Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (216)
わたしの冬支度
リュエルの実の採集は失敗したし、その次の日は寝込んで薬のお世話になったけれど、収穫祭自体は特に問題なく終わった。
神殿に戻って、出迎えてくれたギルの顔を見て、わたしはホッと一息吐く。
「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」
「ただいま戻りました、ギル。留守の間に変わったことはなかったかしら?」
「お話ししたいことがいくつかございます」
ギルの言葉にフランがすっと進み出た。
「では、ギル。ローゼマイン様を孤児院長室へと案内し、そちらでお話をしてください」
収穫祭から戻ったばかりで、次々と荷物が運び込まれている部屋よりは孤児院長室の方が落ち着くだろう、とフランが勧める。
わたしがいない方が片付けは捗る、と遠回しに言われたわたしは、丁寧に掃除され、整えられている孤児院長の部屋へギルと一緒に向かった。
「どうぞ、ローゼマイン様」
孤児院長室でギルが入れてくれたお茶を飲みながら、不在だった期間のギルの話を聞く。ギルのお茶を入れる技術も進歩しているようで、フランには劣るけれど、かなり上達していた。
できあがっている紙の数や絵本の数、必要なインクの数などの在庫状況の報告の後、トロンベの話が出た。
「先日、森へ紙作りに行った時にはにょきにょっ木が出て、皆で刈りました。結構大きくなっていて、兵士達も動員されました」
「誰にも怪我はなかったの?」
「はい。よく頑張った、と兵士が褒めてくれました。若くて細い枝はいらないと言うので、持ち帰り、すでに黒皮になっています」
ルッツが兵士達に交渉して、若いトロンベを全てもらって来たそうだ。よくやった。
「後は、工房にインゴという職人が来て、ルッツや灰色神官と話し合っていました。詳しくはルッツから報告があると思います」
「そう、楽しみだわ」
印刷機の改良について考えるだけで楽しくなる。どんな風に変わるのだろうか。
「ハッセの子達はどうかしら? うまく馴染めている? 様子を見に行っても大丈夫かしら?」
「……気になるなら、孤児院へ行きますか?」
「えぇ、ヴィルマに尋ねたいことや頼みたいこともありますから、行きましょう」
護衛騎士も連れて、わたしは孤児院へと移動する。先触れがない突然の訪問にヴィルマは驚いていたけれど、収穫祭の後片付けで側仕えが大忙しである話をすると、クスクスと笑った。
「ローゼマイン様は側仕えが少ないですから、どうしても大変ですもの」
「……少ないかしら? 大体の青色神官が五人くらいの側仕えを召し抱えると伺っているのですけれど」
前神殿長も六人くらいだったと記憶している。六人くらいというのは、デリアをどちらの側仕えに入れるか、迷ったからだが、自分の側仕えは平均くらいだと思っていた。
「普通の青色神官であれば、それで十分でしょうけれど、ローゼマイン様は神殿長、孤児院長、工房長とお仕事が多いですから、それぞれに三人ずつくらいの側仕えが必要ではないでしょうか」
工房長の仕事はギル、孤児院の仕事はヴィルマ、神殿長の仕事にフランとモニカとニコラ。ニコラは料理助手に向かうことが多いことを考えると、確かに一人一人の負担が大きそうだ。
「神官長やフランに相談して、必要ならば増員いたします。それよりも、今年の収穫祭の期間はいかがでした? 食料は足りたかしら?」
「はい。ローゼマイン様が準備してくださったので、問題なく過ごすことができました」
料理人が出払っていても、料理ができる灰色巫女はすでに何人もいる。食材だけはしっかりと準備したので、問題なく収穫祭の間を過ごすことができたようだ。
「ハッセの子達はどのような様子でしょう? もう馴染めたかしら?」
