Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (465)
新しい司書
わたしはオルドナンツで食後に図書館へ行く、とソランジュに返事をし、側近達にも準備するように伝える。一年生のテオドールが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「貴族院の図書館は初めてなので楽しみです」
「……あの、テオドールはまだ図書館登録が終わっていないので、今日は同行できませんよ」
初めての図書館を楽しみにする気持ちは痛いほどによくわかるが、テオドールは同行できない。登録が終わってからになる。わたしの説明にテオドールはちょっとガッカリした表情で肩を落とした。
「つまり、側近の中で私だけ留守番ですか……」
「今日、図書館へ行って新入生の登録予約をして来ますから我慢してくださいね」
主らしく、上級生らしく慰めているけれど、わたしは今笑いを堪えるのに必死だ。
……だって、テオドールのちょっと拗ねてる顔が「わたくしも護衛騎士なのに……」って嘆くユーディットとそっくり! ホントに姉弟って一目でわかるよ!
そっくりで可愛いが、そこを指摘するとテオドールが更に落ち込みそうなので笑わないように耐えているというのに、ユーディットが追い打ちをかけてきた。
「主の前でそんなふうに拗ねた顔をするなんて恥ずかしいですよ、テオドール」
いつもユーディットはそんな拗ねた顔をしているのに、お姉ちゃん顔でピッと人差し指を立ててテオドールに注意する姿に、もう我慢できなかった。わたしは思わず笑ってしまい、それにつられたように他の側近達も笑い始める。
「い、いきなり皆、どうしたのですか?」
驚いて周囲を見回す二人の様子がこれまたよく似ていて、笑いが収まらない。口元を押さえてなるべく上品に見えるように笑っていると、レオノーレも同じようにクスクスと笑いながら指摘した。
「その少し拗ねたテオドールの顔が、わたくしも護衛騎士なのに、と嘆くユーディットとそっくりなのですよ」
「そっくりではありません、レオノーレ!」
二人の声が綺麗に重なっていて、更に笑いが止まらなくなった。
皆に笑われて膨れっ面になってしまったテオドールを置いて、図書館へ向かう。側近達を連れてぞろぞろ歩く途中でリーゼレータが質問してきた。
「新しい司書が派遣されたということは、ローゼマイン様はシュバルツとヴァイスの主ではなくなるということですか?」
「そうなるのではありませんか? 元々シュバルツとヴァイスは図書館の魔術具で上級司書が主だったのですから、中央から派遣された上級司書がいれば主を交代するのは当然でしょう?」
わたしは自分が快適に過ごすためのより良い図書館のために魔力を供給してきたのであって、シュバルツとヴァイスの主になりたかったわけではない。一人で寂しく図書館を切り盛りしてきたソランジュにとっても正式に上級司書が派遣されて来るのが一番だ。
「それが本来の形とわかっていても残念ですね」
リーゼレータは頬に手を当てて、そっと息を吐いた。普段、自分の感情はあまり前に出さないリーゼレータがそこまで嘆く理由がわからない。
「リーゼレータは何が残念なのですか?」
「ローゼマイン様がシュバルツとヴァイスの主でなくなるということは、新しい主によって新しい衣装が準備されるということではありませんか。せっかく新しい服を作ったのですけれど、着替えさせることはできなそうです」
エーレンフェストで作ったシュバルツとヴァイスの衣装は、守りの魔法陣をベストとエプロンに刺繍したため、それ以外の服は着替えさせることができる。リーゼレータはシュバルツとヴァイスに新しい服を着せようとワンピースやズボンを作成してきたらしい。
