Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (213)
収穫祭
夜が明けると、小神殿は騒がしく動き始めた。今日の午前中には小神殿を封鎖するのだ。
厨房は朝食と昼食の準備にフル回転で、片付けまで終わらせなくてはならないので、大忙しだ。朝食はパンとスープが置かれ、各自で食べるようになっている。
わたしとブリギッテはモニカとギルの給仕を受けて、手早く朝食を終えた。
馬車に布団や食器などの生活道具を神官達は各自で積み込み、部屋を清掃する。兵士達にも自分が使った布団と部屋は片付けてもらい、ギルベルタ商会の人達は片付けと商売の準備に動き回っている。
そんな中にわたしがいたら、邪魔だ。わたしは朝食を終えると、早々に部屋に引っ込んだ。出立の準備ができるまで、待っているしかない。
「ルッツ、工房のことはよろしくお願いいたします。インゴの工房でそろそろ冬の手仕事のための材料が仕上がる頃でしょう?」
「はい。それから、インゴに印刷機の改良を頼みたいのですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろんですわ」
どんどんやっちゃって、という心の声が聞こえたのか、ルッツがニッと笑った。印刷機の改良は、使っている人の意見を中心に改良してもらうので、わたしがいてもあまり役に立たないのだ。ただ、ちょっとでも不便だとか、こうしたらいいかもしれない、と考えたことはどんどん発言するように言っている。現状に満足していては印刷業が発展しない。
「ギル、留守を任せます。工房と、それから、一緒に行くノーラ達が孤児院に馴染めるように気を配ってあげて欲しいの」
「わかりました」
ノーラ達も付きっきりで灰色神官や巫女が神殿での過ごし方を教えられているようなので、かなり馴染んでいるように見える。けれど、知らない人ばかりになる孤児院で、今までと違って大勢の中で暮らすのは、また違ったストレスがあるはずだ。
「……ギュンター」
父さんを名前で呼び捨てるのが、どうにも慣れなくて、ちょっと気合いを入れなければ呼べない。
「神官達の護衛を頼みます。皆を無事に神殿に送り届けてください。貴方がわたくしのお願いを聞いてくださったおかげで、安心して神官達を送り出せます」
「お任せください」
わたしはベンノに用立ててもらったお金を出張費として兵士達に配って回る。跪いて受け取る兵士達に「神殿までよろしく頼みます」と渡した。兵士の目が輝いているので、きちんと仕事をしてくれるだろう。
こうして、エーレンフェストに向かう一行が出発した。それを見送った後、ベンノとマルクも動き出す。
ベンノとマルクは別行動だ。午前中はハッセで商売をしながら、「ハッセの住人が領主の作った小神殿に攻撃を加えたらしいが、これは反逆罪に当たるのでは? 誰が指示した責任者なのか知らないが、一体どれくらいの人数が責任を取らされるのか……」という噂を流し、さっさとエーレンフェストに戻るらしい。
「ベンノ、マルク、お気を付けて」
「お心遣い感謝いたします」
ベンノとマルクがハッセの町の方向へと向けて去っていくと、その後は、わたしの側仕えと専属を馬車に乗せて、町長の館の方へと出発させる。
「モニカ、ニコラ。エックハルト兄様やユストクスの側仕えと合流して、次の冬の館に向かってくださいね。わたくしはここで兄様達を待ちますから」
皆を送り出した後、わたしとブリギッテは迎えが来るまで、二人で小神殿の部屋で待っていた。エラが準備してくれているクッキーと昼食用のサンドイッチと搾りたての果汁が入った水筒があるので、少しのんびりした時間を過ごす。
「ブリギッテの実家はどのようなところにあるのかしら? わたくし、まだあまり地理には詳しくないので、お話してくださる?」
