Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (284)
入寮と側近
転移するための魔法陣に魔力が満ち、黒と金の光を放った。同時に、ブローチにはめ込まれている魔石が光る。目の前の空間がゆらりと揺らめき、一瞬立ちくらみがするような感覚に襲われた。
くらりと頭が揺れたのに気付いたように、リヒャルダが少し手を伸ばして、わたしを自分に寄りかからせる。支えができて、安堵の息を吐いた次の瞬間、目の前に立っている皆の姿がぐにゃりと歪んだ。
わたしは視界が歪んだことに驚いて、何度か瞬きして目を擦る。ほんの数秒後、目の前の景色がハッキリと見えた時には、目の前にいたはずのお見送りをしてくれた面々はいなかった。
「貴族院エーレンフェスト寮へようこそおいでくださいました、ローゼマイン様」
正面には大きく開け放たれた扉があり、魔法陣の動きを監視するための騎士が二人いた。足元にある転移陣は同じものだし、出発前の部屋とよく似ている。二人の騎士が座るための椅子や細々とした魔術具のような物もあり、見送る者がいなくなっていることで、もう別の場所だとわかる。
「姫様、お気分が悪くないのでしたら、部屋を出ましょう」
軽く背を押され、リヒャルダに転移の部屋から出るように促された。この後、下働きの者が荷物をわたしの部屋まで運ばなければ、ヴィルフリートが転移できないのだそうだ。
わたしがリヒャルダと共に転移陣の部屋から出ると、城にもあったように待合室があった。転移する時は次の者の荷物が詰まれ、順番を待つための部屋だ。そこにアンゲリカとコルネリウス兄様が出迎えに来てくれていた。
「ローゼマイン様、お待ちしておりました」
コルネリウス兄様とアンゲリカの二人を伴って待合室を出ると、そこは城によく似た廊下と扉があった。本当に貴族院に転移したのかと疑ってしまうくらいによく似ている。
「ここは本当に貴族院ですか? 城と変わらないような気がいたします」
「貴族院の寮は領主が創造の魔術で作ったものですから、どの領地の寮も、基本的には城と趣が似るのですよ」
リヒャルダは領地ごとに特色があり、華美な建物、質実剛健な建物、丸みがあって優美な建物、一切の無駄をそぎ落としたような四角の建物……色々あると教えてくれた。
コルネリウス兄様もそれに頷いた。
「各領地の寮はそれぞれに特色があって、見るだけでも楽しいです。他領の者は中に入れませんから、外観を眺めるだけですが」
授与式で領主から与えられるブローチは選別の魔術具だそうで、領民か否かを分けるのだそうだ。領主特有の魔法でメダルで登録されている領民とそれ以外を区別することができるらしい。そのため、ブローチだけを奪ったところで、他領の寮には入れないそうだ。
「では、二人とも姫様をお任せいたしますよ」
「お任せください」
階段の手前でリヒャルダはコルネリウス兄様とアンゲリカに後を任せると、さっさと階段を上がって行ってしまう。
「ローゼマイン様はこちらへどうぞ。お茶の準備ができております」
「アンゲリカ、コルネリウス、どちらに向かうのですか?」
「新入生を歓待する場です」
城から寮へと転移してきた者は皆、側仕えが部屋を整えている間、自分の部屋に入ることもできないので、準備が整うまでホールで待つことになるそうだ。すでに部屋を整え終わっている上級生が下級生を歓待してくれると言う。
「ローゼマイン様が到着いたしました」
側仕え見習いの上級生がお茶を入れてくれ、お菓子を出してくれて、持て成している。周りを見回せば、わたしと同期の新入生が緊張した様子でお茶を手に取っているのが見えた。
「ローゼマイン様、こちらへどうぞ。……その衣装、とても素敵ですわ。貴族院での流行を取り入れた上で、ご自身が考案された花の飾りも使っているのですね」
「ブリュンヒルデの情報を元に作ったのです。わたくしは貴族院の流行には詳しくありませんから、助かりました」
わたしがお披露目をした7歳の時の子供部屋に9歳で一緒にいたブリュンヒルデは今年12歳、三年生のはずだ。真紅のストレートの髪がサラリと流れる。飴色の瞳が嬉しそうに細められ、わたしを見た。
「お役に立てて何よりです。わたくしはローゼマイン様が考案された衣装や髪飾りを中央で広げたいのです。わたくし、在学中に一度で良いので、エーレンフェストから流行を発信したいと存じます」
