Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (419)
ハルトムートの結婚相手
一度文官達がいるスペースへ向かっていたハルトムートが青いマントをまとった女の子と一緒に戻ってくる。何だか見覚えがある子だと思ったら、図書館のお茶会でハンネローレに同行していた文官見習いだった。
背中で焦げ茶の三つ編みが揺れている。その目はダンケルフェルガーのマントと同じ青だ。背が高いハルトムートと並んでしっくりくるのだから、彼女も背が高い方だろう。恥ずかしそうにほんのりと頬を染めて、ハルトムートの半歩後ろを歩いている姿はとても初々しい感じがする。
「ダンケルフェルガーか……」
神官長の呟きに嫌そうな響きを感じて、わたしは首を傾げた。神官長が軽く息を吐く。
「ダンケルフェルガーの女は計算高い者が多い。どれだけ情報を持っていかれるか、わからぬ。さて、ハルトムートはアレを制御できるか?」
「フェルディナンド様、ダンケルフェルガーの女性に何か嫌な過去でもあるのですか?」
「……いや、一般論だ」
計算高いことが一般論として語られるような領地なのだろうか。ダンケルフェルガーの女性はハンネローレしか知らないけれど、別に計算高いと感じたことはない。
「ダンケルフェルガーの上級文官見習いの五年生、クラリッサです」
なんと、ハルトムートの彼女はわたしにダンケルフェルガーの物語をくれたクラリッサだったらしい。すでに彼女のお話をいくつか読んだことがあるというだけで好感度は上がっていく。
クラリッサは初対面の挨拶を行い、感無量という顔で「やっと、やっとローゼマイン様に紹介していただけるようになって嬉しいです」と言った。
……そういえば、ハルトムートはたくさんの女の子とお付き合いしてたんだっけ?
「こうして紹介されるのですから、クラリッサはハルトムートとの結婚を決めたのですよね? どこが決め手だったのでしょう? その、参考までに伺いたいだけなのですけれど」
ハルトムートって結構変わってるけど、どこを好きになったの? とは聞けず、わたしは遠回しに結婚の決め手を尋ねた。
「去年、ダンケルフェルガーとディッターの勝負を行ったことを、ローゼマイン様は覚えていらっしゃいますか?」
「えぇ、もちろんです」
「あの時です」
文官見習いであるハルトムートはディッター勝負の場にはいなかったはずだが、ディッターについて情報交換をするうちに仲良くなったのだろうか。不思議に思っているわたしにクラリッサは頬を染めて、口を開く。
「あの時、わたくしは本当に感動したのです」
クラリッサが語り始めたのは、ハルトムートとの出会いではなく、貴族院で最も体格の小さいわたしが奇策を用いてダンケルフェルガーの騎士見習い達を翻弄する姿がいかに素晴らしかったかということだった。
「将来ローゼマイン様にお仕えするために、わたくしはエーレンフェストの殿方と結婚しようと、あの時に決めたのです」
……え? ハルトムート、全く関係ないよ!?
