Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (257)
灰色神官の移動
ザックとヨハンにハッセの井戸にも手押しポンプを取り付けたいと注文を出した。ヨハンは「ウチの工房のポンプがまた遠のいた」と肩を落としていたけれど、早く部品が作れる職人を育てればいいのだ。
鍛冶協会の会長によると、わたしがヨハンとザックという成人したての若手を贔屓にして育てているということで、若者達が自分の技術を伸ばそうと頑張っているらしい。
ついでに、ザックがするっと口を滑らせたせいで、わたしがザックとヨハンに工房を与えようとした話も鍛冶職人の間で出回っているようで、自分の工房が欲しくて、腕に自信のある者がしのぎを削っていると言う。
「ヨハン並みの正確で細かい技術やザック並みの発想力を持つ職人ならば、何人でもわたくしは歓迎いたします。ぜひ、紹介してくださいませ」
そう会長に頼んでおいたので、そのうち金属加工のグーテンベルクがどんどん増えるかもしれない。楽しみだ。
リヒト達に貴族のやり方、言い回しを教える者を二人、それから、ハッセの小神殿へと移動して生活する者を四人。収穫祭に向けて、わたしは灰色神官の選抜をしなければならない。
そうは言っても、わたしは孤児院にいる者全員の性格や働きを知らないので、彼等の普段をよく知る人物に丸投げするのだ。孤児院を管理しているヴィルマと工房を管理しているフリッツである。
「モニカ、先触れを。昼食後は工房と孤児院に参ります」
「かしこまりました」
ヴィルマに会えるのが嬉しいモニカが普段より軽い足取りで出て行くのを見送ると、わたしはブリギッテに視線を向けた。これは良い機会かもしれない。
「ねぇ、ブリギッテ。わたくしは午後から工房と孤児院に向かうのですけれど、伴をしていただいてよろしいかしら?」
「……ローゼマイン様?」
今まで商売上の損得勘定と、貴族の
柵
が関わるため、情報を渡さないように、工房へ向かう時はダームエルだけを同行させていた。そのため、工房に向かう時には常に留守番だったブリギッテは不可解そうに首を傾げた。
「イルクナーにも工房を作ったでしょう? ならば、隠す必要はありませんし、ギーベ・イルクナーの妹であるブリギッテには見ておいてもらった方が良いと思うのです」
イルクナーが製紙工房を作り、これから先に印刷業を取り入れるならば、ブリギッテに隠しておく必要もない。
わたしの言葉にブリギッテは目を丸くした後、嬉しそうに顔を綻ばせて跪いた。
「お心遣い恐れ入ります、ローゼマイン様。ぜひ、御伴させてくださいませ」
昼食後、わたしは初めてブリギッテを同伴して工房へと向かった。地階へと赴くなんて、貴族は嫌がるものだが、イルクナーでの生活を見た限りではブリギッテには嫌悪感などないだろう。
「お待ちしておりました」
工房へと入ると、皆がその場に跪いて待っていた。わたしの側仕えであるフリッツが代表して挨拶をする。貴族に向けた挨拶で、わたしはそれを受けて頷く。
「フリッツ、皆に作業を続けさせてちょうだい。どのような働きをしているのか、ブリギッテに見てもらうつもりなのです。今、ギルやルッツがイルクナーに行っているでしょう? ブリギッテはそちらのお嬢様なのです」
「かしこまりました。皆、作業を続けてください」
フリッツの言葉に皆が一斉に動き始めた。紙を漉く者がいて、印刷機を動かしている者がいる。ドン! バン! と印刷機の圧縮盤が大きな音を立てる合間に、カチャカチャと金属活字を組んでいる音が耳に心地よく響いてくる。
「フリッツ、ヴィルマとフリッツの二人に頼みがあるので、仕事に区切りが付いたら孤児院へ一緒に来てほしいのですけど……」
