Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (445)
餞別 後編
「ありがとう存じます。開けてみてもよろしいでしょうか?」
「あぁ」
わたしはわくわくしながら細長い木箱をそっと開ける。中を覗き込んで、驚きに目を見張った。
木箱には簪が一本入っていた。いつも使っているトゥーリが作るような糸で編んだ花の髪飾りではない。細い金属で周囲を飾られた小さい虹色魔石が五つ、簪の先に少しずつ長さを変えた細い鎖で繋がっている。わたしは自分の手持ちの中でも一番大きな虹色魔石を選んだが、神官長は小さい物から選んだようだ。2センチくらいの魔石ばかりである。髪に挿して歩いたら、滴型の虹色魔石が揺れてとても可愛いだろう。
……けど、虹色魔石。虹色魔石ってことは……。
わたしはそっと簪を手に取った。ほんの少し魔力を通してみると、案の定、五つの虹色魔石にはわたしがしたのと同じようにお守りの魔法陣が刻み込まれている。
「神官長、この虹色魔石はお守りですよね?」
「これで装飾品を作りたいと言っていただろう? ただの装飾品にするには魔石が勿体ないので、お守りにしておいた」
確かに装飾品にしたい、と言った。けれど、貴重な素材を装飾に使うな、と文句を言われた気がする。文句を言っていた神官長が装飾品になるお守りを作ってくれるとは思っていなかった。嬉しさよりも驚きの方がよほど大きい。
「わたくしが神官長を驚かそうと張り切っていたのに、逆に驚かされた気分です」
虹色魔石でお守り作ってあげたよ、と胸を張った直後に、同じ物の五倍返しがやってきたのだ。驚かずにいられるだろうか。しかも、わたしはお守りとはいっても裸石状態で渡したのに、神官長がくれたお守りは装飾品としてきっちり整えられている。
……ものすごい敗北感だよ。
「驚かなかったわけではない。君がこれだけのお守りを作れるようになっていると思わなかったからな」
神官長はわたしが渡した虹色魔石を見ながら薄く笑った。その顔は驚いているようには全く見えない。むしろ、ちょっと嬉しそうに見える。
わたしとしては敗北感たっぷりだけれど、ちょっとでも神官長を驚かせることができて、喜んでくれたのならば、それが一番だ。
「ふふん、わたくしも成長したでしょう?」
「……大半はハルトムートの功績のようだが」
「ここは素直に褒めてくださいませ!」
わたしの主張に側近達が笑い、神官長はフンと鼻で笑った。神官長が可愛くないことを言うのは今に始まったことではないので、わたしは唇を尖らせて不満を表しただけで終わりにして、簪をしげしげと見つめる。
虹色魔石はオパールに似ている。少し揺らせば光の当たる位置によって魔石が複雑に色を変えるように見えるのだ。虹色魔石を保護するように細い金属が周囲を装飾しながら取り巻いているが、それがシンプルな飾りを少し豪華に見せていた。
「シンプルですけれど、可愛いデザインですね。やっぱり神官長は装飾品を見立てられるではありませんか」
「ディートリンデのあの髪飾りを私の見立てだと思われると困るであろう。反論の材料を準備しておかなければならぬと危機感を抱いたのだ」
ディートリンデが婚約者に髪飾りを贈ってもらったと言えば、普通は神官長が見立てたと思われる。神官長はどうしてもそれを避けたいらしい。自分の美意識に関わる大変な事態なのだそうだ。
「それに、毎日同じ花の飾りは使えないだろうが、隣に添えるだけの飾りならばそれほど目立つまいと思ったのだ。いつだったか、二本の髪飾りを挿すと言っていたことがあったであろう? あのようにできるだけ毎日挿しておきなさい」
どうやら毎日使っても問題がないように花の飾りの隣に挿せるシンプルな形にしたらしい。すごい気配りだと思う。感心したようにブリュンヒルデとリーゼレータが頷いている。
「ローゼマイン様、いただいた簪を挿してみませんか?」
