Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (228)
春の訪れとアンゲリカ
教材販売はうまくいった。終わり際にお母様もやってきて、コルネリウス兄様のために全てを購入してくれた。
ついでに、ベンノに向かってニコリと笑って「そろそろリンシャンがなくなるから来なさい」というようなことを遠回しに告げた。上級貴族であるお母様が声をかけたことで、ギルベルタ商会の注目度は嫌でも上がった。
ベンノがにっこりと笑って了承するけれど、その目が少し泳いでいるような気がする。城で貴族から一斉に注目されるのだ。視線の重圧感と緊張感はすごいだろう。洗礼式やお披露目で注目されたわたしにはよくわかる。
……が、頑張れ、ベンノさん!
教材を売り終わった後は、リンシャン目当ての何人かの奥様に声をかけられ、ベンノとマルクがそれに対応して、商談が始まった。
「フェルディナンド様、教材の販売が終わったという報告と例の物をお渡しするためにアウブ・エーレンフェストに面会したいのですけれど……」
「あぁ、私が行って来よう。君はここにいなさい」
神官長がベンノとマルクを見ながらそう言うと、小聖杯の入った木箱を近くにいた側仕えに持たせて、養父様の執務室へと向かう。
フランとフリッツとレオンは、残った教材の片付けとお金の管理をしていた。
その日の予定を全て終える。
売り上げに関しては、後日報告を受けるということで、ギルベルタ商会の面々とフランとフリッツを神殿に連れて帰ると、わたしは神殿に一泊しただけで城へとんぼ返りした。
次の日は子供部屋で自分の教材を抱えた子供達に、教材には各自の名前を書くように告げ、なくさないように気を付けるように告げる。同じ物を皆が持っているのだ。名前書きは基本だろう。
「トランプはこの辺り、カルタはこの辺り、絵本はここに、自分の名前か、家の名前を書いてくださいね。同じ物ですから、間違えないようにしなければなりません」
兄弟で手分けをして、家の名前を書きこむ子もいれば、全て買ってもらった自分の教材を見て、これだけ書くのか、と溜息を吐いた子もいる。
「今日使う分だけ書いて、後は家の方に手伝ってもらっても良いですよ」
わたしが見かねてそう言うと、「では、今日は絵本しか使わないので、名前を書くのは絵本だけにしますわ」と上級貴族の令嬢達は胸を撫で下ろした。
わたしは子供部屋の様子を見ながら、下級貴族の子供達から新しいお話を聞いて、書き留めていく。今まで女の子からお話を聞いていたけれど、男の子からお話を聞くのは初めてだ。
途中で止まって「あれ?」となったり、明らかに「貴方が今即興で作りましたね」と笑いたくなるような脈絡のない取り繕いをしていたり、なかなか楽しい。
春が近付くと、雪が舞う中にも晴れた日が増えてきた。当然、子供達は外で遊ぶ日も増えてくる。わたしも体力作りのために外に出た。
貴族達の騎獣の発着場の辺りは、集めて固めた雪山があり、そりのような物で滑り降りる遊びができる状態になっている。
わたしはそり遊びと雪合戦に参加するつもりだった。
「参りましょう、ローゼマイン様」
「えぇ!」
張り切って駆け出したものの、雪の中を数歩走ってはボテッと転び、数歩歩いては尻餅を打つ状態のため、子供達にはどんどんと置いていかれる。
何度か挑戦したけれど、結局、一度も雪山に到着することができなかった。息切れでそり遊びは断念したし、雪玉を丸めようとしゃがみ込んでいるところに雪玉をぶつけられて、そのまま意識を失ったし、雪遊びになる手前で終わった。
でも、雪中行軍という感じで、ちょっと体力が付いた気がする。
そうこうしているうちに、冬は終わり、春が来る。
貴族院の卒業式へと新成人の両親や領主、それから、帰ってきていた学生達が式のために貴族院へと向かう。卒業式兼成人式が終わると、貴族院から一斉に帰ってくるのだ。
皆が帰ってきて再び全員が集まると、冬の終わりを全員で
寿