「最初は勝手の違いに戸惑っているようで、どうしてよいのかわからない感じに見えましたけれど、ハッセで一緒だった巫女や神官が助言したり、手助けしたりしているうちに、他の皆も自分達と違うことがわかったみたいです」
神殿から出ることなく育っている子供達ばかりなので、自分達とどうして違うのかよくわからなかったらしいが、工房で育ちが違うルッツやレオン、職人として出入りするヨハンやザックを見ていたので、以前に比べると受け入れられるようになっているそうだ。
「孤児院の冬支度はどうですか?」
「ジャムを煮詰めたり、茸を干したり、できるところはすでに始めています。今年は森で拾ってきた薪が去年よりも多いですし、ギルベルタ商会を通じて買った分がすでに運び込まれています」
豚肉加工の日はまだ先だが、今年はギルベルタ商会と一緒に行うし、去年経験しているので、任せてしまっても問題なさそうだ。
「あの、ローゼマイン様。その冬支度に関することなのですが……」
「何か問題がありました?」
「ノーラとマルテに、この孤児院では冬の手仕事として糸紡ぎや機織りはしないのか、と聞かれたのです。私達は聞いたことがないので、一体どのようなことか、今年からは取り入れた方が良いのか相談したいと存じまして……」
平民の女性にとって、糸紡ぎと機織りは冬の大事な仕事だ。それで家族の服を作らなければならないし、その腕前で嫁の貰い手が決まるほどの美人の条件となっている。
けれど、灰色神官や巫女の服は神殿から与えられる。森へと出かけたり、工房で印刷をしたりする時の汚れても構わない服は、下町の貧民街にある安い中古服を購入している。正直、糸を買ってくる方が高くつくのだ。
貴族の下働きとして買われた後は、屋敷の方で準備されている服と下げ渡される服があり、結婚が許されることがおそらくほとんどないと思われるので、機織りや裁縫の腕はそれほど必要ではない。
「服を神殿から与えられる以上、作る必要がありませんから、機織りは今のところ考えていません。ただ、毛糸を準備して編み物をするのは良いかもしれません。温かく冬を過ごせるようになりますから」
去年は温かく過ごせるように中古を買ったけれど、防寒具はいくらあっても良い。毛糸と編み棒をギルベルタ商会に注文して、今年は編み物に挑戦することにしよう。
「ノーラとマルテが編み方を知っているでしょうし、余裕があれば、トゥーリに頼んでみるのも良いかもしれません」
ヴィルマも乗り気だ。
わたしは、収穫祭で得た寄付の作物を城で加工してもらっていることと、仕上がった分を神殿に運ぶ話をして、席を立った。
「ローゼマイン様、もう一つお話しすることがございました。ローゼマイン様のお母様から頂いた絵具で神官長の絵を描きましたけれど、どちらに運べば良いでしょうか?」
「すぐに見せてくださいませ」
ヴィルマの描いた神官長の絵は、ヴィルマらしい柔らかな色合いで描かれていて、更にヴィルマフィルターがかかっていて、神官長が神々しい雰囲気に仕上がっている。
神官長がすごく聖人っぽく見えるけれど、違う。神官長はもっと黒い笑顔で、こんなに優しい笑顔は浮かべない、と心の中で絶叫した。
けれど、話を聞く限りでは、お母様の目にはこういうキラキラしい神官長が見えているようなので、お母様はきっと涙を流して喜ぶだろう。
「布に包んで、木箱に入れて、孤児院長の部屋に運んでくださいませ」
「かしこまりました」
神殿長の部屋では出入りする神官長に見つかる可能性がある。孤児院長の部屋に保管しておく方が良いだろう。
ヴィルマとの話を終えて、ギルと一緒に部屋に戻ると、片付けは終わっていた。
「ローゼマイン様、今日はもうお休みください。明日からはしばらく忙しくなります」
フランがそう言った。
すでに半分以上の青色神官が収穫祭から戻ってきているようで、明日からは、神官長と一緒に、それぞれの報告を聞くという神殿長としての仕事が待ち構えているらしい。
