Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (439)
ユレーヴェとハルトムートの成人式
魔石ができたので、わたしは早速ユレーヴェを作った。今日のお伴はアンゲリカとダームエルとコルネリウス兄様である。お伴に成人ばかりが付けられているのは、貴族院でユレーヴェの作り方を習っているためだ。わたしも一度作ったことがあるので、一応作り方は知っている。護衛騎士達は手順確認のための助手である。神官長には文官達との引継ぎに時間をかけたいので、できたら呼びなさい、と言われている。
「ローゼマイン様はもうユレーヴェも作れるのですか? 私が作れたのは五年生ですよ」
コルネリウス兄様が神官長のスパルタ教育に驚愕しながらそう言うと、実技だけは得意なアンゲリカが「わたくしも五年生で作りました」と胸を張った。
「私は最終学年でした。何度も作るようなものではないので、少しでも品質の良い物を、と欲張ったおかげで本当にギリギリまで素材が染まらなくて大変だったのです」
下級貴族は素材をなるべく早目に手に入れなければ、魔力で染めるのに時間がかかるのだそうだ。今はローゼマイン式魔力圧縮方法で魔力がぐっと上がっていて作り直したいくらいなので、講義のユレーヴェで欲張るのではなかった、とダームエルがぼやいた。
「貴族院の講義で作るユレーヴェは基本的にかなり質が悪いのです。騎士見習い達が貴族院やそれぞれの領地で採ってきた素材を自分の魔力で染めて使うのですが、自分で採集していないため、品質が落ちるのです」
騎士見習いは自分で採集してくるので、多少マシな品質の物ができるけれど、文官達は騎士見習いから素材を購入するのがほとんどなので、どうしても質が落ちるらしい。
「素材から雑多な魔力を抜くと、品質が落ちるのを防げるようですよ」
わたしは皆に神官長が教えてくれたやり方を教えたけれど、まず、それだけ細かく、そして、大量の魔力が扱えないと言われてしまった。
「雑多な魔力を追い出すだけの魔力量が必要なのです、ローゼマイン様。その後にまた魔力で染め上げなければならないのですから、下級貴族には難しすぎます。ローゼマイン様と同じようにはできませんし、また、それだけの品質も必要ありません」
ダームエルがそう言って肩を竦めた。
「我々に任されているのは手順の確認だけです。さぁ、始めましょう」
ユレーヴェを作ったことがあり、きちんと順番も覚えているダームエルとコルネリウス兄様、そして、アンゲリカの魔剣シュティンルークが今回の助手だ。主のアンゲリカはもう忘れたようだが、シュティンルークはしっかり覚えているらしい。とても役に立つ魔剣である。
神官長声のシュティンルークに指示を出されながら、わたしはユレーヴェを作った。腕がだるくなるのを我慢して魔石を混ぜていく。前回作った時はまだシュタープを持っていない時だったので魔術具を使った。今回はシュタープを変形させた混ぜ棒を使ったのだが、やりやすさが圧倒的に違う。感動的だ。
「次にそちらの増幅薬を入れなさい」
シュティンルークの声にコルネリウス兄様が増幅薬の入った水差しを取ってくれる。わたしに手渡そうとしたところで、コルネリウス兄様は動きを止めた。
それほど大きくない水差しなので、普通は片手で混ぜながらもう片手で薬を注いでいく。けれど、わたしは片手で水差しが持てそうにないと気付いたのだろう。
「私がお入れしましょうか?」
「……お願いします」
黒い液体が注がれていき、ぶわっと調合鍋の中身が増えていく。それをぐるぐる混ぜていると「最後の仕上げだ」とシュティンルークの声がした。
ダームエルがテーブルの上に置かれている小さな瓶を取り、ポトンと一滴垂らしてくる。その瞬間、薬の表面がカッと眩しく光った。ユレーヴェのできあがりだ。
「フェルディナンド様に知らせてまいります」
ダームエルが工房を出ていく。コルネリウス兄様が調合鍋の中を覗き込みながら、「いつ使うのだろうか?」と呟いた。
……いつだろう?