ブリュンヒルデが立ち上がり、わたしのところへやってくる。わたしが簪を手渡すと、ブリュンヒルデはじっくりと簪とわたしの髪形を見比べた後、そっと髪飾りの隣に挿し入れてくれた。
少し頭を揺らすとシャラシャラと音がして、髪に虹色魔石が当たる感触がした。新しい飾りがとても嬉しい。ふふっと笑って、わたしは神官長を見上げた。
「似合いますか?」
「悪くはない」
「神官長、悪くはないというのはどういう意味ですか? 似合わないのを無理やり褒めてくれているようにしか聞こえないのですけれど」
こういう時に強く思う。神官長は女性を、いや、女性相手でなくても、褒めるのがとても下手だ。これだから女性と長続きしないと言われるような結果になるに違いない。
「こういう時はたとえ似合っていなくても可愛いと褒めるものですよ」
「光を受けて複雑に色を変える虹色魔石が夜空のような髪の上に揺れる様は、まるで星がきらめくようにも見え、全ての神の寵愛が見え隠れするようで、聖女であるローゼマイン様にはとてもお似合いだと存じます」
褒めてくれたのは神官長ではなくハルトムートで、過剰な褒め言葉がずらずらと並んだせいで何を言っているのかよくわからない。
「神官長、ハルトムートの一割くらいで十分ですから、褒めてくださいませ」
「わざわざ褒める必要性が感じられぬ。私が君のために作ったのに似合わぬはずがないではないか」
……それ、自慢だよね? 褒め言葉じゃないよね?
自信たっぷりで偉そうな神官長に褒めてもらうのはもう諦めよう。わたしは振り返ってブリュンヒルデを見上げた。
「ブリュンヒルデ、この飾りは毎日使えそうですか?」
「はい。フェルディナンド様のおっしゃる通り、これでしたら花の飾りと使っても問題ないと思います。ローゼマイン様がお持ちの髪飾りならば、どれと合わせても大丈夫でしょう。ただ、一言だけ言わせていただくならば、隣に添える飾りに虹色魔石を五つも使っている時点でとても目立ちますけれど」
……あぁ、うん。神官長って時々ずれてるよね。
苦笑交じりにブリュンヒルデが飾りの虹色魔石を指先で少し揺らしながらそう言うと、神官長は肩を竦めた。
「仕方がない。私はこの先ローゼマインを守ってやることもできぬからな」
「フェルディナンド様はローゼマインに対してずいぶんと過保護ですね。驚くくらいにお守りが盛りだくさんで、貴重な素材をふんだんに使った薬をいつも準備していますし……」
コルネリウス兄様がわたしの簪を見ながらそう言うと、神官長ではなく、ハルトムートがフッと笑った。
「ローゼマイン様を守るために全力を尽くすのは当然ではありませんか。アーレンスバッハの貴族に狙われ、毒を受けて二年も眠ることになったのです。そして、目の届かない貴族院へ行けば次から次へと王族や上位貴族と接触するのですから、お守りも薬も両方常備していても不安に決まっています」
そういえば、お守りを大量に持たされるようになったのは目覚めてからだった。貴族院へ行くようになって毎年お守りの数が増えているけれど、これはわたしのやらかしたことに比例したものだったらしい。
「私もローゼマイン様のお守りを増やせるならば次々と増やしたいと思うくらいです。後見人でも家族でもないので、私が贈れる物が限られていますが」
そこでハルトムートが至極残念そうに溜息を吐いて、じろりとコルネリウス兄様を睨んだ。
「むしろ、コルネリウスは兄で家族なのに、何故ローゼマイン様にお守りを贈らないのですか? ローゼマイン様が心配ではないのですか?」
「心配は心配です。ただ、私が贈れるお守りよりもよほど品質が高くて有用なお守りをたくさん身に着けているので、どう考えても見劣りしますし、役に立つと思えません」
文官ではないコルネリウス兄様は神官長のような高性能のお守りが作れないので贈れないと肩を竦めた。それに、兄妹とはいえ、領主の養女となっているわたしは気軽に物を贈れる対象ではないらしい。ハッキリ言われてしまうと距離を開けられたようで少し寂しい気がする。
