Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (302)
図書委員になりたい
わたしは寮に戻ってすぐ、ソランジュをお茶会に招待して、歓待し、図書委員になりたいと言ってみようと思う、と側仕え達に述べた。お茶会を開くには、側仕えに働いてもらわなければならないからだ。
「ですから、皆には協力して欲しいのです」
「ローゼマイン様がお茶会を開催するのでしたら、もちろん協力はさせていただきますけれど……」
リーゼレータとブリュンヒルデが困惑したように顔を見合わせ、リヒャルダへと視線を向けた。いつもならば、即座に「かしこまりました」と返事をして、段取りについて話し合いが始まるはずなのに、二人の反応が鈍い。どうしてそのような反応になるのかよくわからなくて、わたしはリヒャルダの様子をうかがった。
「ローゼマイン姫様」
目が合うと、リヒャルダが険しい顔になって、わたしの名を呼んだ。何だろうか、ベンノや神官長に叱られる時のような反応というか、雷が落ちてくる前兆の雰囲気を感じて、わたしは思わず姿勢を正す。
「どういうおつもりでソランジュ先生を持て成すとおっしゃいました? わたくしが今まで見てきた姫様はなるべく穏便に、事を荒立てずに済ませようとしていらっしゃいました。今回、権力で無理に相手を従わせようとするのは姫様の本意ですか? ほとんど初対面で相手のこともよく知らないままに、そのような強引な要求をされれば、ソランジュ先生はどのように感じるでしょう?」
料理などを振る舞って歓待するのが、何故権力で無理に相手を従わせることに繋がるのがよくわからなくて、わたしは首を傾げる。
「……お持て成しをして、自分の要求を述べるのが、貴族のやり方なのでしょう? わたくし、以前に養父様やフェルディナンド様にお料理を振る舞った時に、貴族らしいやり方だと伺ったのですけれど、何か間違っているのですか?」
リヒャルダがきつく目を閉じて、ゆっくりと溜息を吐いた。
「全てが間違っているわけではございませんが、今は完全に間違っています」
「ごめんなさい。よくわかりません」
わたしがゆっくりと頭を振ると、リヒャルダはわたしだけではなく、リーゼレータとブリュンヒルデを見回した。
「姫様はその外見と違って非常に知識があり、貴族院でも優秀な成績で、普通に過ごされるので忘れがちですが、二年間を空白で過ごしたために社交に関する知識が足りていらっしゃらないようです。フェルディナンド坊ちゃまの教育も知識を詰め込むことに比重が偏っていらっしゃいます。それが今、二人にもよくわかったでしょう?」
リーゼレータとブリュンヒルデがコクリと頷いた。
「ローゼマイン姫様、フェルディナンド坊ちゃまやジルヴェスター様を持て成し、自分の要求を受け入れて頂いたことがある、とおっしゃいましたね?」
全く意図していなかったが、そういう結果になったことはある。貴族の常識と自分の常識の違いで大変なことになった。
「その場合は、お二人を歓待をして気を引き、要求するのは間違いではございません。要求する姫様はお二人にとって下位の立場で、姫様が歓待してもしなくても、決定権が上位の者にあるからです。けれど、立場が上になる姫様がソランジュ先生を持て成し、要求を突きつけるのは絶対に逆らえない命令を突きつけることになります」
下位の者が歓待をするのは「よろしくお願いします」という意味でしかないけれど、上位の者がお茶会で歓待して要求するのは「上位であるわたくしがこれだけ心を砕いて持て成しているのですから、どうしなければならないか、よくわかっていらっしゃいますよね?」という明らかに脅しというか、「絶対に受け入れろ。今すぐに受け入れると明言しろ」と退路を断って言質を取るような行動になるらしい。
「そのようなつもりはないです……」
おいしいお菓子で懐柔して、気分よく受け入れてくれればいいなぁ、とか、どれくらい役に立つか頑張ってアピールしよう、とか考えていたけれど、権力を盾に脅すつもりはなかった。
