Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (188)
寄付金の集め方
外の眩しい光がさんさんと差し込んでくる中、華やかなお茶会が開催されていた。ロジーナを初めとする数人の楽師が穏やかな曲を奏で、季節の花々が飾られた部屋の中、「まぁ」「ほほほ」と高い声のお嬢様や奥様の声が軽やかに飛び交う。
今日の主役はわたし。
領主の養女として、初めてのお茶会であり、寄付金集めの大事な社交場なのである。
「はじめまして。お会いできて嬉しく存じます」
必死に愛想を浮かべて、叩き込まれた笑顔で挨拶を繰り返す。同じようににこやかな笑顔で次から次へときらびやかな衣装を着たお嬢様や奥様が挨拶をしてくれるけれど、ごめんなさい。誰が誰だか、全く覚えられない。
領主の養女と顔繋ぎができるというのを餌に、お茶会が開かれた。最近のお茶会では一番人気のカトルカールに加えて、エラとフーゴが作ったロールケーキが並んでいる。
季節のフルーツとクリームを巻いてあるロールケーキが今日の目玉だ。
初めてのロールケーキに目を見張る奥様方に、お母様と養母様がにっこり笑う。「ローゼマインが料理人に作らせましたのよ」と。
言葉通りで事実なのだが、そこに集う奥様方は領主の養女の立場を作るために、二人が流行を仕掛けたのだろうと勝手に納得している。女の世界に入っていく娘の立場を心配する母親の存在は普通なので、いちいち訂正する必要はない。
「わざわざいらしてくださってありがとう存じます」
半ば機械的に挨拶をしているわたしの隣に立つお母様と養母様が声をかけて、寄付の呼びかけをしている。
「ローゼマインが新しく事業の指揮を執ることになりましたの。協力いただけると助かりますわ」
「わたくし達も応援しておりますの」
声をかけられたおばさま方は、わたしを見て、「あら、まぁ」と目を丸くした後、微笑ましそうに「ローゼマイン様は領主の養女として頑張っていらっしゃるのですね」と笑う。生温かい笑顔から察するに、多分、領主の養女としての箔付けで、わたしは特に何もしていないと思われているのだろう。
「フロレンツィア様とエルヴィーラ様のお願いですもの。喜んで協力させていただきますわ」
「わたくしもお二人にはお世話になっておりますもの」
そう言って、にこやかに寄付をしてくれるのだけれど、誰もわたしが何の事業を起こそうとしているのか、聞かない。どのようにお金を使うのか、言及する人がいない。今までお世話になっているお母様達がお願いしたから、寄付をしてくれているのだ。
今日の集まりは同じ派閥に属する人ばかりだと言っていたから、尚更、領主の妻であるフロレンツィアとお母様の二人からお願いされれば、断わりはしないと思う。
貴族女性として、寄付集めのお手本を示してくださるお母様と養母様はさくさくと当たり前のようにお金を集めてくれたので、わたしは特に何をするでもなく、愛想笑いしているうちに目標金額は溜まった。
一つの孤児院を作って終わりならば、これで良いけれど、領地内に工房を広げていこうと思えば、一度の寄付だけでは足りない。
お茶会でのお金の集め方はわたしには向かないというのが、正直な感想だった。
「ローゼマイン様、フェルディナンド様がいらっしゃいました」
ブリギッテが困惑したように、寝台の上のわたしにそう報告に来た。
お茶会の後、わたしはすでに二日ほど寝込んでいて、客を招けるような状態ではない。そして、基本的には北の離れは立ち入りが許されず、入るには領主の許可と筆頭側仕えであるリヒャルダの許可が必要だ。
部屋の前まで来ているということは、両方から許可が出ているのだろう。
「ブリギッテ、リヒャルダは?」
「それが、見当たらないのです」
本来ならば、来客の取次は側仕えの仕事で護衛騎士の仕事ではない。けれど、リヒャルダが見当たらないし、相手が領主の異母弟である神官長なので、こうして報告に来てくれたらしい。
「まぁ、ブリギッテ。持ち場を離れるとはどういうことですの?」