「リーゼレータは本当にシュミルが大好きなのですね」
ユーディットとフィリーネが感嘆の息を吐くと、リーゼレータが「シュミルも大好きですけれど、エーレンフェストの新しい染め方を広げるためです」と恥ずかしそうに頬を染めた。
「リーゼレータ、それほどガッカリしなくても管理者の変更から新しい服を作るまでには時間がかかりますもの。フェルディナンド様に手伝っていただいても一年かかったのです。ソランジュ先生と新しい司書の方に一言お断りを入れれば、今年の貴族院はリーゼレータが作った新しい服を着せても問題ないと思いますよ」
中央ならばもっと早く準備できるのかもしれないけれど、リーゼレータが卒業する今年の貴族院の間に新しい衣装が完成することはないと思う。
……お仕事で毎日シュバルツとヴァイスに魔力供給をしながら、刺繍のための糸や布を魔力で染めていくのって大変だからね。
「ローゼマイン様、講義初日のお忙しい中、図書館までご足労いただき、ありがとう存じます」
図書館の建物に入ると、ソランジュとシュバルツとヴァイスがお出迎えしてくれた。貴族らしい長い挨拶を交わしてから、ソランジュの執務室に向かって歩き始める。
「新しい上級司書が中央から派遣されて来たのは喜ばしいことなのですけれど、図書館で働くにはシュバルツとヴァイスに触れることができなければお仕事になりません。それに、上級司書が派遣されたのですから、なるべく早くシュバルツとヴァイスの主を変更した方が良いと思ったのです」
講義で魔力を使う学生に魔力面で頼り切りという状況がソランジュにとってはとても心苦しかったらしい。わたしが望んだわけでもないのに、シュバルツとヴァイスの主を巡ってダンケルフェルガーとディッター勝負を行うことになったことも悩ましく思っていたようだ。
「それに、ローゼマイン様は今年から領主候補生コースと文官コースの二つを取られるのでしょう? どうしても魔力が厳しくなるでしょうから、司書の派遣が今年に間に合って、本当によろしゅうございました」
嬉しそうに青い目を細めるソランジュは本当にわたしのことを心配してくれていることがよくわかって、胸が温かくなる。
「わたくしも、ずっと図書館でお一人だったソランジュ先生に一緒に働く方ができてよかったと思っています」
「えぇ、少しお喋りをする相手がいるだけでずいぶんと気分が違いますものね。新しい上級司書は女性で、本がお好きな方ですからローゼマイン様もきっと仲良くなれますよ」
「とても楽しみです。女性でしたら、シュバルツとヴァイスにひめさまと呼ばれても大丈夫ですね」
本好きの新しい上級司書は一体どんな人だろう、とうきうきしながらソランジュの執務室へ行くと、中にはビックリするくらい多くの人がいた。
「……ソランジュ先生、新しい司書の方は一人ではなかったのですか?」
「派遣された上級司書は一人なのですけれど、王族の魔術具の登録変更になるので、王族が立ち会うことになるのです。祝福で触れることさえなく登録変更をされたローゼマイン様が例外なのですよ」
フフッと懐かしそうに笑いながらソランジュに指摘され、わたしはそっと視線を外した。図書館登録の嬉しさに神に祈って祝福を放出したら主になっていたなんて、非常識極まりない気がする。改めて自分のしでかしたことを思い返すと、自分でも首を傾げてしまう。
……それにしても、そんなことにまで駆り出されるなんて、王族も大変だね。
それでも、こういう時のために王族が貴族院に必要なのか、と納得していると、扉が開いたことでわたしの到着に気付いたらしい側近達が主のために道を空けるように壁際に退いていく。
「ローゼマイン」
「ローゼマイン様、お久し振りですね」