ぐ宴があって、その後、貴族達はそれぞれが所有する土地へと帰っていく。
その春を寿ぐ宴より前、学生達が次々と戻ってくる中、アンゲリカの両親から平身低頭といった内容の面会依頼が届いた。
あれほど恐縮していた彼らの方から面会を求めてくるとは思わなかったため、わたしは一体何があったのか、と首を傾げながら、了承して面会室で会談の手はずを整える。
面会日、わたしが部屋に入ろうとすると、両親にアンゲリカの姿を加えた状態で跪いて待ち構えていた。両親がアンゲリカを挟んで並んでいて、跪いて首を垂れている。
部屋に入って、リヒャルダが扉を閉めると同時に、両親の悲鳴のような声が響いた。
「この度は大変申し訳ございません!」
「……え?」
前回の面会の時よりも悲痛な響きの謝罪に、わたしは目を瞬いた。唐突な謝罪に全く意味がわからない。
首を傾げるわたしに、アンゲリカの両親が胃の辺りを押さえながら、今にも死にそうな真っ青な顔で口を開き、説明を始める。
「私共の教育が至らないばかりに……」
アンゲリカ、なんと貴族院で春からの補講が決定して、しばらく護衛任務に就くことができないらしい。
両親はアンゲリカを護衛騎士から外してほしい、と震える声で願った。これ以上の失態を演じる前に、ということらしい。
けれど、わたしの護衛騎士から外すということは、アンゲリカの将来にはかなり影響が大きいはずだ。領主の養女の護衛騎士に任命されるのは名誉なことだが、外されるのは大きな失点になる。
「……ねぇ、リヒャルダ。こういう場合、どうすれば良いのかしら? わたくし、春には祈念式があって、しばらく城を不在にするので、アンゲリカが春の間に補講を終えれば、それほど困らないのですけれど」
「姫様のお好きになさればよろしいですよ」
リヒャルダは軽い溜息と共にそう言った。
出来の悪い子として切り捨てるのも良いし、見所があるならば、このまま存続させるも良い。主であるわたしが好きに選べということらしい。
「アンゲリカはどうしたいのかしら?」
「……わたくしがこのまま仕えてもよろしいのですか?」
きょとんとした顔でアンゲリカが尋ねた。わたしはコクリと頷く。
「努力して、夏までに戻ってきてくれるならば、このまま仕えて欲しいと思っています」
わたしがそう言うと、アンゲリカの両親は二人で顔を見合わせて、何とも困ったような表情になった。
「ローゼマイン様が慈悲深く、お優しいことは存じておりますが、アンゲリカを側に置くのは、ローゼマイン様のためになりません。主の評判を下げるような側近は必要ございません。どうぞお考え直しくださいませ」
その両親の言葉は、領主一族に仕える側仕えらしい発言だと思う。できない者は切り捨てて、一族を盛り立てていかなければならない貴族らしい言葉だ。
けれど、わたしにとっては悲しい言葉だった。わたしがどれほど虚弱で役立たずでも大事にしてくれた家族のことを思うと、その違いに気分が沈む。
わたしのことを考えてくれるのはありがたいけれど、アンゲリカのことも考えてあげてほしい。貴族の思考に染まり切れない自分の我儘だとわかっていても、そう思う。
あれだけひどい状態だったヴィルフリートの側仕えや護衛騎士にも更生の機会を与えたのだ。アンゲリカにもチャンスを与えてあげたい。
「貴方達の忠告も胸に刻みますが、わたくしは夏までの状況を見て、アンゲリカを解任するかどうか、決めたいのです」
わたしはゆっくりと首を振って、アンゲリカの両親の訴えを退けた。
アンゲリカの両親は諦めの表情となって、アンゲリカとわたしを見ると、「かしこまりました」と呟く。
「冬の間に貴族院へ行く前の子供達が神々の名を暗記できたのですもの。アンゲリカにもきっとできます」
わたしはそう言って立ち上がると、アンゲリカの両親に退室を促した。
「では、今からアンゲリカがどのような講義を受けていて、どこで詰まっているのか、何がわからないのか、話し合いましょう」
アンゲリカの両親が退室するのを見届けた後、わたしはその場ですぐさま「アンゲリカの成績を上げ隊」を結成した。
