Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (220)
洗礼式とお披露目
星結びの儀式の時に似ているが、もっと人数が多い大広間の中央を、わたし達は値踏みするような好奇心に満ちた視線を向けられながら歩いていく。
楽師が奏でる音楽が速く歩け、と急き立てているように感じながら、わたしはなるべく早く足を動かし、ヴィルフリートの速度に遅れないように頑張った。
舞台の中央には祭壇が作られていて、儀式用の神官服を着た神官長が立っている。舞台に向かって左側には領主夫妻とその護衛騎士や側仕えが並んでいた。養父様と養母様に加えて、お父様がこちらを見ているのに気付いて、わたしは少し笑って見せる。
大広間に集まる貴族達は、舞台の上のお父様と同じ騎士団の装束とユストクスが着ている文官の装束、側仕えのお仕着せ、そして、ひらひらした貴族らしい衣装を着ている者に大別できた。
衣装の布の質や飾りを見る限りでは、出入り口に近い者が下級貴族で、舞台へと近付くほど上級貴族になるようだ。騎士や文官で何となく固まっているが、そこに必ず華やかな装いの女性や晴れ着を着た子供やコルネリウス兄様のように貴族院のマントを付けた子供がいることから考えても、家族単位でいるように見える。
……お母様やお兄様は前の方かしら?
そう思いながら足を進めていると、最前列の中央近くを陣取っているお母様とその後ろにエックハルト兄様が見えた。ランプレヒト兄様とコルネリウス兄様がいない、と思いながら視線を巡らせると、舞台に最も近い右側に二人の姿があった。
二人の兄様がいる舞台に向かって右側には、フェシュピールを持った楽師達が並び、その近くに魔術具の指輪を持った貴族の姿があることから、洗礼式を受ける子供の関係者がいることがわかる。
フェシュピールを持ったロジーナの周囲に側仕えや護衛騎士がいる。お母様とエックハルト兄様は上級貴族の位置にいて、関係者の位置にはいないのは、わたしが領主の養女となったからだろう。
……リヒャルダとオズヴァルトはどこだろう?
わたし達を大広間の扉の前まで先導してくれたリヒャルダとオズヴァルトは筆頭側仕えなのだから、そこにいるはずだ。そう思っていると、わたし達とは別の入り口から入ってきたのか、二人が並ぶ人たちを掻き分けるようにして出てきて、関係者のところに並んだのが見えた。
わたし達が舞台の前で一度足を止めると、神官長が上がってくるように、と手を小さく動かして指示する。その指示に従い、わたし達は舞台に上がって、横一列に並んだ。
遠くて神官を招けなかった貴族の子も含めて4人の洗礼式が始まる。複数の子供がいるけれど、洗礼式の流れは自分の時とほぼ同じだった。
神官長が良く響く声で神話を語った後、それぞれ子供の名前を呼ぶ。
「フィリーネ」
呼ばれた女の子が前に出る。先程の待合室で、困ったような顔でわたしを見た女の子だ。フィリーネは神官長に差し出された魔術具の棒を握る。わたしも洗礼式で持たされた魔力を吸い取る魔術具だ。それを握って光らせれば、拍手が沸き起こった。
この魔術具を光らせるだけの魔力がなければ、貴族としては認められないそうだ。
生まれてすぐに魔力を測られ、成長して、また測られて、と何度か確認されるので、洗礼式で光らないということは、まずないらしいけれど。
そして、その魔術具をメダルに押し付けて、魔力の登録する。メダルに魔力を登録したことで、正式にエーレンフェストの貴族の子として認められるのだ。
「我が娘として、神と皆に認められたフィリーネに指輪を贈る」
フィリーネの父親が舞台へと上がり、フィリーネの手に魔力を放出するための指輪を贈った。
「フィリーネに、土の女神 ゲドゥルリーヒの祝福を」
神官長の祝福を受け、わたしの指輪より小さな魔石の指輪に、フィリーネが魔力を込めていく。
「恐れ入ります」
そして、神官長に祝福を返す。ぽわんとした小さな赤い光が、ふよんと飛んで神官長のところへと向かった。
その祝福返しで、背後の貴族達からは拍手が起こったことから考えても、これが普通の祝福返しなのだろう。
……え? そんなちょっとでよかったの?