「リヒャルダ様、その……」
いないと思っていたリヒャルダが突然現れたことに驚いたのか、ブリギッテの口からすぐには言葉が出てこない。
お茶の準備のできたワゴンを押していたリヒャルダが、ワゴンから手を放して腰に手を当て説教態勢に入った。それを見て、わたしは慌ててリヒャルダを止める。
「リヒャルダがいないから、ブリギッテはわたくしに報告してくれたのです。フェルディナンド様がいらっしゃったのですって。お茶の準備はそのためかしら?」
「そうです。わたくしがジルヴェスター様にお願いしたのです」
なんと、リヒャルダは二日寝込んだわたしにやきもきして、領主に直談判して、薬を持って来てほしいと神官長を呼び出したらしい。三日寝込んでも治らなかったら、神官長にお願いする、と言ったのに、先走ったようだ。
わたしの体調は二日寝ていたので、かなり回復している。あと一日寝ていれば大丈夫だと思うが、お薬は苦みが減ったので、ありがたくいただいて、完全復活したい。
リヒャルダに寝巻を剥ぎ取られ、バサリと部屋着を着せられた。部屋着のまま横になることもできるような緩い服である。
「これでいいでしょう。ブリギッテ、フェルディナンド坊ちゃまをお通ししてちょうだい」
ひとまず人を入れられる体裁を整えて入室を許可すると、何故かお母様と養母様も一緒だった。
「まぁ、エルヴィーラ様。フロレンツィア様も!? どうなさったのです?」
「フロレンツィア様のところへ行った帰りにローゼマインの様子を見ようと思っていたら、ちょうどフェルディナンド様がリヒャルダに呼ばれたところだったのです」
お茶会の後で体調を崩したわたしのお見舞いも嘘ではないけれど、目的は神官長に違いない。「ローゼマインは本当に虚弱ね。まさかお茶会で熱を出すとは思わなかったわ」と心配そうに言っている割に、雰囲気が浮ついているというか、視線は神官長に向かっていて本当に楽しそうだ。
見舞客に椅子を勧めて、わたしもリヒャルダに椅子を引いてもらって座る。神官長が来ることが側仕えには伝わっていたのか、化粧を直したり、衣装を整えたりした若い側仕え達がどこからともなく戻ってきてお茶を入れ始めた。
微笑ましいとは思うけれど、全員が一度に席を外すのは止めてほしいものである。今日はお休みのオティーリエがいたら、すごく怒っているに違いない。
「茶会の後、倒れたらしいな」
神官長がわたしの様子を見ながらそう言った。わたしは、一口お茶を飲んで、皆に勧めながら頷く。
お茶会自体は短くても、事前準備に、客の出迎えから見送りまで考えると、数日がかりの準備が必要になる。今回はお母様と養母様がお手本を見せるために開催してくれたお茶会なので、わたしは基本的に見ていただけだが、どのように開催するのかを全て見ることが義務付けられたのだ。
「我ながらよく耐えたと思います。最後まで倒れずに過ごせたのです。わたくし、ずいぶんと強くなったと思いませんか?」
「いや、それで強いとは言えまい」
強くなったと思っているのは自分だけのようで、誰からも賛同は得られなかった。神官長は呆れたように肩を竦める。
「茶会程度で体調を崩すようでは、君には社交は無理ではないか?」
「まぁ、フェルディナンド様。無理で済ませられる問題ではありませんわ。貴族女性として、社交は大事なのですから」
薬を渡しに来ただけのつもりだった神官長が、お母様に引き留められた。神官長は逃げ出せない。
「フェルディナンド様は、どうすればローゼマインが社交に顔を出すことができると思われます? 領主様の事業をお手伝いするなら、これから先も寄付集めは必要になりますわ」
今回の寄付集めには成功したけれど、あれは母達のおかげだ。「次からは自分でも声をかけてやってごらんなさい」と軽い口調で言ったお母様にわたしは困って眉を下げた。
「他の方のご厚意にすがるのが難しいのです。お母様方が寄付金を集められるのは、これまでのお付き合いや信頼があるからですよね。わたくしには何もありません」
「それをこれから積み重ねていくのです」