それぞれの報告を聞き、貴族の治める土地を回った青色神官からは小聖杯を受け取り、数に間違いがないか確認しなければならない。
そして、金色の小さな聖杯を決められた戸棚に並べて鍵を閉めておく。小聖杯の管理も神殿長の仕事らしい。持ち帰られた小聖杯は、冬の奉納式で魔力を満たすのだ。
「青色神官の里帰りや奉納式の時の魔力を込めていく順番も決めておかなければなりません」
青色神官が収穫祭で受け取った寄付の作物は、城からそれぞれの実家へと運ばれているので、それを受け取るために実家へと里帰りすることになるらしい。大きな荷物がたくさん出入りすることになるので、順番を決めておかなければ面倒なことになるそうだ。
「これが神殿の、青色神官の冬支度ですよ。……ローゼマイン様も城へ取りに行かなければならないのですが、ローゼマイン様は領主様へのご報告と合わせて行いましょう」
青色神官が全員戻ってきて、全ての小聖杯が揃ったら、城へ行って領主に報告しなければならないそうだ。これも神殿長の仕事らしい。
「ローゼマイン様の冬の衣装も城で準備されているのでしょう? こちらへ運ばなければなりませんし、あちらでのお披露目の打ち合わせもあるのではないでしょうか?」
フランに次々と並べられ、わたしはげんなりとしてしまった。神殿の冬支度は、去年と同じように孤児院と自分の部屋の分を準備すれば終わりだと思っていたが、役職が増えると、そう簡単には終わらないようだ。
次の日から、青色神官との面談が毎日のように続くことになった。小聖杯の回収が主な仕事で、収穫量や徴税官、農村の雰囲気についての話を聞く。
意外と細かい報告をしてくれる青色神官もいれば、どこも大して変わらないと簡単に報告を終わらせる青色神官もいる。
「……神官長、カンフェルとフリタークの二人には事務仕事を割り振ってみてはいかがですか? 二人とも家が裕福ではない貴族ですし、お給料を付ければ、真面目にお仕事してくれそうですよ」
「やる気があるかないかわからぬ者に、一から教えるほどの余裕はない」
にべもなくそう言った神官長だが、一応以前に仕事を割り振ろうとしたことはあるらしい。ただ、あまりにも青色神官が使えなかったことと、何をするにも前神殿長が面倒だったため、自分で抱え込むことを選択したそうだ。
「自分でやる方が確実で早いからと、全ての仕事を抱え込むから、神官長だけが忙しいのです。遠回りに思えても他に仕事を任せた方が良いですよ。もう神殿長もいないのですから」
前神殿長がいなくなったことで、神殿内の権力は神官長が全部握っていると言っても過言ではない。前神殿長に配慮して、保身のために神官長に近付かないようにしていた青色神官もいるようなので、この機会に使えるようにすれば教育すれば良い。
「神官長が抱えている仕事は、本来、何人の青色神官がしていた仕事ですか? 養父様なんて、神官長が神殿で暇をしていると思って、仕事を割り振っていたようですけれど、仕事内容に関して報告はしないのですか?」
「領主に与えられた仕事は、確実にこなさなければならないものだ。仕事内容を報告してどうする? 結果を報告すれば十分だろう?」
神官長の仕事に関する厳しさに溜息を止められない。誰がこんな風に育てたのだろうか。
報連相
は仕事の基本だと読んだことがある。ここでは徹底されていないのだろうが、仕事を円滑に進めるには必要なことだろう。
「お互いの現状を知っておくことは、仕事を円滑にこなすためには大事ですよ。現に、わたくしは養父様とお話して、印刷業に関して少し余裕を頂きました。わたくしの進度で進めても良い、と」
「……君は、与えられた仕事ができない、と言ったのか?」
信じられないと言わんばかりに目を見開かれ、わたしはむぅっと唇を尖らせる。
