Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (383)
武器の強化
いくら何でも武器に水鉄砲はないだろう。ピシュピシュと水が噴き出すだけのおもちゃでは武器にならない。
……わたしに必要なのは、自分の身を守るための武器なんだよ!
「ローゼマイン様、その手にされていらっしゃる物は何でしょう? 武器ですか?」
わたしが握る水鉄砲を見たハンネローレの声に一番に反応したのはルーフェンだった。ずっと聞き耳を立てているのではないかと思うほどの反応速度でやってきて、わたしの手にある水鉄砲に目を止める。
「ローゼマイン様の新しい武器だと!?」
「違います! そのような大層なものではございません。子供のおもちゃです」
「いやいや、子供のおもちゃと言いながら実はものすごい武器が……。ぜひ威力を試してほしいものです」
ルーフェンが発する大声のせいで、周囲から注目が集まってくる。勘弁してほしい。「今度は何をするつもりだ」と言いたげな視線が痛い。
……お守り以外にも物騒なものを持っているのか、って顔をしている人がいっぱいいるよ! 物騒じゃないのに! ただのおもちゃなのに!
ひそひそと小声で交わされている会話はきっと好意的なものではないと思う。もうシュタープの変形自体は合格したのだから、このまま逃げ出して図書館にこの身を隠してしまいたい。
「さぁ、ローゼマイン様。あの敵に向かって!」
いつの間に準備がされていたのか、布でぐるぐる巻きにされている数体の物体をルーフェンが指差した。変形させた武器の性能を試すための本来の試験対象だろう。騎士見習いらしき男の子が剣で斬りつけているのが見える。
……よりにもよって、あのキリッとカッコよく強そうな男の子の隣に立って、水鉄砲をピュピュッと撃てと? すごくカッコ悪いよ、わたし!
あまりにも間抜けな自分の姿が思い浮かんで、思わずふるふると首を振った。
「ですから、ただのおもちゃなのです。これは武器として使えるような物ではございません」
「そう言って新しい武器を隠し持つおつもりですか? さすがフェルディナンド様の愛弟子」
「見せる必要がないだけで、隠すつもりなどございません」
「では、ぜひ拝見したいです」
ルーフェンが目を輝かせてグッと拳を握った。「よしっ!」と言いたげな顔を見れば、水鉄砲に過剰な期待をしているのが嫌でもわかる。
こうなったら、見せてやるしかない。水鉄砲がいかに武器としては役に立たないおもちゃであるのか。
……その期待に満ちた顔を失望で染めてやるんだから!
学生達が遠巻きになってこちらを見ている中、わたしは布巻の試験対象の前に立った。ゴクリと息を呑む音が聞こえる程の静寂が広がり、痛いほどの視線がわたしに、正確には水鉄砲に向けられているのがわかる。
「では、いきます」
わたしは布巻の試験対象に向けて水鉄砲を構える。構えだけは完璧だ。そして、小さな引き金に指をかけ、ぐっと引いた。
ピシュピシュ!
勢いよく飛び出した水は試験対象にギリギリ届かず、ピチャピチャと音を立てて床に落ちていく。そして、落ちると同時にわずかに光って消えていった。水鉄砲なのに中に詰まっていたのは水ではなく、わたしの魔力だったようだ。すぐに消えてしまうなんて、掃除いらずでとても素敵な水鉄砲ではなかろうか。
「……は?」
「え? え?」
わたしは自分の水鉄砲に感心していたが、周囲には呆気にとられた顔がずらりと並んでいた。ポカンとした顔のルーフェンが理解できないというように頭を振る。
「あの、ローゼマイン様、これは一体……? 武器として使える物には見えませんが……」
「ですから、子供のおもちゃだと言ったではありませんか」
「……恐れながら、何のために使うのですか?」
「そうですね。ちょっと人を驚かせるためでしょうか」
「なるほど。とても驚きました」
かなりガッカリとした顔でルーフェンが肩を落とした。失望の海に沈んだルーフェンを見て、これでディッターのお誘いもなくなるといいんだけど、と考えながら、わたしはシュタープの変形を解除する。
「リューケン」
手元の水鉄砲がなくなると、こちらを注視していた皆は興味を失ったようにそれぞれの練習を始めた。
視線が散ったことに安堵の息を吐き、わたしはハンネローレがいるところへと戻る。そこではハンネローレがやや青ざめて困りきった顔になっていた。