強制的にメンバーに入ったのは、護衛騎士の皆だ。騎士でなければ、講義内容もわからないので、側仕えや文官は必要ない。
わたしの部屋には男性が入れないので、ひとまずこのまま作戦会議である。
「アンゲリカはどのような講義で引っかかっているのですか?」
貴族院では成績が口頭で伝えられ、成績表は配布されないようなので、わたしにはアンゲリカの得意不得意もわからない。不得意なところを重点的に鍛えなければ、と思ったわたしの質問にアンゲリカが深い青の瞳をきらりと輝かせ、ハキハキと答えた。
「座学はほとんど全てです」
次の瞬間、全員が絶句した。ブリギッテはきつく目を閉じ、ダームエルはポカンと口を開ける。
「……アンゲリカ、それは、あまりにも……」
「座学など、それほど難しくはないだろう?」
ダームエルは兄が文官だったため、騎士になることを決意したが、得意不得意で言うと文官寄りだったそうだ。下級貴族で魔力が少ないので、座学より実技に苦労していたらしい。
「あの、アンゲリカ。では、一体どのような講義を受けているのですか?」
「……よくわかりません」
こてりと首を傾げたアンゲリカの答えに、コルネリウス兄様が目を吊り上げた。
「神々の名を覚えたり、兵法の基本を理解したりするのだろう!? 本当に講義を受けたのか!?」
アンゲリカは貴族院の三年生である。その三年生の講義内容について、当人であるアンゲリカが講義内容を一番分かっていない。来年のために情報を仕入れているコルネリウス兄様の方がよく知っているくらいだ。
神官長ではないが、こめかみを押さえたくなった。
「ダームエル、ブリギッテ、コルネリウス。講義内容を詳しく教えていただいてよろしいかしら?」
「もちろんです」
アンゲリカに質問するのは時間の無駄だと悟ったわたしは、他の三人から話を聞くことにした。ブリギッテやダームエルの記憶やコルネリウスの集めた情報を聞いた方が確実だ。
「えーと、皆の言葉をまとめると、神々の名前と司る事柄について憶えて、自分と相性の良い神様の加護を得るというのが共通の課題で、兵法の基本と武器の特性を知り、活用できるようにするというのが騎士の課題ということで良いのですか?」
「講義として細かく分ければたくさんありますが、その辺りを押さえておけば、どの講義でも落第点を取ることはありません」
実技では苦労したようだが、座学では比較的優秀だったらしいダームエルが「何故落第点を取るのか、わからない」と首を傾げる。
ブリギッテもダームエルに同意して頷く。ブリギッテは全てにおいてほぼ平均だったらしい。何に関してもあまり苦労したことがないと言っていた。
アンゲリカに一番近いのはコルネリウス兄様だろうか。魔力と実技に偏りがちで、座学はどちらかというと足を引っ張る方らしい。それでも、上級貴族の自尊心で、ある程度の成績は維持しているそうだ。
「落第点ということは試験があるのですか?」
「はい。最初の講義でどのような内容の講義なのか、説明があります。そして、その後で講義があります。一応講義の最後に試験があるのです」
ダームエルの説明に、ブリギッテがダームエルを睨みながら軽く肩を竦めた。
「最後に試験がある、と言いながら、ダームエルは講義の最後までいたことがないではありませんか」
「どういうことでしょう?」
わたしが首を傾げると、ダームエルが説明してくれる。
「講義がすでに知っている内容であるならば、講義以外の時間に先生に予約を取り、試験を受けに行くことが可能なのです。余った時間を私は実技に注ぎ込んでいましたから、座学が早く終わっても、冬の終わりまで貴族院から出られませんでしたよ」
兄や姉がいたり、貴族院での寮生活の間に先輩から教えてもらったり、試験に合格する自信がある者は、さっさと講義を終えることができるらしい。これで、城へと戻ってくる学生達の時期がバラバラである理由がわかった。