「できないとは言ったわけではありません。ヴィルフリート兄様と違って、わたくしに自由時間がないのは養父様が印刷業の無茶ぶりをしたからです、と現実を伝えただけですもの。印刷業に関しては神官長にやらせているつもりだったようで、わたくしが主導で行っていると伝えると驚いておられました」
「それで、あのジルヴェスターが猶予を与えたのか? 君に甘くないか?」
神官長が不満そうに眉を寄せるが、虚弱で外見が子供のわたしにどんどんと仕事を任せていく神官長の方がおかしいのだ。「できる者に任せるのは当然だろう」と言うが、わたしは任されたくない。
「とりあえず、一つだけ確実に言えるのは、わたくしに神官長と同じだけの仕事量を期待しないでください。体力的に不可能です」
冬には奉納式と貴族の社交界があるが、多忙すぎる。正直、わたしの体力でこなせると思えないのだ。
「君の意見はもっともだが、君の分も薬は十分に準備しているぞ」
「そんな薬漬けの生活が体に良いわけないでしょう!? 神官長こそ薬に頼る生活を改めてください。薬に頼らなくても生活できる程度まで仕事を減らさなければ、その内倒れますよ」
リヒャルダに言いつけますからね、とわたしが付け加えると、神官長はものすごく嫌そうな顔になった。リヒャルダに叱られる想像は容易にできるようだ。
「仕事を減らすのは簡単ではないだろう? どうするつもりだ?」
「まず、城に行く頻度を減らしましょう。情報収集のために出入りする必要があると思いますが、行けば仕事をしてくるので、最初から頻度を減らして、ユストクスから情報を得ればよいのです」
わたしが提案すると、神官長はぐっと眉を寄せて難しい顔になった。
「だが、私が行かなければ、ジルヴェスターの机には仕事が溜まったままになるぞ?」
「養父様の仕事なのですから、養父様にさせれば良いのですよ。エーレンフェストの貴族の頂点に立つ養父様が自分の責任くらい果たせなくて、どうします? 神官長は何だかんだ言って、養父様には甘いですけれど、ヴィルフリート兄様に厳しくする前に養父様に厳しくするべきです」
神官長が肉親の情を抱いていそうな相手が異母兄であるジルヴェスターと従兄に当たるお父様くらいしかいないことは少し接していればわかる。
だが、わたしの指摘に神官長は愕然とした表情になった。
「……私がジルヴェスターに甘い? そのようなことは初めて言われたぞ」
「だって、わたくしには自分の後始末くらいは自分でしろ、とおっしゃるではありませんか。わたくしにできない分は手伝ってくださいますけれど、できる分は手伝ってくださいませんよね? 養父様の仕事は養父様にできないお仕事なのですか?」
領主の仕事ができない領主の方が問題ですけれど、とわたしが付け加えると、神官長は目を閉じて顎を撫でて、ゆっくりと溜息を吐いた。
「自分が楽をするために他に回そうとするだけで、できないわけではないな」
「ヴィルフリート兄様が頑張っている分くらいは、養父様も頑張れば良いのですよ。神官長は養父様のお仕事よりも、神殿のお仕事を優先してください。そして、神殿の仕事も他の青色神官に割り振って、少しでも余裕を作りましょう」
わたしがグッと拳を握ると、神官長は軽く眉を上げた。
「余裕、か。一体何のために?」
「……神官長の健康のためですよ。別に、わたくしの読書時間を確保するためではありません」
「最後に本音が出たな。だが、まぁ、いい。ジルヴェスターから神殿へ無茶を言い出した時は、神殿長として君が止めてくれるのだろう?」
ニヤリと笑った神官長に面倒くさい仕事を割り振られてしまった。おかしい。減らすつもりだったわたしの仕事が増えた気がする。
全ての青色神官から小聖杯を預かったわたしは、面会予約を取って、神官長と一緒に城へと向かった。
わたしはレッサーバスで養父様の執務室へと向かう道中で、リヒャルダにわたしの分として届いている寄付の作物で、すでに加工されている分を神殿に持ち帰れるように準備してもらえるように頼む。
ついでに、ヴィルフリートの授業の進展具合について尋ねた。