「ローゼマイン様がいらっしゃるということで、すでに区切りを付けています。ブリギッテ様が見学を終えたら、孤児院へ向かいましょう」
フリッツが穏やかに目を細めて言った。さすが、わたしの側仕えは優秀である。フリッツは工房の中の幼い孤児にヴィルマへの先触れを頼み、数人の灰色神官に指示を出し始めた。
「ブリギッテ、こちらで紙を作っています。あちらは印刷です。いずれ、イルクナーでも印刷できるようになれば良いですね」
わたしの説明を受け、
簀桁
を振って、紙作りをしている様子をブリギッテが興味深そうに見つめていた。
少しの間、工房を見て回ると、わたしは作業の邪魔にならないように、すぐに退出することになっている。
「そろそろ孤児院へ参りましょうか、フリッツ」
わたしが声をかけると、皆が一度仕事の手を止めて、見送るために跪いた。わたしは工房の中をくるりと見回し、声をかける。
「皆の働きが見られて嬉しく思います。これからも励んでくださいね」
そして、フリッツを連れて、女子棟の地階から孤児院へと向かう。
先触れの子供が通ったことで、わたし達が通る事には気付いていたのだろう。女子棟の地階でスープを作っていた巫女見習い達は、それほど驚きの顔を見せず、わたし達が通るのに邪魔にならないように端に寄って跪いた。
「貴女達の働きで孤児院の皆が温かいスープを食べられるのです。大人数の食事を作るのは大変でしょうけれど、頑張ってくださいね」
わたしはそう声をかけて、さっさと通り過ぎる。のろのろしていてスープが焦げ付いたら大変だ。
食堂のある一階へと上がると、ヴィルマが跪いて待っていた。
わたしは食堂の椅子に座り、ヴィルマとフリッツを見上げる。
「孤児院と工房に詳しい貴方達二人に人員の選抜をお願いいたします」
「選抜ですか?」
首を傾げる二人にわたしは一度ゆっくりと頷いた。
「えぇ。ハッセの冬の館に向かわせる灰色神官を二人。そして、これからハッセの小神殿へと移動する者を四人、選んでください。冬の館に派遣する者には町長達に手紙の書き方や書類作成での貴族の言い回しについて教えてもらうことになります。できれば、側仕えの経験があり、人に教えることが上手な人で、協力し合える程度に仲の良い二人を選んでください」
冬の間、見知らぬ場所、見知らぬ常識の中に放り込まれることになるのだ。ただでさえ大変なのに、そりが合わない二人を派遣すると更に大変なことになるだろう。
「小神殿へと移動する者は男女各二人ずつでお願いします。こちらは見習いが入っていても構いません。去年こちらに来ていたノーラ達とうまくやっていけそうな人から選んでくれると助かります」
「かしこまりました」
こうして、用件を終えたわたしは自室に戻る。ニコラが入れてくれたお茶を飲みながら、ブリギッテに声をかけた。
「工房を見学してどう思いました?」
「あのように紙が作られるとは思いませんでした。とても驚きました」
「……他には何か思いませんでしたか? 工房で働く灰色神官を見て、どのように感じましたか?」
わたしの言葉にブリギッテは少し目を細めるようにして、考える。
「とてもよく働いていると思いました」
「そうですね、工房の皆はとてもよく働いてくれます。けれど、わたくしがブリギッテに見てほしかったのは、それだけではないのです」
わたしは表情を引き締めてブリギッテに向き直った。
「収穫祭でわたくしがプランタン商会を回収するためにイルクナーに向かうことが決まっていることは、すでにご存知ですよね? その際、神官長も同行することが決まりました。わたくしの後見人ですので、初めて貴族の土地に作った工房とその成果を確認したいそうです」
「それはとても光栄ですね」