そこから始めた情報収集で、クラリッサは自分と魔力の釣り合いそうなエーレンフェストの男を探し始めたらしい。同学年か、それより上の上級貴族で、結婚した時にわたしの近くに居られる立場で、親から許可がもぎ取れそうな者でなければならない。エーレンフェストの順位から考えると、エーレンフェストの上級貴族とダンケルフェルガーの上級貴族で結婚が成立するのは難しいのだ。
クラリッサの条件に当てはまるのが、わたしの側近で成績優秀なコルネリウス兄様とハルトムートの二人しかいなかったそうだ。早速探りを入れてみたところ、コルネリウス兄様には「想い人がいるので」と断られたけれど、ハルトムートは様々な領地の女の子と仲良くしながら情報を得ているフリーの男だった。
「ハルトムートしかいないと考え、わたくしは結婚を前提にお付き合いして欲しいと申し込んだのです」
ふんふん、とわたしが聞いていると、「そう、それで」というお母様の声が背後から降ってきた。ビックリして振り返ると、まるでわたしの文官のような顔をしてお母様がメモを取っている。
「ハルトムートにどのように想いを伝えたのです?」
お母様の質問に答えたのはハルトムートだった。苦笑しながら、肩を竦める。
「クラリッサは熱烈でしたよ。足をかけられ、押し倒されて、喉元に武器を突きつけられましたから」
「……はい?」
「一瞬、何が起こったのかわかりませんでした」
クラリッサは体当たりで自分の武力を見せつけ、結婚するための課題を寄越せと迫ったらしい。そして、命の危険を感じたハルトムートから課題をもぎ取り、全てクリアしていく。その過程でハルトムートと仲の良かった恋敵候補は次々と蹴落としていったそうだ。クラリッサにとって恋愛とは熱意と根性で勝ち取るものらしい。
……ダンケルフェルガーの恋物語って、男女逆でも成立するんだ。新発見だけど、知りたくなかった。クラリッサなんて、一見普通の子なのに。
「そして、やっとわたくしは結婚前提にお付き合いすることができるようになり、こうしてローゼマイン様に紹介していただけるようになったのです。」
こんなふうに自分の恋話をするのは恥ずかしいですね、とクラリッサは照れた顔で言っているけれど、恋話を聞いた気分には全くなれなかった。
……だって、刃傷沙汰が二人の馴れ初めだなんて予想外だもん。
わたしはクラリッサの隣に立っているハルトムートへ視線を向ける。普通の顔で立っているけれど、いきなり武器を突きつけてくるような女性と結婚しても良いのだろうか。
「ハルトムートは結婚についてどのように考えているのですか? その、ずいぶんと衝撃的な出会いだったようですけれど……」
「確かに出会いは衝撃でしたが、どれだけローゼマイン様について熱く語ってもクラリッサは熱心に話を聞いてくれますし、どれだけローゼマイン様に入れ込んでも全く喧嘩になる気配がないのですから、私にはこれ以上ない良縁だと思っています」
……どうしよう? ハルトムートのためにはお祝いしてあげたいけど、わたしのためにはあまりお祝いしたくない組み合わせかも。
むーん、と悩んでいると、クラリッサが照れた顔を引き締めて、真っ直ぐにわたしを見た。反対されると感じたのかもしれない。しまった、と思ったわたしが口を開くより早く、クラリッサはダンケルフェルガーらしい強い青の目をキラリと光らせる。
「けれど、ハルトムートの結婚とローゼマイン様にお仕えするのはまた別のことです。わたくしはぜひともローゼマイン様にお仕えしたいのです。それを認めてほしく思い、ハルトムートにこの場を設けていただきました」
そこからはクラリッサの自己アピールが始まった。クラリッサは騎士見習いになるための選抜試験に落ちたために文官になった武よりの文官で、今でも騎士見習いと共に訓練をして鍛えているので護衛もできること、ダンケルフェルガーとの交渉では前面に出ることができると訴えてくる。
……あれ? わたし、自分の部下の結婚相手を紹介されているんだよね? 気分は完全に就職面接の面接官なんだけど。
「武よりの文官で護衛もできると言ったが、本業である文官としては何ができる? 来年に卒業を控え、どのような研究に力を入れているのだ?」
隣の神官長も完全に面接官の気分になっているようだ。貴族院でどのような研究をしているのか。結構細かく聞いている。クラリッサは広範囲に影響を及ぼす魔術を補助するための魔術具について研究しているらしい。