わたしの読書の時間がガンガン削られているくらいに今は貴族院の予習や神殿内の引継ぎが忙しいので、悠長にユレーヴェに浸かっている暇はない。できるならば、わたしはあまりユレーヴェに浸かりたくないし、後回しにしたい。
「神官長がアーレンスバッハに向かってからでしょうか? なるべく危険を排除しておくとおっしゃったので、少し安全になってから使う方が良いと思います」
コルネリウス兄様とそんな話をしていると、神官長が自分の側近とフランを伴って入ってきた。フランは手に魔石のたくさん入った網を抱えている。
「ローゼマイン、早速ユレーヴェに浸かりなさい。君の体にはまだ解けきっていない魔力の固まりが残っている。なるべく早く解かしてしまいたい。こちらの準備をするので、着替えてきなさい」
神官長が周囲の者に指示を出しながら、てきぱきと準備を進め、白い大きな箱型にユレーヴェを流し込んでいく。今からユレーヴェに浸かるという言葉に、全身の血管がぎゅっと縮まったように感じた。反射的にわたしは首を横に振る。
「嫌です」
「ローゼマイン?」
訝しげに眉間に皺を刻んだ神官長と周囲の視線にわたしは思わず一歩後ろに下がった。
「またユレーヴェに浸かって起きたら、また皆がもっと成長していて、またわたくしだけ取り残されて……こ、今度は神官長もいなくなっているかもしれないではありませんか。今ユレーヴェに浸かるのは嫌です」
二度も三度も浦島太郎気分を味わいたくはない。やっと少し体力がついて来たのに、それもまた逆戻りになってしまうかもしれないのだ。
「今度は数日のことだ。前のようにはならぬ」
「でも……怖いのです」
前も季節一つ分と言っていたけれど、実際は二年も眠ることになってしまった。襲撃で毒を受けたせいかもしれないが、本当に数日で目覚めるかどうかはわからない。
「ローゼマイン、私が診察できるうちに全て解かしておきたいのだ。魔力の固まりがなくなってしまえば、他の医者に診察してもらえるようになる。それに、成長できるようになりたいのであろう?」
「成長はできるようになりたいけれど、神官長がアーレンスバッハに向かってからで良いです。眠って起きたら、もういなかったという事態だけは絶対に嫌なのです」
「……私としては貴族院に向かう前に使った方が良いと思うよ、ローゼマイン」
コルネリウス兄様が少し考えるようにしてそう言った。側近としてではなく、兄として接する時の言葉遣いであることに気付いて、わたしは顔を上げてコルネリウス兄様を見た。
「何故ですか?」
「ローゼマインが興奮した時にいきなり卒倒するのは魔力の固まりがあるせいで、魔力が上手く流れないとフェルディナンド様はおっしゃっていた。ならば、解かしてしまえば少し興奮したところで倒れなくなるのではないか?」
静かに言い聞かせるようにコルネリウス兄様がわたしの顔を覗き込みながら、わたしの頭を撫でる。
「突然ローゼマインが倒れる姿は、毒を受けて意識を失っていたあの時を思い出させる。本当に心臓に悪いのだ。私が卒業して貴族院での様子には目が届かなくなってしまったのだから、少しでも不安要素を減らしたい。アーレンスバッハに向かうまでに少しでも、と考えるフェルディナンド様のお気持ちが私には痛いほどによくわかるよ」
毒を受けて意識を失ったわたしを直接知っているのは、おじい様とコルネリウス兄様と神官長だけだ。ものすごく心配されていることがわかって胸が痛くなった。わたしは手を伸ばして神官長の袖をつかむ。
「絶対に数日ですね? いきなり皆が大きくなったり、体が全然動かなくなったり、神官長がいなくなったりしませんね?」
「しない。約束する」
薄い金色の瞳がゆっくりと頷いた。わたしも一つ頷いて、踵を返す。
「着替えてまいります」
わたしは工房を出て、モニカに薄手の白い服に着替えさせてもらった。手足に浮かぶ魔力の線が見えるように、靴下は脱いでおかなければならない。裸足で靴を履く感触が久し振りすぎてとても不思議な感じがする。