オシャレや流行に敏感なブリュンヒルデは、国の基準において、エーレンフェストが片田舎で見るべきところがない領地だと思われているのが、エーレンフェストの上級貴族として屈辱だと言う。
「ローゼマイン様が数年の間に発信した流行は、きっと中央でも受け入れられますもの。わたくしは以前に一度、流行を発信したいと領主夫妻にお願いしたのですけれど、ローゼマイン様が貴族院へと赴くまでは勝手に広げてはならないと禁止されました。ですから、ローゼマイン様がいらっしゃるのを今か、今か、と待ち望んでいたのです。今年の貴族院が楽しみでなりませんわ」
お菓子や花の飾りでエーレンフェスト内に新しい流行を発信しようと考えていた時のお母様によく似た、野望に燃えた飴色の瞳でブリュンヒルデが笑う。
わたし自身は思い付きだったり、自分が欲しいから作ったりした物ばかりなので、流行の発信にそこまで熱意がない。熱い思いを訴えるブリュンヒルデの勢いに気圧されながら、話を聞いていた。
「ブリュンヒルデ、そのように自分のことばかりを主張してはなりませんよ。ローゼマイン様が寛げないでしょう?」
ブリュンヒルデの後ろからエメラルドグリーンの髪を二つに分け、丁寧に編み込み、できた三つ編みを後ろで更にまとめた少女が静かに進み出てきた。ブリュンヒルデより少し小さく見えるけれど、会話を交わした覚えがないので、わたしがお披露目をした時にはすでに貴族院に入っていた者だと思う。
「リーゼレータ。……申し訳ございませんでした、ローゼマイン様。わたくし、あまりの嬉しさに我を失っていたようですわ」
「いいえ、エーレンフェストの影響力を強めたいというブリュンヒルデの意気込みはよく伝わってまいりました。上級貴族として大事な資質だと思います」
ホッとしたようにブリュンヒルデが下がると、代わりにリーゼレータと呼ばれた少女が「お騒がせいたしました、ローゼマイン様。ごゆっくりとお寛ぎくださいませ」と控えめな笑みを浮かべた後、また静かに去っていく。
リーゼレータの髪は動くのに邪魔にならないようにきっちりと整えられていて、濃い緑の瞳が理知的な光を宿していた。色合いは違うけれど、リーゼレータの顔立ちはアンゲリカに似ているように思える。姉妹か、従妹か、血族ではないだろうか。
「リーゼレータはアンゲリカとよく似た顔立ちをしていますね」
「はい、わたくしの妹です」
リーゼレータはお菓子を摘まんで汚れた手を拭うための布を準備したり、近くに座る新入生にお茶のお替りを注いだりと目端が利くようで、くるくると動いている。無駄口を叩くことはなく、笑顔を忘れず、控えめな仕事ぶりからも、両親の教育が良く行き届いていることがよくわかった。
……優秀な側仕えの血筋は、こっちに凝縮されてるのかな?
アンゲリカとリーゼレータは顔立ちが似ているけれど、言動が全く違う。
「わたくしと違って、リーゼレータは優秀で両親の誉れなのです」
「あら? アンゲリカは側仕えに適性がなかっただけで、騎士としては優秀でしょう?」
「その通りですわ、ローゼマイン様」
突然入ってきたアンゲリカの擁護にわたしが目を瞬いていると、アンゲリカが少し困ったように「ユーディット」と少女の名を呼んだ。
ユーディットは冬の子供部屋で三年前に見たことがある。確か、わたしの一つ上だっただろうか。ふわふわとした明るいオレンジの髪をアンゲリカと同じようにポニーテールにしていて、
菫
色の目がキラキラに輝いていた。
「アンゲリカは中級騎士でありながら、身体強化の魔術を使いこなし、ボニファティウス様に認められて弟子入りできるのですもの。とても素晴らしいですわ。それに、主であるローゼマイン様に認められ、魔力を与えられた魔剣シュティンルークは意思を持ち、語ることもできる他にはない特別な魔剣でしょう? わたくしも魔剣を育てようか、と考えているのですけれど、魔力が足りなくて、身体強化もできないのです」
アンゲリカのすごさを一生懸命に訴えるユーディットの言葉を、わたしは目を細めて聞いていた。自分の護衛騎士が褒められるのは、やはり嬉しいものだ。
「身体強化ができるようになったアンゲリカはとてもすごいのですね? わたくしが眠っていた二年間に成長した、とボニファティウス様に伺いましたけれど」
「そうなのです! ボニファティウス様に認められるほどなのです。わたくしもそのくらい強くなりたいですわ。アンゲリカはわたくしの目標なのです」
……ユーディットはどうやらアンゲリカ信奉者らしい。
