Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (184)
領主とイタリアンレストラン 前編
城から神殿への移動は昼食後を予定していたけれど、昼にはまだ熱が下がっていなかった。そのため、わたしは神殿に帰れず、神官長が側仕え達を先に神殿に帰らせる手続きをしてくれた。
「まぁ、これならば問題ないだろう」
何とか熱が下がった夕方、わたしは神官長の騎獣に乗せられて、両脇をダームエルとブリギッテが固める態勢で神殿に戻る。
「ダームエル、お相手は見つかりましたか?」
昨夜の会場では結局見つけることができなかったダームエルに戦果を尋ねると、ダームエルは少し困ったように眉を下げて、首を振った。
「……いえ、残念ながら。ローゼマイン様の護衛に取り立てられたとはいえ、私はまだ処分の最中で、騎士見習いの身に落とされているので」
確かに、騎士見習いの身分に一年間落とされているダームエルを結婚相手に考えるのは難しいだろう。一応領主の養女の護衛騎士となったのだから、お嬢様方も処分が解ける前に予約をしておけばいいのにね。ダームエルは祝福効果で貴族には大事な魔力も増えているところだから、結構お買い得のはずだ。
「では、来年が楽しみですね」
「あまり楽観的な気分にはなれませんが、精一杯努力したいと存じます。……ブリギッテはどうだったんだ?」
会場でのブリギッテの様子を知っているわたしは、恐る恐るブリギッテの様子を伺う。わたしと視線が合うと、ブリギッテはすっと目を伏せた。
「……私は父が死んだことで、一度婚約破棄したことがございます。おそらく、次は見つからないでしょう」
ブリギッテの固く強張った表情に、何とかしてあげたい気持ちが強くなった。
貴族門に降り立って、神殿へと戻れば、フランが実にタイミングよく扉を開けて出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ」
「フラン、どうして? 連絡も入れていなかったのに……」
「貴族門の方から騎獣が飛んでくるのが見えましたから」
当然のことのようにフランは言うけれど、多分ずっと注意して見ていてくれたのだろうと思う。
側仕えの鑑だ、と思いながら、わたしがフランを見上げると、フランが少し眉を寄せて跪いた。軽く目を細めてわたしの顔を覗き込むと、更に眉を寄せる。
「……ローゼマイン様、お顔の色が良くないように見受けられますが?」
「そうかしら? 薬もいただいたし、熱は下がっているのだけれど」
わたしが自分の顔や手を触って、体温を確認していると、神官長が軽く肩を竦めた。
「君の言葉より、フランの言葉の方が正確だ。フラン、ローゼマインを寝かせておけ。今日はもう何もさせるな」
「かしこまりました」
わたしが口を挟もうにも、二人だけでさっさと決められてしまった。このままでは強制的にベッドへ放り込まれてしまう。
フランに抱き上げられて部屋へと戻る道すがら、わたしはフランに頼みこむ。
「フラン、ギルベルタ商会に使いを出してほしいの」
「明日になさってください」
フランは神官長の言葉を盾に首を振った。体調があまり良くないことは事実だろうけれど、やらなければならないことがあるのに、困る。
「大急ぎなのです。養父様が食事処へいらっしゃる日が決まりました。日時をお知らせしなければならないの」
「明日でもよいでしょう」
取り付く島もないフランの返答に、わたしはむぅっと唇を尖らせた。
「養父様もお父様も食事処に向かう前に、神殿にいらっしゃるのですけれど、では、フランへの報告も明日にいたしますね」
ぴくりとフランの肩が揺らぐ。他人事ではなくなった途端、なんともいない不安が溢れた顔色になった。
「ねぇ、フラン。いついらっしゃるのか、予想できるかしら? あまり急だとお迎え準備は大変でしょう?」
「かしこまりました。使いは出しましょう。ただし、お手紙だけです。会合はお控えください。……それで、いつ、いらっしゃるのですか?」