「そして、わたくし、ただの文官ではなく、ローゼマイン様の文官として認められるために、これだけの努力をいたしました」
クラリッサがバッと差し出したのは紙の束だった。
「我が家の本を写した分です。ハルトムートから聞き、エーレンフェストの蔵書と同じ本は除き、二冊分ございます」
「クラリッサはとても熱心で良い子ではありませんか、ハルトムート。わたくし、すでに物語もいただいていますし、こうして写本をしてくれるなんて……採用です!」
「考えが足りぬ、馬鹿者! せめて、中身を見てから評価しなさい」
呆れたように溜息を吐かれ、わたしはクラリッサの差し出した写本に目を通していく。ついでに、クラリッサがハルトムートと結婚して、わたしの側近になることについても考えてみたけれど、エーレンフェストにとってマイナスはない。強いて言うならば、わたしの周囲にハルトムート二号みたいな聖女信者が増えてちょっと面倒なだけだ。
「字も綺麗ですし、よくできていると思います。それに、ダンケルフェルガーと繋がりができるのはエーレンフェストにとっても悪くないと思います。ダメですか、フェルディナンド様?」
反対されるかな、と不安になりながらわたしは隣の神官長を見上げた。わたしの後見人で、決定権を持つ神官長の言葉をクラリッサも緊張した面持ちでじっと待っている。
「……ふむ。武よりの文官では交渉面が少々不安だが、そこはハルトムートが補えるであろう。クラリッサを抱え込めると思うならば、君の好きにしても良い」
神官長からの許可に、期待に満ちたクラリッサの青い瞳がわたしに移ってくる。
「では、クラリッサがハルトムートと結婚して、エーレンフェストに移ってから、改めてお話いたしましょう」
「ありがとう存じます」
嬉しそうに頬を染めたクラリッサとの面接が一段落すると、ハルトムートが一歩前に進み出た。
「フェルディナンド様、ライムントが先程こちらに来ました。お時間をいただけるのであれば、課題を直接提出したいそうです」
「あぁ、連れてきなさい」
ハルトムートとクラリッサが連れ立ってエーレンフェストの文官のスペースへと歩いて行った。嬉しそうな表情でクラリッサが話しかけ、ハルトムートもそれに答えているのが見える。
「クラリッサは一般的なダンケルフェルガーの女性ですか?」
「私の知っているダンケルフェルガーの女性とはずいぶんと雰囲気が違う。あれは思考回路が騎士寄りなのだろう」
「想いを伝える場面で、まさか武力を見せつけるとは衝撃的でした。どのように書けば良いのかしら? 難しいわ」
お母様が困った顔になりながら、去っていったけれど、別に無理をして恋愛物語として書く必要はないと思う。ダンケルフェルガー女子の男の落とし方というハウツー本で良いではないか。ダンケルフェルガー女子に言い寄られる可能性のある他領の男子にとって必読本になると思う。
「フェルディナンド様、ローゼマイン様。ライムントをお連れしました」
ハルトムートとクラリッサがライムントを連れて戻ってきた。クラリッサは神官長やわたしが認める文官のレベルを知りたいらしい。アーレンスバッハという他領の学生でありながら、神官長とわたしにその有用性を認められているライムントはクラリッサにとっては己を高めるためのライバルなのだそうだ。
……神官長とハイスヒッツェさんの関係みたいなもの、かな?
ライムントはアーレンスバッハの藤色のマントをまとい、さっぱりとした清潔な恰好をしている。けれど、その顔には寝不足の色が強く、神官長に直接課題を見せるためにギリギリまで研究していたことがわかった。
ライムントは緊張した面持ちで、神官長に挨拶し、抱えていた課題を提出する。神官長は差し出された課題を手に取り、その場で添削が始まった。興味深そうにハルトムートやクラリッサも覗き込む。わたしがお願いしていた転移陣を小さく省エネ化するという課題なので、わたしも一緒に覗き込んだ。
「ここの改良は悪くない。だが、ここにこういう形で魔法陣を足せば、魔石による魔力の補助ができ、結果的に術者の魔力量は節約できるだろう」
「魔石による補助ですか。……下級貴族でも楽に動かせるように、という課題でしたが、魔石はそれほど簡単に準備できますか?」
「魔石を準備するのはそれほど難しくはないだろう?」
魔力量においても、持っている素材の豊富さにおいても、研究する上で神官長を基準にしてはいけない。
「平民でも魔獣を倒せば魔石を得られるのですから、補助の魔法陣はあった方が良いと思います」