ブリギッテはニコリと微笑む。領主の養女であるわたしが後ろ盾となり、他の貴族達に先駆けて製紙業を行うことになった。そこに領主の異母弟であるフェルディナンドまでが視察にやってくるのだ。貴族視点で考えるならば、光栄だろう。
「ですから、神官長が訪れることをギーベ・イルクナーにも伝え、早急に領民を教育してください」
「……領民を教育、でございますか?」
ブリギッテが予想外のことを言われたように、首を傾げた。
「そうです。ブリギッテ、イルクナーの者は領主達との距離がとても近いですよね? わたくしは和気あいあいとしたイルクナーが好きですけれど、恐らく神官長はそうではありません」
「イルクナーは他の貴族が訪れない、本当に田舎の土地です。少し馴れ馴れしく感じるかもしれませんが、悪意もなく……」
「悪意の有無は関係ないでしょう? 貴族に対する礼儀を知らないことが、一つの町を滅ぼす理由となってしまうのですから。……わたくしはハッセの一件でそう学んだのですけれど、違いますか?」
ハッセで起こったことを、わたしの護衛騎士として見てきたブリギッテが一瞬で青ざめた。
貴族街が近く、頻繁に貴族が訪れる場所は大変ですね、くらいの感覚で見ていたのかもしれないが、貴族が訪れるようになれば、イルクナーも同じだ。知らなかったでは済まされない。
「これまでは貴族が訪れないので、それでよかったのでしょうけれど、これからは違います。イルクナーは他に先駆けて製紙業を始めたのですから、どのように工房を運営しているのか、利益が出ているのか、興味を持った貴族が視察に訪れるようになるでしょう。その時に、平民が近付きすぎたり、礼儀を知らぬ振る舞いをしたりすれば、どうなりますか?」
「そんな、皆を教育だなんて、どうすれば……」
いきなり態度を変えるのは難しい。収穫祭までに多くの領民に教えるのも大変だろう。けれど、領民を守るのならばやるしかない。
「イルクナーは後ろ盾を欲して、製紙業を始めました。もう後戻りはできません。領民を守りたいならば、貴族の怒りを買うようなことをしないように領民を教育しなければならないのです。それが領民を守ることに繋がります」
血の気を失った顔で立ち尽くすブリギッテの手を、わたしはそっと取った。
「わたくしの工房の者は貴族に対する礼を皆が知っていたでしょう? ハッセでの出来事をギーベ・イルクナーに伝え、イルクナーにいる灰色神官に教えを乞い、せめて、夏の館で働く者や間近に接する者だけでも教育をお願いします」
イルクナーでハッセと同じことが起こるのは嫌です、と呟くと、ブリギッテも泣きそうな顔で頷いた。
「ローゼマイン様、貴重な助言をありがとう存じます。今夜にでも兄に相談いたします」
護衛中のブリギッテが真面目な顔の中に深刻さを潜ませるようになり、孤児院での選抜が終わり、様々な準備をプランタン商会に頼み、何度か収穫祭やリュエルの実の採集に関する話し合いが持たれ、日々が驚くほどの速さで過ぎていく。
収穫祭が間近となり、選抜された灰色神官達が移動するための準備をしているとフリッツから報告が入った。
わたしは、ハッセへと移動することになった神官達を激励しにいく、と伝えてもらい、次の日の午後には孤児院へと向かう。大きめの木箱を抱えたフランとザーム、それから、それほど大きくはない木箱を持ったモニカが一緒だ。
孤児院の食堂にはハッセに移動することになった灰色神官達が揃っていた。ヴィルマがそれぞれを紹介してくれ、挨拶を終える。
まず、わたしはハッセの小神殿へと移動する神官二人と巫女見習い二人に声をかけた。
「ハッセの小神殿にも印刷機が入った、とインゴから連絡がありました。今、ハッセにいる者だけでは人数が少なすぎますし、まだ印刷の仕方もわからないでしょう。貴方達の働きに期待しています」
「はい」
印刷のための人員増加だ。ぜひ頑張ってほしい。