「姫様は心底本がお好きで、図書館に関わりたいだけで、ソランジュ先生を脅すつもりはないでしょう。……わたくしにはそれがわかりますけれど、ソランジュ先生や周囲の者には姫様の真意などわかりません。リーゼレータとブリュンヒルデは普段の姫様を知っているので、困惑しておりましたが、これが主の命令をそのままこなす側仕えであれば、ソランジュ先生が決して逃れることができないお茶会が設定されていたでしょう」
リヒャルダの言葉にわたしはゴクリと息を呑んだ。そんな事態にならなくてよかった、と安堵した半面、あれ? と少し引っかかりを覚えた。
「……あの、リヒャルダ。わたくし、貴族院では生徒よりも先生の方が立場は上だと伺ったのですけれど、ソランジュ先生にはそれが適用されないのですか?」
先生の方が立場は上だったはずだ。ならば、わたしはお茶会で要求しても問題ないのではないだろうか。わたしが尋ねると、リヒャルダだけではなく、リーゼレータとブリュンヒルデも首を振った。
「建前上はローゼマイン様のおっしゃる通りでございます」
ブリュンヒルデの言葉に、リーゼレータが言葉を足した。
「そうですね、常に上の立場から生徒に講義をしている先生ならば、その建前が通用する方もいらっしゃるかもしれません」
特に他領の先生であれば、お互いにそれぞれの領地での地位や立場が知られていないので、先生と生徒という立場が大きく影響するかもしれない。
「けれど、姫様。よく思い出してくださいませ。ソランジュ先生は本の返却要求さえ聞き流されてしまうとおっしゃっていたのですよ? 領主候補生である姫様に歓待までされたソランジュ先生が、生徒よりも立場は上だと考えて姫様の要求をきっぱりと断れるとお思いですか?」
そういえば、先程の図書館でもソランジュはひどく困った顔でわたしのお手伝いを断っていた。わたしの言動を見かねたリヒャルダに止められたことを思い出す。
「わたくし、リヒャルダが見かねて口を出さなければならない程、ソランジュ先生を困らせていたのですね」
「本来、あのような公式の場で側仕えがでしゃばるものではございませんからね。本当は姫様がこれ以上ソランジュ先生を困らせてしまう前に、抱えて連れ帰ろうかと思いましたよ」
私的な場である自室までリヒャルダはハラハラしながら戻ってきたらしい。
「それに、ソランジュ先生のお手伝いをしたい、と姫様は申されましたが、これもよくありません」
「え?」
わたしは今までずっとお手伝いをしてきた。ルッツ、オットー、ベンノ、神官長、お母様、領主夫妻など、わたしが表に立つこともあったけれど、基本的なところを動かしてきたのは別の人で、わたしはお手伝いをしている方が多かった。できることも少ないし。
「立場が上の者に自分の仕事を手伝われるのは、とても仕事がやりにくいのです。想像してみてくださいませ。姫様はご自分の仕事をジルヴェスター様に手伝うと言われて、始終執務室をうろうろとされ、今までの自分のやり方とは全く違うやり方を始められたらどのように思われます?」
養父様に工房でうろうろされ、印刷についていちいち口を出され、思い付きでああしろ、こうしろ、と言われる状況を思い浮かべて、心の中で絶叫する。お願いだから、もう来ないで! と。
「……よくわかりました。わたくしの存在はソランジュ先生にとっては迷惑この上ないのですね」
「わたくしはそこまで言ったつもりはないのですけれど、姫様にとってジルヴェスター様はそのような存在なのですね」
リヒャルダに指摘されて、アウブ・エーレンフェストである養父様を迷惑この上ないなどと口にしてしまったことに気付き、わたしは慌てて言い繕う。
「いえ、そんなことはないです。養父様にはとても感謝していますよ。手伝われたら迷惑だとか、自分の仕事をすればいいのに、などと想像だけでも思っていません」
ふるふると頭を振りながら、わたしが言うとリヒャルダが笑いながら「ソランジュ先生もそのような心境になると思いますよ」と言う。自分の迷惑さ加減に、わたしは落ち込んだ。
「ジルヴェスター様がどのように立ち回って下さったら、姫様は気持ちよく仕事を任せられますか? それを考えることが大事なのです」
