Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (359)
私的な報告会
「報告会では、本当に結果が報告されただけでしたけれど、実際はどうだったのですか? わたくし、貴族院で気を付けなければならない相手や言動があるならば、教えておいてほしいのですけれど」
ただでさえ、社交性に心配があると言われているのだ。準備はなるべくきちんとしておいた方が良い。わたしの言葉に、神官長は軽く肩を竦めた。
「君の場合、近寄って来る者には全て気を付けろというのが一番正しいな」
「……それはそうでしょうけれど、中でも特別に注意しなければならないのは、どのような方ですか?」
「エーレンフェストが10位に上がったので、少し下の順位の領地には妬みを買っている。去年と順位が入れ替わったわけだから、一応上に対する態度を取っていても、実際の風当たりは厳しくなるぞ。そこで臆すると、相手が増長するが、威張りすぎると、次に順位が入れ替わった時の当たりがひどくなる」
養父様が言うには、以前にも政変で順位が入れ替わり、ひょいっと浮上した年は「よりにもよってエーレンフェストよりも下か」と負け組についてしまった周囲の順位の領地から妬まれて大変だったそうだ。
それまでエーレンフェストは底辺だったわけだし、政変では中立で何もしなかったのに、順位だけは上がったので、妬まれても仕方がないと思う。
「それにしても、あれほど次々と婚姻の打診があると考えていなかったので、驚いたぞ」
「領地対抗戦の時はそれほどでもなかったのでしょう?」
領地対抗戦は領主会議の前哨戦だと聞いた。そこでは下位領地からはいくつかあったが、上位領地は全くなかったと聞いたはずだ。
「おそらく、其方が最優秀となったことと、エーレンフェストの順位が一気に上がったことが大きかったのであろう。本当に、王の承諾を先にもらっていてよかった。図書館の魔術具について、少し言われたが……」
「シュバルツ達について、王族に何か言われたのですか?」
わたしにとっては一番重要な報告かもしれない。身を乗り出すようにして聞くと、養父様が首を振った。
「言ってきたのは、中央の上級貴族の文官達だ。図書館の魔術具の衣装は新調できるのか、と尋ねてきて、ずいぶんと親切に色々と教えてくれたぞ」
そこで言葉を切って、神官長を見ると、ニヤッと笑った。
「図書館の魔術具の衣装は、中央の上級貴族である司書が主となり、数人がかりで作り上げるものらしい。片田舎のエーレンフェストに代わりとなる衣装が作れるのか、とずいぶんと心配してくれた。素材を集めることさえできずに、お粗末な衣装を着せることになるのではないか、だと」
「ほほぅ……」
神官長の表情が実に愉しそうなものになっていく。
「では、来年の評価が楽しみだな。ローゼマイン、刺繍の手を抜かぬように。私が作った魔法陣には全く問題がないが、刺繍や見た目がお粗末だと付け入る隙を与えるような衣装は許さぬ」
……うわ、神官長が本気になっちゃったよ。
「ジルヴェスター、ローゼマインが警戒すべきは、一体どこの領地だ? 婚姻の申し入れについて、もう少し詳しく言え」
「警戒が必要なのは、クラッセンブルクとダンケルフェルガーとドレヴァンヒェルだ。それ以外は下位になるので、それほどの警戒は必要ない」
「……え? ダンケルフェルガーはないですよ。レスティラウト様はわたくしのことを偽物聖女だとか、悪辣だとか言って嫌っておりましたもの」
宝盗りディッター前後でのやり取りについて、わたしが言うと、神官長がすっと目を細めた。
「申し入れはその宝盗りディッターが原因に決まっている。ダンケルフェルガーの騎士団長とその甥が君を強硬に推したに違いない。ダンケルフェルガーの騎士は自分達を上手く用いる策士を殊の外持ち上げるのだ」
「何か心当たりがあるのですね? フェルディナンド様にも同じような申し出があった、とか?」
わたしが神官長を見上げると、神官長は軽く頷いた。
「ディッターの得意な者を騎士団が持ち上げて、アウブがちょうど良い年回りの子供に結婚を押し付けようとするのだ。いくら最優秀とはいえ、底辺に近い領地の領主候補生を押しつけられそうになったため、ダンケルフェルガーを出奔しようと王族と恋仲になり、政変の最中に第三夫人として王族に嫁いだ姫君ならば、記憶にある」
「……そ、それは、とても行動的な姫君ですね。基本的に親の言う相手と結婚するものだと思っていました」
「欲しいものは自分で勝ち取れ、というのが領地の色らしいからな。自力で王族との婚姻をまとめてきた以上、親は文句が付けられなかったそうだ」
……うわぁ 、ダンケルフェルガーのお姫様って、強い。ハンネローレ様はそんなふうに見えなかったけど、実はすごいのかな?