わたしはフランに木箱を開けさせて、中身を一人一人に配ってもらう。前回と同じ餞別である。
「これはハッセで頑張ることになる貴方達へ、わたくしからの贈り物です。書字板はわたくしの側仕えが使っているので、使い方はご存知でしょう? 皆の物ではなく、それぞれ個人の物ですから、記名を忘れないように気を付けてくださいね」
「恐れ入ります」
書字板を渡された神官が嬉しそうに目を細め、巫女見習いが顔を綻ばせる。
それを見て、一度頷いた後、わたしはハッセの冬の館に向かう神官二人へと向き直った。
「アヒム、エゴン、貴方達にもこの書字板を渡します。神殿ではなく、冬の館という別の世界で過ごす貴方達が、最も大変でしょうけれど、二人ならばやり遂げてくれると信じています」
「ローゼマイン様……」
「二人の仕事は二つあります。まず、こちらの内容を町長達に教えることです」
わたしはそう言って、ザームが運んできた木箱を示した。中にはハッセで教えてあげて欲しいことが書かれた木札が詰まっている。木札には貴族ならば知っていて当然の手紙の書き方やよく使う言い回しの数々が書かれているのだ。
ちなみに、これはフランが平民だったわたしのために準備してくれた大事な物で、平民に本が買える程度まで値段を下げることができるようになれば、教養本として出したいと思っている。
「冬の館では何事も起こらないと信じておりますが、灰色神官は孤児なので、蔑まれたり、軽視されたりするかもしれません。我慢強い貴方達が耐えられないと思った場合は、すぐにハッセの小神殿に避難してください。ハッセの者にもわたくしからそう伝えます」
そして、モニカが持ってきたもう一つの木箱の蓋を開ける。この中にはトランプ、カルタ、絵本などの娯楽用品が入っている。
「冬の館は娯楽が少ないでしょうし、子供達に読んであげたり、大人にトランプを教えてあげたりすれば、良い交流が持てるでしょう?……ただし、本は高価な物になるので、必ず貴方達が読んであげるだけにしてください。何かあってもハッセには弁償できませんから」
「かしこまりました」
孤児院では物を丁寧に扱うことが徹底されているので、まだ破損は全くないけれど、ハッセではあっという間に破損するだろう。貴族でも買うのを躊躇うくらい高価な本だ。適当に扱われては困る。
板で作るカルタやトランプはそう簡単に壊れないだろうけれど、本はすぐに破れるだろう。粗雑に扱われたら、前町長の無礼より怒る。間違いない。
それから、わたしはモニカに目配せして、箱の中から失敗作の紙を束ねて綴ったノートとインクを出してもらった。真っ白の紙が束ねられた冊子とインクをアヒムとエゴンに手渡す。
「二つ目のお仕事です。ハッセの皆からお話を聞きとってきてください」
「お話ですか?」
「えぇ。貴族には騎士物語があり、神殿には神の物語があるように、平民には平民だけが知っているお話があるはずです。農村で伝えられている寝物語や旅人に聞いた話もあるかもしれません。いずれ、わたくしの本の題材になるので、ぜひ、聞いて、書き留めてきてください。どちらかというと、こちらの方が大事なお仕事です」
わたしを聖女と崇め、慈悲深いと称賛しているリヒト達にも、神官長にも伝えていない真の目的。それは平民の間に伝わるお話集めだ。その名もグリム計画。口伝として存在している各地のお話を集めるのだ。
まずは、ハッセを皮切りに、成果があれば、貴族への言い回しを教えるという名目で灰色神官を各地の冬の館に派遣する。
次に、貴族が治める土地の話は、印刷工房が広がる過程で収集していく。一つのお話でいくら、と決めれば、工房で働く者がお話収集をしてくれるだろう。最終的にはエーレンフェスト以外の領地のお話も集めたい。
野望は大きく、果てしなく、である。
……うまくいけばいいなぁ。グリム計画。うふふん。