「空いた時間ができれば、魔術具の作り方を学んだり、自分の武器を強化したり、趣味の講義を取る方もいますし、他領の方との交流を深める方もいらっしゃいます」
神官長はきっと鬼のような勢いで講義を取っていたのだろう。次々と試験を受けて一発合格を重ねて、褒め称えられている姿が目に浮かぶようだ。そして、本人は周囲の賞賛など目に入っておらず、ひたすら次の講義へと向かっていたに違いない。
「……補講を受けて、試験に合格すればよいのですね? では、アンゲリカとコルネリウス、二人まとめてお勉強いたしましょう。ここで一緒にしておけば、コルネリウスも来年は楽勝ですものね」
別にいいけれど、言いながら、コルネリウス兄様がアンゲリカを心配そうに見る。
「ローゼマイン様、神々の名を憶えるために、あのカルタを使うのですか?」
「えぇ、そうです。コルネリウス、持って来て下さる?」
「かしこまりました」
子供部屋で子供達が遊んでいるのを見ていたけれど、参加したことがない護衛騎士達にコルネリウス兄様所有のカルタをさせた。
初心者ばかりの勝負で勝ったのはダームエルだった。コルネリウス兄様は悔しがっているけれど、アンゲリカは負けてもあまり悔しそうではない。
もう少し向上心を持ってもらわなければ、成長するはずがない。
「……子供達にも付けていたように、何かご褒美がある方がやる気になるかもしれませんわね。アンゲリカは何か欲しいものがあって?」
アンゲリカがその言葉に目を見張った後、初めて見るくらい真剣な顔で悩み始めた。時折、腰に下げている短剣の柄に触れながら、眉を寄せる。
わたしは「アンゲリカの成績を上げ隊」として、協力してもらう護衛騎士を見回した。
「他の皆もわたくしにできる範囲で何かあれば伺います。これは本来の業務ではありませんから、お給料の上乗せでも、何でもよろしくてよ」
「では、私は給料の上乗せでお願いいたします」
ダームエルは軽く笑ってそう言ったけれど、ブリギッテは困ったように首を傾げた。
「わたくしはイルクナーのためになることが良いと思っているのですが、具体的には思いつきません」
政略結婚もできない身の上なので、せめて、兄の役に立ちたい、とブリギッテが言った。その諦観の入った表情にわたしは、むぅっと唇を尖らせる。ブリギッテはすごく良い人だから、できることならば良い人を見つけて結婚してほしいと思う。
……でも、おせっかいできるほど人脈もコミュニケーション能力もないんだけど。
コルネリウス兄様は「新しいお菓子か料理がいい」とグッと拳を握った。騎士の集まりか貴族院の同期の集まりに持って行きたいらしい。新しい料理レシピを握っているお父様の息子として、流行の発信をしたいそうだ。上級貴族らしい、と言うべきなのか、食いしん坊さんめ、と言うべきなのか、微妙なところだ。
「わかりました。では、ダームエルには大銀貨5枚。コルネリウスには他の誰も食べていない新しいお菓子を差し上げることにしましょう。ブリギッテには同程度の価値のあることをもう少し考えてみますね」
「恐れ入ります」
軽く微笑むダームエルからも、「妥当なところだ」と呟くコルネリウス兄様からも、大したやる気は引き出せていない。もう少し成功報酬を上乗せしなければならないようだ。
わたしは、少し眉を寄せる。
「先程わたくしが言ったのは、アンゲリカが失敗した場合に、払う分です。もし、アンゲリカを夏までに試験合格させることができた場合は、ダームエルには小金貨1枚。コルネリウスには現物ではなく、レシピを一つ、差し上げます。ブリギッテにも相応の物を差し上げましょう」
軽く目を見張ったダームエルとコルネリウスの目が、獲物を見つけた肉食獣のようにギラリと光ってアンゲリカを見た。ブリギッテは具体的な褒美が提示されているわけではないので、まだ冷静だ。
「アンゲリカ、欲しいものは決まって?」
わたしが尋ねると、アンゲリカは私の前に跪き、短剣の柄を撫でながら、躊躇いがちに口を開いた。
「ローゼマイン様、何でもよろしいのですか?」
「わたくしにできる範囲であれば……」
