Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (135)
冬籠りと冬の手仕事
父とトゥーリに神殿の部屋まで送ってもらうと、フランが目を丸くして出迎えてくれた。家族とわたしを交互に見て、目を瞬いている。
「どうなさったのですか、マイン様」
「フラン、突然でごめんなさいね」
わたしは中に招き入れようとするフランを止めて、戸口で軽く事情説明をする。インク協会の会長から情報を得ようと狙われている事、ルッツが見知らぬ男達に絡まれたこと、安全のために少し早いけれど神殿での冬籠りを開始することを話した。
そして、インク協会の会長の狙いが何か、そもそもわたし自身は会長の名前さえわかっていないこと、貴族と繋がりがあって悪い噂がある人物らしいので、デリアにはなるべく情報を漏らさないように注意しておく。
フランは難しい顔になって話を聞いていたが、一通りの話を聞いて、ゆっくりと頷いた。
「かしこまりました。神官長にも後ほどお話を通しておきましょう」
「フラン君、こちらでも情報収集に励むつもりだが、マインを頼む。様子は見に来る」
わたしの肩に置かれていた父の手に力が籠る。フランは真っ直ぐに父を見返して頷いた。
「承りました。マイン様も心細いでしょうから、ぜひいらしてください」
「マイン、我儘を言って周りを困らせるなよ。それから、神官長にはきちんと話を通しておけ。上司との連絡がうまくいっていないと碌なことにならんからな」
兵士らしい観点での注意事項にわたしは苦笑しながら、右手の拳で二回左の胸を叩いた。フッと父も表情を和らげた後、同じ仕草を返してくれる。
トゥーリはギュッとハグして、不安そうにわたしを見つめた。
「じゃあ、マイン。わたし、次のお休みにはここに来るからね。それまでいい子にしてるのよ?」
「うん。待ってる」
父とトゥーリが帰っていくのを見送って、わたしは部屋に入った。自分の部屋とはいえ、神殿でのお泊まりは初めてで、少し緊張する。
夕飯を控えた時間に突然やってきた主に側仕え達は一様に驚いた。
「どうなさいましたの、マイン様」
「ちょっと事情があって、今日から神殿に籠ることになったの」
「事情って何ですの?」
首を傾げるデリアの質問にわたしはうーん、と言葉を濁す。
「貴族が関連している可能性があるから、詳しくは言えないの」
青の衣に着替えさせようとするデリアを「今日はもう出かける予定もないから」と押しとどめて、わたしは軽く息を吐いた。普段は帰ってしまっている時間なので、何をすればいいのかとっさに浮かばない。
「この時間、皆は何をしているの?」
ロジーナは一目瞭然、フェシュピールを弾いている。7の鐘までと時間が定められているので、鐘が鳴るギリギリまでいつも弾いているらしい。
デリアはお風呂の準備をするようで、厨房からお湯を運んでいる。お風呂の時間は女を磨く大事な時間だそうだ。デリアの女子力の高さは見習わなければならない。
ギルはマイン工房でやったことやできた商品についての報告を石板に書いている。これはギルベルタ商会の商品管理方法に基づくもので、ルッツの指導のもと勉強中だと言う。
フランは孤児院やこの部屋で消費した食料や日用品の報告をまとめて、補充依頼の準備していた。毎日様々な書類仕事があるため、フランは大忙しだ。これでも、ロジーナやヴィルマに割り振って楽になった方だと言う。
「……わたくしは神官長に面会依頼の手紙でも書きましょうか」
執務机に向かって、わたしは神官長と話をするための面会依頼の手紙を書く。返事が来るまでに数日はかかるので、話ができるのは一体いつになるだろうか。
手紙を書き終わると、フリーダの意見を参考に次の絵本の構想を練っていく。それぞれの季節に関連する五神の眷属についてのお話をまとめることにした。