神官長の話を聞いたお父様が「ふぅむ」と顎を撫でた。
「ダンケルフェルガーの領主候補生はレスティラウトと言ったか? 彼が本気で嫌がれば、問題はないかもしれぬな。盛り上がっているのは周囲だけならば、厄介なのはドレヴァンヒェルかもしれぬ」
「何故ですか?」
「同じ年に男の領主候補生がいるのであろう? そして、二年生の間は姉の方にお世話になることが確定しているとローゼマイン自身が先程言ったではないか」
お父様の言葉にわたしはポンと手を打った。来年はアドルフィーネの世話になるのは、間違いないと思う。
「ローゼマインを妹のように可愛がっているとアウブ・ドレヴァンヒェルは言っていたぞ。それに、あそこは魔術具に関心が強い。フェルディナンドが色々と教えた其方が目を付けられないわけがない」
いや、さすがにそこまで仲が良いわけではない、とわたしは主張したが、上位領地がそう言う以上、二年生ではそうなるのだそうだ。
そんな養父様の不安に対して、神官長は軽く首を振った。
「ドレヴァンヒェルは引き際を弁えている。王からの承認があった婚約に口を挟んだり、解消のために暗躍したりはしない。ただ、魔術具についてしつこく聞かれるだけだ。ローゼマインやヴィルフリートが勘合紙について聞かれるくらいで済むだろう」
ドレヴァンヒェルの文官は研究欲が旺盛なので、話をすると楽しいだろう、と神官長は言った。残念だけれど、わたしは本や図書館に関係のない研究には興味はない。魔術具について色々話しかけられても、基本的にはちんぷんかんぷんだと思う。
「とりあえず、領主会議ではリンシャンはもちろん、会食で出した料理もずいぶんと色々な領地の関心を引いていた。大領地から次々と会食に誘われ、こちらも誘わざるを得なくなって、非常に大変だったのだ。次の貴族院も大変だと思うぞ」
「貴族院でヴィルフリート兄様が経験したのと、全く同じ状況ですね」
これまで大領地とほとんど付き合いのなかったエーレンフェストが突然交流を持つことになって、誰もそのノウハウがないという状況はすでに貴族院で経験している。
「ノルベルトまで呼んで、料理人も余計に移動させて、対応したが……次の貴族院はもう少し料理人や移動させる側仕えの人数を考えた方が良いかもしれぬ。レシピ集に関しては、まだ出さぬのであろう?」
「レシピ集はエーレンフェストで出回り始めましたから、夏に来た商人の手から広がってもおかしくないですし、次の貴族院でもそれとなく広げていくつもりです。まだ印刷物は早いでしょうか?」
わたしとしては、料理のレシピや楽譜など、あまり座学の成績に関係のないところから広げていきたいと思っている。わたしの言葉に、養父様は「構わぬ」と言った。
「印刷業の規模を考えて、其方が主導で広げていくのならば、良いのではないか? 平民への負担や流通できる規模については其方の方がよくわかっているであろう?」
むぅっとわたしは考える。その辺りは文官達を育てつつ、下町と連携を取って進めていきたい。少し考える時間が必要だ。
「そうですね。来年の夏までにはもう少し印刷工房の数を増やさなければ厳しいですね」
「性急過ぎぬように気を付けなさい」
「確かに性急に変わると反発は大きいかもしれませんが、ここで変わらなければエーレンフェストはずっと下位領地から脱することはできませんよ。クラッセンブルクやダンケルフェルガー、ドレヴァンヒェルといった大領地がどのようにして平民と付き合っているのか、どのように領地を運営しているのか、情報を仕入れる良い機会だと思います。いつまでも同じ意識ではいられませんよ」
今回の流行でわかるように、平民を上手く使わなければ、流行や特産品を広げることもできない。多分、エーレンフェストは平民の使い方が、とんでもなく下手なのではないかと思う。
「せめて、派閥争いだけでもマシになってくれれば良いのですけれど……。ランプレヒト兄様達の花嫁がいらしたら、ずいぶんと活性化する方々がいるでしょうね」
