Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (159)
デリアの進歩
ヨハンにロウ原紙を作るための道具を注文したけれど、道具ができるまでにはまだまだ時間がかかる。
そして、道具が完成するより先に、次の絵本のためのヴィルマの絵が完成した。テーマは春で、水の女神フリュートレーネとその眷属である12の女神のお話である。
「ねぇ、ルッツ。道具ができるまでに時間もかかるし、先に次の絵本を作っちゃおうか?」
ヴィルマが作ってくれた版紙は、色インクができる前から絵の制作に取り掛かっていたため、以前と同じ切り絵で白黒を念頭において作られた物だ。そのため、今回は白黒で印刷してしまいたいと思う。
版紙を使って白黒で印刷するなら、道具を待つ必要なく印刷できる。春になって紙を作り始めたところなので、紙の数が少ないけれど、これはベンノが作った植物紙工房から買ってきても良い。
「せっかくなら印刷機、使いたいんだけど……」
「神官長にダメだって言われているんだろ? 諦めて、カッターで版紙を作っていけよ」
ルッツから即座に却下が入ったので、わたしは諦めて厚紙を切り抜くことにした。せっかく金属活字も簡単な印刷機もできたのに残念だ。
「使うなって言われた印刷機をこっそりと使おうとするより、先にやることがあるだろ? なるべく早いうちに色インクができたことを話して、次の絵本のためにはインクを生かした絵を描いてほしいって、ヴィルマには知らせた方が良いぞ。印刷の仕方も考えて、どんな絵にするか、考えないとダメなんだから」
「そうだね。ディルクの面倒を見てもらっているから、ヴィルマとあまりゆっくり話をする時間がなかったんだよ。今日は午後から孤児院に行って、話をしてみる」
わたしとルッツはそんな話をしながら、ぽてぽてと歩いていく。通りを歩く中で、子供を背負った母を見て、わたしはハッとした。
「そうだ、ルッツ。これね、こうやって石を入れてから、蓋をして、
膠
でくっつけてくれる?」
「……いいけど、何だ?」
ルッツは、わたしが手渡した木を見て首を傾げた。父に削って磨いて加工してもらった木をくりぬいたものが二つ。それから、中に入れるために洗ってある小石が入った袋。小石を入れて、膠で留めれば簡単なガラガラができる。同じものが二つある。
「赤ちゃん向けのおもちゃなの。カミルとディルク用。こうしてくっつけた後、振れば音が鳴るの」
「あぁ、形は違うけど、似たようなものはあるな」
「本当はこれに色を付けたいんだけれど、赤ちゃんが口に入れるものにインクを付けるのもねぇ……」
鮮やかな色でなければ、このくらいの月齢の子は見えないということで、ガラガラに赤のインクを塗りたいのだが、赤子が口に入れるものにインクを塗るのに少し抵抗がある。
口に入れられる食材になるものから作られたインクならば、口に入れても問題なさそうだが、そうすると今度はインクを中心にバイキンが発生するのではないかと思ってしまう。
「どうせ、長く使うものじゃないだろ? 口に入れても大丈夫な素材でできたインクを使えばいいんじゃねぇ? この間、インク工房で実験してできた色インクも使い道がないんだし」
「じゃあ、ルッツ、お願いしていい?」
「あぁ、午後には届けてやる」
ルッツにわたしが持ってきた素材を渡して、工房前で別れた。そして、自分の部屋へと向かう。
「おはようございます、マイン様」
ロジーナがフェシュピールを抱えて、待ち構えていた。わたしはやる気に満ちたロジーナに苦笑しつつ、デリアに着替えを頼む。
「デリア、着替えたいのだけれど、よろしい?」
「えぇ」
名残惜しそうにディルクから離れて、デリアは急いでわたしを着替えさせていく。手早く青の巫女服を着せて帯を締めると、すぐさまディルクの元へと戻ってしまう。
「ディルク、お待たせ」