給仕されながら一人でご飯を食べて、デリアに手伝ってもらってお風呂に入り、一人でふかふか布団に潜り込んだ。ベッドサイドの棚には水差しとコップ、それから、側仕えを呼ぶためのベルが置かれている。
「おやすみなさいませ、マイン様」
「おやすみなさい、デリア、ロジーナ」
バサリと天蓋からかかるカーテンが閉められ、真っ暗で広いベッドに一人でころりと寝転がった。
おいしいご飯に、お湯をたっぷり使っても怒られないお風呂に、肌触りが良くて寝心地の良い広いベッドなのに、和気あいあいとした家族で囲むご飯、トゥーリとふざけっこしながらの湯浴み、狭いベッドをくっつけて家族みんなで寝る方がいいと思ってしまう。
……まだ一日も終わってないのにホームシックとか、カッコ悪い。
側仕えはいても、主と従者としての線引きはきっちりとしている。敬った態度で接してくれるが、べったり甘やかしてはくれない。顔も知らない相手に狙われて不安な時に一人でいるのは寂しくて仕方がなかった。
神殿の朝は遅い。
正確には側仕えの支度が整い、朝食の準備が終わるまで寝台から出てはならないようで、起き上がったら「もー! 声をかけるまで寝ていてくださいませ」とデリアに怒られた。
貴族のお姫様は側仕えの仕事が終わるまで寝たふりをしていなければならないなんて、初めて知った。こっそり起きて本を読んでいたら怒られるのだろうか。
「では、早速練習いたしましょうか」
軽い朝食を終えると、ロジーナと一緒にフェシュピールの練習だ。「マイン様がここで生活されると、いらっしゃるまで待つ必要がないのが素敵ですわね」とロジーナはイイ笑顔でフェシュピールを準備する。
わたしが練習を始める頃には、デリアとギルは部屋の掃除や水汲みを始め、フランは神官長のところへ面会依頼の手紙と事情説明に行った。
帰ってきたフランによると、情報を集めるまで部屋から出るな、と厳命されたらしい。しばらくは神殿どころか、部屋の中に籠る毎日になるようだ。
3の鐘が鳴ったら音楽の授業はおしまいだ。部屋から出られないので、次回に作る絵本の構想を練ったり、デリアに字の書き方や簡単な計算について教えたりして時間を過ごす。
「マイン様は教えるのが意外とお上手ですわね。ギルよりもわかりやすいですわ」
「そう? では、わたくしも神殿教室の先生ができるかしら?」
デリアに褒められることは滅多にないので、わたしがちょっと照れていると、フランがわたしの言葉を聞き咎めた。
「マイン様、神殿教室とは一体何でございましょうか?」
「字が読めない子達に字を教えて、字の読み書きができるように教育するための場ですけど?」
「……それは決定事項でしょうか?」
「えぇ、冬の間にやることとして予定に入っています」
フランは何度か瞬きした後、ゆっくりと溜息を吐いた。
「マイン様、私は報告を受けていないと存じます。一体何をするつもりなのか、どのように進めるのか、ご説明ください」
「え? でも、ここに書いてありますよね?」
わたしは冬の予定表をピロンと取り出して、フランに見えるように渡す。フランは軽く目を伏せて、「それが神殿教室ですか」と呟いた。どうやら子供達への教育では通じていなかったようだ。フランはトゥーリの裁縫教室や冬の手仕事のやり方を教えることが子供達への教育だと思っていたらしい。
「孤児院の子供に字を教えるって言ってもさ、マイン様に贈られたカルタと絵本である程度読めるんじゃねぇ?」
ギルが首を傾げ、わたしは、うっ、と言葉に詰まる。
「か、書くこともできるようになってほしいのです。読み書きができれば、側仕えになった時や貴族の家に下働きに行く時にも仕事がしやすいのでしょう?」
「そうですね」
