Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (420)
強襲
観覧席の方で二カ所、そして、学生達が集合している競技場内に一カ所。どちらもエーレンフェストからは遠い位置だが、あまりにも大きな音にわたしは思わず振り返った。振り返った先に火柱が上がるのが見える。
「……き、きゃああああぁぁぁ!」
一瞬の沈黙の後、周囲から大きな悲鳴が上がる中、「ゲッティルト!」とわたしの周囲の護衛騎士達は即座に盾を出した。そして、領主候補生であるわたしを守るための防御の構えを取る。ハッとしたように周囲の学生達も我が身を守るための盾を出し始め、領主候補生を守るために騎士見習い達が動き始めた。
護衛騎士三人の盾に守られている間に、わたしはシュツェーリアの盾を出す。
「守りを司る風の女神 シュツェーリアよ 側に仕える眷属たる十二の女神よ」
わたしの祈りを遮るように近くで大きな爆音がして、盾を持っているにもかかわらず、エーレンフェストの戦闘訓練を受けていない文官見習いや側仕え見習いの数人が弾かれるように飛ばされた。
「危ないっ!」
顔を上げて、思わず手を伸ばそうとしたところで、叱責の声が飛ぶ。
「動かないでください、ローゼマイン様! 危険なのは貴女です!」
レオノーレの厳しい声にわたしはハッとして、伸ばしかけた手を引っ込めた。同時に競技場のあちこちで爆発音が起こる。けれど、今度は炎が上がらない。派手な音があちらこちらで響くだけだ。それでも、競技場に集められている学生達には十分な効果があったようで、悲鳴と混乱は大きくなるばかりだった。
「最優先はローゼマイン様の安全です。ボニファティウス様がそうおっしゃいました」
ユーディットも厳しい顔で周囲を見回しながら、護衛騎士は領主一族を守るためにいる。文官や側仕えは後回しです、と言う。
……落ち着け。まずは安全確保。癒しはその後。
怪我人を見ないように目を閉じて、わたしは祈りを捧げる。
「守りを司る風の女神 シュツェーリアよ 側に仕える眷属たる十二の女神よ 我の祈りを聞き届け 聖なる力を与え給え 害意持つものを近付けぬ 風の盾を 我が手に」
キンと硬質の音がして、黄色に透き通った半球状の盾が完成した。エーレンフェストに与えられた場所に入る大きさなので、端の方に立っていた学生は範囲に入っていない者も数人いる。
「エーレンフェストの全員が入れそうですか? 戦う力がない文官見習いや側仕え見習いは優先してください。まだ自分で自分の盾を出せない一年生は最優先です」
わたしの言葉に側近ではない上級生の騎士見習いが盾の外に出て、代わりに一年生を中に入れる。コルネリウス兄様を始め、周囲にいた側近達が不思議な物を見るようにシュツェーリアの盾を見上げた。
「ローゼマイン様、これは……?」
「シュツェーリアの盾です。ゲッティルトのちょっと大きい物ですね」
「ちょっとではありませんよ、お姉様」
騎士見習い達が持つゲッティルトとシュツェーリアの盾を見比べたシャルロッテが大きく息を吐いて首を振る。
「この盾の中にはわたくしに敵意のある者は入れませんから安全です。それから、シュツェーリアの盾が間に合わなくて、先程怪我をした人がいるでしょう? わたくしの手が届く範囲に来てくださいませ。癒しを与えます」
「それほどの怪我ではありません。軽い擦り傷や打ち身です」
魔力が勿体ない、と怪我人達が言ったけれど、わたしは首を振った。
「このような状況ではいつ迅速な行動を求められるかわかりません。万全の状態にしておいた方が良いのです。ディッターに出場していた騎士見習いは万全ですか? 余裕があるうちに回復薬で回復しておいてください。この後、何が起こるかわかりません」
「恐れ入ります、ローゼマイン様」
