Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (263)
初めての妹
エーレンフェストに戻ってきたわたしは、各地の収穫祭から戻ってくる青色神官達が持ち帰る小聖杯を回収し、今年の収穫量や各地の様子について報告を受けた。その青色神官の報告をまとめ、領主に報告するために城へ行かなければならない。
「準備は良いか? 行くぞ」
「はい!」
わたしは神官長と一緒に騎獣で城へと向かう。
……これが終わったら、ユレーヴェを作ってもらえる。
わたしは城に着くと、神官長と一旦別れ、迎えに出てきてくれたリヒャルダと一緒に着替えのため、北の離れの自室へと向かう。
「今日は、アウブ・エーレンフェストへの報告の後、シャルロッテ姫様のご挨拶がございます」
「……シャルロッテ姫? ヴィルフリート兄様の妹姫で間違いないかしら?」
「えぇ」
リヒャルダが大きく頷いた。
「シャルロッテ姫様はこの冬が洗礼式ですから、今、お部屋を整えて、様々な準備をしていらっしゃるのです」
そういえば、わたしも洗礼式の日から部屋を使えるように、お母様が主導で部屋を整えてくれたはずだ。わたしの場合は貴族としての教育を叩き込まれていて、とてもお部屋作りに参加できるような状況ではなかったけれど、シャルロッテは自分の部屋を作るために人を動かし采配を振るう練習をしているそうだ。
……話を聞くだけで、ヴィルフリート兄様より優秀そうなんだけど。
そんなことを考えながら、北の離れへと入り、階段を上がる。隣の部屋の扉が大きく開かれて、家具が運び込まれているのが見えた。
部屋の様子を見ているのは、わたしと同じくらいか、幾分背が低い女の子だ。わたし達が階段を上がってきたことに気付いたようで、くるりと振り返った。くるくるとした銀に近い金髪が揺れ、等身大のお人形かと見紛うばかりの愛らしい顔立ちの中、生き生きとした光をたたえた藍色の瞳がパチパチと瞬きする。
「ローゼマインお姉様!」
わたしと目が合うと、シャルロッテは嬉しそうに笑って、側仕えと護衛騎士と共にこちらへと向かってくる。
……お、お姉様って言われた!
もう「お姉様」という響きだけで十分だった。わたしがシャルロッテの姉になるのに、その一言以外の何が必要だろうか。可愛い笑顔の「お姉様」にズキュンと胸を打ち抜かれて、わたしは感動に打ち震える。
「わたくし、まだ洗礼式を終えていないので、本当に祝福を祈ることはできないのですけれど、ご挨拶させていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、もちろんですわ」
少し上を見上げるように祈り文句の確認をしたシャルロッテが、その場に跪き、首を垂れる。
「風の女神 シュツェーリアの守る実りの日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しくださいませ」
「許します」
「ローゼマインお姉様に風の女神 シュツェーリアの祝福を。……アウブ・エーレンフェストの娘、シャルロッテと申します。以後、よろしくお願いいたします」
シャルロッテは祝福のやり取りができないものの、きっちりと祈り文句を間違わずに言えた。この初めての挨拶が緊張するのはよくわかる。わたしも初めて挨拶をしたのがお母様だったけれど、間違わずに言えるかどうか、心臓がバクバク言っていた。
跪いたままのシャルロッテに、わたしは初めての挨拶でお母様が声をかけてくれた時のことを思い出す。
「歓迎いたします、シャルロッテ。わたくしは貴女の姉です」
わたしの言葉にシャルロッテがホッとしたような笑みを浮かべて顔を上げた。わたしもつられてニコリと笑う。
「とても上手に挨拶できていてよ」
「ありがとう存じます。わたくしの兄弟は殿方ばかりですから、お姉様が欲しいと思っていたので嬉しいです。これから、仲良くしてくださいまし」
「わたくしも……わたくしも妹が欲しいと思っていたのです。こちらこそよろしくお願いいたしますね」
……シャルロッテ、マジ可愛い。トゥーリ以来のわたしの天使になるかもしれない。
ハァ、とわたしが感動の溜息を吐いていると、シャルロッテがわずかに首を傾げた。
「ローゼマインお姉様は神殿長なのですよね? わたくしの洗礼式はお姉様が祝福を授けてくださるのですか?」
期待に満ちた藍色の目から察するに、これはおねだりだ。
……祝! 初めてのおねだり! これはぜひとも叶えてあげたい。そう、姉として!