「申し訳ございません、ローゼマイン様。わたくしが新しい武器ではないかと考えてしまったせいで、ルーフェン先生が……。ローゼマイン様は最初からおもちゃだとおっしゃったのに、それなのに……」
おろおろとしているハンネローレをヴィルフリートが「ハンネローレ様の責任ではありませんから」と宥めている。わたしも一緒になってハンネローレに声をかけた。
「ルーフェン先生が早とちりをしただけですもの。ハンネローレ様には何の落ち度もございませんわ」
「けれど……」
「ハンネローレ様の言葉をルーフェン先生が拾っただけです。少し間が悪かったのです」
「そ、そうですね……」
ハンネローレのせいではない、と一生懸命に訴えたわたしの言葉に微かな笑みを浮かべて頷いてくれたけれど、何故かハンネローレが更に落ち込んだように見えた。
すぐに六の鐘が鳴り響き、シュタープを変形させる講義は終了となった。
そして、夕食後、ヴィルフリートはわたしとわたしの側近を呼び出して、本日の実技でわたしが行ったことについての報告をした。
シュタープを変形させる実技でシュツェーリアの盾とライデンシャフトの槍に変化させて周囲を驚かせたこと、神官長のお守りが盾の試験を行ったルーフェンに反撃したこと、水鉄砲を作ったことなど一切合財である。
「シュツェーリアの盾にライデンシャフトの槍ですか!?」
「試験で反撃とは……ルーフェン先生が試験官で幸いでしたね。これがフラウレルム先生だったら大変でした」
皆が驚愕に目を見張り、口々に感想を言い始める。確かに、神官長のお守りが発動したのはわたしにとっても驚きだった。何かと目の敵にされているフラウレルムが相手でなくて良かったと今更ながらわたしも思う。
「……其方の側近を始め、エーレンフェストに報告書を書かねばならぬ私の身にもなってくれ、ローゼマイン」
ヴィルフリートが溜息を吐きながらじろりとわたしを睨む。そう言われて、去年はヴィルフリートのいまいちな報告書に保護者達が頭を抱えていたことを思い出した。ヴィルフリートとその文官見習いの報告書の書き方は上達したのだろうか。
「では、ヴィルフリート兄様の代わりにわたくしが書きましょうか?」
「其方、自分に都合の悪いことは報告せぬだろう?」
「そんなことはございません。わたくしは事実だけを簡潔に、かつ、的確に書きだすだけですよ」
失敬な、とわたしがヴィルフリートを見ると、コルネリウス兄様が深々と溜息を吐いた。
「事実だけを簡潔に、かつ、的確に報告したら、今日の実技も合格しました、になるのですね。ヴィルフリート様がローゼマイン様と同じ学年で本当に良かったと心の底から思います。ローゼマイン様の報告は簡潔すぎますから」
コルネリウス兄様がそう言って、ちらりとわたしを見た。そんな目で見られても困る。わたしは盾と武器にシュタープを変形させる実技で、盾と武器に変形させただけだ。「今日の実技も合格しました」それ以外に何の報告がいるのか。
神殿育ちのわたしがシュツェーリアの盾しか作れないことは保護者達も知っているし、水鉄砲なんてルーフェンがガッカリするくらい何の役にも立たないおもちゃだった。神官長のお守りがどのような反応をしたのかは研究のためにも報告が必要だろうけれど、それ以外は特筆すべきことではない。
「わたくしの報告がご不満でしたら、報告したい方が報告すればよいのではございませんか? わたくしは報告されて困るようなことは何もしていませんし」
「違うぞ、ローゼマイン。報告せねばならないような事態を起こさないでほしいと言っているのだ」
ヴィルフリートの言葉に深く頷いているのはリヒャルダだ。
だが、ハルトムートはむしろ嬉しそうに目を輝かせて、もっと詳しく聞きたいと身を乗り出している。
「素晴らしいです、ローゼマイン様。シュツェーリアの盾にライデンシャフトの槍、エーレンフェストの聖女にとても相応しいと存じます」
「感動しているハルトムートには悪いけれど、槍は使い勝手が悪いので、わたくしの武器にはいたしません。標的に向かって投げられるだけの力がありませんし」
シュネティルムを倒した時は神官長の補助があったから投げられたのだ。あれを一人でやれ、と言われても絶対に無理だと胸を張って言える。
「そのための身体強化ですよ、ローゼマイン様」
「……ハルトムート、わたくしの身体強化は日常生活を送るためです」