準備を整えて工房へ向かうと、すでに準備はできていた。白い大きな箱は薄い青の液体が満ちていて、その傍らではフランが魔石を入れられるように準備している。白い箱の近くに椅子が置かれていて、神官長がその椅子を指差した。
わたしは指示されるままに椅子に座り、差し出された杯を両手で持つ。中にはユレーヴェが入っていた。飲み終わると、フランが靴を脱がせてくれる。
「ローゼマイン」
前回と同じように神官長がわたしを抱き上げて、ユレーヴェで満たされた白い箱の中へと座らせた。その瞬間、わたしの体には魔力の線が赤く浮かび上がる。
「三日から四日だ。春の成人式には間に合う」
神官長はわたしの腕や首筋の流れを指でたどりながらそう言った。いくつか検査しているうちにどんどんと瞼が重くなってくる感覚には覚えがある。
「絶対にいなくならないでくださいね」
「しつこい。さっさと浸かりなさい」
苦笑気味に神官長の大きな手がわたしの目元を覆う。意識がすぅっと落ちていく中で、ゆっくりと自分の体がユレーヴェに浸けられていくのがわかった。
「目覚めたか」
ユレーヴェから引き揚げられた時に神官長の顔があることにわたしはホッと安堵の息を吐いた。
「どのくらいたちましたか?」
「私の予測通り、四日だ」
神官長の周囲にはフランやモニカ、側近達もいたけれど、確かに顔も雰囲気も全く変わっていない。神官長が腕、足、首の魔力の流れを確認していく。
「綺麗に解けているようだ。……すでに風呂の準備も整っている。身を清めたら、今日は休みなさい。明日からはまた忙しくなる」
わたしはフランに抱き上げられて風呂場に連れて行かれ、モニカとニコラによってお風呂に入れられた。
「今回は立ったり座ったりができるので、ローゼマイン様のお体にも負担が少なかったようで嬉しいです」
「前回は本当に体が動いていなくて、とても心配でしたから」
ニコラとモニカの言葉にわたしは笑って頷いた。魔力の固まりが解けたことで、突然卒倒するような事態は減るだろう、と言われているのだ。ただし、神官長にもらった魔力を吸い取るためのネックレスがあれば、という注意をもらっている。元々圧縮しすぎていて魔力が多すぎるので、詰まって意識を失うことがなくても、興奮のし過ぎが体に良くないことは同じだそうだ。
「体を鍛えなければならないことも同じなのですよね。あまり良くなった気がしませんね」
「お体が良くなったことを実感されるには時間がかかると思います。あまり良くなった気がしないとおっしゃいますが、全く体を動かすことができなくなっていた頃に比べるとずいぶんと良くなっています」
モニカがニコリと笑って運動を推奨する。前向きに検討したいと思います、と答えておいた。
ユレーヴェを使ったけれど、体調が劇的に変わったようには感じられないまま、わたしは神官長の指導により貴族院の予習をどんどんとさせられることになった。神殿長の職務はメルヒオールにも継がせることができるように、あまり増やさないと決まったので、どうしてもやらなければならない仕事以外は貴族院の予習を優先させるように言われたのだ。
小さな箱庭を作るようにしてエントヴィッケルンの練習をしたり、箱庭の周囲にある結界の強さを調節したり、結界に穴をあけて境界門を作ったり、次々と課題が与えられる。
「こうして考えると、礎の魔術は魔法陣が大量に刻まれた、とても大きな魔石なのでしょうね」
「あぁ、全ての属性の魔石がはめ込まれた巨大な魔術具だ。こちらに図が載っていたはずだ」
基本的に領主候補生にしか教えない専門の勉強は、側近を締めだした状態でわたしの工房で行うことになる。時々、ヴィルフリート兄様やシャルロッテもやってきて加わるけれど、二人のことが多い。残り少ない時間を一緒に過ごせるのはちょっとだけ嬉しいけれど、結構無理をしているのか、神官長の顔色はあまり良くない。