「可愛い妹のためですもの。フェルディナンド様が良いとおっしゃってくださったら、わたくしが祝福を与えますわ」
「楽しみにしておりますね」
輝く笑顔のシャルロッテにわたしが大きく頷いていると、リヒャルダが一歩前へと出て、話を遮った。
「姫様、そろそろ報告に向かわなければなりませんよ。戻られてから、お茶会をなさればいかがです? シャルロッテ姫様もお菓子は大好きでしょうから」
妹とお茶会という素敵な響きにわたしがシャルロッテの様子を伺うと、シャルロッテはお菓子を前にしたヴィルフリートと同じ笑顔でわたしを見ていた。シャルロッテの方が可愛く見えるけれど。
「では、報告を済ませた後、5の鐘の頃、お茶会にいたしましょう。オティーリエ、エラにお菓子の準備をするようにお願いしてちょうだい」
「かしこまりました」
シャルロッテと別れて、わたしは自室で急いで着替えると、領主の執務室へと騎獣をやや速めに動かして向かう。神官長もすでに待っていて、文官達も準備万端だった。
養父様が背筋を伸ばし、わたしを見る。
「では、報告を聞こうか」
「シャルロッテはとても可愛らしいと思いました」
「うむ、確かに」
本日一番に報告しなければならないと思ったことが口を突いて出ると、養父様は大きく頷いて同意する。
「わたくし、シャルロッテの洗礼式を行う約束をしたのです」
「君がしなければならないのは、収穫祭の報告だ、馬鹿者!」
ハリセン付きの神官長のつっこみを頂き、わたしは真面目に収穫祭の報告を始める。ハッセを除く直轄地の収穫量は去年よりも明らかに増えていて、わたしが祈念式で全部を回った効果が認められた。
「次の春も其方に頼むのが一番だな」
正直全部を回るのは体力的にかなり厳しいのだが、次の春には健康な体になっているはずなので、問題ないだろう。わたしは軽く頷いて、了承の意思を示した。
「カルステッドとフェルディナンドとローゼマインを残して、人払いを」
収穫祭に関する報告を終えると、さっさと自室に戻るつもりだったわたしは、まだお話が続くことに気付いてガックリと項垂れる。保護者達に囲まれたお話合いより、可愛い妹とのお茶会を取りたいと思うのは当然のことだと思う。
文官や側仕えが出て行った後、養父様が首をゴリゴリと言わせながら回し、公私で言うならば、私の態度になった。
「あ~、ローゼマイン。二人から聞いた魔力の圧縮方法のことだが、もしかすると大人でも効果があるのではないか? 魔力の器を大きくすることができなくても、中に入れられる魔力の量は増えると言うことだろう?」
「……わたくしは大人ではないので、存じません。養父様の言い分には一理あると思いますから、実験してみると良いのではございませんか?」
わたしがそう言うと、養父様は目を輝かせて身を乗り出した。自分でやる気満々だ。
「よし、其方の条件である自力で圧縮を行える者、フロレンツィア派の者、六人の承認が得られる者という基準で選ぶのだが、まずは其方の保護者や家族という身内から行ってはどうか?」
具体的には領主夫妻、神官長、お父様、お母様、エックハルト兄様、ランプレヒト兄様、コルネリウス兄様が対象らしい。その後、護衛騎士や側仕えにも枠を広げていくそうだ。
決定事項のように語られることから考えても、すでに脳内に青写真が引かれていたように思える。
「……大人にも効果がある場合は、少し料金を見直した方が良いかもしれませんね」
魔力圧縮は子供の教育費と思っていたが、大人も使えることがわかれば、利用者は増えるはずで、そうなると家計への負担が厳しくなる。余計な恨みは買いたくない。皆が何とか利用できて、それなりに価値があることを知らしめる適正価格が必要だ。
「同じ一家の二人目からは半額にすればどうでしょう? いくら上級貴族とはいえ、五人分は大変でしょう、お父様?」
「それは助かるな」
しみじみとした口調でお父様がそう言って頷いた。今回の参加者で一番多いのはカルステッド一家だ。