「それに、数を数えて計算できるようになれば、工房や孤児院の管理を自分達でできるようになりますよね? 知らないより知っていた方がいいと思うのです」
ギルが昨日書いていた工房の管理の話をすると、ギルは納得して頷く。まだ大きな数が読めないようで、灰色神官に手伝ってもらいながら報告書を書いているらしい。
「マイン様、その神殿教室は一体どこで行うつもりですか?」
「男女ともにいられるのが、食堂しかないのですもの。食堂で行います。わたくし、教師役をやりますね」
「教えるのは読み書きができる灰色神官にさせてください。マイン様がそのような事をしてはなりません」
フランとロジーナが揃って却下した。わたしはやはり表に出てはならないらしい。
結局、授業の進行表のようなものを作成して、わたしがまず自室でデリアに先生役をする。それを見て、フランとロジーナが食堂で先生役をする。
元側仕えの灰色神官達も教師役に巻き込み、フランとロジーナは適当なところで教師役を辞める、という流れで神殿教室を開くことになった。
……むーん、せっかく褒められたんだから、先生をやりたかったな。
神殿教室に関しては、冬の間に子供達全員が基本文字を書けるようになることと、一桁の足し算引き算ができるようになることを目標に設定した。石板も石筆もたくさん準備したし、教科書にするための子供用聖典もある。
だいたいの流れが決まったところで、お昼になった。昼食を食べてお茶を飲んでいると、ルッツが尋ねてきてくれた。
「マイン、大丈夫か?」
ベンノから周囲の様子や不審な人物の姿がないかチェックを受けた上で、ようやく許可が下りて様子を見に来てくれたらしい。
わたしは階段を駆け下りて、ホールで手を振るルッツのところへ走る。
「ルッツ、ぎゅーってして」
「ぅおわっ!?」
わたしはルッツにドーンと飛びついて、ハグを要求する。温もりに飢えているわたしに温もりを与えてくれたまえ。
「家族と一緒じゃなきゃ寂しいよ。もう帰りたい」
「まだ一晩しかたってないぞ?」
わたしの愚痴にルッツが困ったように笑いを漏らすが、一晩でも寂しいものは寂しい。
「そのうち慣れるから、一番寂しい気分なのは今だもん」
「さぁ、どうだろうな? これよりもっと寂しくなるかもしれないだろ?」
「……どんどん寂しくなるなら、わたし、寂しくて死ぬかもしれない」
図書室に行かなければ本が読めないのに、自室で缶詰にされているのだ。わたしには自分で作った子供用聖典以外に本がない。こんな状態で家族もいない寂しさが続いたら、生きる気力をなくしてしまいそうだ。
「……マインは目を離したらすぐに死にかけるから、洒落にならねぇよ」
「わたしも寂しいの我慢するから、ルッツも面倒なの我慢してちょっとわたしに付き合って」
「ハァ、しょうがねぇな」
満足するまでわたしはルッツにしがみついていた。ルッツはわたしをしがみつかせたまま放置で、ギルが昨日書いていた石板を自分の報告書と比べさせて、計算間違いなどを指摘している。
わたしがルッツに抱きついて心の安定を得ていると、側仕えには「はしたない!」とか「淑女たるもの……」とか「どうせならもっと金持ちの貴族の男を選びなさいよ。もー!」とか「マイン様はルッツばっかり頼る」とか色々言われる。
けれど、完全無視だ。これから先が長いのに、わたしの精神的な安定の方が大事に決まっている。
「あぁ、そうだ。マイン、工房でできることなくなったけど、どうすればいい? 冬の手仕事、始めるか?」
子供用聖典第二弾の作成が終わり、版紙にするための厚紙は残っているが、絵本にできる紙はほとんどなくなったので、絵本作りはできない。そして、川が凍りそうに冷たくなったことで紙作りは中断されている。
ここ最近は冬支度とインク作りをしていたけれど、冬支度はほとんど終わり、原料となる煤もなくなりそうだと言う。