わたしが今まで見たことがないような輝く笑顔でデリアがディルクに話しかける。デリアがディルクにデレデレだ。
……何、その可愛い笑顔。わたし、見たことないんですけど。
元の顔立ちが美人なデリアの笑顔に、わたしは思わず息を呑んだ。ちょっとディルクにジェラシーを覚えるほどの柔らかい、愛情に満ちた笑顔である。
「マイン様、ディルクはもう少しで寝返りができそうですの。さすがあたしの弟。優秀ですわ」
ふふっ、とデリアがディルクの隣に座って、体を捻ろうと頑張っているディルクの頭を撫でる。完全にディルクしか見えていない。ディルクが孤児院にやってきてから十日もたっていないのに、ずいぶんと可愛がっているようだ。
「マイン様、ディルクのことはデリアに任せて、フェシュピールの練習を始めましょう」
ロジーナに声をかけられ、わたしは小さい方のフェシュピールを手に練習を始める。何度か課題曲を弾いていると、扉が開いた。孤児院の朝食と片付けが終わり、子供達を工房へと送り出したヴィルマが、ディルクを引き取りにやってきたのだ。
「おはようございます、マイン様。ディルクを引き取りに参りました」
「おはよう、ヴィルマ。では、今日もよろしくお願いしますね。わたくし、今日は絵本のことでお話があるので、午後に孤児院へ足を運びます」
わたしが今日の予定を告げると、ヴィルマは「かしこまりました」と頷いた。その後、デリアとディルクに関する引継ぎをする。夜の様子やどのくらいの時間にどれくらいの量のヤギの乳を飲んだかを聞き、次のお乳の時間を予測して準備しなければならない。
「ディルクがいなくなると、寂しくなりますわ」
デリアはそう言いながら、名残惜しそうに何度も何度もディルクを撫でて、ヴィルマに預ける。
ディルクが孤児院へと行ってしまうと、デリアはしょぼんと元気をなくすけれど、ロジーナはどこかホッとした表情になる。対照的な反応だ。
3の鐘が鳴るまではフェシュピールの練習をし、その後は昼食までフランと一緒に神官長のお手伝い。昼食を終えると、フランとロジーナはそれぞれの自室で休憩を取ることになる。
午後に休憩の時間を取るようになってから、ロジーナとフランの調子は少し戻ってきたようだ。それでも、疲労の色が見える。
「子育ての経験がある灰色巫女がいないのですもの。乳児を預けられた時の対応を考えていかなければ、これから先、孤児院を運営していけませんね」
我が子を育てるついでに面倒を見てくれた灰色巫女はもういない。そして、子供ができた経緯を考えると、これから先、増えない方が良い存在だ。
神官長とも話し合って、乳児を預かった時の対応を考えておかなければならない。わたしの側仕えだけにこれから先ずっと負担をかけるわけにも行かないだろう。
「では、御前を失礼いたします」
「二人ともゆっくり休んでちょうだい」
フランとロジーナが午後の休憩に入ると、部屋に残っている側仕えはデリアだけになった。デリアは部屋の掃除も終え、計算の練習をしている。
わたしは執務机に向かって、版紙を作成しながら、ルッツの訪れを待っていた。それほど待つこともなく、ギルベルタ商会で昼食を終えたルッツが完成したおもちゃを持ってやってくる。
「ほら、マイン。できたぞ」
「わぁい、ありがとう」
ルッツが手に持っていたガラガラを振りながら、完成品を見せてくれる。少し暗い赤に塗られたおもちゃを二人は喜んでくれるだろうか。カミルはまだ喜ぶような月齢ではないので、まず、ディルクで反応を見たいと思う。
「旦那様にも紙を注文してきたから、印刷しようと思えば、いつでも印刷できるぞ」
「ルッツ、仕事早いよ」
「オレなんかまだまだだって。マルクさんには、無駄が多いって言われているんだからな」
マルクに鍛えられている成果が着実に出てきているようだ。マルクにもベンノにもレオンにも勝てないと本人は言っているけれど、ルッツはその年でどこまで望むつもりなのだろうか。