「ローゼマイン、冬の社交界でそれとなく魔力圧縮についての話を流したいので、なるべく早めに試してみたいのだが」
身を乗り出しているのは養父様だけではなく、心なしかお父様も神官長もうずうずしているように見える。
「知りたくて仕方がないのですね、皆」
「魔力を伸ばせるかどうかは貴族にとっては重要なことだ。気になるのは当然だろう」
さぁ、早く、と養父様の目が言っているけれど、メンバーを集めて契約魔術の準備をするとなると、結構時間がかかるのは目に見えている。
わたしはふるふると首を振った。
「……今日はわたくし、シャルロッテとお茶会の約束をいたしました。皆を集めて、契約魔術の準備をするのは時間がかかるでしょう? また後日にしてくださいませ」
「んなっ!? ローゼマイン、其方、養父である私よりシャルロッテを優先するのか!?」
「シャルロッテの方が可愛いですから」
わたしがキッパリと答えると、養父様は「確かに、私はカッコいいが、可愛さではシャルロッテに負けているからな」と頭を抱えて呻いた。カッコいいかな? と頭の中を疑問符が飛び交ったけれど、それに関しては黙っておく。
「それに、わたくしにとっては魔力圧縮より自分のお薬作りの方が大事ですから、ユレーヴェができてからお教えいたしますね」
素材を集めたのに、報告が終わってからだ、と神官長に言われて、まだ作ってもらってないのだ。他人の魔力圧縮よりも自分の健康優先である。
わたしの主張に、神官長がわずかに目を細めた。
「ローゼマイン、薬を作るのは良いが、薬を使うのは後にしなさい」
「何故ですか?」
「ユレーヴェを使うと、十日から一月ほど……場合によっては、季節一つ分くらい眠ることになるからだ。確実にシャルロッテの洗礼式に出ようと思うならば、今は止めておいた方が良い」
わたしの魔力の固まりはかなり昔にできているので溶かすにも時間がかかるだろう、と神官長が教えてくれた。
「それに、冬の洗礼式を君が行うと言ったが、本気で実行するならば覚えなければならないことが大量にある。下町の洗礼式と違って、魔力の登録から祝福、冬はその後のお披露目の流れまで覚えなくてはならないからな。いくら健康になりたくても、とても薬を使うような余裕はないぞ」
「体力的な余裕が欲しいから、薬を作りたいのに、何ということでしょう」
だが、薬を使うのを後回しにしてでも、わたしとしてはシャルロッテの洗礼式に出席したい。いきなり約束を破るような姉を信頼してもらえるはずがないのだ。
「仕方ありません。薬を使うのはシャルロッテの洗礼式の後にします」
「いや、洗礼式の後はそのまま冬の社交界が始まり、奉納式があるだろう?……他の貴族の目を誤魔化そうと思えば、祈念式を終えてからの方が良いかもしれぬな」
「ちょっと待ってください。わたくしの健康がぐぐっと遠ざかったような気がするのですけれど!」
早く健康になりたいのに、とわたしが主張すると、神官長は「使う時期は慎重に見極めるべきだ」と言った。自分の負担を少しでも減らしたい、という神官長の無言の圧力が圧し掛かってきている気がする。シャルロッテのためならばともかく、神官長のために春まで健康を我慢するつもりはない。
こめかみをトントンと軽く叩きながら難しい顔をしていた神官長が、ハッとしたようにわたしを見た。
「ローゼマイン、冬の洗礼式は神殿長として出席するのではなく、新しい妹の家族として、姉として出席すればどうだ? そうすれば、洗礼式までに覚えなければならないことはほとんどないぞ」
「それではダメです!」
初めての妹のおねだりを叶えるのだ。トゥーリはいつもわたしのおねだりを聞いてくれた。わたしもトゥーリのようないいお姉様を目指す。
「わたくし、姉としてシャルロッテの洗礼式で祝福をするのです。覚えることが多いくらい何でもありません。今までだって散々覚えてきたのですもの」
「なるほど。君は初めてできる妹に、姉として良いところを見せたいのだな?」