魔法陣を感心したように覗き込んでいたクラリッサがそう言った。神官長とライムントが驚いたようにクラリッサを見る。
「平民が魔石を得るのか?」
「森へ狩りに行けば、平民でも魔獣に遭遇するのは当然です。弱い魔獣ならば、彼等でも倒せますし、平民が狩った魔石を買い取る石屋が街にありますから、下級貴族が魔石を得られないという状況がよくわかりません」
……ダンケルフェルガーはどうやら平民も強いみたい。わたし、ダンケルフェルガーの子じゃなくて良かった。絶対に死んでたよ。
「平民の住む下町に石屋などあるのか?」
神官長とライムントが首を傾げているところを見ると、アーレンスバッハとエーレンフェストにはないのかもしれない。わたしは下町に住んでいたけれど、あまり出歩かなかったのでエーレンフェストにあるかどうかわからない。
とりあえず、クズ魔石でも有効なのかどうかを確認し、有効であれば、補助の魔法陣を増やすことも視野に入れて、神官長は添削を終える。
「新しい課題か……。ローゼマイン、何か欲しいものはあるか?」
手元に資料がない状態ではすぐに次の課題が思い浮かばないのか、神官長がわたしに話を振ってきた。わたしは大きく頷く。ライムントに改良して欲しい魔法陣の案ならば、いくらでもあるのだ。
「ソランジュ先生にお借りした資料の中に出てくる図書館の魔術具を改良して欲しいです」
わたしはソランジュの資料にあった図書館の魔術具を羅列する。時間を示して光る魔術具や館内を掃除する魔術具、閲覧室内の大きな声を抑えるための魔術具、古い資料が朽ちないように保存しておくための時を止める魔術具や日光で本が傷まないようにするための魔術具など、たくさんの魔術具が出てきた。
「どのような魔法陣ですか?」
「存じません。資料には描いてありませんでした。けれど、わたくしは図書館の役に立つ魔術具が欲しいのです。できるだけ魔力を節約した魔術具ができれば、ソランジュ先生も助かりますし」
わたしが出した建前を聞いて、神官長が軽く息を吐いた。
「私はいくつか資料を持っている。それを元に課題を出そう」
ヒルシュールの師匠の師匠の師匠が作った魔術具もあるようで、それに関しては少しだけ資料が残っていたらしい。
「研究のために一度図書館に行ってみた方が良いかもしれません。簡単にわかるところに魔法陣があれば良いのですが……」
ライムントが今後の予定を立て始めたところで、クラリッサが青い目を輝かせて神官長を見た。
「フェルディナンド様、わたくしにも課題を出してくださいませ」
「クラリッサはローゼマインから課題をもらいなさい。其方はローゼマインの側近希望者で、私の弟子希望者ではない」
バッサリと切り捨てられたクラリッサがこちらにすがるような視線を向けてきたので、図書館で無断持ち出しをしようとする利用者を捕まえる魔術具を考えてください、と課題を出しておく。
図書館にある魔術具の話をしているうちに競技場のディッターが終了したようだ。ルーフェンの声で全てのディッターが終了したことが伝えられた。同時に、この後は表彰式が行われるので五の鐘が鳴ったら学生は競技場に下りるように、と言われる。
「では、自分の場所に戻りなさい」
神官長に促され、ライムントとクラリッサは名残惜しそうな顔をしながら、それぞれの領地の場所へ戻っていく。よほど魔術具談義が楽しかったようだ。わたしも図書館に置くための魔術具の話はとても楽しかった。
五の鐘が鳴るまでは簡単な片付けが行われる。文官見習い達は研究発表のために出していた大事な魔術具などを、側仕え見習い達は客人に出していた茶器やお菓子を次々と片付けていく。
そして、カラーンカラーンと五の鐘が鳴った。ヴィルフリートとシャルロッテが待ちかねたような顔で立ち上がる。
「競技場へ向かうぞ、ローゼマイン」
「一度に向かえば混雑いたしますから、ヴィルフリート兄様から先に降りてくださいませ。下で学生達をまとめるお役目をお願いします。シャルロッテは順番に降りるように指示を出してくださいね。わたくしは少しでも体力を温存するために、ギリギリまでここにいます」
王族の前で倒れないように体力温存がわたしの最重要任務だ。それを知っているヴィルフリートやシャルロッテは大きく頷いて学生達に指示を出し始める。
「そろそろ行きなさい。君が降りたら、私達も前で様子を見る」