一度俯いたアンゲリカが決意を秘めた目で顔を上げる。
「わたくし、ローゼマイン様の魔力を頂きたいです」
「……魔力、ですか?」
意味がわからなくて、わたしが首を傾げると、アンゲリカはずっと触っていた短剣の柄に視線を向けた。
「今、この剣を育てているところなのです。ですから、ローゼマイン様の魔力を頂きたいです」
「……ごめんなさい、アンゲリカ。よく意味がわからないのですけれど?」
説明下手なアンゲリカと武器や魔力に関してよくわかっていないわたしの間ではどうにも意志疎通がうまくいかないようで、二人して首を傾げて、見つめ合う。
「ローゼマイン様、少し説明させていただいてもよろしいですか?」
ブリギッテが見かねて、わたし達の間に割って入ってくれた。
「お願いするわ、ブリギッテ」
「アンゲリカが持っている剣は魔力を得て成長する魔剣と呼ばれる武器です。持ち主の魔力はもちろん、他の様々な魔力を得ることで、できることに多様性が出ます。アンゲリカは魔剣の成長のために自分以外の魔力を欲しているのです」
自分の魔力を注ぎつつ、狩った魔獣の魔石に含まれている魔力を注ぎ込んだり、他人に何かと交換に魔力を注いでもらったりして、魔剣を育てなければならないらしい。
「あの、ローゼマイン様。わたくしは速さを重視した戦いをします。そのために戦闘中は魔力のほとんどを身体能力の強化に当てているのです」
アンゲリカがハッとしたような顔で付け加えてくれたけれど、やはり、言葉足らずというか、意味がわからない。
首を傾げるわたしにダームエルが言葉を加えてくれる。
「ローゼマイン様は騎士団の戦いをご覧になったことがあるでしょう? シュタープを変形させて戦う者が多いのですが、変形させるにも維持するにも魔力が必要です。アンゲリカは身体能力の強化に魔力を使うため、シュタープではなく、魔力を蓄積して育てることができる魔剣を使用しています。少しでも有利に戦うためには魔剣を育てることが大事なのです」
「騎士団の皆に協力してもらえば良いのではありませんか?」
騎士団の皆に協力してもらえば、あっという間に魔剣が育ちそうだ。わたしの言葉にダームエルが首を振った。
「自分の魔力をそう簡単に他人へ渡す者はいませんよ」
自分の魔力に染めた魔石を作るにも、緊急で呼び出されて戦うにも魔力が必須になる。下級貴族で他よりも魔力が少ないダームエルはもちろん、中級貴族のブリギッテにしても、他人に渡すような魔力の無駄遣いはしないらしい。
魔力はかなり価値の高いものであるようだ。
「わたくしは構わないのですけれど、わたしが魔力を注ぐ上で何か注意点や気を付けなければならないことがあるかしら?」
「アンゲリカがこれまでに注いだ魔力を越えなければ問題はありません。ですが、本当によろしいのですか!?」
「えぇ。ただし、アンゲリカの場合は成功報酬です。夏までに全ての座学の試験に合格しなければなりません」
あまり何にも興味を示していなかったアンゲリカの深い青の瞳が、初めて生き生きとした光を浮かべた。強い決意を秘めた目でわたしを見て、短剣の柄をきゅっと握る。
「やります! わたくし、絶対に試験に合格して、この剣のためにもローゼマイン様の魔力を頂きます」
「やる気になったなら話は早い」
神々の名前や属性に関してはカルタを通して憶え、兵法の基本についてはダームエルの兄ヘンリックが書き写した兵法の基本に関する本を元に、ゲヴィンネンという魔力を使うチェスもどきの駒を使って教えていくことになった。
座学をクリアするための短期集中カリキュラムを組んだのはダームエルだ。
「貴族院が閉ざされる土の曜日は勉強会にします。皆、良いですか?」
ダームエルが何故かやる気になっている。小金貨1枚はかなり魅力的だったようだ。コルネリウス兄様もやる気に満ちている。
「私のカルタを貸してやるから、死ぬ気で憶えるんだ、アンゲリカ」
「助かります、コルネリウス、ダームエル」
こうして、「アンゲリカの成績上げ隊」の真剣勝負が始まった。