お母様の手腕でせっかくまとまりつつあった派閥はゲオルギーネの来訪で一度潰され、ヴィルフリートの失態を罰し、旧ヴェローニカ派を下げ、わたし達への襲撃や魔力圧縮の餌によって、まとまりつつあったのに、またアーレンスバッハからの横やりが入った。
「どうして、ここまで旧ヴェローニカ派はアーレンスバッハに踊らされるのでしょう?」
「根強い旧ヴェローニカ派は、元々アーレンスバッハの者だからな」
「え?」
思わぬ言葉にわたしが顔を上げると、神官長が「何故そんな簡単なことがわからない?」とこめかみを押さえた。
「アーレンスバッハの姫君の輿入れだぞ。一人で来るわけがなかろう。当然のことだが、側仕えや護衛騎士が付いてくる」
スパイを警戒するので、輿入れに文官の同行が許されることは少ないそうだ。けれど、最も身近で身の回りの世話をする者と危険から守る同性の護衛騎士はやって来る。そんな側近の婚姻は、当然のことだが、エーレンフェストの者が相手だ。
姫君の側近とその縁者は、当然のことながら、姫君やその娘であるヴェローニカの後ろ盾になった。もちろん、ヴェローニカが領主夫人となることで、もっと大勢を派閥に取り込んできたが、中心はアーレンスバッハからやってきた側近の縁者らしい。
「なるほど、旧ヴェローニカ派の動向がアーレンスバッハに左右されるわけですね」
「旧ヴェローニカ派には、私ではなく姉上を次期領主として盛り立ててきた者が多い。今は私しかアーレンスバッハの血を引く領主がいないので、私に付いているが、姉上が第一夫人となり、エーレンフェストに影響力を持つことを喜ぶ者は少なくない」
……旧ヴェローニカ派とゲオルギーネ様には色々と面倒な繋がりがあるらしい。
「その中でも姉上に心酔していた貴族が、南に多いのだ。ゲルラッハ子爵やダールドルフ子爵は、今回のランプレヒト達の婚姻で盛り上がるに違いない。領主会議ではニッコリと笑顔で話し合ってきたが、相変わらず姉上の笑顔には毒がある。思い出すだけでこの辺りがキリキリするくらいだ」
養父様は胃の辺りを押さえながら溜息を吐いた。
「お断りはできなかったのですよね?」
「できたら、している。これでも最大限の努力はした」
アーレンスバッハは領主会議において、肉親の情に訴えて取引を願い出てきたらしい。大領地で親族であるアーレンスバッハを優先するべきではないのか、という意味のことを貴族らしい遠回しな物言いで。
養父様は、今年の取引相手はすでに決まっているし、来年もこのままではダンケルフェルガーとドレヴァンヒェルと取引を増やすことになるだろう、というようなことを言って、アーレンスバッハの意見を退けたそうだ。
「たとえ肉親の情ですがられても、第6位のアーレンスバッハより、第1位のクラッセンブルクを優先するのは当然ですよね? そういえば、アーレンスバッハは何位だったのですか?」
「上位は特に変わっていない。そのままだ」
養父様がそれとなく、領主一族に攻撃を仕掛けてくる貴族がいる土地はいくら肉親がいても良い感情を抱くことはできない、と言うと、アウブ・アーレンスバッハがランプレヒト兄様達の婚姻の話を出してきたそうだ。
「たった一人の貴族の愚かな行為が両領地間にずいぶんと大きな影を落とした。ゲオルギーネの実家でもあるエーレンフェストとはこれからも親密な関係を築いていきたいと思っている。その証として、二組の婚姻を認めよう」
ユルゲンシュミット全体が魔力不足のご時世に、自分の姪ともう一人、中級貴族の娘を嫁がせるのだから、文句はあるまい、とアウブ・アーレンスバッハが言ってきたらしい。
「アウブ・アーレンスバッハは本当に両領地間に溝ができてしまった現状を憂えていらっしゃるのです。お隣同士で険悪で、わたくしも実家に寄ることさえできない現状は、ひどく寂しいですもの。わかるでしょう、ジルヴェスター?」
そう言ってゲオルギーネもアウブ・アーレンスバッハの後押しをしてきたようだ。