シュツェーリアの盾を出し、怪我人には癒しを与え、ひとまずエーレンフェストの安全は確保した。自分達の安全を確保した上で周囲を見回せば、混乱に陥っている領地と即座に防御態勢が取れている領地に二分されているのがわかる。
全員が戦闘員なのではないかと思えるようなダンケルフェルガーは、全員が鎧に身を固め、盾を持ち、騎獣に乗って順番に競技場から観覧席へ向かっていた。逆に、観覧席の方で火柱が上がっているような領地では危険なこの場から逃げ出そうにも、どこに逃げれば良いのかわからない状態で、戦闘能力がない文官見習いや側仕え見習いはひどい混乱状態に陥っていた。
「うわああぁぁぁ! 魔獣だ!」
「倒せ!」
「お前達、邪魔だ! 退け!」
ひどい混乱状態の中、あちらこちらで叫ぶ声が聞こえ、わたしの周囲の騎士見習い達が再度戦闘態勢を取った。
「何だ!? 巨大化したぞ!?」
「ターニスベファレンが何故ここに!?」
騒ぎの中心辺りからずわっと巨大化し、姿を現したのは、先日倒したばかりのターニスベファレンだった。黒い大きな犬のような魔獣の額には色とりどりの小さな目がぎょろぎょろと動いている。
爆発音だけでも混乱していた競技場は、攻撃が通用せずに更に巨大化する見知らぬ魔獣の登場に統制不能の恐慌状態になった。
「攻撃をしてはならぬ! 退け!」
中央の騎士が大声でそう命じたけれど、完全にパニックに陥っている学生達には聞こえていないようだ。悲鳴を上げながら、がむしゃらに武器を振るっている。そして、その度にターニスベファレンが大きくなっていく。
「ぐおおおおおおぉぉぉぉ!」
ターニスベファレンが咆哮を上げた。中央の騎士はすでに黒の武器を持っている。王族を守る者と黒の武器を構えてターニスベファレンを狩る者に分かれて動いているようだが、パニックを起こしてひたすら攻撃している騎士見習い達が足を引っ張っている。
「ローゼマイン様、我々に黒の武器を……」
ターニスベファレンを一度は倒したエーレンフェストの騎士見習い達が一斉にわたしを見た。
「わたくし達が黒の武器を使うのは、王によって禁じられています」
「ですが……」
ターニスベファレンが大きく口を開けて、学生達に食らいつこうとした。間一髪で中央の騎士の攻撃が炸裂し、事なきを得たが、すぐに誰かが犠牲になるのは明らかだ。
わたしが思わずシュタープを出した直後、王族がいる壇に近いところで黒の小山が出現した。競技場内のターニスベファレンを討伐していた中央の騎士団はその場の討伐よりも、王族を守ることを優先して即座に身を翻す。
「ローゼマイン様、あちらのターニスベファレンを倒すための祝福をください」
「彼等を見捨てるのですか!?」
見捨てたくはない。けれど、教育の課程で教えられていない騎士見習いは、本来ならばエーレンフェストの中でさえ黒の武器を使ってはならない。貴族院の、しかも、王の前で使うわけにはいかないのだ。わたしはキュッと唇を引き結んで、戦う力のある観覧席を見上げた。
その時、野太い声が響き渡る。
「中央の騎士団に助力いたします! 黒の武器を使用する許可を!」
わたしが見上げたエーレンフェストとは別の方向だ。声がした方を向くと、青のマントをまとったダンケルフェルガー騎士がずらりと並び、その最前列にアウブ・ダンケルフェルガーがいるのが見えた。それぞれが武器を構え、出撃の声を待ち構えているのがわかる。
「黒の武器を持つ領地にここでの使用を許可する。黒の魔物を仕留めよ!」
「御意!」
王の許可と共に、ダンケルフェルガーの青いマントが一斉に競技場へと降りてきた。
魔獣討伐にアウブが先頭に立ってもいいのだろうかとか、女性や文官達は放置しておいていいのだろうかとか、疑問が頭をよぎった。けれど、よくよく見てみれば、ダンケルフェルガーはすでに学生達が全員、観覧席の保護者のところに合流していて、騎士見習いが皆を守っている。練度が違いすぎた。