のっそりと歩くくらいは補助の魔術具なしでもできるようになっているけれど、わたしはただでさえ体が小さくて、何かする時に他の人に置いて行かれがちだ。皆と同じスピードで動くためには身体強化は欠かせない。
「ですが、いざという時のために武器は必要です。槍が使いにくいならば、尚更、別の武器が必要になりますよ。どうされますか?」
「わたくしも武器の必要性は感じています。できれば、遠距離から騎獣に乗った状態で、騎獣の窓から手を出して片手で攻撃できるような武器が望ましいのですけれど」
わたしが自分の理想の武器について条件を上げると、騎士見習い達が何とも言えない表情で顔を見合わせた。
「ローゼマイン様の片手で扱える武器ですか?」
「両手でも短剣くらいしか持てないのでは?」
「フェルディナンド様のお守りがローゼマイン様のための武器ではございませんの?」
護衛騎士見習い達の言うことは間違っていない。わたしの戦闘能力に全く期待していないから、神官長はお守りが必要だと判断しているのだ。
「ハァ。もう考えるな。試験にはもう合格したのだから、もうローゼマインの武器は叔父上のお守りでよかろう。話は終わりだ。報告書は私が書いておく」
それが報告会の締めの言葉となった。
わたしは部屋に戻って寝台にゴロリと寝転がると、考えなくても良いと言われた自分の武器について考え始めた。神官長のお守りは強力だが、全く自力で戦えないのも困る。敵が多く、お守りがなくなってしまうことも考えられるではないか。わたしにはライデンシャフトの槍でもなく、おもちゃでもない武器が必要なのだ。
「いっそおもちゃの『水鉄砲』じゃなくて、『銃』だったら役に立ったのかもしれないんだけどね……」
むぅ、と考え込みながら呟いたところで、わたしはハッとした。
……あれ? でも、わたし、あの時『水鉄砲』って言っただけだよね? 呪文じゃなかったよね?
剣を作るにも槍を作るにも呪文が必要なはずだ。形を似せるだけならば、シュタープを作り出す時もできた。けれど、剣としての、槍としての機能を持たせるには呪文が必要なはずだ。
首を傾げながら、わたしはシュタープを手にしてもう一度『水鉄砲』と呟いてみる。でも、シュタープは変形しなかった。
「なんで? あ、イメージしてないから?」
軽く目を閉じ、きちんと脳裏に水鉄砲を思い浮かべて唱える。今度は先程と同じ水鉄砲になった。つまり、イメージさえハッキリしていたら日本語で『剣』と呟いても剣になるのではないだろうか。
その仮説を早速実証しようと、わたしはシュタープを持ったまま剣を思い浮かべ、日本語で『剣』と言ってみた。でも、シュタープは全く変化しなかった。
「え? これはダメなの?」
剣も槍も盾も同じように神具をイメージして呪文を唱えれば変化するのに、日本語では変化しない。法則性がよくわからない。とりあえず、『印刷機』『コピー機』『はさみ』などいくつか試してみた結果、わたしが日本語の呪文で出せるのは、この安っぽいおもちゃの水鉄砲だけだった。もしかしたら他にもあるかもしれないが、わからない。
最終的に出してみた半透明の水鉄砲を手に、布団の上でゴロゴロしながら何度か撃ってみたけれど、本当の水ではない。当たった瞬間に消えてしまうのだ。布団の上で撃っても布が濡れない。そして、更に気になるのがいくら撃っても中の液体が減らない。わたしの魔力が尽きない限り使えるようだ。
「……この『水鉄砲』、何とか強化できないかな?」
手軽に片手で持てて、引き金を引くだけなので、レッサーバスのハンドルを握っていても攻撃できるところは合格なのだ。中に入っているのはただの水ではなく魔力なので、補充する必要もない。後は飛距離と威力を何とかできれば、武器になるかもしれない。
「水で武器と言ったら、ウォーターカッター? でも、殺傷力が出るくらいの水力ってどれくらいだっけ? うーん、いまいちイメージしにくいなぁ。いっそ消防車のホースみたいに大量の水で攻めてみる? いやいや、それだったらわざわざ水鉄砲を改造しなくても、ヴァッシェンで何とかなるでしょ」
思い浮かぶあれこれに自分でツッコミを入れながら、手の中にある水鉄砲を振る。半透明の水鉄砲の中に入っている水にしか見えない魔力が揺れる。
「中に詰まっているのが水じゃなくて魔力なんだし、神官長が使っていたような矢みたいにできないかな? トロンベを倒した時みたいに、こうピシュッと撃ったら矢に……」
ピシュッ! ズババババンッ!