貴族女性の寄付は、持ちつ持たれつが基本になっているようだった。お世話になっているから、以前に寄付してもらったから、と皆が言っていた。それがここのやり方ならば、馴染むしかないとは思っている。
「えぇ。もちろん、皆様との信頼は積み重ねていきたいと思っています。けれど、印刷業を拡大していく早さを考えると、わたくしがお願いするばかりになってしまうのです。わたくしに返せるだけのものがございません」
「では、どうなさるの? お金が必要だから集めるのでしょう?」
養母様がきょとんとした目で首を傾げた。どうやらほかの寄付金集めはここでは行われていないようだ。
わたしは最初、募金箱を持って、お城の中を歩いて、お願いして回ろうと思ったけれど、これはすぐに却下された。領主の養女であるわたしのお願いは命令に等しくなる。寄付はご厚意を頂くものなので、逃げ道を塞いではいけないということらしい。
「もっと他の……利益を上げるような、皆が喜んでお金を出してくれるような方法が必要なのです。そして、できればその方法は印刷業に関係することが良いと思います。わたくしに対する信用にお金を出してほしいのではなく、印刷業という事業にお金を出してほしいのです」
株式会社という言葉が一瞬頭を過った。けれど、一から作っていけるほど、わたしは詳しくない。投資ではなく、何か寄付の良い手段がないだろうか。
むーん、と考えて思い出したのは、幼稚園でやったバザーだ。
「そうですね。『バザー』はどうでしょう? 不用品を持ち寄って安く売るのです」
「生活に不要な物がそれほどあるかしら? それに、不用品は下働きに下げ渡す物でしょう?」
何を言っているの、と首を傾げられ、わたしは頭を抱えた。常識の壁が高い。消費文化だった麗乃時代と違って、ここは最後まで使い潰す文化だ。不必要なものは、まず、買わない。
貴族といえども、子供はすぐに成長するので衣装はお下がりが当たり前で、多少の傷みは繕って使う。使えなくなったら、下の者に下げ渡す。不用品がほとんどない。
「えぇーと、では、『チャリティーコンサート』はどうでしょう?」
「それはどのようなものかしら? 聞いたことがありませんわ」
そっと頬に手を添えた養母様が少し首を傾げる。
「収益を全て寄付するために行われる演奏会です。……フェルディナンド様、数曲フェシュピールを弾きませんか?」
洗礼式の時に見た女性の熱狂ぶりを考えると、チケットが飛ぶように売れそうだ。ついでに、印刷関係でグッズ販売ができたら、ウハウハである。写真もないし、数色の印刷さえ、まだきっちりとできないので、グッズは無理だろうけれど。
「何故私が弾かなければならない?」
「わたくしが知っている中で一番上手ですから」
お金になりそうですから、という本音はぐっと呑み込んでみたけれど、バレているような気がする。眉間に皺を刻んで、神官長が心底嫌そうな顔になった。
「却下だ。何の益もないし、私が君に協力しなければならない理由もない」
「……ですよね」
神官長が厚意で協力してくれるわけがない。神官長の厚意は半分以上何かの計画絡みだ。
軽く答えて諦めようとしていたら、お母様がギラリと目を光らせていた。「何とか演奏会を行うのです!」と視線だけで強く命じてくる。
失敗した。ちょっとした思い付きで、大変な人を覚醒させてしまったようだ。
お母様からにこやかに睨まれ、わたしは必死で頭を回転させる。
神官長にとって利益になる物で、欲しがる物があるだろうか。神官長は基本的に何でも持っている万能人なので、必要とする物が簡単には思い浮かばない。わたしが持っている物で、神官長が欲しがったものなんて、二つしかない。
「フェルディナンド様、新しい楽曲を提供するので、フェシュピールを弾いてください」
「……」
神官長の眉がピクリと動いた。興味は引けているけれど、コンサートに引っ張り出せるほどではないということだ。わたしは音楽に続いて、料理の餌も投げてみる。
「あの、エラも知らないレシピも付けますから」
「……」