「ユーディット、もう止めてください」
「そうですね。騒がしくしてはローゼマイン様が寛げませんもの。主に対する細やかな気遣いまでされるなんて、わたくしも見習わなくてはなりませんわ。ローゼマイン様、失礼いたしました」
ユーディットがアンゲリカの言葉を勝手に良いように受け取って、解釈しているのがわかった。
わたしがちらりとアンゲリカを見上げると、アンゲリカは困ったようにユーディットから視線を逸らしていて、コルネリウス兄様は笑いを堪えるようにしている。ユーディットに追いかけられて、普段褒められることがないアンゲリカが照れて対応に困っていた。
「ユーディットはアンゲリカを慕う良い子ですね」
「……いいえ。良い子ではなく、変わった子です、ローゼマイン様」
アンゲリカの訂正に、くすくすと笑いながら、わたしは部屋の中に視線を巡らせた。部屋の中は暖かなカーペットが敷かれたり、壁にはタペストリーが掛けられたりしているが、どれにもマントと同じ色が使われている。
「装飾にも領地の色を使うのですね」
そう言いながら目に付いたのは、隔離されるような位置に座っている者達の姿だった。皆が俯き加減なせいで、暗い雰囲気が漂っていて、時折こちらを見る視線には交じりたくても交じれないような悔しさが浮かんでいる。
その中に、一生懸命にお話を集めてくれていたローデリヒの姿があり、わたしは少し目を細めた。
「コルネリウス、あの子達は何故あのように遠い位置にいるのですか?」
「あちらに固まっているのは旧ヴェローニカ派の親を持つ子供達です。あの中には二年前の狩猟大会でヴィルフリート様を罪に陥れた者もいます。ヴィルフリート様やローゼマイン様に危険が及ばぬように、こうして距離を取っているのです」
元々最大派閥だったヴェローニカ派の人数は多かった。二年たった今でも完全に崩壊はしていないようで、貴族院の学生でも四分の一くらいは警戒対象なのだそうだ。同じ寮で生活する65名の中の15人があのような状態では、皆で協力してエーレンフェスト全体の成績を向上させるのは難しいと思う。
「彼等をこちらの味方につけられるように、何とかできないかしら?」
「派閥というのはこういうものです。ヴェローニカ様に疎まれていたフェルディナンド様は領主の子でありながら、あのような立場に置かされていた、とエックハルト兄上から伺いました。兄上が入るまでは、先代の領主様から直々に命じられた者しか側近がいなかったそうです」
「……そうですか」
神官長もあんな視線で最大派閥を見ていたのか、と考えたけれど、その構図がどうにも想像できなかった。
……城では苦労したみたいだけど、エックハルト兄様の話を聞く限りでは、貴族院では生き生きしていたみたいだし。
構われないのをいいことに、嬉々としてマッドサイエンティストへの道を着々と歩んでいく姿しか思い浮かばない。あらゆる口実や言い訳を駆使して、自由にできる環境を死守し、貴族院に居座ったに違いないと思ってしまう。
……今回みたいに「自分のために」周囲を動かしたに決まってるよ。
「ヴィルフリート様が到着されました」
「すまない、待たせたな」
ヴィルフリートが出迎えに行っていたらしい自分の護衛騎士見習いや文官見習いと共に入ってくる。お茶やお菓子を準備するのも側近のようで、数人が細々と動く中、ヴィルフリートはわたしの隣に準備されている椅子へと座った。
「ここが貴族院の寮か。城の雰囲気とよく似ているな」
ヴィルフリートの独り言のような言葉に「えぇ、そうですわ」と突然背後から答えが返ってきた。
振り返ると、真面目そうな細身の女性が穏やかな笑みを浮かべてそこにいる。年の頃は30代の後半から40代前半くらいだろうか。
「エーレンフェスト寮の寮監を務めております、ヒルシュールと申します」
ヒルシュールは元々エーレンフェストの貴族で、成績優秀だったため中央で勤めることになり、今は貴族院の教師で魔術具に関する講義を行っているらしい。
「先日、フェルディナンド様より久方振りのお便りを頂きました。ローゼマイン様はフェルディナンド様の愛弟子だそうですね。領主候補生、騎士見習い、文官見習い、全てで最優秀の成績を収めた天才児の愛弟子がどのようなことをなしてくださるのか、わたくし、楽しみでなりません」
……天才の愛弟子? わたし、いつの間にそんなことになってるの? あれ? なんかめっちゃハードルが高くなってない?