「貴族院では兄妹らしい交流も持てたのですけれど、コルネリウス兄様が卒業してしまうと、兄妹としての交流を持つ場もなくなりますね。ちょっと寂しいです」
「私もそれは寂しく感じるよ」
わたしの言葉にコルネリウス兄様が苦笑する。しんみりとしていたら、ハルトムートがわざとらしく溜息を吐いて空気をぶった切った。
「ハァ、わかります。卒業は辛く、貴族院へご一緒できないことにこれほど絶望感を感じたのは初めてです。何故私は卒業してしまったのでしょう? せめて、貴族院に在学していれば、もっとローゼマイン様のお役に立てたのに」
「お役に立つのは間違いではないでしょうけれど、ハルトムートはローゼマイン様が貴族院で何をするのか見ていたいだけでしょう? ターニスベファレンの討伐の時も、採集場所を再生させた時もずいぶんと興奮していましたもの」
レオノーレが呆れたような声でそう言うと、ハルトムートが真顔で「興奮せずにいられるわけがないと思いませんか?」と言った。
「黒い汚泥が残る採集場所に降りたち、神具の杖を手に魔法陣を起動させ、見る見るうちに土地を再生させるお姿はまさに……」
「ハルトムート、その話は聞き飽きました」
レオノーレがニコリとした笑顔でハルトムートの言葉をスパッと切り捨てた。ユーディットやフィリーネが頷いているのを見れば、側近達の間ではハルトムートが同じようなことを何度も言っているのがわかる。
「それよりもわたくしはフェルディナンド様に伺いたいことがあるのです」
不意に真面目な顔になったレオノーレが神官長の方を向いた。少し片方の眉を上げた神官長がレオノーレに先を促す。
「聞こう」
「これだけのお守りをローゼマイン様に渡すのですから、フェルディナンド様は今年の貴族院でそれだけの危険があるとお考えになっていらっしゃるのですよね? どのような危険が考えられるのか、教えていただきたく存じます。漠然と護衛をするのと、警戒するべき対象をハッキリとさせておくのでは効率が違いますから」
お守りを増やしていた去年はターニスベファレンとの戦いがあったり、領地対抗戦でディッター勝負に巻き込まれたり、強襲があったりした。今年はどのような危険が考慮されているのか、レオノーレが神官長に尋ねる。質問を受けた神官長がものすごく困った顔になった。
「レオノーレ、私は別にそのような突発的で予測不能な危険が次々と起こることを想定してローゼマインにお守りを渡したわけではない。去年はアーレンスバッハからの差し出口やダンケルフェルガーのディッター勝負を断り切れなくなるかもしれぬことを懸念しただけだ。だが、今年は……」
神官長はそこで言葉を切って、一度口を噤んだ。言うべきか言わざるべきか考えるように軽くこめかみを叩いた後、ゆっくりと息を吐く。
「今年はローゼマインを奉納式で呼び戻さない予定になっている」
「え?」
「先日、君の保護者が話し合って決めたことだ。今年はエーレンフェストに戻さず、貴族院の生活をさせる」
実子と養女で扱いを変えるひどい領主だと養父様が言われているのを打ち消すため、ユレーヴェで魔力の固まりが解けたので突然意識を失うことは減ったため、と神官長が指折り数えていく。
「そして、神殿にはハルトムートがいて、私がいて、君がユレーヴェに浸かっていた時の魔石が多くあるので、魔力は十分に足りるというのが決め手になった。ただ、おそらくそれができるのは私がいる今年だけだ。今年だけは他の者と同じように貴族院の生活を楽しんでくると良い」
わたしをわざわざ呼び戻さなくても魔力は足りる。ならば、一度くらいは普通の貴族院生活を送らせてやりたい、と神官長は言った。わたしのために色々と考えてくれていることがわかって、何とも言えない嬉しさが込み上げてくる。目の奥が熱くなるのを感じながら、わたしは神官長を見つめた。
「神官長……」
「ずっと貴族院にいるローゼマインに付き合わなければならない側近は大変であろう。だから、ローゼマインにこのお守りを贈った。少しでも其方等の負担を軽減するためだ」
……はい?