そっと目を逸らされた。敢えて視線を逸らさなければならないくらい、心惹かれているように思える。もう一押し、何かあれば了解の返事が引き出せるのだろうけれど、困ったことにもう他に思いつくものがない。
それでも、お母様からは「もうちょっとだから頑張れ」とものすごい圧力を感じる。どんなに頑張ろうと思っても、これ以上神官長を動かせそうなものは思い浮かばない。わたしは神官長の手のひらでコロコロされるけれど、わたしが神官長を動かそうなんて土台無理な話だ。
わたしは緩く頭を振った。
「……もう、思いつくものがありません」
「では、この話は終わりだ」
少しばかり安堵を含ませた神官長がピシリと会話を打ち切ったことで、お母様がショックに打ち震えたのがわかった。失敗してごめんなさい、と泣きたい気持ちで、項垂れていると、わたしの横にずいっと出てきた人物がいた。
「これ、坊ちゃま! 終わりだ、ではありませんよ!」
「リヒャルダ?」
どどーんと仁王立ちして、手を腰に当てているリヒャルダは完全にお説教態勢だ。
「まったく、フェルディナンド坊ちゃまときたら! このように病み上がりの幼い姫様に意地悪をするものではありません」
「だが……」
「姫様はご自分にできる限りの便宜を図ってくださったでしょう!? 全く必要のない物ではなく、坊ちゃまの好む物を。わたくしにはお見通しですよ」
神官長が口を挟む間もなく、リヒャルダのお説教が炸裂する。神官長が苦りきった顔でそこに居る面子を見回して、「絶望した」と言わんばかりにきつく目を閉じた。
期待に目を輝かせたお母様、神官長がお説教されている様子を珍しそうに見ている養母様、そして、リヒャルダの勢いにぽかーんと口を空けているわたしでは、誰もリヒャルダを止められない。
「けちけちしていないで、フェシュピールの数曲くらい弾いて差し上げなさい」
「リヒャルダ、私は……」
「ジルヴェスター様が主導で行い、ローゼマイン姫様の関わる事業ならば、フェルディナンド坊ちゃまが姫様の後ろ盾にならなくてどうします!? ジルヴェスター様は相手がこのように幼い姫様でも簡単に仕事を放り投げますよ」
さすがジルヴェスターの乳母。よく把握している。
否定はできないのか、神官長は頭を抱えて、深い溜息を吐いた。
「坊ちゃま、お返事は!?」
「……弾けばよいのだろう」
「よいのです」
リヒャルダの圧倒的勝利により、フェルディナンド様チャリティーコンサート計画が発動した。
弾く以外は何もしないからな、と
不貞腐
れたように言って、神官長が帰っていくと、貴婦人らしくあまり表情には出さないように努力していたお母様の感情が爆発した。
「ローゼマイン、演奏会はいつにしましょう?」
目を輝かせて、ずいっと身を乗り出してくる。
「エルヴィーラは本当にフェルディナンド様がお好きね」
「フロレンツィア様もお好きでしょう?」
「わたくしは義母様の被害を受けていた者同士としての仲間意識が一番大きいのですけれど、フェルディナンド様の見目は良いですからね」
クスクスと笑いながら、二人が計画を立て始める中、わたしは神殿の行事を思い浮かべる。
「夏の終わりと秋の初めには成人式と洗礼式がありますし、秋の半ばには収穫祭へ赴かなくてはなりません。秋の終わりには騎士団からの要請が来る可能性もあります。ですから、急ぎにはなりますが、夏のうちにした方が良いと思われます」
本音としては、冬支度が始まる前にお金は準備しておきたいというのが大きい。何より、忙しい時期になると神官長に色々と理由を付けて逃げられそうだ。
「では、大急ぎで招待状を出さなくてはなりませんわね」
「招待状ではなく、『チケット』にして、きっちりと売ってくださいませ、お母様」
せっかくのコンサートだ。チケット販売で利益を出すのは基本だろう。しかし、チケットという物はこちらにはないらしく、お母様が首を傾げた。
「ローゼマイン、チケットとは何ですの?」
「演奏会に入るために必要な招待状と同じような物なのですけれど、座席の場所が書かれていて、有料なのです」