軽くこめかみを叩きながらそう言った神官長に、わたしは大きく頷いた。その通りだ。わたしはシャルロッテに良いところを見せて、尊敬される姉になりたい。
「……ならば、洗礼式で祝福を授けるだけでなく、奉納式と祈念式で領主の娘として領地へ貢献している姿を妹に見せれば、さらに尊敬されるのではないか? 実に、姉として相応しい行いだと思わないか?」
「思います!」
わたしがグッと拳を握って同意すると、神官長は「我が意を得たり」と言わんばかりのしたり顔で頷いた。
「では、祈念式まで頑張りなさい」
「はい!……ん? あれ?」
わたしが引っ掛かりを覚えて首を傾げると、養父様がくいっと扉を指差した。
「ローゼマイン、お茶会の約束は大丈夫なのか? もう行っても良いぞ」
「良いのですか?」
「あぁ、シャルロッテを可愛がってやってくれ」
「もちろんです」
養父様に頼まれて、わたしは胸を叩いて請け負うと、退室の挨拶をした。養父様の執務室を出て、わたしは鼻歌まじりに部屋に戻る。この後はシャルロッテとお茶会をするのだ。うふふん、ふふん。
5の鐘が鳴る前にはお茶会の準備がすっかり整い、エラのお菓子もバッチリ準備できていた。今日は季節の果物をたっぷり使ったパイである。
「お姉様、お招きありがとう存じます」
「いらしてくださって嬉しいわ、シャルロッテ」
家族以外とお茶会をするのが初めて、とシャルロッテは少し緊張した面持ちで椅子に座る。わたしも初めての妹とのお茶会で、ちょっと緊張している。
「お兄様がいつもお姉様を褒めていらっしゃるから、わたくし、本当にお会いできるのを楽しみにしていたのです」
ヴィルフリートが持って行った聖典絵本のお話や持って来てくれたけれど勝てなかったカルタのお話をしてくれた。
「あの絵本もカルタもお姉様が作られたのでしょう? お兄様がおっしゃいました」
この感動をどう表現すればいいだろうか。今まで身内には役立たず呼ばわりされていたわたしが、妹の賞賛を受けているのである。嬉しくて恥ずかしくてゴロゴロ転げ回って喜びたい。
……ヴィルフリート兄様に感謝しなければ。おかげで、わたし、今、可愛い妹から絶賛されてる!
「お母様の髪飾りもお姉様が作られたのでしょう? 本当のお花のようで、とても綺麗でした」
「考えたのは、わたくしですけれど、作るのは職人ですわ。シャルロッテにも紹介しましょうか?」
フロレンツィア派には今わたしと同じ髪飾りが流行している。ブリギッテが星結びの儀式で使った宣伝効果が高かったようで、髪飾りだけではなく、ドレスの飾りとしても利用されるようになったのだ。多分、トゥーリや母さんはてんてこ舞いだと思う。
「よろしいのですか? わたくしの洗礼式に間に合うかしら?」
「……洗礼式は難しいかもしれませんわね。わたくしが持っている中で、衣装に合うものがあれば、貸して差し上げましょう。リヒャルダ、冬の貴色を使った髪飾りを持って来て下さる?」
「少々お待ちくださいませ、姫様」
リヒャルダが持って来てくれた髪飾りをシャルロッテの髪に当てて、どれが良いか選んでいると、アンゲリカが入ってくる。
「ローゼマイン様、ヴィルフリート様が入室の許可を求めています。シャルロッテ様に……」
アンゲリカがわたしに許可を求めている最中に、アンゲリカの後ろからヴィルフリートが入ってきた。
許可を得ていないヴィルフリートの側仕えと護衛騎士がドアの前で手を伸ばして、ヴィルフリートに戻るように声をかけているが、ヴィルフリートは聞いていない。
「シャルロッテがここにいると聞いたが……」
「ヴィルフリート兄様、返事も待たずに入室してくるのは、お行儀が悪いですよ」
わたしが眉を寄せて、ヴィルフリートに一度退室するように言うと、ヴィルフリートはキッと眉を吊り上げた。
「黙れ、ローゼマイン! シャルロッテ、今すぐこの部屋を出るのだ。ローゼマインに騙されてはならぬ!」
……はい?