撃ったら矢になって飛んでいくんだったらカッコいいかもと考えながら撃ったら、本当に矢になってしまった。しかも、トロンベ退治の時の神官長を思い浮かべたものだから、矢が分裂して、寝台を囲う天幕に突き刺さっている。魔力でできていた矢は突き刺さった後、スッと消えていったけれど、天幕に空いた穴は消えない。
……矢に、なっちゃったね。
ビックリしながら天幕を見上げていると、血相を変えたリヒャルダが天幕を跳ね上げるようにして飛び込んできた。
「姫様、何事ですか!?」
「え? えぇと……」
水鉄砲を構えたままの姿と、矢は消えたけれど穴だらけの天幕を見れば、リヒャルダには何があったのかすぐに理解できたようだ。
すぐさまきりりとリヒャルダの眉尻が上がっていき、くわっと目が見開かれ、眼光が鋭くなる。直後、リヒャルダの雷が落ちた。
「姫様っ! 寝台の上でシュタープを使うとは何事ですか!? 天幕を穴だらけにするような危険な武器はさっさと解除して、お休みなさいませっ!」
「ごめんなさいっ! 今すぐ寝ますっ! リューケン」
変形を解除すると、わたしはすぐさま布団に潜り込んだ。
……ごめんなさい、ごめんなさい! だって、本当に矢になると思わなかったんだもん!
次の日、朝食のために食堂へと向かう途中、側近が勢揃いした時点でリヒャルダが溜息を吐いて口を開いた。
「昨夜、ローゼマイン様が寝台でシュタープの変形を試し、ミズデッポウという武器で天幕を穴だらけにいたしました。ハルトムート、エーレンフェストへの報告にはそのことも書き加えておいてくださいませ」
「……あの、ローゼマイン様。寝台で武器を扱っては危険ですよ?」
呆気にとられて目を瞬くフィリーネにそう言われ、わたしはそっと視線を逸らす。昨日の実技はまだしも、寝台で武器を使ったのは間違いなくお説教されるに違いない。
「ローゼマイン様、ミズデッポウはただのおもちゃで、武器にはならないとおっしゃいませんでしたか?」
コルネリウス兄様が呆れたような表情を隠そうともせずにわたしを見ながら溜息を吐いた。
「元々は本当におもちゃなのですよ。でも、中身が魔力ならば、フェルディナンド様の弓のように打ち出した瞬間に矢にならないかしらとか、その矢が分裂すれば強い武器になるのにとか、つらつらと考えながら撃ったら、その……天幕が犠牲になりました」
「ローゼマイン様、そのミズデッポウという武器をぜひ拝見させてください」
ハルトムートがそう言うと、ユーディットも菫色の瞳を輝かせた。
「わたくしも見てみたいです。片手で扱えて、魔力が矢となって飛んでいく武器なのでしょう? わたくしにも使えるでしょうか?」
ユーディットが興奮気味にそう言うと、コルネリウス兄様も見たがった。どうやらわたしの所業に呆れはしていても、新しい武器は気になるらしい。
「朝食を終えたら、午前の講義までの間に採集場所へ行くのはどうでしょう? 寮の中では危険すぎますから」
新しい武器を見せるのがわたしでなければ雪の中で武器を扱っても良いのだが、わたしに雪の中で行動をさせるのは体調が不安だ、とレオノーレが付け加える。皆が了承したので、エーレンフェストの採集場所で側近達に改良型水鉄砲をお披露目することになった。
朝食を終えると、すぐにわたし達は採集場所へと騎獣で移動する。他の皆が多目的ホールで勉強しながら、どこに行くのか問いかけてきたが、ハルトムートがやんわりと流していた。
そして、騎獣に乗って採集場所へと向かう。すぐに黄色に光っている場所が見えてきた。一部分だけぽっかりと雪がないのは、いつ見ても不思議な感じだ。ただ、採集場所には魔獣もたくさん寄ってくるので、中に入ってしまうと騎士達は非常に忙しくなる。