エーレンフェストの学生達の大半が下に降りたのを見て、神官長がそう言った。保護者達はディッターを観戦していた時のように前に進み出て、表彰式の様子を見下ろすそうだ。
「エーレンフェストからたくさんの成績優秀者が出ると良いですね」
神官長にそう言いながら、わたしはカタリと立ち上がる。突然腕に下げているお守りが反応した。カッと光ったかと思うと、ルーフェンに自動で反撃したようにヒュンと青白い光が飛んでいく。
「……え?」
あまりにも突然の出来事にわたしが目を瞬くのと、神官長がわたしを引き寄せ、エックハルト兄様がシュタープを出して警戒するのはほぼ同時だった。それに一瞬反応が遅れて、コルネリウス兄様やレオノーレ、ユーディットがシュタープを握る。
「うわっ!?」
比較的近いところで悲鳴が聞こえた。コルネリウス兄様とレオノーレがその声が響いたところへ駆け出し、ユーディットは一人で警戒に当たる。コルネリウス兄様はすぐにお守りの反撃を受けた学生を引きずり出してきた。
「こちらがローゼマイン様に攻撃した犯人です」
「違います。領主候補生に攻撃するつもりはなかったのです」
お守りの反撃を受けて、引きずり出され、真っ青になっているのは、去年まで10位でエーレンフェストに順番を抜かれたことに苛立っていたインメルディンクの上級貴族だった。領地の順位が変わったことで、大領地のお嬢さんに振られ、大領地のクラリッサと縁付くことになったハルトムートを妬んでいたようだ。
彼はハルトムートの足を狙って衝動的に魔石を投げたらしい。けれど、わたしが立ち上がり、それに合わせてハルトムートが動いたせいで、お守りが作動し、反撃を受けることになってしまった。かなり運が悪い人だと思う。
狙いが違ったとはいえ、他領の領主候補生に攻撃したのだ。全く咎めがないはずがない。けれど、表彰式前にわたしがごたごたを大きくする必要はない。後は大人同士で話し合ってもらうのが一番だろう。
「フェルディナンド様のおかげで本人が痛い目を見ているのですから、わたくしから罰するつもりはありません。アウブ・インメルディンクへの苦情はアウブ・エーレンフェストにお任せいたしますね」
わたしはインメルディンクに関する処理を神官長に任せ、側近達と競技場に騎獣で降りていこうとした。神官長がわたしの腕をつかんでいた手に少し力を加える。
「ローゼマイン、今ので物理攻撃に反応するお守りは使い切ったはずだ。周囲から護衛騎士を離さぬように気を付けなさい。エーレンフェストが追い抜いた領地の妬みはどのような形で出てくるかわからぬ」
神官長の言葉を聞いて、わたしではなく、コルネリウス兄様が硬い表情で頷いた。
表彰式が行われる競技場にはすでにたくさんの学生達が降りていて、色とりどりのマントが固まって並んでいる様子が見える。すでに降りてしまっているヴィルフリートやシャルロッテ達がいるので、エーレンフェストの明るい黄土色もあった。
「あそこがエーレンフェストですね」
「あの円に向かって騎獣で降りてください」
ハルトムートを先頭に文官見習い、側仕え見習いが降りて、わたしは護衛騎士に周囲を囲まれる形で降りて行く。
学生全員が競技場に並んだところで、王族が入って来た。黒のマントを翻した騎士団に周囲を囲まれ、大きく羽を広げた騎獣が次々と降り立つ。
見覚えのある騎士団長が護衛として付き従っていて、アナスタージウスやエグランティーヌより前に出るところを見れば、誰が王なのかすぐにわかった。
……思ったよりも若いね。
お父様と同じくらいの年齢の人に見える。顔立ちはアナスタージウスと似ているが、もっと貫録がある。王を始めとして、王族がごてごてとした重そうな衣装に身を包み、壇に上がっていく。王と第一夫人、ジギスヴァルトと思われる若い王族とその奥様、そして、アナスタージウスとエグランティーヌだ。どうやら、お披露目が済んでいないヒルデブラントはお留守番のようだ。
「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受ける冬、其方達もまた厳しき選別を受け、ここに集った」
王の挨拶から表彰式が始まった。音を増幅させる魔術具が朗々とした王の声を競技場に響かせる。初めての表彰式に心躍らせながら、わたしは前方の王族を見ていた。こうして離れて見ていてもエグランティーヌはとても綺麗だ。その金髪を引き立てるトゥーリの髪飾りも綺麗だ。わたしはほぅ、と感嘆の溜息を吐いた。
突如、数カ所で大きな爆発音が響き、火柱が上がった。