聖女伝説を作るために、わたしが保護者三人組にやらされた祝福の規模が、他の皆のものと全く違う。あの時に集まっていた貴族が200人程度だったけれど、出席者全員を祝福したはずだ。
……わたしの時に皆がざわめいたはずだよ! どう考えても普通じゃない!
一般的な貴族の洗礼式を先に見ておけば、あのような常識から外れた真似はしなかったのに、と悔やんだところで、もう遅い。それに、聖女伝説を作るつもりだった神官長に丸め込まれて、結果は同じになったはずだ。
全員分の洗礼式が終わった後は、お披露目だ。
今年一年で洗礼式を迎えた貴族の子が貴族としての仲間入りをしたことを喜び、これから先の神の加護を願って、音楽を奉納するというものである。基本的には自分の生まれ季節の神様に捧げる曲を奏でて、歌うことになる。
舞台に並んでいたわたし達は舞台の左側へと移動させられ、領主の側仕えが動いて、舞台の中央に椅子が置かれた。
「フィリーネ」
神官長に名を呼ばれ、リヒャルダに言われていた通り、身分の低い者から順番に弾くようだ。
フィリーネが舞台中央の椅子に座ると、楽師がフェシュピールを持って、舞台へと上がってくる。楽師からフェシュピールを手渡されたフィリーネがフェシュピールを構えた。
……あれ? そんなに上手じゃないよ?
最初は、その子だけが下手なのか、と思った。けれど、その次もその次も大して上手ではない。半分の演奏が終わったところでわたしは首を傾げた。わたしやヴィルフリートに課せられた課題は一体何だったのか。
貴族の嗜みのレベルが思っていたよりも低い。そう思っていたが、演奏者が半分を超えて、段々と身分が上がるにつれて、達者になっていった。
フェシュピールの音の響きが全く違うことに気付いて、あぁ、と途端に理解した。
……教育費の差だ。
なるほど、身分の低い者から弾いていかなければ、順序が逆では可哀想だ。
招くことができる楽師や教師の差、そして、楽器の差が、そのまま求められる嗜みのレベルとなる。ヴィルフリートやわたしに求められるレベルが高くなる理由も同じだ。
最高級の教師や楽器に囲まれて育ち、身分の低い者に負けていたら、貴族社会で威厳など保てない。
「……練習、しておいてよかったですね、ヴィルフリート兄様」
「うむ」
上級貴族の子供はさすがに上手かった。付け焼刃のヴィルフリートより少しだけれど。つまり、ヴィルフリートが見劣りするほどの違いはない。
「大丈夫ですよ。兄様は努力しましたから」
神官長が「ヴィルフリート」と名を呼んだ。
わたしがそっと背中を押し出すと、ヴィルフリートは真っ直ぐに舞台を歩いていき、中央の椅子に座った。そこにヴィルフリートの専属楽師がフェシュピールを持ってくる。
ヴィルフリートが受け取って、フェシュピールを構えて弾き始めた。
本番に強いのも、注目を受けても平然としていられるのも血だろうか。ヴィルフリートは大勢の中で悠然とフェシュピールを弾いているように見える。その姿は領主の子として相応しい姿だった。
わたしがちらりと視線を向けると、養母様が目を潤ませて微笑んでヴィルフリートを見つめている。その母親の愛情に溢れた眼差しが眩しくて、母さんのことを思い出して、ちょっとヴィルフリートが羨ましくなる。
ヴィルフリートの演奏は少し詰まったところもあったけれど、慌てることなくフェシュピールを弾き終えた。やり切った笑顔でヴィルフリートが舞台から降りていく。
「ローゼマイン」
神官長に呼ばれて、わたしも同じように舞台の中央にある椅子に座る。すると、ずらりと並んだ貴族達が嫌でも目に入った。貴族は全員で800人くらいだと聞いているが、もっとたくさんいるような気がしてならない。
広間を見回すと、中央最前列の母様とエックハルト兄様と目が合った。二人とも心配など全くしていなさそうな余裕の笑顔でこちらを見ている。エックハルト兄様のすぐ側にユストクスの姿も見える。
むしろ、関係者の位置にいるダームエルとブリギッテの方が心配そうな顔をしている。コルネリウス兄様とアンゲリカは期待に満ちた目でこちらを見ていた。リヒャルダはわたしを安心させるようにコクリと小さく頷く。
わたしが広間を見回している間に、養父様から貴族達へ、養女になった経緯を含め、洗礼式の時より聖女伝説が盛られた説明がされていた。
……止めて! 盛らないで!
