A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (85)
第85話 ドローンの恨み
俺は今8階層で生きる屍と化している。
「ねえ、海斗、しっかりして。モンスター来ちゃうわよ。戻ってきて。」
何か遠くでミクの声が聞こえる気がする。そういえば俺は今何をしているんだろうか。もうこのまま貝になりたい。
「しっかりしなさい。」
『バッチーン!』
あいりさんの声と共に右頬にすごい衝撃と痛みが走った。
え?今俺、ほっぺた叩かれた?
突然現世に呼び戻されて覚醒したものの、今度は、女性にほっぺたを叩かれた事にショックと動揺を隠せなかった。
「ドローンは残念だったが、今はモンスターに備えるのが先だ。しっかりしろ。」
「あ、ああ。そうですね。モンスターね。モンスター・・・・」
ちくしょー。絶対に許せない。あのワニ野郎、絶対にミンチにしてやる。俺のドローン返せ!
失われたドローンの最初で最後のお仕事のお陰で敵が2体なのはわかっている。
「みんな。さっきのワニ野郎は、俺が仕留めるから、3人で残り1体の対応を頼む。水際から離れて、上がってきたら『アースウェイブ』で足止めして、そのあとは距離を保ちながら攻撃してくれ。」
指示を出してから、俺が少し水辺に近づくと、ワニ型モンスターが2体飛びかかってきた。左側の個体を見ると、開けた口の中のギザギザの歯にドローンの残骸が引っかかっていた。
それを見た瞬間、俺の中で何かが切れた。
「うぉぉー。ふざけんなこのワニ野郎。俺の努力と時間と金を返せ。」
感情が爆発して、冷静な判断をできなくなってしまった所為で、正面から突っ込んで行った。
「ウォーターボール」
怒りは恐怖をも凌駕するらしい。
魔氷剣レイピア型を発動させて、そのままワニ型に攻撃を加える。
巨大な顎門を結構なスピードでこちらに向けて攻撃して来ようとするが、今の俺には何も恐れるものはない。
素早く避けて再度攻撃を加えるが、避けながらの為、刺突が浅い。
再度、体勢を立て直して攻撃を図る。
普段なら恐怖の対象であるはずのギザギザの牙も、ドローンの残骸を見ると怒りの対象でしかない。
「くっそー。199800円。バカにしやがって。」
怒りを乗せてレイピアをワニ型の頭に突き刺す。今度は手ごたえ十分だったが、怨念を込めて吹き飛べと念じた。
「ドバァン!」
俺の怒りに呼応したのかいつもよりも派手に爆散したような気がする。
それを見て少しだけ気が収まったのですぐにもう1匹の方を向くと、「アースウェイブ」にハマったワニ型が、あいりさんとスナッチに切り刻まれていた。
スナッチの『かまいたち』もゴーレムには効果が無かったが、ワニ型には十分な効果を発揮しているようだ。
しばらく待っているともう一体のワニ型モンスターも消失した。
戦闘が終わると、ドローンの仇は打てたものの、虚無感が再度訪れた。
「海斗、しっかりしろ。8階層はこれからだぞ。」
「バチィーン」
今度は左頬に鋭い痛みが走った。
またほっぺたを叩かれた。痛い。
「でも、ドローンが無いとこれからの探索が難しいんですよ。今みたいなのが突然現れるんで危ないんですよ。」
「何か他にいい手はないのか?」
「他に良い手ですか。う〜ん。ミク、スナッチって敵の探知とかできないのか?サーバントにはそういう能力がある奴もいるみたいだぞ。」
「え〜。そんなのやらせたことがないからわからないよ。」
「スナッチと会話はできるのか?」
「会話は無理だけど、何となく伝えたい事はわかるしこっちの指示は理解してくれてる感じ」
「じゃあスナッチに敵の探知をしてもらってみてくれ」
「じゃあ、頼んでみるね」
「スナッチ、敵がいたら教えてくれるかな。お願いね。」
そう言いながら再度探索を始めたが程なく別の水辺エリアに出たが、スナッチがミクに
「キューキュー」
と鳴き声を上げている。
「多分、敵がいるんだと思う。みんな注意して。」
水辺から距離をとって注視していると、ウーパールーパー型が2匹飛び出してきた。
どうやら本当にスナッチが探知したようだ。
これなら最初からドローンはいらなかったんじゃないだろうか。
まあ詳しい数までは分からなそうだから健在であれば意味はあったかもしれないが。
みんなのことを考えて張り切って購入したのにちょっと虚しい。