Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (475)
グレーティアの事情と素材採集
わたしは部屋を準備してもらい、グレーティアと向き合った。ユーディットと同じ四年生で、わたしよりも一つ上だ。ユーディットの学年は成績向上委員会が立ち上がった時に二年生チームとして学年でまとまっていたため、最初から専門コースに分かれていた上級生に比べると学年内の仲が良い。そのせいか、ユーディットの後ろに微妙に隠れている。そのおどおどとした雰囲気が貴族には珍しい。
グレーティアは灰色の髪をいつも背で一つに三つ編みにしている。リーゼレータもそうだが、髪に乱れ一つないようにきっちりとしていて、あまり目立たないようにしているのか、地味な装いだ。でも、グレーティアは年の割に発育が良いせいか、何となく胸元に視線が向かってしまう。
「グレーティア」
「は、はい」
名を呼ばれて前に出て来たけれど、内気で引っ込み思案だと聞いていた通り、普通の顔で立っていても、前で重ねて揃えられている指先は小刻みに震えている。
「ユーディットから聞きました。わたくしに名を捧げたい、と」
「はい。わたくしの名を受けてくださいませ」
「理由を聞かせてくださいませ。グレーティアは名捧げをする必要はないでしょう?」
グレーティアは揺れる瞳でマティアスとラウレンツを見た後、目を伏せた。そして、震える声で言った。
「……わたくしは庇護者が欲しいのです」
「庇護者、ですか? それは……」
わざわざ名捧げしなくても、と言いかけたところで、わたしは名捧げもしない旧ヴェローニカ派の子供達を側近に入れることを禁じられたことを思い出して口を噤む。
「今しか、ないのです」
グレーティアがクッと顔を上げた。切羽詰まったような顔でわたしを見る。そのおかげで、グレーティアの青緑の目がよく見えた。
「わたくしには今しかないのです」
「グレーティア、ごめんなさい。よくわからないわ」
わたしがそう言うと、グレーティアは唇を引き結び、盗聴防止の魔術具を出してきた。
「わたくしの家庭の事情はあまり他の方に知られたくないのです」
わたしはリヒャルダに視線を向ける。使っても良いかしら? という無言の問いかけは通じたようだ。リヒャルダが「ブリュンヒルデ、魔術具に問題がないか確認した上で姫様に渡してくださいませ」と指示を出した。
わたしが触れる物に神経質になっている側近達が毒の有無やおかしな魔法陣が組み込まれていないか確認して、わたしに渡してくれる。色々な確認がスムーズで、皆も毒などの確認にずいぶんと慣れてきたものだ、と感心した。
わたしが盗聴防止の魔術具を握ったのを見て、グレーティアが口を開く。それは確かに盗聴防止の魔術具なしには口にできない衝撃的な告白だった。
「わたくしは……神殿の子なのです」
「え?」
「青色巫女と青色神官の間に生まれた神殿の子だそうです。そう言われて育ちました」
予想外の身の上にわたしは呆然としながらグレーティアの話を聞いていた。粛清が起こって神殿が魔力不足になるより前の、まだ青色神官や巫女が多かった時代の話らしい。青色神官と言えば魔力が少なくて年を食っているという印象しかわたしにはないけれど、そうではない時代もあったようだ。
そんな中、中級貴族出身の青色神官と青色巫女が隠れて愛を育んだ。本人達は隠しているつもりでも妊娠してしまえば事は明るみに出る。
「神殿にいる以上結婚はできません。生母はそれぞれの実家に戻ってから結婚したい、とお願いしたそうです。けれど、貴族でもない青色巫女が何を言っているのか、と却下され、即座にわたくしの生母は実家に連れ戻され、醜聞を隠すために実家の離れに隔離されました。それ以後、父である青色神官とは一度も会ったことがないと聞いています」
グレーティアは離れで生まれて洗礼式まで育ったそうだ。妊娠せずに神殿にいる方が自由で幸せだった、という生母の愚痴を聞きながら。
「神殿にいれば実家からの援助に加えて、領主様からの補助金があります。神事で各地を回れば青色巫女としてちやほやされて金銭や物品が包まれます。離れに派遣される実家からの監視とは違い、側仕えは自分の命令に忠実な灰色神官や灰色巫女で、わたくしが宿るまでは愛する殿方もいてとても幸せだったそうです」
そして、粛清と中央への移動が起こり、貴族が不足したことで神殿に預けられていた子供達が貴族社会へ戻って行くという流れになった。離れで隠されていたグレーティアは魔力量を調べた結果、離れから出されて政略結婚のために生母の兄とその第一夫人を両親として洗礼式を受けることになったのだそうだ。
「洗礼式で両親が決まるというのが建前ですが、わたくしは洗礼式の後も両親に可愛がられたことはありません。政略結婚の駒として恥ずかしくないように、生母のような醜聞を起こさぬように、と言われていました。兄弟からはずっと神殿の子と言われ、髪の色をおばあさんみたいだと嘲笑われ、成長し始めてからは早熟な体をからかわれ、陰でいじめられてきたのです」
グレーティアはそう言ってギュッとスカートをつかんだ。わたしは洗礼式で戸籍ロンダリングをした存在を自分以外に知らなかったけれど、実子との扱いの差はずいぶんと違うようだ。
……実子と変わらないくらいに気を配ってくれるお母様って本当にすごいね。
部屋を整えてくれて、洗礼式の衣装をいくつも作ってくれて、上級貴族の娘として恥ずかしくないように教育にも気を配ってくれた。可愛がられていないと思ったことはないし、兄様達にいじめられたこともない。領主の養女になるから、ということを差し引いても、可愛がられていると思う。