ついでに、平民への識字率の向上もできればいいと思っている。ただ、本がまだまだ平民のお金で買えるような物ではないのがネックだ。
読書の楽しみを知ったのに本がない、なんてことになったら、わたしのように発狂する人も出てくるに違いない。そんなことになったら可哀想だ。早く冬の館文庫ができるくらいまで値段を下げられるようになればいいと心底思う。
そうこうしているうちに、収穫祭に先駆けて、プランタン商会の馬車がハッセに向かう日がやってきた。
小神殿へと移動する者が生活用品を馬車に積み込んでいて、孤児院の者がそれを手伝っている。冬の館に行く者はわたしと一緒にハッセの収穫祭に乗り込むので、別行動だ。
「戻ってくる時も同数の者が乗ります。けれど、ハッセの孤児で洗礼前の幼子なので、その点だけ注意してくださいませ」
「かしこまりました。……おや、兵士達が到着したようですね」
荷物を載せ、灰色神官達が馬車に乗り込み、準備をしている中、プランタン商会の馬車を迎えに、兵士達がやってきた。先頭にいるのは父さんだ。
久しぶりに見る元気そうな姿にわたしが笑顔を見せると、目が合った父さんも目を細めてニッと笑い、わたしの前に跪く。
「よく来てくれましたね、ギュンター。今回もまた世話をかけます」
「神殿長のお召があれば、すぐに馳せ参じます」
かっちりとかしこまった父さんの言葉に、他の兵士達が元気よく続いた。
「俺も士長より速く馳せ……飛んできます」
「オレも来ます。呼んでください」
「お前ら、黙れ。無礼だぞ」
父さんが一睨みで黙らせるのを見て、わたしは小さく笑う。
「今回も頼もしい方々が一緒ですのね。おかげで、安心して灰色神官達を送り出せます」
「お任せください。後日、ハッセの小神殿でお会いできるのを心待ちにしております」
ほんの一時の会話を交わし、わたしは馬車をハッセへと送り出す。
プランタン商会を送り出すと、次は自分の出発準備をしなければならない。今年は収穫祭に本をいくつか持って行くのだ。息抜きがないと、あの祭りの熱狂が長々と続くのに耐えられない。
「姫様、今年もよろしくお願いします」
「ユストクス、こちらこそよろしくお願いします」
徴税人はユストクス、護衛騎士はエックハルト兄様とブリギッテである。神官長の指示により、エックハルト兄様とダームエルが交代させられた。ダームエルとブリギッテではユストクスの暴走が止められないからだ。
「エックハルト、くれぐれも皆を頼んだぞ。ドールヴァンで落ち合おう」
「はっ!」
神官長の言葉を聞いて、はきはきと返事したエックハルト兄様が今度はダームエルに視線を向ける。
「……ダームエル、ドールヴァンまでフェルディナンド様の護衛を任せる」
「かしこまりました」
長々とした神官長の注意事項を聞いた後、わたしはすでに準備できているレッサーバスに乗り込んだ。
レッサーバスには冬の館に滞在するアヒムとエゴンの他に、フランとモニカとニコラとロジーナとフーゴが乗っている。
エラは今回留守番だ。長旅をする上で体力があるフーゴを連れて行くことにしたのだ。エラは神殿で留守番をする側仕えや孤児院向けの食事を作ってくれることになっている。
わたしの側仕えでは、工房管理のフリッツと神官長から全体的な神殿管理を任されてしまったザームが留守番組になっている。留守番と同行、どちらが大変だろうか。
「では、神官長。行ってまいります。ドールヴァンで集合ですね」
「くれぐれも問題を起こさぬようにな」
「わかっています」
本当にわかっていれば良いのだが、とこめかみを押さえる神官長から目を逸らし、わたしはレッサーバスのハンドルをぎゅっと握った。
魔力を流し込み、アクセルを踏んで、ぶわっと空へ駆け出す。
収穫祭という長旅の始まりだった。