「マイン、忘れずにヴィルマから版紙をもらってきてくれよ。印刷できるように工房の準備を始めるからな」
「うん、任せて」
わたしはルッツを見送った後、ガラガラを一つ自分のトートバッグに片付ける。そして、もう一つを手に握ると、一階の小ホールにいるダームエルに声をかけた。
「ダームエル様、これから孤児院へ向かうのですけれど……」
「あぁ、わかった」
わたしが扉の所で待ってくれているダームエルのところへと足早に近付くと、ダームエルがわたしの周囲を見回して、むっと眉を寄せた。
「こら、巫女見習い。側仕えはどうした? 一人の伴も連れずに外出するとは何事だ?」
「……え?」
ダームエルがいるのだから、問題ないだろうと考えていたけれど、どうやら護衛と側仕えは別物で、お伴として数えてはならないらしい。淑女たるもの側仕えも連れずに部屋を出てはならないそうだ。
わたしは仕方なくデリアに声をかけた。
「デリア、わたくしはこれから孤児院でヴィルマと話があります。伴をしてください」
「マイン様、あたし……」
強張った顔で振り向いたデリアが言いたいことを呑みこんで、悔しそうに唇を噛んだ。嫌だと言いたくても、立場上そんなことが言えるわけがない。普段ならデリアの意見を尊重してあげられるけれど、騎士であるダームエルを待たせた状態で、それができるはずもない。
「デリア、孤児院の前までで結構です。そこまで我慢していただけるかしら? 帰りの伴はヴィルマにお願いするから」
「……かしこまりました」
憂鬱そうにデリアが先頭を歩き、回廊を進んでいく。デリアの肩が強張っているのが、足取りが重いのが、後ろについているわたしにもわかる。背中しか見えないわたしには、顔を見ることはできないけれど、必死の形相になっているだろう。
孤児院の前まで来た。ピタリとデリアの足が止まる。
「では、あたしは戻りますね」
「こら、側仕え。戻る前に扉を開けていけ。まさか主である巫女見習いに開けさせるつもりか?」
踵を返そうとしたデリアに、ダームエルが厳しい声を出した。孤児院の扉を騎士であるダームエルに開けさせるわけにも、わたしが開けるわけにもいかない。側仕えは主の手を煩わせないためにいるのだ。
デリアは色をなくしたような真っ青な顔になり、それでも、厳しい表情を変えないダームエルを見て、仕方なさそうに扉へと向かった。デリアがきつく目を閉じて、歯を食いしばり、震える手で孤児院の扉を押し開けていく。
ギギッと重い音を立てて、扉が開いた。目の前に広がるのは孤児院の食堂で、大きなテーブルがずらりと並んでいる。そして、奥の方には大きなクッションがあり、その周りには灰色巫女達がいた。
扉が開く音に気付いたのか、彼女達が一斉にこちらを向いた。灰色巫女達がわたしの訪れに気付いて、皆がクッションの上のディルクに背を向けて跪く。
「マイン様、あたし、戻ります」
孤児院の光景を目に入れないように俯いた状態で、デリアが呟く。
「えぇ、無理させて悪かったわ。ありがとう、デリア」
「いいえ」
一度だけ、ディルクがいる方を振り向いて、デリアは踵を返そうとした。次の瞬間、デリアが目を見開いてもう一度振り返ったかと思うと、食堂の奥のクッションへ向かって駆け出した。
「ディルク」
寝返りに成功しかけたディルクの体が半分以上クッションからはみ出しているのが見えた。この勢いで寝返りに成功すれば、ゴロリとクッションから落ちてしまう。
う、う、と声を出しながら、体を捻っていたディルクのところへ滑り込むようにしてデリアが腕を差し出すのと、ディルクが初めての寝返りに成功するのはほぼ同時だった。
「もー! ディルクがクッションから転がり落ちて怪我でもしたらどうしますの!? きちんと見ていてくださいませ!」
ディルクをクッションの中央に戻して、デリアが眉を吊り上げた。そんな文句を言われても、青色巫女見習いが来たのに跪かずにいられるわけがない。ディルク可愛さに周りが見えなくなっているデリアに、わたしは軽く肩を竦めた。