一瞬で感動と涙が引っ込んだ。すごく良いことをしてくれているのに、どうして神官長は素直に感動させてくれないのか。
「神官長、最後の一言がなければ、わたくし、感謝と感動で泣いていましたよ」
わたしが神官長を睨むと、神官長は何ということもない顔で頷いた。
「ここには隠し部屋もなく、慰める手間も減ったのだからちょうど良いではないか」
「褒め言葉は足りないのに、感動を打ち消す余計な言葉はさらりと言うなんてダメダメではありませんか」
「君から私への評価はどうでも良い。これまでに比べて長期間貴族院で共に生活することになる側近達は非常に大変だという話をしているのだ」
貴族院で大変なことになるのが前提のように、神官長と側近達の間で話が進んでいく。
「薬もお守りも多めに準備しているが、インメルディンクを始めエーレンフェストが急激な成長で追い抜いていった領地からは妬まれている。それがどのように作用するかわからぬ。私が婿として向かうことになったのでアーレンスバッハとの関係も変わるだろう。けれど、油断はするべきではない。婚約を喜ぶ笑顔で警戒に当たるように」
神官長の話を聞いていると注意しなければならない領地ばかりが上がっていく。どれだけ敵を作っているのか、とげんなりしてしまうくらいだ。
「わたくし、それほど心配しなくても、今年こそ何事もなく貴族院生活を終えますよ」
「どう考えても君には無理だ」
神官長の即答に、周囲の側近達も揃って頷いた。わかっていたことだが、全く信用がない。
「とりあえず、君は最優秀を取ることを念頭に置き、他領地はまだしも、中央と対立しないように気を付けなさい」
「わたくしはこれまでも中央と対立したことなどありませんよ」
「君の主観ではなく、相手の主観が大事なのだ」
神官長はそう言いながらこめかみを軽く叩く。
「今年はおそらくあちらから接触してくるだろう。考えるだけで頭が痛くなるような項目はたくさんある。君が家族同然と言った私に関することや王宮図書館関連のことなどで突かれて、本当におとなしくできるか?」
神官長の言葉に反論できず、わたしは自分の手を見つめる。多分、今、神官長に関することで脅されれば、魔力がよく巡る体になっているわたしは簡単に威圧状態に入ると思う。それに、これまでの自分を振り返れば本に関連することで自重できるとは口が裂けても言えない。
「……か、確約はできません」
「さもありなん。だが、君は次期領主夫人であり、エーレンフェストの聖女として貴族院で知られてしまっている。皆から注目されている君の言動によってエーレンフェストの未来……いや、アーレンスバッハにおける私のやりやすさや自由度が変わってくる」
漠然としたエーレンフェストの未来よりも、家族同然の神官長自身を鎖にした方がわたしを御せると知っているのだろう。神官長は「私のためにおとなくしてほしい」と言いながら、シャラリと音を立てて揺れる簪に触れた。
「守りだけは万全に整えてある。こちらから威圧のような攻撃性を見せることはしないように。良いな?」
「はい」
わたしが頷いても神官長は不安そうな顔のままだ。
「そんなに不安そうにしなくても、ちゃんと頑張りますよ?」
神官長は厳しい目になり、わたしの側近達を一度見回した。
「ローゼマイン、君の側近は信頼に足るか?」
「わたくしは足ると思っています」
「口にしてはならない情報を胸に秘めておけるか?」
「……貴族ならばできることなのでしょう?」
わたしが自分の側近を見回すと、皆が揃って頷いた。
「ならば、誓え。貴族院へ赴くまで決して他言せぬことを」