心の中で絶叫しながら、わたしは笑顔を必死で保つ。
視線を向けられることに耐えられなくなる寸前に、恥ずかしい紹介が終わり、ロジーナがフェシュピールを持って来てくれた。
「ローゼマイン様ならば、大丈夫ですよ」
力づけるようにロジーナが小さく笑った。
笑顔を忘れず、と小さく言われて、わたしは無理やり笑みを浮かべて、フェシュピールを構えた。
「では、神に祈りを捧げ、音楽の奉納を」
自分の生まれた季節の神に感謝して音楽を奉納するので、わたしが弾くのは火の神 ライデンシャフトに捧げる歌だが、わたし、墓穴を掘ってしまいました。
練習させられたのは、神官長が少し簡単にアレンジしたアニメソングなのだ。
わたしにとっては耳慣れていて弾きやすい曲だが、神官長へこっそり行った悪戯が自分に返ってきた。
……心だけは籠めるので、許してください! 神様!
わたしは神様に失礼がないように、心を籠めて弾いた。
そして、心を籠めて歌う。
その途端、祝福の祈りを口にした時のように魔力が指輪にずるっと引き出されていくのがわかった。
……な、何これ!?
歌詞に合わせて魔力が広がって祝福となっていく。慌てて魔力の流れを止めたけれど、遅かったようだ。
青い光が指輪から飛び出して、祝福として舞台の上に、大広間に降り注ぐ。
こちらを見ている皆の顔が唖然、愕然、茫然としている。
助けを求めてちらりと見てみると、神官長はきつく目を閉じてこめかみを押さえていた。神官長の表情から察するに、とんでもないことが起こっている気がする。
しかし、ここで演奏を止めても良いものかどうかがわからなくて、結局わたしは最後まで演奏を続けた。
演奏が終わってからも拍手がまばらで、大半が反応に困っているような顔をしている。拍手しているのは、わたしの関係者ばかりだ。
……微妙な雰囲気にしちゃってごめんなさい。
フェシュピールをロジーナに渡し、わたしがゆっくりと立ち上がると、神官長がつかつかと歩いてきた。
何だろうか、と見上げると、ぐいっとわたしを抱き上げた。
「エーレンフェストに恵みをもたらす聖女に祝福を!」
その声に応えるように、貴族達が一斉にシュタープを掲げた。祝福の光が上がり、「なるほど、聖女だ」という声が聞こえる。
……聖女伝説を加速させたよ、この人!
