A Nobody's Way Up to an Exploration Hero RAW novel - Chapter (923)
隼人去る
「十五層は下級とは言っても属性竜とか、稀に中級が出てくるから要注意だぞ。気をつけないとドラゴンスレイヤーの前にこっちがやられるからな。それに隼人が使ってる釘とかは効果薄いから要注意だ」
「わかってるって。俺もそんなバカじゃない。色々対策考えてるから大丈夫だって」
「それならいいけど」
「おっ、もうこんな時間か。じゃあそろそろ帰るな」
「あ、ああ、そうなのか」
隼人はそう言うと、広げていた教科書やノートを片付けてしまった。
隼人が来てからおよそ1時間。
しかも、その半分くらいは、勉強とは関係のない話をしていたのにもう帰るのか?
1日1時間って言ってたけど本当に1時間だ。
こんな勉強で本当に大丈夫なのか心配になるけど、本人は自分史上最高の仕上がりとか言っていたので、俺の杞憂なんだろう。
俺は、隼人と話してたせいで全く捗ってないのでまだ帰れないけど、もしかして隼人ってやればできるタイプの人間だったのか?
いくらダンジョンとはいえ効率が良すぎる。
「じゃあ、また学校で」
「また明日」
隼人がその場を去ると、またいつものように静寂が戻ってきた。
これから、残りの時間で集中しないとな。
「ふっ、はっ、やっ」
静寂に中ベルリアの声が響く。
「ふっ、やっ、はっ」
俺が勉強中、ベルリアはいつも素振りをしている。
「やあっ、ふあっ、はああっ」
熱が入ってきたのかいつもより激しい気がする。
「おおっ、やあああっ、しっ、はああああっ」
うん、うるさい。
静寂の中だけにベルリアの声が気になってしまう。
「だあああっ、はああああっ、やああああっ」
うるさいのでベルリアを見ると、仮想の敵と戦っているのか激しく立ち回っている。
「ふっ、やああああっ、なかなか、ふああああっ!」
完全に自分の世界に入り込んでいるのか、ここで俺が何をしているのか完全に忘れているみたいだ。
「ベルリア!」
「はああああっ。この白麗剣を躱すとは!」
だめだ。全然聞いてない。
ベルリアは白麗剣を渡してから、こんな感じになることが時々ある。
白麗剣がよほど嬉しかったらしい。
そんなベルリアに勉強の邪魔と伝えるのも気が引ける。
「いけっ! 塩アンパンマン! あ〜っそんな奴に負けるな! がんばれ!」
今度はルシェの声も聞こえてきた。
ルシェは塩アンパンマンのDVDに反応しているけど、こちらもかなり力が入ってる」
「もうすぐだぞ、あんこおじさんがもうすぐ来るからな! もうちょっと頑張れよ!」
意外だけど、普段のルシェからは想像もつかないストレートな応援だ。
「ルシェ姉様、塩アンパンマンはどうしていつも騙されてあんこを人にあげてしまうのでしょか?」
「ティターニア、そんなこともわからないのか? それが世界の意思。塩アンパンマンはみんなの味方、正義の味方だからだぞ」
「そうなのですか?」
「そうだぞ。正義の味方は何度騙されても最後は勝つんだ」
「そうなのですね」
微妙に、答えになってない気もするけど、あれは本当にルシェか?
悪魔が正義の味方を語る。
ダンジョンって不思議だな。
どちらかといえばルシェのキャラクターは塩アンパンマンの敵であるウィルスマンに近しい気はするんだけど、本当は正義の味方に憧れているのかもしれない。