「明後日ですって」
フランは目を白黒させて、部屋へと急ぎ足で戻った。お茶の好みの確認や茶菓子の準備など、領主を迎えて恥ずかしくないように整えようと思えば、手持ちの物では品質が足りない可能性もある。
「ローゼマイン様はお手紙を書いたら、すぐにお休みください」
「えぇ、わかっています」
フランの許可を得て、わたしは急いでベンノに手紙を書いた。食事会の日時と食事に来る人数を書き込んで、メニューについてもいくつかの注意点を書き添える。そして、明日の夕刻には天然酵母を取りに来てくれるように、頼んでおいた。
「ギル、工房を終えたところで悪いのだけれど、ギルベルタ商会へお使いをお願いしても良いかしら?」
「かしこまりました」
モニカに着替えを手伝ってもらい、寝台に入る。食事まで出てはなりませんよ、とモニカからも釘を刺された。
「モニカ、孤児院のお祭りはどうだったのかしら? 子供達は皆楽しんでいた?」
「はい。今年はヴィルマも一緒にタウの投げっこをしました。ローゼマイン様がお願いしてくださったので、神の恵みも多かったようで、スープ作りも去年ほどは大変ではなかったそうです」
寝台でゴロゴロしながら、モニカからわたしが不在の間の話を聞いていると、お使いに行っていたギルが、返事を持って帰ってきた。
「準備はすでにできている。いつでも来い!……と、言っていました。明日の夕方にはレオンが天然酵母を取りに来るそうです」
そう言いながら、ギルはベンノからの手紙を差し出してくる。ベンノらしい頼もしい言葉に安堵して、わたしは手紙を開いた。
そこには、食事会のメンバーにギルド長とフリーダが共同出資者として参加する旨が書かれていた。二人はマインとローゼマインが同一人物だと知っている。それを予め領主に伝えておけ、とあった。
次の日、あまり体調が良くないので、わたしはフランから院長室に行くことも図書室に行くことも禁止されて、寝かされていた。
本がないと休めないとフランと何度か交渉して、図書室から本を持ってきてもらうことに成功し、ゴロゴロしながら本を読んで過ごす。至福の一日だった。
夕方にはレオンが天然酵母を取りに来て、きちんと渡した、とニコラから報告が届く。フランも忙しそうに部屋を出入りしていて、養父様やお父様を迎える準備をしていたようだ。
食事会当日、3の鐘が鳴った後、ジルヴェスターとお父様が護衛を連れてやってくると聞いていたが、よほど楽しみだったのか、うきうきした顔のジルヴェスターが到着したのは、3の鐘が鳴るより早い時間だった。
ロジーナとフェシュピールの練習をしていたわたしは、一行を案内してきた神官長の苦々しい顔に完全に同調してしまった。
「お約束の時間は守ってください、養父様」
「ローゼマインの言う通りだ。こちらにも都合があると何度言えばわかる!?」
「わかった、わかった。食事処に着く時間を守れば問題なかろう」
軽く流すジルヴェスターと「これでもかなり抑えたのだ」と溜息を吐いているお父様の後ろからエックハルト兄様とコルネリウス兄様の二人が顔を覗かせる。
お父様も食事の席に着く以上、他にも護衛が必要だろうということで、エックハルト兄様は最初から護衛として来ることが決まっていた。けれど、コルネリウス兄様が来る予定はなかったはずだ。
「コルネリウス兄様もご一緒なのですか?」
「私もローゼマインの護衛騎士だからな」
手を腰に当てて、胸を軽く反らせてキリッとした表情で言っているが、その顔には「面白そうなのに、仲間外れにするな」と書いてある気がする。
眉を寄せつつエックハルト兄様を見ると、「護衛は交代で食事を取るから、私の交代要員も兼ねているらしい」とからかうような視線でコルネリウス兄様を見下ろしていた。
どうやら、コルネリウス兄様は半ば無理やり付いて来たらしい。
「来てしまったものは仕方がない。ここでもてなせ。ローゼマイン、君の家族だ」
「養父様は神官長の家族でもありますよね?」