養父様にうろうろされて、気持ちよく仕事なんてできるはずがない。無理だ。
「……わかりました。図書委員は諦めます」
「諦める必要はございません。姫様がジルヴェスター様ではなく、フェルディナンド坊ちゃまになれば良いのです」
「え?」
「フェルディナンド坊ちゃまは、姫様の神殿長のお仕事を肩代わりし、手伝ってくださっていらっしゃるのでしょう? 他にも色々と助言されているでしょうし、神殿長のお仕事を自分がしやすいように色々と変えているかもしれません。それに対して、姫様はどのように思われますか?」
同じように工房で神官長がうろうろして、灰色神官達に指示を出す様子を思い浮かべてみる。そういえば、二年の間にユストクスを入れたり、ハルデンツェルへグーテンベルクの派遣を決めたり、勝手に変わっていたことはあった。けれど、それを迷惑だとは全く思わない。
「助かると思っています。むしろ、フェルディナンド様が手伝ってくださらなければ、わたくしはとても困ります」
「ご自分よりも立場が上の者に手伝われることが必ずしも困った状況になるとは限らないのです。けれど、助けになるためには相手のことを考えなければなりません。姫様は今、ご自分の事しか考えていらっしゃいません。ソランジュ先生にとって有益なお手伝いを申し出ることができれば、お仕事を任せてもらえるのではありませんか?」
リヒャルダに諭されて、わたしは「はい」と小さく頷いた。
「わかりました。ソランジュ先生とのお茶会は止めておきましょう」
「いいえ、お茶会は大事ですわ、ローゼマイン様。わたくしはソランジュ先生とのお茶会自体は行った方が良いと存じます」
「ブリュンヒルデ?」
わたしが目を瞬くと、ブリュンヒルデがわたしに向かって、にっこりと笑った。
「全く知らない相手にお願いされるよりも、やはり気心の知れた相手の方が受け入れやすいですもの。お互いを知るためにお茶会があるのです。最初は交流を深めるところから始めなくては。わたくし、ローゼマイン様のためにお茶会の準備をいたします」
「ブリュンヒルデ、少し待って、よく考えてくださいませ」
リーゼレータが軽く手を挙げて、ブリュンヒルデとわたしを見た。
「関係を深めるためにお茶会を開くことには賛成いたしますけれど、ソランジュ先生のご負担になりませんか? 図書館を管理されているのは、ソランジュ先生お一人でしょう? お茶会の間、図書館はどうなさるのですか?」
リーゼレータの指摘を受けて、図書館に浮かれてのぼせていたわたしの頭が、すぅっと冷えた。これまでにいくつもソランジュについての情報が入ってきていたのに、全く考慮できていない。独りよがりにも程がある。
よく考えてみれば、ソランジュは一人で図書館の管理をしているのだ。わたしがお茶会に招いたところで、参加できるわけがない。シュバルツとヴァイスだけに図書館を任せられるとも思えないので、わたしの我儘で図書館を閉めて、お茶会に参加しなければならない事態が起こる可能性があったのだ。
「ごめんなさい、わたくしの考えが足りませんでした」
「それがわかれば、次にどうすれば良いのか、よく考えればよいのです。そして、姫様。最も大事なことですが、それをわたくし達に相談してくださいませ。姫様がどうしてそのようにしたいのか、何を求めてそうしようと思ったのか、わたくし達に教えていただきたいのです」
リヒャルダがそう言いながら、わたしの前に膝をつき、やや下から視線を合わせてくる。そして、わたしの手を取り、困ったように一度目を伏せた。
「本来、側仕えとは全てを語られなくても、主の意を汲み、行動しなければなりません。けれど、わたくし達は姫様にお仕えした時間があまりにも短いのです」
わたしは洗礼式の後、領主の養女となり城へと移ったけれど、養女となった後も神殿にいることの方が多かった。その上に、二年間も空白の時間があるのだから、一番長く仕えてくれているリヒャルダでも、実際に接した時間はそれほど長くない。