大勢の側近達の中に埋もれていた王族はヒルデブラントだけではなく、もう一人、エグランティーヌもいた。あまりにも意外な人物が司書の執務室にいることに驚き、わたしは大きく目を見張った。
「エグランティーヌ様、どうして貴族院にいらっしゃるのですか?」
「フフッ、驚きましたか? 実は領主候補生コースの講師をするように頼まれたのです。これから講義で何度か顔を合わせることになりますよ」
これまで領主候補生コースを教えていた先生がかなりお年を召した王族の傍系で、そろそろ引退したい、と王に訴えたらしい。そこでエグランティーヌに白羽の矢が立ったそうだ。
……王子様と結婚したお姫様が学校の先生になるなんて、恋物語の現実は奇想天外だね。
まさかエグランティーヌが教師となって貴族院で再会するとは全く考えていなかった。ビックリもあるけれど、フラウレルムのような先生ばかりが周囲に増えたらちょっと面倒なので、親しみのある人が教師であることは嬉しい。
「ローゼマイン様、紹介いたしますね。こちらが新しく上級司書として貴族院に派遣されたオルタンシアです」
エグランティーヌが隣に立つ女性を紹介してくれた。40代くらいの淡い水色の髪が印象的なエグランティーヌと似たような雰囲気のおっとりとした人だ。年齢的にお母様と同じように子育てが一段落したので、文官仕事に復帰したのではないかと思う。ソランジュと気が合いそうな感じで、ホッとする。
「ローゼマイン、本当ならば私だけが立ち合うので十分なのですが、エグランティーヌ様から同席をお願いされたのです」
ヒルデブラントが「一人でもお勤めはできたのですよ」と訴える。別にヒルデブラントが仕事のできない子だとは思っていないけれど、「王族としての自覚が薄いところがある」と養父様も言っていたので、もしかしたら、エグランティーヌはヒルデブラントのお目付け役も兼ねているのかもしれない。
「オルタンシアはわたくしと同郷の出身で、中央へ移動したのです。少し馴染みもありますから、紹介のために本日は同席させていただくことにいたしました。わたくしもローゼマイン様にお会いしたかったですし」
茶目っ気を見せるように微笑んだエグランティーヌと控えめに微笑むオルタンシアは見た目が違うけれど、まとう雰囲気がよく似ているように感じた。エグランティーヌといい、プリムヴェールといい、オルタンシアといい、クラッセンブルクの女性は基本的におっとり系なのだろうか。
……それにしても、エグランティーヌ様は結婚して、幸せそうな雰囲気でますます美人になったね。
「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
エグランティーヌに見惚れていると、いつの間にかオルタンシアが前に出て跪き、初対面の挨拶をしていた。わたしはハッとして背筋を伸ばし、それに応える。
「許します」
「オルタンシアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ふわんと祝福の光が飛んで来て挨拶を終えると、オルタンシアは立ち上がって、ソランジュを振り返った。
「急がなくてはローゼマイン様の午後の講義に差し支えるかもしれません。ソランジュ、どのように管理者を変更するのですか?」
「前任者が指名して、シュバルツとヴァイスに触れる許可を出し、額の魔石に触れて魔力を登録することで主となります」
協力者としてヒルデブラントやハンネローレを登録した時とやり方は同じだ。
「ローゼマイン様、登録していただいてもよろしいですか?」
おっとりと微笑むオルタンシアの言葉に周囲の視線が一斉にわたしに向いた。王族の魔術具の登録がこんなに注目を浴びる大仰なものだなんて知らなかった。
……そういえば、王族の魔術具の主になるのは名誉なことって誰かが言ってたっけ?