「……食後は受け持つ」
「了解しました」
フランがお茶を入れている間、「ここがローゼマインの部屋か。屋敷の部屋とあまり変わらないな」と養父様と兄様方が部屋の中を見て回るのを放置し、わたしはすぐさまベンノに手紙を書いた。
護衛の人数の変更を伝えなければならない。材料は余裕を見ているので、一人分増えても大丈夫だと思うが、事前連絡があるのとないので心構えが変わってくるだろう。
衣装についても、皆の大体の格好について書き記し、ギルド長とフリーダにも伝えてもらえるようにお願いしておく。ドレスコードは揃えた方が良い。一人だけ浮いていたら非常に居心地が悪いだろう。
「ロジーナ、これを迎えに来た人に渡してちょうだい」
「かしこまりました」
ロジーナは本日、音楽係として食事会の間フェシュピールを奏でることになっている。3の鐘にはギルベルタ商会から馬車を回してくれることになっているので、一歩先に食事処へ行くのだ。ベンノに頼んで、今日のために購入した薄い水色の服がよく似合っている。
「では、ローゼマイン様。いってまいります」
3の鐘が鳴るより早く、ロジーナは優雅な微笑みを残して、この上級貴族がひしめく部屋から逃げ出した。
事前に聞いていたとはいえ、領主と騎士団長が客として来るという状況に、軽くパニックになっていたニコラは、羨ましそうにロジーナが出かける姿を見る。
「ニコラ、皆様にクッキーをお出しして。……味見して、一番おいしい物をお願いね」
「はいっ!」
味見につられて笑顔で厨房へと向かうニコラに苦笑しながら、わたしはフランに入れてもらったお茶を堪能しているジルヴェスターのところへと向かった。
「養父様、本日の食事会の顔ぶれを先にお知らせしておきますね」
ギルド長とフリーダが食事会に参加すること、この二人はローゼマインとマインが同一人物であることを知っていること、ベンノから伝えておくように言われたことも合わせて伝える。
「ふむ。利に敏い商人か。……わかった。どのように遇するかは顔を見てから決める」
昼食前だというのに、ニコラに出されたクッキーを「これはうまい」と言いながら、次々と口に放り込んでいる。そんなジルヴェスターを護衛として後ろに立っているため食べられないコルネリウス兄様が恨めしそうに見ていた。
4の鐘が鳴る頃になると、ギルベルタ商会から馬車が回されてきた。わたしと神官長と養父様とお父様で一台。兄様方とダームエルとブリギッテで一台。そして、フランと神官長の側仕え三人で一台。馬車三台という大所帯で店へと移動する。
「なんだ、この馬車は!?」
貴族街の馬車と違って、平民のガタガタと揺れる馬車にジルヴェスターが目を吊り上げた。
「下町の馬車はこんなものですよ。貴族街の馬車は魔術具を使っているのでしょう? 道も真っ直ぐで平らですし」
「ローゼマイン、お前の知識で何とかならんのか? 本を作るより先にこちらを改造しろ」
「……馬車なんて、わたくしにとっては昔の乗り物すぎて、全く馴染みがないのです。どのように改造すればよいかなんて、存じません」
自分が乗ることもない馬車の構造に興味を持ったことはない。吊り下げる形の馬車で揺れの軽減が行われたような文章をどこかで読んだ気もするけれど、ヨハンに注文できるほど詳しく記憶なんてしていない。
「それに、相変わらずひどい匂いだ」
下町を抜けて森に狩りへと行っていたジルヴェスターが顔を歪める。お父様も神官長も眉を寄せて強張った顔になっているので、同じことを思っているらしい。
「そう思うならば、下町の衛生管理に少し予算を割いてくださいよ」
「予算を割けば、何とかなるのか?」
目を瞬いたお父様が興味深そうにわたしを見た。そんな風に期待の目で見られるとちょっと困る。
「……上下水道を設置できれば大幅に改善できます。けれど、詳細は存じません」
「本の作り方以外何もないのか!? 其方の知識は本当に使い勝手が悪いな!」