「ヴィルフリート様は順調に課題表を塗りつぶしていらっしゃいます。側仕えも半数は入れ替えまして、熱心な教育が始まりました。今度こそ姫様に勝つのだ、とカルタの練習に励んでおります。基本文字は粗方読めるようになってまいりましたし、数字も読めるようになっております。書く練習をもう少ししなければなりませんね」
リヒャルダは子供を育てるのが本当に好きなのだろう。生き生きとした表情でヴィルフリートの成長を語ってくれる。
「フェシュピールの練習も進んでいて、冬までには一曲弾けるようになりそうです。繰り返しの練習ですから、すぐに癇癪を起すのですけれど、しばらく叫んで地団太を踏んだ後は、悔しそうな顔で練習されています」
せっかくなので、リヒャルダにトランプで足し算をしながら遊ぶゲームを教えておいた。これをトランプ遊びに加えれば、少し計算を覚えてくれるだろう。
「ジルヴェスター様もフロレンツィア様も目を見張るほどの成長に驚き、喜んでいらっしゃいます。姫様に大変感謝しておりましたよ」
廃嫡の危機を脱出しようとしているのだから、親ならば喜ぶだろう。その喜びがヴィルフリートに届いているから、ヴィルフリートも努力を続けられるのだと思う。
領主の執務室に着き、わたしはレッサーバスを片付け、神官長と一緒に入室した。神官長が言っていたように、机の上には書簡が大量に積まれている。そして、神官長の姿を見て、周囲の文官までが助かった、というような顔になる。
それを完全に無視して、わたしは小聖杯が間違いなく戻ってきていることを述べ、収穫祭に関する報告をした。
「恙なく収穫祭を終えたか。ご苦労だった、ローゼマイン。それから、悪いが、去年と同じように小聖杯を十ほど追加で頼みたい」
「無理です」
わたしの即答に、養父様は何度か目を瞬いた後、コテリと首を傾げた。理解できかったのか、したくないのかわからないような顔でわたしを見つめるので、わたしは理由を付けてお断りする。
「去年と一緒は無理ですよ。貴族の集まりに出なければならないのですから、わたくしが去年と同じには動けませんし、去年よりも人数が減っていますもの」
あんな神殿長だったが、実家の身分が高いだけあって、他の青色神官に比べると多少は魔力が上だったのだ。
「……もう引き受けてしまったのだ。何とかならぬか?」
そんなことを言われても、休息は必須だし、貴族の集まりに顔を出すのも必須だ。冬のお披露目ではヴィルフリートが恥をかかないように、それとなくフォローも頼まれているのに、余所の領地の小聖杯にまで費やす時間と体力の余裕はない。
「今の青色神官の人数と、魔力の少なさと、わたくしの体力の無さを甘く見ないでください。どうしても魔力が必要ならば、神殿に来て、養父様が魔力を込めればいいじゃないですか」
「私が、か!?」
「貴族ならば責任を持って、自分の後始末は自分でするものなのでしょう? こちらの都合も聞かずに、勝手に引き受けたのは養父様なのですから、養父様が何とかしてください。どう頑張っても、神殿では半分も引き受けられません」
魔力不足が深刻なのは、エーレンフェストも同じことだ。どのような政治的な取引があったのか知らないけれど、余所の面倒なんて見ていられるわけがない。どうしてもと言うのならば、養父様が魔力を込めるか、青色神官の補充を行うか、何か手立てを考えて欲しいものだ。
わたしでは駄目だと早々に説得を諦めた養父様は、神官長へと視線を向けた。
「フェルディナンド、其方……」
「残念ながら神殿長の決定だ。大変残念なことだが、神官長である私ではどうにもならぬ。それに、去年言っていたではないか。今回だけだ、と。自分の後始末は自分でしろ」
唇の端を上げて取り付く島もない笑顔を見せた神官長に、養父様が大きく目を見開き、頭を抱える。
面倒な仕事を持ち込む養父様をブロックしたことで、わたしの一番大事な冬支度が終わった。