実際に住んでいる人の話を聞くと、地理の勉強をする時にも頭に入りやすいと思う。わたしが暇潰しとして、お喋りを望むと、ブリギッテは困ったように笑った。
「イルクナー子爵領はエーレンフェストの中では南西にございます。広さはあるのですけれど、田舎で人口は少なく、特筆するほどの特産物もございませんね。木材を特産にしておりますが、周囲も同じですから」
「……木材が豊富ならば、紙作りに向くのではないかしら?」
木の種類もこの付近と違う可能性があるし、特産品が欲しいなら、紙を作ればいいじゃない。紙が大量になければ、どうせ印刷業は広がっていかないのだ。
どんな木があるのか、珍しい木やトロンベのような良質の紙が作れる魔木がないか、じっくり話し合ってみたい。
「しばらくの間、印刷業は領主の直轄地で広げていくのを優先しなければならないのですけれど、一度イルクナー子爵にもお会いして、紙の生産についてお話してみたいですね」
わたしがそう言うと、ブリギッテは今まで見たことがないほどにアメジストの瞳を輝かせて笑った。
「えぇ、ぜひ。ローゼマイン様のお声がかかるのを心待ちにしております」
そんな話をしていると、来訪者を教える魔石が光った。ブリギッテが扉を開けると、緊迫した顔のエックハルト兄様とユストクスとダームエルとフランがいた。
「ずいぶんと怖いお顔ですね。何かございましたか?」
「小神殿に側仕え一人いない、全く人の気配がしないことに驚いたのだ。昨日はあれほどいたのに、一体どこへ行ったのだ?」
「冬は小神殿を封鎖するので、エーレンフェストの孤児院に送り出しました。わたくしの側仕えは町長の館の方へと差し向けたはずですけれど?」
そうか、とエックハルト兄様が力の抜けた声を出した。
誰もいないガランとした空間に、何事か!? と驚いて、この部屋まで駆けてきたらしい。
「フランは知っていたでしょう?……フラン、ずいぶん顔色が悪いですけれど、体調でも良くないのですか?」
一目でわかるほど、フランの顔色が悪い。憔悴しきった顔にわたしが眉を寄せると、「何ということもございません」と笑顔を浮かべる。
「その顔色のどこが、何ということもないのですか? 出発はお昼で良かったはずです。4の鐘まで、男子棟で休んできなさい」
「いえ、他の側仕えもいない状態で主を置いて休むなどできません。お許しください」
キッパリと言い切ったフランの主張に、エックハルト兄様が、うんうん、と頷いている。神官長が教育すると、皆こんな感じに育ってしまうのだろうか。
……この真面目で頑固な仕事人間め!
「絶対に許しません」
まさか却下されると思っていなかったようで、フランが驚きに目を見張り、周囲も信じられないというようにわたしを見た。
「慈悲深いと噂されているわたくしですから、この部屋の長椅子に寝ることを命令されるか、人目がない男子棟で寝るか、好きな方を選ばせてあげます」
「ローゼマイン、それはあまりにも……」
「わたくしの体調管理ができないエックハルト兄様は黙っていらして。わたくしの代理を頼むことになるのに、フランが倒れたら困るのはわたくしなのです」
わたしを諌めようとするエックハルト兄様をキッと睨んで黙らせる。
「さぁ、フラン。どちらがお好みかしら?」
わたくしの膝枕も付けてあげましょうか? と脅すと、フランは諦めの顔で男子棟へと下がっていった。
「ローゼマイン、君はまだよくわかっていないのかもしれないが……」
「わかっていらっしゃらないのは、エックハルト兄様ですわ。正直、わたくしが倒れても、フランとエックハルト兄様で穴埋めできます」
祝福を与えるだけならば、貴族は誰でもできる。神官服がないだけで、青か白のずるずるした衣装を着て舞台に立っていれば、遠目にはそれらしく見えるはずだ。