ジルヴェスターに怒鳴られた。使い勝手が悪いと言われても、わたしの興味は昔から変わっていないのだ。とりあえず本が最優先だ。他のことは余裕ができたら考える。
「興味も必要もないことなんて、そんなに詳しく記憶しているわけがないではありませんか。養父様は何でも記憶していらっしゃるのですか?」
「そういう仕事はフェルディナンドに任せてある」
そんな何の役にも立たない話をしているうちに、イタリアンレストランに到着した。内輪だけに見せる顔を引き締めて、口を噤む。
街の北にある店なので、広めの店だが、六階まであるのは、周囲と大して変わらない。外から見ただけでは、中が貴族の館を模したものだとは思わないだろう。
最初に側仕え達が荷物を抱えて、先に降りる。続いて護衛が馬車から降りた。店の前は綺麗に掃除され、清められていて、歩きやすいようになっていた。
お父様と神官長が馬車から降り、わたしはお父様に馬車から下ろしてもらい、最後に領主であるジルヴェスターが降りてくる。
馬車が三台も並んでいるので、周囲を行き交う人々の注目の的だ。ここにいるのが誰なのか知らなくても、とんでもない金持ちだということだけは一目でわかるのだろう。やや遠巻きにして、こちらを見てくる野次馬がどんどん増えていく。
「早く入りましょう、養父様」
店に入って、扉を閉めると、外の匂いがかなり遮断された。そして、興味本位の視線から逃れて、ホッとする。
扉の向こうには、ベンノとマルクを初め、ギルド長とフリーダ、そして、給仕が全員集合していた。全員が跪いて、胸の前で手を交差させている。
フリーダと会うのか久し振りだったが、わたしはもうマインではないので「久し振りだね」と声をかけることもできない。
少し寂しい気分になりながら、わたしは代表者であるベンノが長ったらしい挨拶をするのを聞いていた。
「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を賜らんことを」
「祝福を」
前にイタリアンレストランに来たのは、内装さえまだの状態だった。こうして豪奢な模様の入った扉や窓枠などがはまり、カーペットやタペストリーが飾られ、花や絵画が彩を添えると、全く違う店のように思える。
長椅子や個人用の椅子がいくつか準備されているのは、待合室も兼ねた玄関ホールで、ロジーナとフランが色々と選んでいた調度品が入っている。
「こちらは護衛の方々が食事を取る部屋となっております。貴族の方々を遇することを想定していないので、本日は格の落ちる部屋となりますが、ご容赦ください」
やや大きめのテーブルに椅子があるけれど、シンプルな部屋だ。側仕えが交代で食事を取ったり、人払いされた時に待機したりする部屋となるらしい。客が使うことを想定した部屋ではないので、今日の護衛が使うにはシンプルすぎるが仕方がない。
「こちらが食堂でございます」
「ほぉ、中級貴族から下級貴族の部屋の雰囲気はあるな。下町とは思えぬ」
「ありがたきお言葉に存じます」
領主の言葉に、ベンノの顔が少し緩んだ。かなりお金も時間もかけた店に対する評価として領主の口から合格が出たのだ。
複雑な彫刻のついた腰壁が取り付けられ、同じ装飾の飾り棚が並び、高価そうな皿や壺の他に、わたしが作った絵本と、かなり前にあげた折紙の祝い鶴が飾られていた。
テーブルはよく磨かれて艶があり、人数分のナプキンと本日のメニューが準備されている。テーブルの中央には向かい側の相手の顔が見えるように背が低めの花瓶と季節の花が飾られている。給仕を呼ぶためのベルも可愛らしいものが準備されていて、わたしは満足して頷いた。
「では、こちらにどうぞ」
領主の気が済むまで店の中をぐるりと見て回った後、席に案内された。護衛のエックハルト兄様が扉の内側、外側にブリギッテが立ち、ダームエルとコルネリウス兄様は護衛の控室へと向かう。