「姫様と接する上で、体調管理に関してはフェルディナンド様から色々と注意を受けましたし、お薬を預かっております。けれど、仕える上で重要なことをわたくしはまだ知らないのです」
「リヒャルダはよく仕えてくれていると思いますけれど?」
わたしが生活するのに困らないよう万事を整えてくれている。わたしの言葉に、リヒャルダはゆっくりと首を振った。
「わたくしは姫様の側仕えとして、まだ三流の仕事しかできていないのですよ」
わけがわからなくて、わたしは目を瞬いた。リヒャルダが三流ならば、誰が一流なのだろうか。リヒャルダが殊の外真剣な黒い瞳でわたしを見つめる。
「生活に不自由なく周囲を整えることができるのは側仕えとして最低限の仕事です。主の意図を察することができずに命じられるままに動くのは三流、命じられれば即座に意図を察することができて二流、意図を察して命じられる前に動けて一流でございます」
「……その基準で、リヒャルダが三流なのですか?」
わたしはリヒャルダの側仕えという仕事に対する心構えに驚かされた。けれど、リヒャルダの言葉を聞いているリーゼレータとブリュンヒルデはとても真剣な顔をしている。
「わたくしは何人もの方にお仕えしてきました。初めてお仕えしたのはグレートヒェン様、その次はガブリエーレ様でした。ヴェローニカ様にお仕えしたことも、ボニファティウス様にお願いされてカルステッド様にお仕えしたこともございます。ゲオルギーネ様にもお仕えしましたし、ジルヴェスター様にもお仕えいたしました」
リヒャルダが挙げるいくつかの名前には知らない人の名前もあった。それだけ長い間、リヒャルダは色々な貴族を見てきたのだろう。
「成人するまでの見習いの頃はともかく、成人してからは一流の仕事ができたと自負しております。けれど、今はとてもそのような自負を持つことはできません。姫様は神殿でお育ちのため、わたくしが今までに仕え、接してきたどの貴族の令嬢方とも行動の基となる考え方が違うのです」
自分の常識と経験に照らし合わせてわたしの意図を察しようと思っても、わたしは予想外のことをするし、聞いてもよくわからないことがあるとリヒャルダは言う。
「ご自分の体調よりも本を優先する情熱、成績向上に関する考え方、お茶会に対する行動……。どれをとっても、わたくしには姫様のお考えがわかりません。長年、色々な方に仕えて参りましたが、姫様にお仕えするのはとても難しいのです」
リヒャルダから見たわたしは、非常にアンバランスで不可解なのだそうだ。大人でも悩むことをサラリとこなし、上手く場をあしらうこともあれば、洗礼式を終えた子供ならば誰でも知っていることがわからずに右往左往していることもある。
「姫様が何を知っていて、何を知らないのか、何が足りなくて、どのように不足分を埋めていけばよいのか、わたくしも手探り状態なのでございます」
そこまでリヒャルダに負担をかけているとは思わなかった。わたしは貴族院に来てからの自分の言動を振り返って、ちょっと反省する。
今まではわたしが本に突進することを知っている人が周囲にいた。ルッツと神官長はわたしがマイン以外の人生を歩んだことがあると言うことを知って、常識と違うことをしようとするとすぐに止めてくれていた。
ここにはどちらもおらず、わたしがずれていても修正してくれる人がいない。そんな当たり前のことにやっと気付いた。そして、血の気が引いた。常識の違いで起こる諍いやいざこざが権力に比例して大きくなることは経験で知っている。
「わたくしが一番怖いのは、姫様の言葉通りに事をなして、姫様の意図したものとは全く違う結果が出ることでございます。主が動きやすいように補佐する側仕えが、主の意図を理解できなければ、良い仕事はできません。ですから、姫様、必ず相談してくださいませ」
そういえば、ここでは「報告しなさい」と口うるさく言う人がいなかったから、報・連・相さえ最近はまともにしていなかったような気がする。
「では、リヒャルダ。わたくしは図書委員になりたいのですけれど、どうすればなれると思いますか? 領主候補生に相応しい要求の仕方を教えてくださいませ」