「けれど、フランの代わりはいないのです。側仕えという仕事に関しても、モニカやニコラにはフランの代わりはできません。儀式の補佐も、わたくしの体調管理も、薬の管理も、貴族であるエックハルト兄様やユストクスの気分を害することなく側について行動することも、神官長の教育を受けたフランにしかできないのです」
「だが、側仕えは……」
エックハルト兄様が口を開いたところで、ユストクスが間に入ってきた。
「兄妹喧嘩はそこまで。エックハルト、今回は負けておきなさい。姫様の言葉は間違っていない。姫様の立場から考えると正解でもないが……」
ユストクスは「側仕えも付けずにいるのは、高貴な女性として失格です」とわたしを叱り、「周囲の状況を考えて、もう少し融通を利かせなさい。フェルディナンド様より頭が固くてどうする?」とエックハルト兄様を諭す。
ちょっと変わった人ではあるが、さすが年長者だ。わたしもエックハルト兄様も「ごめんなさい」と謝るしかなかった。
フランを男子棟に追いやってから4の鐘まで、わたしはエックハルト兄様とユストクスから収穫祭の報告を受けていた。
鐘が鳴り始めると同時に、まるで扉の前で待ち構えていたようにフランが戻ってくる。顔色がかなり良くなっていたので、ホッと胸を撫で下ろした。
果汁とサンドイッチの昼食を食べたら、小神殿を閉鎖して出発だ。
マヨネーズに目を輝かせて、情報を求めるユストクスには「情報料、高いですよ。養父様もレシピにはお金を払っているのです」と言っておく。
諦めきれないように「帰ったら払います」とすがってきたので、「情報に関しては、現金払いでお願いいたしますね」と笑顔で返しておいた。情報コレクターは上客になりそうだ。
レッサーバスの中でフランからもハッセに関する報告があった。「ご命令通り、心胆寒からしめてまいりました。リヒトは土気色の顔をしておりました」とのことだ。後はハッセの出方を見るしかない。
次の農村が集まる冬の館に到着した。ハッセと同じように収穫祭が始まる。舞台に上がって、儀式を行うのも同じ、祝福に歓声が上がるのも同じだ。
そして、昨日ハッセで見損なったボルフェという競技が行われることになった。
町長がボルフェのルール説明をしている間に、わたし達の前のテーブルには料理が並び始める。貴族が先に食べて、下げ渡すという形式をとるためだろう。広場を囲むように台が準備されているが、そこにはまだ料理が出ていない。
フランの毒見の後で、わたしは少しずつ色々な種類の料理を食べる。とれたての新鮮な野菜を使っているようで、味は素朴だがおいしい。
「では、始め!」
そんな町長の声と同時に、広場の中央へと連れて来られていた動物が地面目がけて投げつけられる。
「えっ!?」
地面に当たった瞬間、その動物はダンゴムシやアルマジロのようにぐるんと丸まった。
小さくバウンドした動物を追いかけて、選手達が群がっていく。動物はボールとして使われていて、蹴飛ばされてはゴロンゴロンと転がっていった。
その様子に、ひくっとわたしの顔が引きつった。
「ちょ、ちょっと、生き物をあのようにして……」
「あぁ、姫様は知らなかったのでしょうか? ボルフェは魔獣です。甲が硬いから平民に蹴られたくらいでは死にません」
死ぬ、死なないではなく、生き物を蹴り飛ばすゲーム自体がどうか、と思うのだが、それに関しては全く通じなかった。ここではこういうものだと思って、口を噤むしかない。
ボルフェを追いかけては蹴り飛ばす競技は、まるでサッカーのようだった。コートのだいたい真ん中に、ちょっとガタガタの線が引かれていて、それぞれの陣に分かれている。
陣の四分の一辺りでまた線が引かれていて、その枠の中に輪が置かれていた。その輪にボルフェを置いたら点が入るらしい。
ゴールの枠内に入るまではボルフェを蹴るだけなのでサッカーのようだが、枠の中に入ったら、手で持って輪に置いたり、叩きつけたりするので、ラグビーやハンドボールのような感じになる。