「神官長、睡眠時間が減っていますね?」
「……少しだ」
「少し減っている、ではなく、少し眠っている、の間違いでしょう?」
ユストクスに注意しておかなければ、と思ったところで、最近神殿でユストクスやエックハルト兄様の姿を見なくなっていることに気付いた。
「もしかして、ユストクスもエックハルト兄様も忙しいのでしょうか?」
「ここは君の側近がいるので、二人には二人にしかできぬ仕事をしてもらっている」
護衛騎士にも文官にも仕事を割り振っている神官長の姿に、わたしは少し唇を尖らせた。
「神官長、ライムントのことで文句を言ったのに、わたくしの側近を便利に使わないでくださいませ」
「君こそライムントを便利に使うのだから文句を言うな。私は君の側近を鍛えているのだ」
物は言いようである。そう言われれば文句も言いにくい。
「では、この後はよく復習しておくように。次は、領地内で土地を区切る練習だ。ギーベに土地を与えるためには必要な技術だ」
そう言いながら、次の講義に必要な物を神官長がバサリと広げた転移陣で取り出していく。講義に必要な物を次々とわたしの工房に持ち込むので、だんだん工房が手狭になってきたくらいだ。
そうして毎日を過ごすうちに春の成人式が近付いてきた。ハルトムートにとって初めての神事である。
「そういえば、ハルトムートの儀式用の衣装はどうするのですか? 注文していても、まだまだできあがらないでしょう?」
わたしがベンノに儀式用の衣装を頼んだ時には結構時間がかかったはずだ。それでも、織るところから依頼するのではなく、染めるだけだったので、ずいぶんと時間短縮になったと言われていた。
「ローゼマイン様と違って、私は今までに何人もいた青色神官が残していった儀式用の衣装が入りますから、注文した衣装が届くまではそちらをお借りすることになっています」
神殿には儀式用の衣装がいくつかあるらしい。本来は自分で準備するのが当たり前だが、今回のハルトムートのように間に合わない時は貸してくれていたようだ。わたしは平民だった上に、体格に合う衣装がなかったので、貸し出しの対象外だったらしい。
「神殿の儀式は楽しみです」
ハルトムートは神事の前日、護衛騎士のために準備されている部屋に泊まり、朝食をわたしと一緒に摂って、神官長の部屋に移動する。そして、これから先自分の側仕えになる神官長の側仕えに衣装を整えてもらうことになっているそうだ。
わたしも神殿長の儀式用の衣装に着替えさせてもらって待っていると、フランが呼びに来た。
「礼拝室の準備が整いました。移動いたしましょう」
すでに青色神官達は礼拝室の中に入ってしまっているようだ。扉の近くで待機しているエックハルト兄様の姿を見つけて、わたしはハルトムートの様子を尋ねた。
「エックハルト兄様、今日は神殿に来ていたのですね。ハルトムートの初めての神事なのですけれど、緊張していませんでしたか?」
「非常に興奮しているように見えた。其方の祝福を見たいそうだ」
初めての神事だが、今日もハルトムートはいつも通りのようだ。
「だが、有能だな。神事の流れもやるべきこともすぐに覚えるし、フェルディナンド様も使い勝手が良さそうだ。なかなか良い側近を得たな、ローゼマイン」
……良い側近かどうかの判断基準が神官長にとって使い勝手が良いかどうかって時点で、エックハルト兄様もかなり変だよね。
ある意味でハルトムートとエックハルト兄様はよく似ていると思う。
「神殿長、入室」
神官長の声と共に、灰色神官達によって扉が開かれていく。祭壇の前に並んだ青色神官が手に持っている棒を振ることで、たくさんの鈴が鳴ったような音が礼拝室に響き渡った。
ハルトムートが青色神官達と並んでいる。視線でこちらを気にしているのがわかった。わたしはいつも通りに神官長の手を借りながら、ゆっくりと壇上に上がる。その様子をハルトムートがじっと見ていた。