わたしが何とも返事できないうちに、ヒルシュールは一度ニコリと笑うと部屋の中央へと立ち、新入生に向けた寮の説明を始めた。
この寮は三階が女子の部屋、二階が男子の部屋、一階にはホールや食堂など共同で使う部屋があるそうだ。男子が三階に上がるのはご法度で、階段を騎士見習いが交代で見張ることになるらしい。
各階の最奥は領主及びその夫人の部屋となっていて、領主会議の時に使用されることになっているとのことである。
「試験に受からず、春も貴族院に残るようなことになれば、悪い意味で領主夫妻に顔と名前を憶えられることになります。皆様、お気を付け下さいませ」
……おおぅ、アンゲリカ。
各階には領主候補生の部屋が3つ準備されていて、その周囲に準備されている部屋は側近が使うことになる。側近を除くと、奥の方が上級貴族で、階段に近い部屋が下級貴族になるそうだ。下級貴族と中級貴族の部屋は複数人で使う相部屋となっているが、お金を積めば個室にもできるらしい。
食事は皆で取るようになるようで、食堂の開く時間を教えられた。お風呂は城と同じように各自の部屋でそれぞれ準備をすることになっているそうだ。
「進級式と親睦会が二日後にあり、その次の日からは講義が始まります。それまでに新入生は寮の生活に慣れ、講義の準備をしておいてください。何事にも準備は大事ですから。何か質問はございますか?」
「はい!」
わたしは元気良く手を挙げた。ヒルシュールはもちろん、全ての視線がこちらに向けられる。
「この寮の図書室はどこですか?」
「寮の中に図書室はございません。貴族院には図書館がございますから」
「では、図書館に入館できるのはいつですか? 今から行けますか? 開館時間は何時から何時でしょう?」
図書室ではなく、図書館という響きにわたしの胸は高揚していく。今すぐに駆け出したい気分を押さえて、わたしがわくわくしながら尋ねると、ヒルシュールは困ったように笑った。
「図書館が開館するのは、講義が始まってからですわ。領地ごとに順番で新入生に対する使い方の説明がございます。図書館に出入りできるようになるのは、その後ですわ」
「……そうですか」
講義が始まるまで図書館がお預けだなんて、がっかりである。
「お勉強熱心な領主候補生がいれば、皆がつられてお勉強するようになります。期待しておりますよ、ローゼマイン様」
……それはつまり、領主候補生であるわたしが本を読んでいれば、皆がつられて本を読むようになるということかしら? 頑張って読まねば!
ヒルシュールの説明が終わった頃に、リヒャルダも部屋を整え終わったのか、ホールへとやってきた。
「ローゼマイン姫様、お部屋の準備が整いましたよ」
リヒャルダにそう言われ、わたしはひとまず自分の部屋に向かう。廊下が長いので、騎獣を使うように、と言われて、わたしは騎獣を出して乗り込んだ。
「私がお供できるのはここまでです」
男であるコルネリウス兄様が同行できるのは二階までだ。あとはアンゲリカだけが護衛騎士となる。
三階に上がると長い廊下の両脇には扉が並んでいるのが見えた。わたしの部屋は奥の方だ。結構遠い。三階まで階段を上がり、廊下を奥まで歩くとなれば、騎獣がないと途中で行き倒れるかもしれない。
「こちらが姫様のお部屋でございます」
部屋の中は城の部屋とあまり変わらない配置で準備されていた。わたしが違和感なく生活できるように、そして、リヒャルダが慣れた動線で働けるように、と考えられた結果だ。
「では、姫様。早速側近を決めてしまいましょう。今日の持て成しで、姫様の目に留まる者はいましたか? こちらから選んでくださいませ。今日中に発表しなければなりませんから」
執務机、いや、ここでは勉強机だ。勉強机にはすでに数枚の紙が準備されていた。コルネリウス兄様に頼んで作成してもらった学生の一覧表で、わたしが側近にしても良い者には〇、身分や立場が微妙だが、わたしの意見次第では側近に入れても構わない者には△、警戒対象なので、止めておきなさいという者には×を付けてもらっている。そして、ヴィルフリートやシャルロッテの側近となっている者には二人の頭文字が入っていた。