手で持ったら、衝撃がなくなるので、ボルフェが顔を出すのだが、顔を出したらアウトになるようだ。相手にボルフェを渡さなければならない。
枠に入った後は地面にバウンドさせたり、パスしあうことで衝撃を与えたりしながら、ゴールへと向かって行っている。
「ぅひっ!……い、痛そうですね」
体当たりや突き飛ばしは当然なのか、わたしの目にはこの競技がルール無用にしか見えない。相手を引っ張り、ボルフェを取り上げ、突き飛ばしては蹴り上げる。
「怪我人が続出しても、すでに農作業が終わっているのでそれほどの問題はないのだろう。それに、これは冬の館での上下関係を決める大事な競技だ。誰も彼も熱が入るのは当然ではないか」
冬籠りの間のヒエラルキーがこの競技で決まるので、熱が入るらしい。選手は農村の代表で、名誉をかけて行われる年に一度の試合だそうだ。
「熱が入るのはわかりしましたけれど、怖いですね」
「だが、この程度ならばディッターよりは危険も少ないぞ」
エックハルト兄様がボルフェを見ながら、そう言った。また聞いたことがない単語が出てきた。ディッターというのも、何か競技だろうか。
「……ディッターとは何でしょう?」
「貴族院でよくやった競技だ。騎士見習いが騎獣に乗って戦う練習をするために行われるのだが、戦いの場が空になる分、危険性が高い。フェルディナンド様はディッターが得意で、実に巧みな用兵だった」
得意そうにエックハルト兄様が貴族院時代の神官長について語り始めた頃、一際大きな歓声が上がった。どうやら勝敗が決したらしい。
ボルフェの勝者が決まったら、景品の肉が勝利した村に贈られる。
白熱したボルフェが終わる頃には、広場の端に並べられた台の上に次々と料理が出てき始めた。子供達が歓声を上げながら、運んでいき、大人達は酒を注ぎ始める。
その頃には辺りが暗くなり始め、一気に気温が下がってくる。
ひやりとした秋の夜風にふるりと小さく震えた途端、フランがさっと温かい外套を取り出した。モニカが持って来てくれていたらしい。ウチの側仕え、マジ有能。
先程までボルフェをしていた広場の中央にキャンプファイヤー程の大きさではないが、火が焚かれ、暖と明かりが取れるようになった。焚火の明かりの中で宴会は始まる。
一年間の労働を労い、厳しい冬に備えよう、という町長の言葉で乾杯し、飲んで食べての大騒ぎだ。
その間、すでに食事を終えているわたし達は、町長達と一緒に徴税や奉納される食料についての話し合いがされる。今年は数年ぶりの豊作らしく、町長達の顔色は明るいらしい。去年を知らないので、わたしには何とも言えないけれど。
実際に徴税した物をエーレンフェストに送るのは、明日の朝の仕事になるそうだ。
日が沈み、完全に暗くなっても、祭りは終わらない。
お腹が満たされると同時にお酒とおつまみのような簡単な物だけを残して、どんどんと片付けられていく。
食事の片付けが始まると、楽器を持って集まる人達がでてきて、音楽が響き始めた。
今日の主役である新郎新婦が始めに出てきて、踊りだす。そこにどんどんと手を取り合った男女が増えていった。洗礼式を終えたばかりの小さい子供達もいれば、冷やかされるのが恥ずかしそうな初々しい恋人達もいる。
周囲の皆も手を叩き、口笛を吹き、足を鳴らして盛り上がる。歓声と大きな歌声が響き、収穫への感謝が叫ばれる。
大勢の笑顔と勢いと熱気に呑み込まれるような祭りだ。
7の鐘が鳴ったら、収穫祭は終了になる。
子供達は寝るために引き上げ、女達が手早く片付けていき、男達は部屋で飲み直せるように慌てて酒を確保していた。
そして、わたし達は町長を初めとする有力者たちに、ゆっくりとお話をしよう、と誘われる。
「ローゼマイン様はもうお休みの時間ですよ」
