A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (856)
847話 憧れ
「ベルリア身体は大丈夫か?」
「全く問題ありません。次こそ私におまかせください」
「それはそうと、シル、敵の気配はどう?」
「ご主人様、消えてはいません.ただすぐ近くというわけでは無さそうです」
「まあ、注意は切らさないようにしておいて」
「はい、もちろんです」
シルの言う未知の敵も気にはなるが、それよりも目先の敵に集中しないと危ない。
19階層もそれなりに進んで来ているので、出現するモンスターが強い。
気を緩めると一瞬で氷の棺に閉じ込められたり、消し炭にされそうだ。
緊張感を持ってダンジョンを進んで行くが、幸いにもこの日はこれ以上モンスターに出会う事はなかったので、マッピングが捗った。
ベルリアは不満そうだったが、モンスターを倒す事が探索の1番の目的ではない。
今更だけどダンジョンを探索する目的。
目先の事だとアイテムやお金を手に入れる。
少し先の事だと探索者として生きていきたい。
ダンジョンを進みより深い階層へと行きたい。そしていつの日かダンジョンを踏破したい。
世界には今までも何人かダンジョンを踏破した探索者パーティがいるが、その偉業とも呼べる成果を残した探索者は、どれもが英雄と呼ばれている。
俺はいつか自分もその1人となる事を夢見、目指している。
スライムばかりを倒していた時には届くはずのなかった世界だけど、今ならいつか届くのではと夢見ている。
俺を助けてくれた春香に憧れた事が、俺が英雄になりたいと思い探索者を志したきっかけだ。
何故か、小学生だった俺はあの時英雄になるには探索者になるしかないと思ってしまったが、最近になってその思いの根源が何か思い出した。
ダンジョンが一般公開される前、調査を目的として探索者の前身であるダンジョン探検隊のようなものが国家プロジェクトとして結成され、ダンジョン攻略のパイオニアとしてよくTVで取り上げられていた。
幼かった俺は戦隊物のヒーローと同じくらい、彼らの事をカッコいいと思い羨望の眼差しを向けていた。
最近まで完全に忘れてはいたが、きっとあの時の羨望が春香の姿と重なって見えたんじゃないかと思う。
ある時を境にTVで彼らを見かける事はなくなってしまったので、ずっと俺の記憶からも消えてしまっていた。
現在のダンジョンの状況や探索者という制度が出来ている現状を勘案すると、なんとなく彼らの辿った道が今なら想像はつく。
彼らは文字通り命を賭してパイオニアとしての役割を果たしてくれたのだと思う。
彼らの遺してくれた教訓を胸に探索者として日々英雄を目指す。
だけど、俺はかつて憧れた彼らを目指すことはない。
俺のモットーはダンジョンは安全安心だ。
俺は必ず地上へと戻る。
決して先人たちのニの轍だけは踏まない。
万が一そんな事があったら、春香に会えなくなってしまう。
春香とのドリーミングキャンパスライフが藻屑と消えてしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。
それに両親を悲しませる為に、探索者になったわけじゃない。
「あ〜今日も楽しかったな」
夕飯のカレーを食べて、しっかり睡眠を取って明日の探索を万全の状態で迎えよう。
いや、待て。学校の宿題するのを忘れてた。まだ眠れない。