姉であるゲオルギーネこそエーレンフェストに入れたくないです、と正直に言うこともできずにいると、「上位領地であるこちらが譲歩していることがわからないほど愚かではありませんよね?」と遠回しに貶されたらしい。
同時に、アウブ・アーレンスバッハから、「姪は未だに想いを抱き、嘆いているのに、其方の息子はすでに心変わりして新しい相手がいるのではあるまいな?」とお父様が眼光鋭く問われたそうだ。それは、相手がいてもこちらを優先せよ、と押してくる権力の固まりで、お父様は「私の息子はそのような考えの浅い者ではございません」としか答えられなかったらしい。
「護衛騎士として同行している私が、他領のアウブから直接睨まれて問われるなど、これまではなかったことだ。頭が痛くなった」
……すごいゴリ押し。
ついでに、ヴィルフリートとわたしを婚約させたことについては、女同士のお茶会でフロレンツィアが文句をつけられたようだ。
「ヴィルフリートとローゼマインを婚約させたそうですけれど……ローゼマインは神殿育ちなのでしょう? そんな子を婚約させるなんて……」と非難されたらしい。
ヴィルフリートをディートリンデの婿に欲しかった、と訴えつつ、艶然とした笑みを唇に乗せて、ゲオルギーネは言ったそうだ。「ヴィルフリートはアーレンスバッハの血も引いている優秀な領主候補生ですけれど、エーレンフェストでは次期領主となるのが難しいでしょう?」と。
それはヴィルフリートが白の塔に入り、エーレンフェストでは罰せられた領主候補生だと知っているということだ。
「話を聞いただけで腹が立ったぞ。エーレンフェストの領主候補生の中で、一番ヴィルフリートがディートリンデと年回りがよかったとか、ローゼマインをエーレンフェスト内で取りこんでおきたいならば、別に上級貴族に降嫁させるのでもよかったでしょうとか、回りくどいことをフロレンツィアに!」
ゲオルギーネの言葉を全て「アウブ・エーレンフェストと王が決定されたことですから」と笑顔で流した養母様はさすがだと思う。
「フレーベルタークのリュディガー様もアーレンスバッハの血を引いた領主候補生でしょう? リュディガー様の方がディートリンデ様とは年回りも合うのではございませんか?」
わたしが首を傾げると、養父様は軽く肩を竦めた。
「フレーベルタークが15位でなければ、考えたかもしれぬが、今の順位でアーレンスバッハに婿入りすることはなかろう」
「エーレンフェストも決して高くはないのですけれど……」
今の順位は10位だ。正直なところ、まだ真ん中で、決して順位が高いとは言えない。もちろん、これから上げていくつもりではあるけれど。
「ヴィルフリートや其方が卒業する頃には、もっと上がっているのは、見る目がある者ならばわかるはずだ」
「見る目がある者、というか、一過性の流行かどうかは自分の目で確かめてみろ、とジルヴェスターが煽ったせいではないか?」
護衛騎士として一緒に行動していたお父様が肩を竦めてそう言った。あまり順位の変わらない領地の者達に「一過性の流行」「所詮エーレンフェスト」と言われて、負けず嫌いな養父様が受けて立ったらしい。
「……事を荒立てるなとか、問題を起こすなとか、わたくしには散々おっしゃるのに、ご自分は喧嘩を売ってきたのですか?」
「喧嘩を売ったのではない。むしろ、買ったのだ。下位領地になめられぬ態度も領主には必要だからな」
フンと養父様が鼻を鳴らし、神官長は「間違いではないが、状況が読めていない君は絶対に真似をするな」とわたしに注意した。
「わたくし、基本的に温厚ですから。喧嘩を売ったり、買ったりなんていたしません。本や身内が絡まない限りは」
「本や身内が絡むと、全く後先を考えずに暴走するので、君の場合はそれが一番怖い」
……それはすみません。でも、多分、直らないと思うよ。
神官長の指摘に、すいっと視線を逸らし、わたしは一歩後ろに引いた。