「……孤児院にも入れたようですし、デリアが見ていればどうかしら?」
「あっ!?」
わたしの言葉にデリアは自分が立っている場所を見て、大きく目を見開く。慌てて立ち上がったデリアに、わたしはガラガラをポンと手渡した。
「音が鳴るおもちゃですわ。ディルクにあげようと思って。デリアからあげてちょうだい。わたくしからもらうより、デリアに遊んでもらった方がディルクも嬉しいでしょうから」
躊躇ったようにデリアが手の中にある赤いガラガラを見つめる。
「そろそろ赤い色を目で追いかけることができるようになっているはずよ。……わたくしからあげた方が良い?」
初めてのおもちゃはお姉ちゃんからあげるのが良いと思ったのですけれど、と言いながら、わたしがデリアの手にあるガラガラを取ろうとしたら、デリアがガラガラを握ってさっと手を挙げた。高くあげられるとわたしには手が届かない。
「では、デリアからディルクに渡してちょうだい。ヴィルマ、話があるのだけれど、良いかしら? 他の皆もディルクの世話に戻ってちょうだい」
ディルクのクッションに目が届くテーブルに向かい、わたしがヴィルマと話を始めると、跪いていた灰色巫女も動き始める。
「ディルク、マイン様から賜ったおもちゃですわ。見えるかしら?」
デリアが優しく声をかけて、ガラガラをディルクの目の前で振って音を出しながら動かした。ディルクは大きく開けた目でじっとその動きを追っていく。
カミルにあげられるかどうか確認のために、おもちゃをディルクに与えて反応を見ようと思ったのだが、結構目が引き付けられるようだ。ディルクが音と色を目で追っているのがわかる。これならば、きっとカミルも喜んでくれるに違いない。
「まぁ、見えているようですわ」
「音に反応するのかしら?」
赤子と接した経験がない灰色巫女は興味深そうにディルクとデリアを見つめる。
周囲の声に自分のいる場所がどこなのか気付いたらしいデリアが、顔を赤くして、わたしを睨みながら立ち上がった。
「マイン様、あたし、お部屋に戻りますわ! 皆様、ディルクをお任せいたします」
一人の灰色巫女にガラガラを押し付けるようにして、デリアは孤児院を飛び出していく。一度入れたのだから、ヴィルマのように少しずつ慣れていけば、孤児院にも入れるようになるのではないだろうか。
飛び出していくデリアの背中をヴィルマが少し眉を寄せながら心配そうに見遣る。
「マイン様、デリアは大丈夫でしょうか? 孤児院が苦手だとお伺いしましたけれど」
「……どうでしょうね? ディルク可愛さに少しずつ慣れてくれればよいと思っています。デリアは過去の記憶から孤児院を苦手だと感じていますけれど、デリアがいた地階はもうないのですから」
地階でずっと過ごし、洗礼式の日に神殿長の部屋に移ったデリアには地階以外の孤児院の記憶はほとんどないはずだ。せいぜい通り過ぎたくらいだろう。慣れれば、食堂くらいならば、出入りできるようになるのではないかと思う。
一年くらいの間に出入りできるようになってくれなければ、デリアはディルクに会えなくなる。ディルクがある程度、夜に眠れるようになれば、孤児院の洗礼前の子供達がいる部屋へと移されるのだから。
「可愛い弟と離れることにならなければ良いのですけれど」
「毎日、ディルクを引き取りに行く時、デリアはなかなか手放そうとしませんし、とても残念そうな顔をするでしょう? 連れていく私が悪いことをしているようですもの。あれだけ可愛がっているのに会えなくなるなんて、どちらにとっても悲しいことですから、少しでも早くデリアが孤児院に慣れてくださればよろしいですね」
ふわりと微笑んだヴィルマの顔には、ロジーナやフランのような疲労の影がない。
「ここは人手があるからなのかしら? ヴィルマはそれほど顔色が悪くありませんね」
