしたら回復しているのかもしれないが、回復と同時進行で燃え続けている状況ようではその効果を体感する事はできない。
「ミク! まだ!? もう無理」
「あとちょっとだから我慢して」
いや、これは我慢できない。
氷で痛いのか、熱さで痛いのかその両方なのかもよくわからないが、腕が燃えるように熱い!
痛みで気が遠くなりそうだ。
ミクのファイアスターターでこの苦痛。
ルシェの獄炎ならどれだけの苦痛が襲ってくるんだ。
考えただけで倒れそうになる。
「ふ〜ふ〜ふ〜っ」
「海斗、なんだそれ。ふ〜ふ〜うるさいな。シャベンみたいだぞ。これだから軟弱者は」
うるさいのはお前だルシェ。今の俺には精神統一が必要なんだ。それにシャベンってなんだよ。聞いた事ないぞ。魔界の生き物かなんかか?
「海斗、終わったわよ」
「終わった?」
「終わったわ。ちょっと服が燃えたのはご愛嬌ってところね」
「マスター、『キュアリアル』が発動しているので大丈夫ですよ」
服が燃えてるってことは、当然皮膚も焼けているって事で確かに『キュアリアル』で回復はするんだろうけど全く大丈夫ではない。
ただ、氷から助けてもらったのは間違いなく、文句を言える立場ではない。
「ミク‥‥助かったよ。ありがとう」
「困った時はお互い様。また氷で困ったら助けてあげるから」
ありがたいお言葉だが、できればもう遠慮したい。
俺には何回もこれを耐え切る自信はない。