「とりあえず、アーレンスバッハには最も警戒が必要だ。アウブ・アーレンスバッハがいる時といない時で姉上の態度が違うし、ヴィルフリートやユストクスから報告されているディートリンデの言動も両親と噛み合っていない。何が目的で、エーレンフェストをどうしたいのか、全くわからぬ。それぞれが別の思惑で動いているようにしか見えぬ」
養父様の言葉に神官長も頷いた。
「おそらく二人の花嫁を出したのだから、と来年の領主会議で無理難題を押し付けてくるのではないか、と思う。もしくは、花嫁には役目が割り振られていて、送り込むこと自体が目的か……。今の時点ではわからぬな」
いずれにせよ、あまり明るい気分にはなれない結婚話である。
「ランプレヒト兄様、せっかくご自分のお好きな方と結婚できることになったのに、このような状況では喜べませんね」
「本人も自分の立場をわかっているのであろう。困った顔になっていたな」
お父様も苦い笑みを浮かべる。アウブ・アーレンスバッハの姪である。第二夫人として、離れに押し込めておくようなこともできない。ヴィルフリートの筆頭護衛騎士の第一夫人となり、家のことを取り仕切ることになる。情報が簡単に得られる地位だ。
「ローゼマイン、ランプレヒト達の星結びの儀式は、神殿長である其方に行ってもらうことになる。私としては、あまり其方をアーレンスバッハの前に出したくはないのだが、領主候補生である其方は最も地位の高い神殿長だ。両領地のアウブが出揃う儀式には最も位の高い神殿長が儀式を行うのが暗黙の了解となっている」
そして、わたしが一人で失敗しないように、神官長を補佐として、お目付け役として付けておくそうだ。
「祝福を平等に与える練習をしておくように。其方、感情のままに祝福を与えたら、偏るのであろう?」
「……うっ、頑張ります」
確かに、わたしが感情のままに祝福したら大変なことになる。意識的に祝福を与えるようにしなければならない。
「儀式に関することは其方等二人に任せる。こちらは城の守りをどうするのか、移動中、宿泊中等に襲撃がないか、など考えねばならぬことがたくさんあるからな」
「襲撃があるのですか? 輿入れですよね?」
おめでたい席なのに、あまりにも物騒な言葉が出てきて、わたしは目を見張った。
「両方のアウブが集まる時だ。城は手薄になるし、重要人物がごっそりと動くのだから、警戒は必要に決まっている。……ローゼマイン、其方も魔力で鎧を作れるようになっておいた方が良いぞ」
お父様が不意にそう言った。突然の襲撃に備えて、がっちりと守りは固めておかなければならないそうだ。魔石で作る騎士達の鎧を防弾チョッキのように神殿長の儀式服の下に着ておけ、と言われた。
そんな防御が必要なのか、とわたしが神官長を見上げると、神官長はゆっくりと頷いて肯定した。
「必要であろうな。其方の側近を連れて行くならば、鎧が持てるものでなければならぬ。それ以外は留守番をさせておきなさい」
「わたくし、儀式に神殿長として向かうのですけれど、側近を連れて行かなければならないのですか?」
「領主候補生と神殿長、どちらの立場も取れるように、両方から連れて行かねばならぬ。……私も同じだが」
神殿の側仕えも、城の側近も連れて行くことになるらしい。フラン達を連れて行くならば、フラン達の守りも固めなければならない。
「また魔石が必要ですね」
「必要ならば渡すので、君は自分の守りを固めなさい。境界は危険だ。こちらから攻撃を仕掛けたような状態になっても困る。守りに徹することが肝心なのだ」
「そうだ。いつぞやの襲撃の時のようにいきなり魔力で攻撃をするようなことになっては困るからな。境界を守る領主の魔術にも限度があるのだ。気を付けろ」
青色神官に扮して同行した祈念式で起こった襲撃に、わたしが魔力を暴走させたことで、境界の結界を強化するのは本当に大変だったと養父様がぼやいた。
「君に攻撃の魔術を教えるのは非常に不安だが、身を守り、周囲を守るための魔術は教えておいた方が良さそうだな」
守るための手段があれば、そうそう攻撃には転じないだろう、と神官長が呟き、わたしは防御に関する魔術を色々と教えられることになった。