貴族院に赴くまで、という期限を切られたことに目を瞬いていると、「フェルディナンド様、よろしいのですか?」とユストクスが確認するように尋ねた。
「知った上でローゼマインを守ってくれるならば、それに越したことはない」
側近達が他言しないことをシュタープに誓うと、神官長は重々しく口を開いた。
「今年の貴族院で最も警戒するべきは旧ヴェローニカ派の子供達だ」
「貴族院では彼等とも良好な関係を築いていますけれど?」
きょとんとしたようにユーディットが首を傾げる。それとは対照的にローデリヒが一度きつく目を閉じてゆっくりと息を吐いた。
「私達が貴族院にいる間に行うのですね?」
「そうだ」
ローデリヒは何を行うのか、口にせず、神官長もただ肯定しただけだった。それでも、二人の表情と雰囲気の厳しさで何が行われるのかわかる。
……旧ヴェローニカ派の排除だ。
「証拠は見つかっているのですか?」
「……あぁ。ダームエルが見つけた不正と他にもいくつかある」
神官長は言葉を濁してローデリヒにそう返した。完全な証拠とするには少し弱いのかもしれない。それでも、強引に事を進めてでも排除していくつもりなのだろう。神官長がエーレンフェストを離れるまでにそれほどの余裕はない。
「旧ヴェローニカ派を排除すれば、連座に問われる子供が何人もいる。貴族院にいるうちに名を捧げるか否か決断させなさい。貴族院での良好な関係を知っているからこそ、連座ではなく、領主一族に名を捧げた者は責任をもって保護するとアウブは決断された」
貴族院で養父様は派閥を超えて協力し合うことができる子供達の姿を目の当たりにした。親の派閥から離れたい、早く成人したいと言う声を聴いた。旧ヴェローニカ派の子供達がランプレヒト兄様の結婚の時には重要な情報を持って来てくれた。
「危険な芽は摘んでおいた方が良いと思うが、連座で処罰する方がエーレンフェストの未来を潰すことに繋がるのではないか、とアウブは考えたそうだ。だが、これまでは連座としてきたのに、今回だけ変えるようなことをしては反発の元になる。周囲に文句を言わせないために彼等には名を捧げてもらうことが必要だ」
神官長は「エーレンフェストに不穏の種は必要ない」と言い、ローデリヒを真っ直ぐに見つめる。
「旧ヴェローニカ派の子供達を少しでも多く取り込むことをローデリヒには期待している」
ローデリヒが軽く目を見張った後、ゆっくりと頷いた。
「ローゼマイン、どのような手を使っても構わぬ。欲しいと思う優秀な人材は確保しておけ。旧ヴェローニカ派を自分の側近とできるのは今だけだ」
わたしはコクリと頷いた。
「くっ、何故私は卒業してしまったのでしょうか? 私も貴族院にお伴したいです、切実に。側仕えコースを選択していれば、ローデリヒの側仕えとして貴族院へ行けたというのに」
「上級貴族のハルトムートに側仕えなどされては身の置き所がありません」
ローデリヒの悲鳴のような声にフィリーネとユーディットがクスクスと笑う。
「ハルトムートが側仕えコースを選択していなくて助かりましたね。ローデリヒ」
「まったくです」
「……誰も私の苦悩をわかってくれないのですね」
ハルトムートが真剣に頭を抱えている様子を見て、神官長が嫌な笑顔を浮かべる。
「ハルトムート、成人せねばできぬ仕事もある。貴族院以外の場所でローゼマインの役に立てばよかろう。其方にお誂え向きの仕事も準備しよう」
「ハルトムートにお誂え向きの仕事とは何でしょう?」
わたしが首を傾げると、神官長は少し考えた後、フッと笑った。
「君の心の平穏のためには知らぬ方が良い」
……何か企んでる悪い顔をしてる人がいますっ!