わたしの言葉にリヒャルダが難しい顔をした。
「まずは姫様がソランジュ先生に何を要求するのか、明確にしてくださいませ。図書委員というものが一体何か、わたくしにはわかりません。図書委員とはどのような存在で、図書委員となった姫様は何がしたいのですか?」
お手伝いならば、シュバルツとヴァイスで足りていますよ、とリヒャルダは言った。冬の間は生徒の登録と削除、そして、本の貸し出しと返却、キャレルの管理が仕事の大部分を占める。それ以外の仕事は別の季節に回しているのだから、シュバルツとヴァイスがいれば、大半をこなせる。冬の間、領主候補生のお手伝いなど必要はない。
「わたくしは本日の午前中、図書館でソランジュ先生とお話をする姫様の言葉を聞いておりましたが、言葉の端々から察するところ、姫様は単純にお手伝いがしたいわけではないようだと思ったのです。本の位置について、色々と口にしておられましたよね?」
リヒャルダに指摘されて、わたしは思わず言葉に詰まった。確かにリヒャルダの言う通りだ。わたしはソランジュの手伝いがしたいわけではなく、貴族院の図書館にローゼマイン十進分類法を持ち込んだり、本を探しやすいように目録を作ったり、それに沿って本棚を整理したりしたいのである。
「わたくしは図書館の本が返却の位置も定められず、適当に置かれているのが気に入らないのです。使いやすいように並べ替えたいですし、どこにどの本があるのか明確にし、行方不明となった本を回収したいのです」
「それはもう、お手伝いの域を越えておりますね」
呆れたようにリヒャルダが、お手伝いというよりは図書館の運営です、と肩を竦めた。
「ローゼマイン様、それをお手伝いだと言われるとソランジュ先生はとても困ったと思います」
リーゼレータが何とも言えない顔で、リヒャルダに同調する。どうやら、わたしが考えていたことは、非常に無謀で無茶なことだったらしい。
「貴族院の図書館を改革するのは、それほど難しいでしょうか。ソランジュ先生と仲良くなれば、何とかなると思ったのですけれど……」
図書委員となってお手伝いをしながら、気安い茶飲み友達くらいまで昇格できれば、麗乃時代は図書館の中で結構いろいろと融通を利かせてもらっていた。リクエストは自分の欲しい本を優先してみたり、返却された本を自分が借りられるように確保しておいてもらったりと楽しい時間を過ごしていたのだが、貴族院では同じようにはいかないようだ。
「そこまで関わることを望んでいるのでしたら、図書館の管理をするシュバルツとヴァイスの主として、図書館に関わり運営していきたいので、それを認めてほしいとお願いする方が、ソランジュ先生にとっては気が楽でしょう」
「……え?」
「シュバルツとヴァイスの主として図書館に関わりたいと、申し出て、ソランジュ先生を通して中央から許可がもらえるように交渉なさいませ。中央からの許可があれば、姫様が図書館で自由に過ごしても全く問題ございません」
リヒャルダはあっさりとそう言った。
ソランジュの上司から許可をもらって、自分の好きなように図書館を動かすのは、わたしの考えている図書委員とはずいぶんと違う気がする。
「命令ではなく、好意や関心を持ったうえで、ソランジュ先生に協力していただきたい、と姫様はお考えなのでしょう?」
「そうです」
どんな風に本を分類するのが貴族院の図書館にとっては最善なのか、どのように本を管理していくのが良いのか、ソランジュと話をしながら考えていきたい。命令したいわけではないのだ。
「でしたら、ソランジュ先生が進んで中央に申請してくださるくらい仲良くならなければなりません。そのための社交が必要です」
リヒャルダの言葉に、わたしは大きく頷いた。
「ソランジュ先生とお茶会ができるくらいに仲良くなれるように、毎日図書館に通うところから始めます!」
「……姫様、本だけ読んでいてもお茶会は開けませんよ。本以外のことにも目を向けてくださいね」
わたしが正式に図書委員となるためには、かなり遠い道のりが必要なようだ。
……しばらくは、自称図書委員でいいや。