立ち合いの王族二人にそれぞれの側近達。多くの視線を一斉に受ける居心地の悪さを感じながら、わたしはシュバルツとヴァイスを呼び寄せる。もちろん、他の人が触れないように注意することも忘れない。
「シュバルツ、ヴァイス。オルタンシアに触れる許可を与え、登録します」
「オルタンシア、きょかでた」
「とうろくする」
オルタンシアが手を伸ばして、シュバルツとヴァイスの魔石に触れる。これで登録は完了である。登録の様子を見ていたヒルデブラントが不思議そうに首を傾げた。
「ソランジュ、私が協力者としての登録をした時と同じやり方ですけれど、これで管理者の変更が終わったのですか?」
「いいえ。今、シュバルツとヴァイスに供給されているローゼマイン様の魔力量をオルタンシア様が上回れば、管理者が変わるのです。先日、魔石で魔力を供給したところなので少し時間がかかるかもしれませんね」
そう言いながら、ソランジュは春から秋の間に使うために渡しておいた大きな魔石を「大変助かりました」と返してくれる。わたしはそれをリヒャルダに渡して片付けてもらった。
「その魔石は?」
「春から秋の間にシュバルツとヴァイスが動けなくなったら大変だということで、ローゼマイン様がお貸しくださっているのです」
ソランジュの言葉に周囲の皆が大きく目を見開いた驚愕の顔になる。
「それほど大きな魔石をソランジュに貸し出して魔力を供給していたのですか? 春から秋の間は動かなくてもそれほど問題ないと思うのですが……」
ヒルデブラントの言葉にわたしは少し首を傾げた。確かに、一番忙しいのは学生がいる冬だけれど、春から秋の間に仕事がないわけではないし、ソランジュの寂しさを紛らわせるにもシュバルツとヴァイスは必要だ。
「シュバルツとヴァイスが動かなければ図書館の運営は非常に困るのですよ。わたくしは読書が好きですから、居心地の良い図書館のために魔力を使うのは当然ではありませんか」
「当然、なのですか?」
「自分の大事な物のために魔力を使うのは、そこまで驚かれるようなことではないと思うのですけれど……」
「ローゼマイン様は殊の外本がお好きですからね」
図書館でのわたしを一番良く知っているソランジュが笑いながら「おかげで大変助かっているのですよ」と言ってくれた。
「そうそう、ローゼマイン様。管理者が変更して安定するまでシュバルツとヴァイスに魔力を供給しないように気を付けてくださいませ。ローゼマイン様が供給してしまうと、いつまでたっても管理者の変更ができないかもしれませんから」
図書委員活動は休止してほしい、とソランジュに言われてしまった。確かに、管理者の変更ができないのは困るだろう。わたしはコクリと頷いて了承する。
「わかりました。ここに来ると癖で触ってしまいそうですし、しばらくは図書館に近付くのを控えましょう」
「え?」
周囲が目を瞬く中、ソランジュだけがニコニコと笑いながら頷いた。
「そうですね。ローゼマイン様は二つもコースを取るのですから、学生らしくお勉強に専念してくださいませ」
「あら、しっかり予習はできているのですよ」
わたしが胸を張ると、ソランジュが「さすがローゼマイン様。頼もしいですね」と褒めてくれる。ヒルデブラントが呆然とした顔で「ローゼマインが本を読まずに我慢できるのですか?」と呟く。
「我慢はできませんし、しません。でも、わたくし、実は念願の自分の図書館を手に入れたのです」
「えぇ!?」
「ですから、貴族院の図書館を参考に、図書館に役立つ魔術具の研究をする予定なのです。色々な資料を読みますから、本を読まずに過ごすということはありません。わたくしの図書館を充実させるために今年は頑張るつもりなのです」
うふふん、と笑うと、ソランジュは「それはとても素敵ですね」と自分のことのように喜んでくれた。
「去年から考えていらっしゃった、少しでも魔力を少なく動かせる魔術具の研究をなさるのですね。できたら、ぜひわたくしにも見せてくださいませ。こちらでも取り入れるかもしれません」
上級司書のオルタンシアが増えたのに、省魔力の魔術具が欲しいと言うソランジュの言葉が理解できなくて首を傾げていると、ソランジュは昔の図書館について教えてくれた。
「以前は上級の司書が三人、中級の司書が二人はいました。もっと多い時代もあったのですよ。二人では動かせる魔術具に限りがございます。ですから、協力者の皆様にはこれからも負担にならない程度で魔力の供給をいただけると助かります。ローゼマイン様は管理者の権限が移動してからですけれど」