ポカンと口を開けてダンケルフェルガーを見ていると、神官長がエックハルト兄様とユストクスと一緒に降りてきた。
「君が見習い達に黒の武器を与えるのではないかと不安に思い、様子を見に来たが、こちらの状況はどうなっている?」
黒の武器が欲しいと言っていた騎士見習い達は揃ってばつが悪い顔になる。
「軽い擦り傷や打ち身の者がいましたが、癒しを与えたので、いつでも動けます。上に上がりますか?」
「いや、上でもそれほど大きくないが、ターニスベファレンが出ている。許可を得たいくつかの領地の騎士達が退治に奔走しているので、しばらくここで待機だ」
神官長の言葉にわたしはホッと安堵する。頼れる大人がいるだけで精神的に全く違うのだ。
「ダンケルフェルガーはずいぶんと騎士が多いですね」
「あそこはディッターを見るためだけに必要最小限の騎士だけを領地に残して、ほとんどの騎士が領地対抗戦を観戦に来ているそうだ。今まではどこまでディッターが好きなのだろう、と呆れていたが、役に立つこともあるのだな」
非常事態にこれだけの統率が取れて自由に動ける騎士団が助力できるという状況は心強いと神官長が言った。エーレンフェストはアウブ夫妻や子供の晴れ舞台を観戦する親族を守るのにギリギリの人数の騎士しかいない。魔獣退治に割ける人員はほとんどいないということだった。
「あれだけ強いのですもの。ダンケルフェルガーに任せておけば、すぐに討伐されますよね?」
神官長が険しい表情で王族のすぐ近くに出現しているターニスベファレンを睨む。直後、周囲を警戒していたヴィルフリートの声が背後から響いた。
「叔父上、こちらにもターニスベファレンが!」
「退け! 騎獣を出す!」
神官長とエックハルト兄様が即座に武器を出し、少しスペースの開いたところに向かい、騎獣を出す。
「黒の呪文を唱えるので耳を塞げ」
学生達が耳を塞ぐ中、神官長とエックハルト兄様は黒の武器を握り、すぐ近くのターニスベファレンを討伐に向かう。
「エーレンフェストの者はローゼマインのシュツェーリアの盾から絶対に出るな!」
神官長が討伐に向かったターニスベファレンがいる位置は、エーレンフェストの近くに並んでいるインメルディンクが最も被害に遭う場所だった。突如として現れるターニスベファレンに悲鳴を上げながら学生達が騎獣で飛び立とうとしてターニスベファレンに叩き落されたり、食われそうになって必死に逃げたりしているのが見える。
攻撃した分だけ巨大化することは誰の目にも明らかになったようだが、それでも、間近にやって来られると恐慌状態で攻撃しようとするものらしい。神官長が攻撃しようと武器を振りかぶった瞬間、ターニスベファレンが巨大化した。
「フェルディナンド様!」
焦ったエックハルト兄様の声が響いた。ぐわっと大きくなったターニスベファレンの爪の先に神官長のマントが引っかけられる。いつもの青のマントと違って、新しいマントには守りの魔法陣がなく、心許ないと言っていたはずだ。わたしは一瞬で血の気が引いて、声も出せずに大きく口と目を見開いた。
「問題ない。一撃でやるぞ、エックハルト。ここでは様子を見る余裕などなさそうだ」
わたしの心配など必要なかったように、神官長はすぐさま体勢を整え、黒の武器に魔力を込めながら騎獣で高く上へと上がり始めた。神官長の魔力の多さに気付いたのか、ターニスベファレンが警戒するように神官長の動きをいくつもの目でぎょろぎょろと追う。
「カルステッド、来い!」
騎獣で上がりながら神官長がアウブ夫妻を守るお父様に命じた。上でもターニスベファレンに対応していたのか、すでに黒の武器を握っていたお父様が即座に騎獣で飛び出してくる。
すでに誰がどこの位置からどのように攻撃するのか決まっているようで、何の打ち合わせもなく、三人が黒の武器に全力の魔力を込めながら移動する。
「全員構えろ! 吹き飛ばすぞ!」