「私がディルクの相手をするのはお昼だけですし、一人で面倒をみるわけではございませんから。ロジーナもフランも、夜に面倒を見る時は一人でしょう? 大変だと思います」
ヴィルマがディルクの面倒を見るのはお昼の間だけとはいえ、やはり、ディルクにヴィルマを取られたような気がするのか、幼い子供達の中には赤ちゃん返りのような状態になった子もいるらしい。寝かしつける時にべったり引っ付いて離れないのだそうだ。
「ヴィルマは孤児院のお母さんみたいですもの。手のかかる子がたくさんで大変ですね」
「私は洗礼式までの間、地階で母に可愛がられた思い出がございます。だからこそ、母を失った子供達にも愛情を注いであげたいと思うのです。母親のように皆が思ってくれれば嬉しいですわ」
おっとりと笑いながら、ヴィルマは目を細める。子供達が可愛くて仕方ないという表情に、わたしはヴィルマを孤児院の管理者にできて良かった、と心の底から思った。
その後は、ヴィルマと絵本についての話をした。これから、新しく絵本の印刷を始めるので、版紙を渡してほしいこと、色インクが完成したこと、これから先は、色インクを使った絵を考えてほしいこと。しかし、印刷方法が今までと同じような孔版印刷なので、色ごとに版紙を作る必要があること。ロウ原紙を作る予定なので、そのうち、もっと繊細な絵を描けるようになること。
「マイン様は本当に本が好きなのですね。このように次々と新しい方法を考えられるなんて……。私も精一杯絵を描かせて頂きます」
「ありがとう、ヴィルマ」
わたしが一通りの話を終えて、ヴィルマから版紙を預かった頃には、ディルクがお腹を空かせる時間になったようだ。ディルクがぐずり始めたため、わたしは急いで部屋に戻る支度をした。わたしがいると、ディルクの食事の準備が遅れてしまう。
「皆さんも大変でしょうけれど、ディルクの世話をお願いしますね。ヴィルマ、悪いけれど、部屋まで伴をしてください」
「かしこまりました、マイン様」
ディルクの世話には慣れてきているようで、ヴィルマがいなくても、灰色巫女達は手早くヤギの乳を地階から持ってきて、準備を始めていた。
「……何の声でしょう?」
「デリアの声に聞こえますわね」
部屋へと戻っていると、デリアが「もー!」と叫んでいる声が聞こえてきた。ディルクが来てから基本的に機嫌が良くて、あまり聞かなかったデリアのヒステリックな声に、わたしはヴィルマと顔を見合わせた。
わたしにできるだけの早足で部屋へと戻ると、そこにはフランとデリアが言い合いをしている姿があった。
「神官長は信用なりませんわ!」
「信用に足る方です」
二人がいがみ合っているというか、一方的にデリアが噛みついているというか、珍しい組み合わせにわたしは目を瞬いた。
「フラン、デリア、何の騒ぎですか?」
わたしが声をかけるまで、本当に二人は気付いていなかったようだ。バッと振り返ったフランが慌てて謝罪し、迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、マイン様。お見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ございません」
「マイン様、一体どういうつもりですの!?」
フランと違って、デリアはわたしの方へと駆け出してきて、キッときつくわたしを睨みながら、怒鳴った。いきなりどなられても何が何だかさっぱりわからない。
「えーと、何のお話かしら?」
「デリア! マイン様に対してその態度は何ですか!?」
フランの叱責を聞き流し、デリアはガシッとわたしの肩をつかんだ。
「ディルクを養子にやるというのは、どういうことかと聞いておりますの!」
「だから、何度も言っているように、その話は流れたとアルノーが言っていたではないですか。マイン様から手を離しなさい!」
……あの、誰か、説明、プリーズ。