エックハルト兄様がそう言って、その場を去るように指示するのに合わせて、わたしはフランとブリギッテに連れられて、準備された部屋に退却だ。
そして、湯浴みや就寝準備をしながら、モニカとニコラに側仕えから見た収穫祭の話を聞いた。二人とも初めての収穫祭なので、驚いたことや楽しかったことがたくさんあったらしい。
次の日は朝早くからユストクスが徴税官の仕事をしていた。祭りの時に話し合った通りの物が納められているか確認すると、昨日の舞台の上に大きく魔法陣の描かれた布を広げた。四隅に魔石を置いて、何やら唱えると、その上に徴税した作物を置いていく。次の瞬間、作物は光に包まれて消えていった。
「これでエーレンフェストに送られているのですか?」
「えぇ、そうです。こちらがローゼマイン様の分です」
わたしが受け取る、神殿への寄付分の作物もわかるように印をつけて、一緒に送ってくれた。本物の祝福だったので、去年より多めに包んでくれているらしい。
他の青色神官や巫女の場合は、こうして送られた物は実家の貴族が取りに来るそうだ。わたしの場合は城なので、城の料理人が冬支度として加工してくれるらしい。
徴税を終えると、次の冬の館に向かって出発である。側仕え達の馬車を見送った後、騎獣で追いかけるわたし達はお昼まで、ゆったりと過ごす。
……あぁ、収穫祭って、楽しいね。
そう思えたのは三日目まででした。
毎日毎日、祭りの熱狂の渦の中にいると、ものすごく疲れる。周囲の人達は年に一度のお祭りだが、わたしはもう十日も熱狂の渦の中にいるのだ。
何もない静かで平凡な日々が恋しい。もう神殿に帰って、図書室に籠りたい。
わたしが祭りに飽きて、ぐったりしてきた頃、ドールヴァンに到着した。わたしの収穫祭に回る範囲では一番南に位置する冬の館がある小さな町だ。ドールヴァンの周辺にある農村の外れに、わたしの薬であるユレーヴェの材料に使う秋の素材、リュエルがある。
シュツェーリアの夜は、秋で最も魔力が高まる満月の夜だ。その夜に採集したリュエルはエーレンフェストで採れる素材の中で一番品質が高くなる、と神官長が言っていた。
満月まであと二日。収穫祭を終えても、シュツェーリアの夜まで滞在することを町長に述べて、寄付された分から滞在費として少し返しておいた。
熱気あふれる祭り続きのため、わたしだけではなく、皆かなり疲れが溜まっていたので、休息はちょうどいい。わたしは疲労回復の薬を飲んで、ぐっすり寝て回復する。
そして、ついでにドールヴァンの冬の館の様子を見せてもらった。出張神殿教室ができないかな、と思いながら、冬の館を歩き回る。洗礼式の時にフランが読み聞かせた絵本を広げて、また読み聞かせた。洗礼式の時の子供だけではなく、もっとたくさんの子供達が興味深そうに聞いてくれる。
冬は娯楽が少ないので、うまくすれば、農村の識字率も上げられそうだ。
「今夜がシュツェーリアの夜です」
昼食を共に取っていたユストクスがそう言った。
満月の光が当たって、リュエルには実がなるそうだ。そのため、採集は夜中になるらしい。
「よくお昼寝しておいてください、姫様。リュエルがなるのは夜遅くですから」
エックハルト兄様とユストクスとダームエルは昼食の後、リュエルの木を探しに行くそうだ。印を付けて戻ってきて、月が昇って待って出発すると予定を述べられる。
「わかりました」
言われた通りに昼寝して、夕方に目覚める。
夕食の席で、リュエルを見つけたとエックハルト兄様から報告があった。
「印を付けてきたので、夜になれば出発できる。体調は大丈夫か、ローゼマイン?」
「はい、大丈夫です」
食事が終わるか、という頃にオルドナンツが飛んできた。神官長は予定が合わなくて、来られないらしい。エックハルト兄様が残念そうに息を吐く。
「リュエルは見つかったので、今夜予定通り採りに行きます。フェルディナンド様の分も採集してまいります」