ひぃっ! とわたしが息を呑むと同時に、「手を振れ。笑え」と短く命じられる。練習させられた優雅な笑みで手を振れば、今度は割れんばかりの拍手が起こった。
わたしは神官長に抱えられたまま、舞台を降り、笑顔で手を振りつつ、すぐさま大広間から出る。
スピードを速めて大股で歩く神官長が、与えられていた控室へと入った後、やっと下ろしてもらえた。
「ローゼマイン、これを」
神官長は腰のベルトに付けられたじゃらじゃらした魔術具の中から、盗聴防止の魔術具を取り出して、わたしの手に押し付ける。
ぎゅっと魔術具を握り、ハァ、と二人揃って疲れた溜息を吐いた後、神官長がじろりとわたしを見た。
「ローゼマイン、あの祝福は何だ?」
「わかりません。勝手になりました」
むしろ、わたしが教えてほしい。
わたしの答えに神官長が、眉を寄せる。
「練習の時にはならなかっただろう? 何故、いきなり祝福になる?」
「……だって、練習では真剣に祈らないじゃないですか」
指の動きや音階を追いかけるのに必死で、神に祈ることなんてないです、と小さく付け加えると、神官長はトントンと指先で軽くこめかみを叩いた。
「真剣に祈ったら、ああなった、と?」
「そうです。指輪に魔力が勝手に吸い出されていく感じで、ビックリして、慌てて魔力を止めたのですけれど、ちょっと遅かったようです。今度からは指輪を外して演奏した方がいいかもしれません」
魔力が引き出されるのは魔術具の指輪をはめているからだ。わたしの提案に神官長はゆっくりと首を振った。
「洗礼式を終えた貴族が魔術具の指輪をはめていないなど、あり得ない。魔力を最初から止めるように意識するか、開き直って聖女となりきるか、どちらかだな」
「魔力を止めるように意識するというのも難しいですね。大体は勝手に流れてビックリするので。……それに、聖女伝説ももう十分でしょう? これ以上は必要ないと思うのですけれど」
わたしが渋ると、神官長が軽く肩を竦めた。
「普通と違うことには理由付けがあった方が良い。……領地に役立つ聖女ならば、忌避されることはあるまい」
大きな力を持っている以上、役立つ存在であることを意識しなければ、排除されたり、迫害されたりすることもありうると、目を伏せる神官長の苦い表情に何も言えず、わたしは唇を引き結んだ。
コンコンと扉がノックされ、リヒャルダが入室してきた。
「大広間は聖女の話で盛り上がっております。とても授与式の雰囲気ではないので、先に昼食を取ることになりました。フェルディナンド坊ちゃまは早く着替えてくださいませ」
リヒャルダに連れられて、わたしは食堂へと移動する。その途中、「姫様はよくやりましたよ」とリヒャルダは褒めてくれた。
わたしの洗礼式、星結びの儀式、ヴィルフリートへの教育の過程で、わたしが普通の子供でないことはわかっていたことだ、とリヒャルダは軽い口調で言う。
「知らない貴族の方が多いので、貴族達は面食らったでしょうけれど、わたくし達にとっては今更のことですよ。……ローゼマイン姫様、魔力が多いことは貴族として誇ることで、そのような困った顔をすることではございません」
リヒャルダの言葉に少し心が軽くなり、わたしはホッと息を吐いた。
昼食を終え、大広間へと戻ると、この後は授与式といって、貴族院の新入生へのマントとブローチの授与が行われるのだ。
今年の新入生は14人で、わたし達の同期に比べるとずいぶんと多い。
わたし達とは別の場所で昼食を取っていたロジーナが合流してきた。いつもすました笑顔を浮かべているロジーナにしては、表情が少しおかしい。
「ロジーナ、何かあったのかしら?」
わたしが声をかけると、ロジーナは困惑した表情を濃くして、わたしを見つめる。
「ローゼマイン様。……先程クリスティーネ様に声をかけられました」
ロジーナがわたしの前に仕えていた芸術巫女のクリスティーネの名前に、わたしはハッとした。
クリスティーネから友人のように扱われ、芸術にどっぷりと浸って生活していたロジーナは孤児院での暮らしに馴染めず、わたしの側仕えになってすぐは、他の側仕えとも衝突し、大変だった。
クリスティーネとの再会に困惑しているロジーナを見て、わたしは軽く目を見張る。