統率が取れた騎士団ではなく、何をするのかわからない学生達が大量にいる中では速さが何よりも重要になるので、どれだけ周囲に被害が出ても一撃で倒す、と神官長が宣言した。わたしは神官長達の魔力に耐えられるように、シュツェーリアの盾にできるだけの魔力を注ぐ。
「はあああああぁぁぁっ!」
三方から周囲への影響を全く考慮しない大魔力がターニスベファレンに叩きつけられた。ターニスベファレンは魔石を残して呆気なく消滅したが、周囲にはその分の衝撃が向かう。
「きゃあっ!」
「わあぁぁぁ!」
シュツェーリアの盾はビリビリと音を立てて震えたけれど、わたしは必死に魔力を注ぎ続け、その衝撃に耐えきった。けれど、個人の盾しかないターニスベファレンの周囲にいた学生達は自分の盾だけでは耐えきれなかったようだ。インメルディンクを中心に、多くの学生達が吹き飛ばされていった。
影響が出たのは学生だけではない。別のところで学生にはなるべく影響がないようにターニスベファレンと戦っていたダンケルフェルガーにも影響が出た。突然の衝撃に構えを取れていなかった数人の騎士が吹き飛ばされたのが見えた。
「これだけの人数がいる中で無茶をする馬鹿は誰だ!?」
「私だ」
武器を振りかぶった状態で飛ばされたハイスヒッツェの怒鳴り声に神官長の涼しい声が返る。
「馬鹿でも何でもいい。さっさと片を付けろ。時間をかけるのは敵の思うつぼだ」
神官長がそう言いながら、盾の中に戻ってきた。騎獣を消し、真っ直ぐにわたしのところに向かって歩いて来る神官長のために学生達が道を譲る。
「ターニスベファレンにやられた。ローゼマイン、癒せ。フリュートレーネが先だ」
バッと神官長がわたしに背中を向けた。新しいマントが切り裂かれ、神官長の背中に赤黒い線が入っているのが見える。血の赤だけではなく、採集場所で見たような黒い汚泥のような物が傷口にこびりついていた。
「どこが問題ないのですか? 問題だらけではありませんか!」
「アレを倒すのが最優先だったのだ。文句を言う暇があるならば、さっさと癒しなさい」
わたしは言われるままにフリュートレーネの癒しで傷を清めて、魔力を奪われている傷口に魔力を満たし、ルングシュメールの癒しで傷口を塞ぐ。
その間に神官長は回復薬を一気飲みした。エックハルト兄様も同じように回復薬を飲んでいる。
「戦線離脱できませんか?」
「上の状況次第だ。王族が集まり、戦闘力が低い学生が競技場に集まる機会を待ち構えていた敵が、爆発で混乱させ、ターニスベファレンを数匹放っただけで満足するとは思えぬ」
下手に分散して動き回って攻撃を受けるよりは、シュツェーリアの盾に籠って様子を見る方が安全だと神官長が呟く。
「君の魔力は大丈夫か?」
「まだ大丈夫です」
神官長が学生達を遠慮なく吹き飛ばしたせいだろうか。それとも、神官長に挑発されて、ダンケルフェルガーが周囲への影響よりも速く倒すことを考えたせいだろうか。他の領地では騎士が学生達を守るために降りてきている姿が見え始めた。
「騎士が動けるようになったのならば、上はある程度片付いたのだろう」
神官長が競技場へ降りてくる騎獣を見ながらそう呟く。ホッと安堵の息を吐いた瞬間、わたしは自分の領地の学生を救助するには不思議な動きをする騎獣に気が付いた。何故か王族に向かって突っ込んでいく騎獣がいくつかあるのだ。
「フェルディナンド様、あの騎獣……」
おかしくないですか? と言うより、先に神官長が警戒態勢を取る。
「グルトリスハイトを持たぬ偽りの王よ! 我が同胞達の恨み、思い知れ!」
方々から突っ込んでくる騎獣が小脇に抱えた籠からターニスベファレンを出して落としていく。それは政変の粛清を生き延びた負け組領地の貴族だった。黒の武器を持った中央の騎士達数人がそれを叩き斬っていくが、その分、騎獣に乗った者達が王に近付いていくのがわかった。
……自爆テロ!?