いきなり何を言い出したのか理解できず、皆がぽかーんと目を見張り、口を軽く開ける中、シャルロッテが目を瞬きながら首を傾げた。
「お兄様、突然何をおっしゃるのですか? いつもお姉様を褒めていらっしゃったではございませんか」
その声にわたしもハッとして、ヴィルフリートを見返した。妹の前でこのような言いがかりを付けられて、甘んじて受けるわけにはいかない。わたしは尊敬されるお姉様になるのだ。
「ヴィルフリート兄様、一体わたくしがどなたを騙したと言うのですか? 言いがかりはお止めくださいまし」
「しらばっくれるな!」
ダダッと駆けだしたヴィルフリートを止めようとランプレヒト兄様が部屋に駆け込むのと、アンゲリカが横を通り過ぎようとしたヴィルフリートの腕をひっつかんで引き倒し、押さえこむのはほぼ同時だった。ダン! と大きな音がして、ヴィルフリートがアンゲリカに押さえられる。
「いたっ! 何をする!?」
「入室の許可も得ず、ローゼマイン様に近付かないでいただきたく存じます」
「其方、誰の許可を得てこのような……」
「わたくしはローゼマイン様の護衛騎士ですから、入室許可も得ていない不審人物を捕えるのは当然のことです」
アンゲリカは淡々とそう言いながら、ヴィルフリートを押さえこんだまま動かない。ランプレヒト兄様がアンゲリカとわたしを交互に見て、助けを求めるようにこちらへ視線を向けた。
護衛騎士としてアンゲリカの行動は間違っていないけれど、ヴィルフリートを拘束から解放して欲しい。そんな声が聞こえる。
わたしが「アンゲリカ、もういいわ」と口を開きかけた時、アンゲリカを睨み上げていたヴィルフリートがじたばたともがきながら、大きな声で叫んだ。
「不審人物はローゼマインではないか。私はおばあ様から聞いたのだ。ローゼマインとフェルディナンドに陥れられたのだと! 二人は悪者なのだ!」
……おばあ様というと、前神殿長のお姉さんで、幽閉されている人だよね?
むむっとわたしは眉を寄せる。領主の母親が重大な罪を犯したということで、どこかに幽閉されていると聞いた。逃亡や協力者を防ぐために領主の許可なく入れないところに幽閉されているはずだ。
夏の終わりにはそのおばあ様が犯罪者として幽閉されていたことさえ知らなかったヴィルフリートがどこでおばあ様から話を聞くというのか。
「ヴィルフリート兄様、いつ、どこで、おばあ様とお話をする機会がございましたの?」
わたしの言葉に周囲の護衛騎士と側仕えが一斉に顔色を変えた。ヴィルフリートの護衛騎士と側仕えは真っ青だ。アンゲリカを突き飛ばすような勢いでヴィルフリートに駆け寄り、唾が飛ぶのも構っていられないような形相で問い詰め始める。
「ヴィルフリート様、いつですか!? いつヴェローニカ様とお話されたのです!?」
「どのようにしてお会いしたのです!?」
周囲の慌てぶりから考えても、ヴィルフリートが幽閉されているヴェローニカと会うはずはなく、あり得ないことのようだ。
これはここでヴィルフリートを問い詰めて終わりにして良い話ではないだろう。
「リヒャルダ、アウブ・エーレンフェストに報告をお願い。……事を荒立てないように、伴を厳選して、こちらに来ていただく方が良いと思います」
「かしこまりました、姫様」