「中に突っ込みながら、魔獣がいる、いないに関係なく攻撃してみます。護衛騎士は横についていてください。わたくしの前方には決して入らないでくださいませ。では、行きます。『水鉄砲』!」
わたしは集中してシュタープを水鉄砲へと変形させた。そのまま、左手だけでハンドルを握り、水鉄砲を握った右手をなるべく伸ばしながら、採集場所へと突っ込んでいく。
「わ!」
まるでマジックミラーの結界を突き抜けたように、一瞬で景色が変わる。その途端、前方に魔獣が数匹いるのが目に入った。
魔獣を見据え、神官長のトロンベ退治を思い浮かべながら、わたしはぎゅっと引き金を引いた。ピシュッと水鉄砲から飛び出した液体が光る矢の形を取り、分裂して飛んでいく。飛んでいった矢のいくつかは魔獣に突き刺さった。
「やった!」
「おぉ!」
ただ、突き刺さりはしたものの、怪我をさせることができただけで、一撃で倒すのは難しいようだ。魔獣はいくつもの矢が降ってきたことに一瞬怯んだものの、すぐさまこちら向かって攻撃を仕掛けてきた。
「行きます!」
スピードを上げたコルネリウス兄様の騎獣が魔獣に向かって突っ込んでいく。その手にはすでに剣が握られていて、あっという間に魔獣を狩ってしまった。
「ローゼマイン様の武器の威力は確認いたしました。すぐにこの場を離脱しましょう」
レオノーレの声が上がり、わたし達はほとんどとんぼ返りで寮へと戻る。下手に魔獣が増えてしまうと三人の護衛騎士見習いでは対応しきれなくなってしまうのだ。
「……武器を使っても魔獣を倒せませんでしたね」
もっとカッコよく一撃で何匹もやっつけられるかと思っていたのに、現実は甘くない。
「いいえ、十分です。予想外に魔獣が弱っていて驚きました」
コルネリウス兄様が「弱い魔獣ならば倒せましたよ」と首を振る。今日の魔獣はやや強かったらしい。
「すごい武器だと思います。でも、わたくしには使えませんね。あれだけの矢を打ち出せるだけの魔力が使えませんから」
ユーディットは残念そうに肩を竦めた。小さくて軽くて片手でも扱えるけれど、複数の矢を一度に打ち出す水鉄砲は非常に魔力の燃費が悪いそうだ。まさにわたしのための武器である。
……矢が飛び出す時点で、もう水鉄砲じゃないけどね。
予想外に水鉄砲の威力が高くて使い勝手が良さそうなので、わたしはこれから水鉄砲を自分の武器として、少しずつ改良していくことに決めた。
……だったら、いっそ、水鉄砲じゃなくて、もっとカッコいい黒い銃にしたいな。こう、ハードボイルドっぽく!
寮に戻って多目的ホールで皆が勉強しているのを見ながら、わたしは一人、水鉄砲の見た目を変えられないか奮闘していた。安物のちゃちな水鉄砲ではなく、カッコいい黒の銃が欲しいのだ。
「また失敗……」
だが、残念なことに、わたしは黒くてカッコいい銃はおもちゃでさえ触ったことがなく、明確にイメージできなかった。いくら試してみても、脳裏にはっきりと思い浮かべることができず、形にならない。
今の時点でできた外見の変化は、水鉄砲を黒くするだけだった。微妙に半透明なのがカッコ悪い。
……のおおぉぉぉ! わたし、このままじゃハードボイルドの固ゆで卵になれない! ぷるぷるゆるゆるの温泉卵だよ!
「さぁさぁ、姫様。難しいお顔をしていないで講堂へと向かいますよ。全員初日合格が叶うかどうかの大事な日です。シュタープではなく、座学に集中してくださいませ」
リヒャルダに急かされ、わたしはシュタープの変形を解除する。今日で座学は終了する予定だ。この後、じっくりと水鉄砲を改良していくことはできる。まずは、座学で全員合格だ。
……いつか絶対にカッコいい銃を持って、わたし、ハードボイルドになるんだ!