自分の命さえ勘定に入れず、ただひたすら標的を攻撃するためだけに動く者が王族へ迫る。そのテロリストの眼前にいるのは、盾を構えるエグランティーヌだった。
「エグランティーヌ様!」
思わず飛び出そうとしたわたしを神官長が即座に捕まえて押さえる。
「馬鹿者! ただでさえ守りが薄くなっている上に、エーレンフェストの者を守る盾を張っている君が動くな!」
「でも……」
「中央の騎士に任せれば良い。王族を守るのが彼等の仕事で、君の仕事は守られることと、余力があるならば、エーレンフェストを守ることだ」
わたしの視界の中、テロリストは中央の騎士団長に切り捨てられ、騎獣から落ちて行く。その体が妙に歪んで膨らんだ。
「見るな。シャルロッテも、だ」
わたしの視界が神官長の袖だけになった瞬間、それほど大きくはない爆発音が聞こえた。うぐっと嘔吐を堪える周囲の反応で何が起こったのか、何となく察せられる。
「叔父様……」
わたしと同じように神官長のもう片方の袖に庇われたシャルロッテが不安そうに神官長を見上げる。
「ローゼマインはハッセでさえ精神的に不安定になったのだ。二人とも視界を塞いでおきなさい。眠れなくなるぞ」
「……はい」
シャルロッテと二人して神官長の袖に隠れているうちに、周囲の状況は次々と変わっていくのが音だけでもわかった。ダンケルフェルガーが次々とターニスベファレンを討伐し、中央の騎士団は王族を守り切ったようだ。
それほど多くはないテロリスト達は政変に勝利した王族はもちろん、偽の王を戴いて満足している勝ち組領地全てに対する恨みをぶちまけながら消えていった。
全てのターニスベファレンが倒され、テロリストが片付けられると、怪我人が運び出されていき、それぞれの寮で治療することになった。残った者だけで表彰式を行うという声がする。テロリストに屈するわけにはいかないそうだ。
「ローゼマイン、君は怪我人と共に寮に戻りなさい」
「え?」
「シュツェーリアの盾を作って学生を守り、複数の癒しまで施したのだ。魔力が不足気味なので、これ以上この場にいるのは危険だ。更なる面倒が起こるかもしれぬ」
……別に不足なんてしていないんだけど?
首を傾げながらもわたしは頷いた。神官長も守りの陣がないマントに魔術具を持っていない今の状況は危険すぎるという理由で、一緒に寮へ戻ると言う。
「側仕えはリヒャルダがいるので、共に戻る護衛騎士はユーディットだけで良い。コルネリウスとレオノーレは表彰されるはずだ。ここに残りなさい」
「いえ、私も……」
「コルネリウス、今回が最後の表彰だ。両親に晴れがましい姿を見せてやりなさい。それを見るためにエルヴィーラがここに来ているのだ」
予想外に神官長の声が優しく響いた。コルネリウス兄様は反論しきれず、エックハルト兄様に視線を向ける。エックハルト兄様はコルネリウス兄様を安心させるように小さく笑った。
「母上はとても楽しみにしていたぞ。コルネリウスとレオノーレが揃って表彰される姿を」
力が抜けたようにコルネリウス兄様がカクリと項垂れた。けれど、「ローゼマイン様はフェルディナンド様とまとめて私が守るので、心配いらない」とエックハルト兄様が肩を叩くと、仕方がなさそうな顔でコクリと頷いた。
わたしは最優秀にして、またしても表彰式に出られなかった。