神官長によって神話が話され、祈りを捧げて祝福を与える。成人式自体は特に何事もなく終わった。
扉のところに父さんと母さんが来ていて、心配そうにわたしを見ていた。多分、トゥーリからアーレンスバッハとの交流が始まることを聞いたのだろう。ハルトムートの手前、あまり手を振ってコンタクトをとるわけにはいかない。わたしは儀式の一環に見えるように右手で拳を握り、左胸を二回叩く。それ以外は扉から出ていく成人達を見送る振りをしながら、灰色神官によって扉が閉まるまでじっと二人を見つめていた。
儀式を終えると、わたしは神官長に壇から降ろしてもらう。そして、ハルトムートの隣に立った。
「ハルトムート、神官長の役目がわかりましたか?」
「壇上に上がるのを手助けし、神殿長の代わりに聖典を読み、扉が閉まる最後まで付き添い、壇から降ろす……ローゼマイン様のお世話ですね」
「違います。神官長には他の役目もございますよね?」
メダルの登録などもしていたはずだ。わたしがそう言うと、神官長が「それは神官長だけではなく、青色神官全員の仕事だ」と言った。
「実際、前神殿長の時はこのような手助けは必要なかった。私の儀式の役目の大半は君が失敗しないように手助けをするだけだ」
「私は次回以降、完璧にやり遂げられると思います」
ハルトムートが誇らしそうに胸を張る。神官長が「其方ならばできるであろう」と真面目な顔で頷いている。
……儀式における神官長の役目がわたしのお世話係だなんて知りたくなかったよ。
「ほ、他に成人式で思ったことはないのですか?」
「あります」
ハルトムートは即答して、口惜しそうに顔を歪めながら拳を握った。
「平民の成人式の方が、貴族院の成人式よりも祝福が多いではありませんか。私の成人式もローゼマイン様に祝福していただきたかったです」
エーレンフェストの平民はずるいとハルトムートが不満を言い出した。ずるいと言われても困る。公平ならば良いのだろうか。
「ハルトムートはたくさんのお仕事を抱えて頑張ってくれていますし、わたくしが祝福するだけで気が済むならば、祝福を与えます。ハルトムートの誕生季はいつですか?」
「本当ですか!? ぜひ、お願いします。私の誕生季は冬です」
ハルトムートが期待に満ちた目でわたしを見ながら、その場に跪き、両手を胸の前で交差させる。
「土の女神 ゲドゥルリーヒよ 我の祈りを聞き届け 新しき成人の誕生に 御身が祝福を与え給え 御身に捧ぐは彼らの想い 祈りと感謝を捧げて 聖なる御加護を賜わらん」
指輪に魔力を込めれば、それが赤の光となってハルトムートに降り注ぐ。終わった、とわたしは動き出そうとしたが、ハルトムートは跪いたまま動かない。
「ハルトムート、どうかしましたか?」
「感動しました」
「はい?」
「こうして、ローゼマイン様の祝福を独占できる幸運に感謝します」
今までに見たことがないくらいに嬉しそうな笑顔でそう言いながら、ハルトムートはわたしの手を取って、甲に額を付けた。不満を逸らすために祝福しようと思ったのに、そこまで感謝されて喜ばれて、わたしはものすごく困惑する。
「神官長……」
助けを求めて神官長を呼ぶと、神官長が軽く息を吐いた後、そっと視線を逸らした。
「君の側近だ。忠誠心だけは間違いないので、使い方を誤らなければ、強力な味方だ」
「……使い方を誤ったらどうなるのですか?」
「大変なことになる。私はエックハルトで経験済みだ」
……エックハルト兄様!?
こうしてハルトムートの初めての神事は終わり、貴族院の予習をしながら、一週間ほどで行われる夏の洗礼式も終わらせた。
「次の神事は星結びの儀式ですね」
わたしがそう言うと、神官長の顔が嫌そうに歪んだ。
「星結びの儀式が終わってから秋になるまでの期間、ゲオルギーネとディートリンデがエーレンフェストにやってくるらしい」
「え?」
「結婚前に少しでも交流を持ちたいということだ」