「この食事処の共同出資者を紹介させていただきます。まず、領主様の養女ローゼマイン様。本日のメニューもローゼマイン様が考えられたものです。それから、商業ギルドのギルド長グスタフとその孫娘であるフリーダ。給仕や料理人の教育に多大な貢献をしていただいております」
領主に対して、共に食事を取ることになる相手をベンノが紹介していく。ここで、初めて知ったこと。ギルド長の名前はグスタフだった。
「其方らか」
ローゼマインとマインが同一人物だと知っているギルド長とフリーダに、ジルヴェスターが鋭い視線を向ける。わたしの記憶の中であんなに偉そうだったギルド長が体を縮めるようにして、胸の前で手を交差させた。
「グスタフ、それから、フリーダ。其方らは優秀だと聞いている。機を読み、利を得ることができる、と。ならば、其方がするべきことは自ずとわかるはずだ。そうだな?」
「もちろん、できる限りの協力をさせていただく所存でございます」
「ふむ。では、これから私の養女が一大事業を始めるのだ。其方からも支援を頼む」
遠回しに無駄口を叩かず、ベンノに便宜を図れ、と命じるジルヴェスターの様子を見ていると、特にギルド長をどうこうするつもりはないらしい。お金にがめつい人だけれど、一応命の恩人とも言えるので、このままの状態が続くことにホッとした。
領主からの釘差しが終わって、少し緊張が解けたらしいフリーダと目が合い、ニコリと笑い合っておく。フリーダは成人したら貴族街で住むと言っていたし、ある程度仲良くしていきたい。
ベンノによる紹介が行われている間に、フランと神官長の側仕えは持参した荷物の中から食器の準備を始めていた。ベンノ達の分は給仕が手早く準備している。給仕の中にフランが教育したレオンの姿もあった。
料理は鍋や大皿でワゴンに乗せられて運び込まれてくる。そして、側仕えや給仕がその場で皿に取り分けて主に給仕する形になっているのだ。
今日は領主の給仕にフランが付いていて、わたしの給仕はザームが担当している。階級的に考えれば、領主には最初に給仕しなければならないが、初めての場所で普段とは勝手が違う方法で、領主相手に給仕して失敗するのを誰もが躊躇ったせいだ。
一番打ち合わせをする時間があり、わたしの料理に慣れているフランが領主に給仕し、それを見ながら、他の者が給仕することになった。
「これが本日のメニューか」
結婚式のメニュー表のようにテーブルに置かれたカードをジルヴェスターは手にとって興味深そうに眺める。
知らない料理の数々が並んでいることで、にんまりと口元が笑っているのが見えた。
レオンが焼きたてのふわふわパンを給仕していく。湯気と共にふわりと立ちのぼる匂いが食欲をそそり、早く食べたくて仕方がない気分になってきた。お父様と神官長がパンを見て目を瞬き、ギルド長とフリーダが目を見開いて、わたしを見る。
そっとジルヴェスターの前にフランが皿を置いた。
お手製のマヨネーズで和えられたポテトサラダが右側に丸く盛られ、左側にはイタリアンドレッシングもどきがかけられた蒸し鶏と野菜サラダが三日月のような形で盛りつけられている。
「幾千幾万の命を我々の糧としてお恵み下さる高く亭亭たる大空を司る最高神、広く浩浩たる大地を司る五柱の大神、神々の御心に感謝と祈りを捧げ、この食事を頂きます」
全員の皿が揃ったところで食前の祈りを捧げ、わたしはフォークを手に取った。毒見も兼ねて、招待した者が一番に口に入れるのだ。……うん、美味。
むぐむぐしていると、すぐさまジルヴェスターが食べだしたのが見えた。見慣れた野菜サラダではなく、初めて見るポテトサラダから口に入れる辺り、新しい物好きな性格がよくわかる。まずは慣れた見た目のサラダに手を出す神官長とは大違いだ。
どういう反応を示すのか、わたしはじっとジルヴェスターを見つめる。
ガッと口に入れて、もぐもぐと口を動かした後、ジルヴェスターは軽く目を見開いて、バッとわたしの方を見た。
「……ローゼマイン、これは何だ? 初めて食べる味だ」
深緑の目が爛々と輝いているところを見ると、どうやらポテトサラダはお気に召したようだ。