「じゃあ、手仕事の説明をするから、工房からリバーシ用の板と工具を持ってきてくれる?」
「わかった。ギル、行くぞ」
「おぅ」
ルッツとギルが板と工具を持ってきた。小ホールのテーブルでわたしはリバーシの作り方を説明する。
「ゲーム盤にするのはこの厚い方の板ね。これに物差しを使って煤鉛筆で真っ直ぐに線を書くの。8マス×8マスね」
わたしは板の上に自分の煤鉛筆でスッスッと線を引いていく。
「線が引けたら、これで線を彫っていってね」
彫刻刀の三角刀にそっくりの工具を指差して、わたしはそう言った。この三角刀は細工師に聞いて、鍛冶工房で注文したものだ。
「線に沿って彫れたら、その溝にインクで線を書いていくの。彫った上からなぞるから、はみ出すことは少ないと思うけれど、はみださないように気を付けて」
「わかった」
「その薄い方の板はゲーム盤のマスの大きさに合わせて、64に切って、やすりで磨きをかけて、手触りを整えてね。これは片面だけインクを塗ればできあがりだから、切ることができたら後は簡単。それから……」
将棋もどきというか、チェスもどきというか、木の板をリバーシと同じように切って、上に文字を書いていく説明をしているとルッツが顔をしかめた。
「まぁ、マイン。これって、印刷みたいにできないか?」
「なんで?」
「まだ字が書けるヤツが少ないし、書けるヤツも上手だとは限らないだろ? 小さいところに書くんだから、読めなきゃ困ると思う」
「うーん、なるほどねぇ……ステンシルみたいに版紙を作ってみようか」
ルッツは書字板に手順をどんどん書き込んでいく。わたしは自分の書字板に改善点や考えなければならないことを書きこんでいく。
そんないつも通りの打ち合わせを見ていたギルが、じろりとルッツを睨んだ。
「……ルッツはこうやっていつもマイン様にやり方を教えてもらっていたのか?」
「あぁ。工房で青色巫女は働けないからな。家で予め教えてもらわないと工房の仕事ができねぇだろ?」
「オレ、お前のこと、何でも知っててすげぇって思ってたのに、すげぇのはマイン様じゃねぇか」
むすぅっと脹れっ面になったギルの頬をわたしはツンと突く。
「ギル、ルッツはすごいんだよ。こうやって一回教えたら、ちゃんと工房で説明して作れるんだから。ギルは今一緒に聞いていたけど、皆に教えられる?」
「……できねぇ」
脹れっ面のままギルは一度俯き、キッと顔を上げると、わたしとルッツが持っている書字板を指差した。
「でも、できねぇのはオレが書字板を持ってないからだからな! オレだって持ってれば、すげぇんだからな!」
「あぁ、ギルも字を覚えたもんね? 工房の報告書も練習してるし、そろそろ必要かな? 今は外に出られないから、春になったら準備してあげるよ」
「いいのか!? よし、オレ、絶対にルッツに勝つ!」
腰に手を当ててふんぞり返ったギルのライバル宣言を、ルッツは「できれば、春までに勝ってくれ」と軽く流した。ルッツは春になったら、ベンノが隣の街の植物紙工房へ見回りに行くのについて行くことになっているらしい。ギルに工房を完全に任せられるようになって欲しいとルッツは言う。
「あぁ、そうだ。今度、店から一人見習い……って言っても、成人が近いヤツだけど、連れてくるから」
「なんで? ルッツがいない間の代理?」
わたしが首を傾げると、ルッツはちょっとだけ眉を寄せる。
「表向きはオレと同じ工房の手伝いだけど、ここの側仕えの立ち居振る舞いを習って来いって旦那様に言われてた」
「あぁ、そういえばイタリアンレストランの給仕を育てるって言ってたね」
それも予定に入れなきゃ、とわたしは書字板に書き足した。
「……リバーシはわかったけどさ、トランプはどう作るんだ?」