完全に図書委員が解散になるというわけでもないらしい。ちょっとホッとした。
「またお手伝いいたしますから、管理者の変更が終わったら呼んでくださいませ。あ、それから、新入生の登録の予約をお願いします」
一人で留守番しているテオドールの姿を思い出してそう言うと、ソランジュは木札を取り出して、何やら書き込み始める。
「ローゼマイン様は今年も一番乗りですね。かしこまりました。また日時が決まったら、お手紙を送ります。……それはそうと、今年も本好きのお茶会は開催されるのでしょうか?」
「本好きのお茶会ですか?」
ソランジュの言葉に反応したのはオルタンシアだ。
「お茶会にそれぞれが本を持ち寄り、交換するのですよ。一人で図書館にいる時間が長かったわたくしの楽しみなのです。ローゼマイン様が二つのコースを取りますし、管理者の変更もありますから、今年は難しいかもしれませんけれど」
押しかけお茶会だったけれど、ソランジュは楽しみにしていてくれたらしい。そんなふうに言われたらぜひとも開催したいと思う。
「今年も新しい本がございます。確かに二つのコース取るので、去年より開催できる時期は遅くなるかもしれませんけれど、学生が多くなる前に講義を終えることができれば、ぜひ開催したいですね」
「ローゼマイン様、その時はわたくしもぜひご一緒させてくださいませ。わたくしもお勧めの本がございますよ」
オルタンシアの言葉にわたしはキランと目を輝かせた。クラッセンブルク出身の中央貴族のお勧め本である。わたしが知らない本の可能性が高い。
「なるべく早く講義を終えられるように全力を尽くします」
「ローゼマイン、私もお茶会に参加したいです」
ヒルデブラントも笑顔で名乗りを上げた。去年参加したのだから、今年も一緒にという気持ちはわかる。けれど、困った。
……まずい。王族や中央には極力関わるなって言われてるのに、どうしよう?
ヒルデブラントの後ろでアルトゥールが苦い顔をしているのが見え、困ったようにエグランティーヌが微笑みながら、「王族がそのようにねだるのはお行儀の良いことではありませんよ」とヒルデブラントをたしなめる。
「去年、お茶会を開催したローゼマイン様が倒れたのでしょう? 王族を招待して体調を崩して意識を失ってしまったのですから、これは大きな失点で、ローゼマイン様はエーレンフェストでお叱りを受けたはずです」
「そうなのですか、ローゼマイン?」
ヒルデブラントがおろおろとしたようにわたしを見た。「大丈夫ですよ」とヒルデブラントをなだめることは簡単だが、皆からの言いつけもあるし、何が失敗に当たるのか理解しきれていない以上、なるべく接触は控えたい。
ただ、ここで頷いてしまうと「ヒルデブラント王子が同席していたので叱られました」と言ってしまうのと同じになる。どう答えるのが良いだろうか。
「ですから、ローゼマイン様があまりお叱りを受けないように、こちらが招待する方が良いのです。体調が良い時にまたお茶会をいたしましょうね、ローゼマイン様?」
「はい、エグランティーヌ様」
卒業前のお茶会で庇ってくれていた庇護者の立場が変わっていないようで、わたしは安心してエグランティーヌが出してくれた助け舟に全力で乗っかった。
……さすがエグランティーヌ様!
その後、オルタンシアとソランジュが上級司書でなければ開けられない書庫の話を始めたり、王宮図書館にある本についてアルトゥールが教えてくれたりしたため、わたしは読書をする時間もなく、午後の講義に向かうことになった。
お見送りをしてくれるのかシュバルツとヴァイスがひょこひょことついてくる。図書館から出る扉へ向かおうとしたら、閲覧室の扉を示された。
「ひめさま、おいのりする」
「じじさま、まってる」
そういえば、去年も同じようなことを言われ、二階のメスティオノーラに祈りを捧げたことを思い出した。「じじさま」に魔力供給するのは一年に一度なのだろうか。あれから言われていないので、すっかり忘れていた。
……でも、魔力供給は止められたところなんだよね。
管理者の変更ができたら、新しいひめさまであるオルタンシアが供給するだろう。
「シュバルツ、ヴァイス。魔力供給はオルタンシア先生のお仕事になりましたから、オルタンシア先生に頼んだ方が良いですよ。管理者が変わったらまた供給のお手伝いに参りますね」
そう言いながらいつもの癖でするりとシュバルツとヴァイスの額を撫でてしまい、また少し魔力を供給してしまった。
……ダメだ。いつまでたっても管理者が変わらなそう。今年はおとなしくヒルシュール先生の研究室に引っ込んでいようっと。