わたしは机から紙とインクを取り出すと、簡単な会場の図を書いていく。
「先日のお茶会にいらした方が22名でしたので、30名を招待すると仮定します。そうしたら、丸いテーブルは5つほど必要ですよね? フェルディナンド様がここで演奏します。お母様なら、どちらの席に座りたいですか」
「それは、ここでしょう」
お母様はトンとど真ん中の最前列を指差して即答する。この席は誰にも譲らない、と言わなくてもわかるような顔をしている。
「えぇ。ですから、この辺りの見やすい席のチケットは高く、この辺りの見えにくい席は少し安く設定するのです」
「あら? それでは、席順が身分の順番にはならないのではありませんこと?」
養母様が藍色の瞳を何度か瞬きながら、首を傾げた。
「お茶会ではなく、フェルディナンド様を鑑賞する会ですから、そこまで厳密に決める必要はないと思うのです。皆様と一緒に雰囲気を楽しみたいし、フェシュピールを聞きたいけれど、フェルディナンド様にそれほど興味があるわけではない方ならば、こちらの安い席に座りたいかもしれません」
「わたくしはそうだわ」
養母様はクスクスと笑いながら、「では、わたくしは安い方のチケットを買って、こちらに座って、フェルディナンド様を間近で見たい方に高い席を譲って差し上げましょう」とお母様を見て言った。領主の妻である養母様がいれば、本来は養母様が一番良い席に座ることになる。
「そうすれば、他の方も安いチケットを買いやすくなるでしょう?」
無理して高いチケットを買う必要はない、と養母様が行動で表せば、追従する人はいるだろう。
「あとは……チケットを売る時に身分順に話を持っていって、座りたい座席を指定して頂くのはどうでしょう? 席順に関して文句を言う方はぐっと減ると思われます」
「相手に決めさせるなんて、ローゼマインはすでにジルヴェスター様の考え方に染まっているのではなくて?」
養母様にものすごく心配そうに顔を覗き込まれた。ごめんなさい、養母様。元々です。
そして、チケットの値段を設定する。一番高い席は小金貨1枚。それ以外は大銀貨5~8枚とバラバラだ。すでに一番高い席は売れた。
「お出しするお茶やお茶菓子はフェルディナンド様がお好みの物を準備しましょう」
一番良い席を確保したお母様が弾んだ声で提案する。わたしの常識とこちらの常識では演奏会の概念にずれがあるので、基本は張り切っているお母様にお任せしたい。
わたしはこちらの演奏会に商売を少しずつ混ぜ込んでいくだけだ。コンサートならばグッズが一番売れると思うけれど、すぐに準備できない。
しかし、神官長の好きなクッキーならば、フーゴとエラが城の料理人にレシピを叩き込めば量産できる。
「お茶菓子を準備するのでしたら、多めにお茶菓子を作っておいて、演奏会の思い出として最後に売り出しましょう。フェルディナンド様のフェシュピールに感動した方はきっと購入してくださると思います」
「えぇ、わたくしは買いますわ!」
すでに購入予定者がいる。これは売れそうだ。
どの部屋で演奏会をするのか、養母様が決めると、お母様がテーブルの配置を考えて座席表を作り、席順を振っていく。
「チケットを売った時に必ず誰が購入して、どの席に座ることになったか、この座席表に控えてもらうようにお願いします。そうしておけば、当日の混乱が少しは軽減できるはずですから」
チケットをなくしたり、誰かに盗られたり、トラブルの種はいくらでもあることを説明すると、お母様は「なるほどね」と頷いて、座席表に自分の名前をしっかり書きこんだ。
「そういえば、ローゼマイン。演奏会に印刷業を絡めるというのはどうするおつもり?」
チケットを作るために必要なことを話し合っている途中で、演奏会の開催に舞い上がっているお母様とは違って、冷静な養母様が思い出したように指摘する。
「それは、わたくしに任せてください。印刷業の素晴らしさが一目でわかるように全力を尽くしたいと思います」
ヴィルマに描いてもらった神官長のイラストを表紙にしたプログラムを作って売れば、良い宣伝になると思うんだよね。