「本当は他の色のインクがあれば良かったんだけれど、ないものは仕方ないから、ひとまず、黒一色で作ろうね」
わたしは石板にマークと数字を書きこんでいき、大きな四角の中に例としてダイヤの3を描いてみた。
「こんな感じで、数字とその数の印を描いて、四種類分作るの」
「結構量がいるな」
「マイン様、この印って神様の神具にちょっと似てるな」
ギルが得意そうに石板のダイヤを指差しながらそう言った。
「そうなの?」
「あぁ、これはライデンシャフトの槍っぽい。そうしたら、こっちはフリュートレーネの杖だな」
ダイヤが火の神の槍のようで、スペードが水の女神の杖の形に似ていると言う。言われてみれば、神具の槍の穂先と杖の魔石を装飾した部分がそのように見えた。
「風の女神 シュツェーリアは?」
「あの盾は円いから、ここにはないな。土の女神 ゲドゥルリーヒは聖杯だから、こんな感じの形になるし……」
ギルに言わせると、円が風の女神の盾、逆三角形が土の女神の聖杯になるらしい。ちょうど四種類になるなら、馴染みがある方が受け入れられやすいかもしれない。
わたしはギルの意見を参考に、トランプのマークをスペード、ダイヤ、丸、逆三角の四種類に描き直す。
「だったら、JとQとKも神様の象徴にしちゃおうか。絵を描くの、大変だし」
Jは命の神の象徴である剣、Qは太陽の女神の冠、Kは闇の神の黒いマントで表す。なるべく簡単な絵柄にするのがポイントだ。
ジョーカーの存在をどうするか考えたが、闇の神に横恋慕して、命の神のストーカー行為を焚きつける混沌の女神の象徴、歪んだ輪にした。
「うん、いい感じ。神殿で作るトランプっぽくなったね」
「おぅ、カルタにも出てくるからわかりやすいよな?」
全部決定してギルと喜びあっていると、ルッツが石板を見て難しい顔になった。
「マイン、これこそ版紙作って印刷した方が良いぞ。絶対に絵が揃わねぇから」
「……わかった。版紙はわたしが作るよ」
印刷と同じように厚紙で版紙を作って、板に印刷していく方法をとることになった。どうせ時間はたっぷりある。トランプの版紙くらいお安い御用だ。
「じゃあ、オレ、今日はこれで帰るからな」
「……うん」
ルッツが困ったように笑いながら、わたしの頬をうにっとつねる。わたしは「痛いよ」と頬を押さえながら、むぅっとルッツを睨んだ。
「……明日はトゥーリと一緒に来るから、そんな顔するなって」
「寂しいのは我慢するから、ちゃんと来てね」
ルッツが帰るのを見送っていると、ギルが心配そうにわたしを見下ろしてきた。
「マイン様は寂しいのか?」
「うん、家族がいるのが当たり前だったから、いなくて寂しい」
ここにいる方が誰にとっても安全だとわかっていても、ウチに帰りたくなる。神殿に取り残された気分になってしまう。
「オレがルッツみたいに甘やかしてやろうか?」
ギルが首を傾げてそう言った瞬間、背後から厳しい声がかかった。
「いけません」
振り返ると、そこには怖い顔をしたフランが立っていた。ギルの前まで歩き、静かに諭す。
「ギル、マイン様は主です。マイン様を甘やかすのは側仕えの領分ではありません。友人や家族と同等の扱いを受けているルッツと同じではないのです」
「……わかった」
悔しそうに歯を食いしばったギルが、ゆっくりと頷く。それを見て、少し表情を和らげたフランが軽く息を吐いた。
そして、わたしの前に膝をつき、視線を合わせて、また厳しい表情になる。
「マイン様、あれだけの事情があれば、お心細いのは理解できます。ですから、ルッツやご家族がいらっしゃった折り、この部屋の中で甘える分には目零しさせていただきます。けれど、側仕えとは相応しい距離を保っていただきたく存じます」
「わかりました」
寒さより、寂しさの方が厳しい冬になりそうだった。