「何か、言われたのですか?」
傷つけられるようなことがあったのだろうか、とわたしがロジーナに尋ねると、ロジーナはゆっくりと首を振った。
「クリスティーネ様は私を迎えに来てくださるおつもりだったようです」
「……え?」
思わぬ言葉にわたしは何度か目を瞬く。
ロジーナは戸惑いの中に喜びを隠しきれないような表情でもう一度言った。
「貴族院を卒業し、成人して、自由に生活できるようになれば、私を迎えに来てくださる予定だった、とクリスティーネ様はおっしゃいました。まさかローゼマイン様の楽師になっているとは思わなかった、と」
ロジーナの隠しきれないような喜びに満ちた表情にざわりと胸が揺れる。やはり、芸術に造詣が深く、共に芸術を楽しめる主の方がロジーナは嬉しいのだろうか。
「……ロジーナは、クリスティーネのところへ戻りたいのですか?」
心臓がバクバクする。戻りたい、と言われたら、わたしはロジーナをクリスティーネのところへと送り出してあげた方が良いのだろうか。
ぎゅっと胸元で手を握り、ロジーナを見上げると、ロジーナはゆっくりと首を振った。
「いいえ、私は今の生活に満足しておりますから、そのようなことは考えておりません。けれど、クリスティーネ様に置いていかれた、捨てられたように思っていた自分の心が、とても慰められたような気がします」
「そう、よかったわ」
ロジーナの傷ついた心が慰められてよかった。
ロジーナがいなくならなくてよかった。
わたしがホッと安堵の息を吐くと、ロジーナが困ったような顔で小さく笑う。
「ローゼマイン様。ご心配なさらなくても、私はローゼマイン様の専属楽師ですよ」
いなくなったら嫌だな、と思っていたことはロジーナにはお見通しだったようだ。
クリスティーネに対する小さな嫉妬心を見抜かれて、ちょっと恥ずかしくなったわたしは、視線を逸らして舞台の方へと注目した。
「では、これより授与式を行う。貴族院へと向かう新入生は前へ!」
文官の声に舞台を見たものの、舞台は全く見えないと言っても過言ではなかった。わたしの周囲は護衛騎士や側仕え、そして、神官長やお母様達に囲まれていて、他の者が近付くことができない状態になっている。
そびえたつような大きい図体に囲まれて、あまり舞台が見えない。誰か肩車でもしてくれないかな、と思いながら、わたしは衣装の隙間から授与式を見つめる。
舞台の中央に養父様が歩いていき、一人一人にマントとブローチを手渡し、よく学ぶように、と激励しているのがちらちらと見えた。
授与式の後は、文官から貴族院への移動日の知らせがあり、コルネリウス兄様とアンゲリカがそれぞれの日付を何度か呟く。どうやら学年ごとの移動になるようで、二人の移動日には少し違いがあった。
「貴族院はどちらにあるのですか?」
「中央にある。冬の間、彼らはそこで生活するのだ。転移のための魔法陣は一度に多くの人数が運べない仕様になってる。そのため、学年ごとに移動するのだ」
授与式が終わると同時に大広間の中がざわめき始め、そこかしこで雑談のような話が始まる。授与式の後は貴族達が情報交換を行う、文字通り、社交の場になるようだ。
ここでどのように振る舞えば良いのだろうか、と考えていると、神官長に軽く肩を叩かれた。
「ローゼマイン、顔色があまり良くないぞ」
「まぁ、大変。今日はもう部屋でお休みした方がよろしくてよ」
神官長とお母様がわたしの顔を覗き込むようにして、そう言った。
わたしはまだ平気だったが、これ以上の面倒を起こす前に退場しろ、と遠回しに言われているのがわかり、わたしはリヒャルダや護衛騎士に囲まれて退場する。
その道中、ひそひそと囁き合う声が聞こえてきた。
「聖女に相応しい魔力ですわね」
「あら、少し魔力が多いだけで、聖女だなんてあり得ないわ」
「ぜひ、お近付きになりたいですな」
「あの聖女は恐らく私の姪に違いありません」
……視線が痛い。
あからさまにこちらを凝視してくることはないが、横目で、ちらりと視線と意識がこちらに向けられている。入場した時よりずっと注目されているのが肌でわかる。
駆け出したいのを堪えて、わたしは俯かないように顔を上げて歩いた。