「ブリュンヒルデは〇、リーゼレータも〇、ユーディットも〇、フィリーネは△、ローデリヒは×……」
わたしは自分の記憶に残っている者について、一覧表を見ながら、呟いていく。
「ローデリヒは狩猟大会でヴィルフリート様を陥れた者ですから、姫様の側近には相応しくございません」
「本人には陥れる気などなくても、親に言われた通りに行動していたら、そうなったという可能性も高いでしょう? ヴィルフリート兄様に更生の機会を与えたように、わたくしは本人を見て決めたいのですけれど」
わたしの意見はリヒャルダによって却下された。今のようなほとんど本人を知らない状態で側近に入れるのは無理だ、と。確かにその通りである。
「ローデリヒ以外で姫様のお目に留まった者は側近として遇しましょう。側仕え見習いにブリュンヒルデとリーゼレータ、護衛騎士見習いにユーディット。ローゼマイン様がお望みでしたら、文官見習いにフィリーネを入れるのは構いません」
リヒャルダがわたしの意見を踏まえて、次々と側近を決定していく。
「ですが、下級貴族のフィリーネを支えたり、指導したりできる上級の文官見習いが必要ですね。ローゼマイン様に異議がなければハルトムートを側近に加えましょう」
「ハルトムートとはどなたですか?」
「オティーリエの末息子です。人懐っこい子で人と関わるのが好きなようですね。情報を集めるのがとても上手いですよ」
「では、ハルトムートも入れましょう」
わたしが洗礼式をする前に貴族院に入ったそうなので、わたしはハルトムートをよく知らないけれど、オティーリエの息子でリヒャルダが推薦するならば、問題ないと思う。
「後は、そうですね。コルネリウスの後任にできる騎士見習いも選んでおいた方が良いでしょう。トラウゴットはいかがですか? わたくしの娘とボニファティウス様と第二夫人の息子の間に生まれた子です」
「おじい様とリヒャルダの孫……。聞くだけでとても強そうですね」
「まだまだ、でございますよ。ローゼマイン様の魔力圧縮方法を教えられ、護衛騎士としてボニファティウス様に鍛えられたコルネリウスとは比べものになりません」
トラウゴットはヴィルフリートの護衛騎士見習いになるという話もあったそうだが、ヴィルフリートがわたしの許しを得て、その護衛騎士に魔力圧縮方法を教えられるのがいつになるかわからないので、渋ったそうだ。
ほぼ内定していた次期領主の座から下ろされたヴィルフリートも、側近集めには結構苦労したようである。
「それから、アンゲリカの後任としてユーディットを入れるのは構いませんけれど、アンゲリカは後任の指導に向きませんね。どうしましょうか?」
「リヒャルダ様のおっしゃる通りです。申し訳ございません、ローゼマイン様」
あまり悪いとは思っていなさそうなアンゲリカの声にリヒャルダが溜息を吐いた。
「コルネリウスに教育を頼むとは言っても、やはり女性同士でなければ言いにくいことなどもございますからね。女性騎士の取りまとめというか、コルネリウスと連携して指導できる女性の騎士見習いが必要だと存じます。心当たりはございませんか、アンゲリカ?」
リヒャルダに問われても、こてりと首を傾げるだけのアンゲリカに、わたしは「アンゲリカの代わりに色々と考えてくれそうな女性の騎士見習いがいますか?」と尋ねる。その途端、アンゲリカは真剣な目で考え始めた。
「……レオノーレはどうでしょう? コルネリウスと仲も良いですし、考えることが得意だと思います」
「アンゲリカ自身は基本的に全く考える気がないですね」
「はい。その通りです」
……どうしよう。アンゲリカが二年前より思考を放棄している気がする。
「こら、主! はきはきと返事をすれば良いというものではない。主は主の師匠から教えを受ける度に、どんどんと感覚に頼るようになっている。もう少し考えることも身に付けるように」
アンゲリカが腰に下げている魔剣のシュティンルークがお説教を始めたので、わたしが出る幕はなさそうだ。神官長と同じ物言いをするシュティンルークにお小言は任せておこう。
「レオノーレに打診して、色よい返事が頂けたら、護衛騎士に加えましょう」
「かしこまりました、姫様」
これでひとまずの側近は決定である。