「わたくしの家は中級貴族で派閥の中では計画を立てる側でなく、実行を強いられる立場です。そして、家の立場を少しでも安定させるために結婚相手が見繕われます。少し上の立場の家の第二夫人や第三夫人として。ですが、それを嫌だと思ったことはございません」
対外的には「神殿の子」と言われることはない。政略結婚だとしても、外に出れば普通の貴族の娘として扱われる。親子ほどの年の差があっても構わないとグレーティアは思っていたらしい。
「名捧げの強要は、わたくしにとって神々の救いの手だったのです。あの家族とは縁が切れて、自分で自分の主が選べる貴重な機会でした。神殿長であり、孤児達に慈悲を施すエーレンフェストの聖女ローゼマイン様ならば、神殿の子と言われてきたわたくしの素性を知っても特別な感情を持たずに受け入れてくださると思ったのです」
自分の側仕えの能力に不足があるのではないか、と不安に思ったけれど、内向きの仕事をメインにすることにわたしが了承したことでグレーティアはとても安心していたそうだ。
「けれど、わたくしの両親は処刑を免れてしまいました。粛清で処刑されていれば、わたくしは悲しい顔を見せながら名を捧げることができたのに、と思ったのです」
家族が粛清を逃れたことに喜ぶ旧ヴェローニカ派の子供達と一緒に笑顔を見せながら、グレーティアは一人だけ絶望を感じていたそうだ。
「……わたくしはお父様が処刑を免れたとしても、重罪を犯しているという確信がございます。計画を立てて命令するのは別の方ですが、実行させられるのを断れない、と悩んでいる姿を見たことがあるのです」
グレーティアはそう言って、一つ息を吐いた。
「重罪を犯した者の娘を娶る方がいるでしょうか? 家族の扱いを少しでも良くするための政略結婚の結果、わたくしの扱いはどのようなものになると思いますか? 良い扱いをしてくれる家に嫁げる可能性は著しく低いでしょう。わたくしは家族内でずっと蔑まれていたため、他人の顔色を読むことと最悪の事態を思い浮かべることが得意なのです」
そして、想定した中でも自分にとって最悪の事態に物事が転がる確率が高いらしい。名捧げの決意をして喜んだ時に「家族が処刑を免れたら……?」と考え、実際にその通りになってしまったと項垂れる。
「グレーティア、名捧げをすると生死は主に握られ、主が落ちぶれる時は共に落ちることになります。もちろん、そのようなことがないように気を付けますけれど、ヴェローニカ様が失脚したようにわたくしが同じ道を歩まないという保証はないのです。わたくしが庇護者として足りないこともあるのですよ。その辺りはよく考えたのでしょうか?」
何だか自分が過大評価されているような気がしたことと、名捧げで家族から逃れることだけを考えてデメリットに目を向けていないように感じたことで、わたしはグレーティアに注意をした。
「ローデリヒやユーディットから話を聞いています。ローゼマイン様は平民である専属楽師や専属料理人の処遇にさえ注意を払っているではありませんか。そして、ローデリヒが家族と接触しないように手を回していらっしゃるのでしょう? わたくしは自分の選択に誤りはないと確信しています」
グレーティアが「側仕え見習いですもの。必要な情報収集はしています」と小さく微笑んだ後、表情を真剣なものに変えた。
「家族の目がない今しかないのです。……ローゼマイン様には側仕えが少ないと伺いました。わたくし、誰にも嫁がずに一生仕えるように、と命じられても受け入れます。むしろ、望むところです。どうかわたくしの名を受けてくださいませ」
グレーティアの青緑の瞳は真剣だった。本当に後がない、切迫した感情が伝わって来る。
「わたくしも一度は名を受ける覚悟をしました。グレーティアにそれだけの覚悟があるのでしたら、名を受けましょう」
「ありがとう存じます」
ふわっとグレーティアが微笑んだ。グレーティアが俯かずにこうして笑っていられるように主として努力しなければダメだな、と思った。
わたしは盗聴防止の魔術具をグレーティアに返し、その場にいる側近達にグレーティアの名を受けることを告げる。
「土の日にはミュリエラとグレーティアの素材を採りに行きましょうね」
「かしこまりました」
皆がそう言った後、マティアスがニコリと笑った。
「では、多目的ホールへ戻って、名捧げの石として使えるくらいに高品質の素材の取り方を説明いたしましょう。効率の良い取り方を知っているのです」
そして、多目的ホールに戻る。心配そうな顔でこちらを見てきたヴィルフリートとシャルロッテにニコリと笑って、わたしは名捧げの石のための素材を得るための説明がしたいことを告げる。
「高品質の素材を得るための方法があるのですって」
「さすがにターニスベファレンのような強くて高品質の素材が得られる魔獣は多くありませんし、そういう魔獣は基本的にとても強いので、文官や側仕えの素材採集には向きません。手間はかかるのですが、確実に採れる方法を使った方が良いと思います」
確かにターニスベファレンのような魔獣がその辺りをうろうろしていたら怖いなんてものじゃない。マティアスの言葉にわたしは頷いた。
高品質の素材の取り方ということで、名捧げをする子供達だけではなく、他の子供達も話を聞きに寄って来る。
「どのようにするのだ?」
ヴィルフリートに促され、マティアスが説明し始めた。
「まず、採集場所へ行ってタイガネーメの実を自分の魔力で染めてから採集します。それを魔獣に食べさせると、魔獣がタイガネーメの実に籠った魔力で強大化します。その魔獣を倒して魔石を得るのです。一年生のローゼマイン様がダンケルフェルガーとのディッターで魔獣を巨大化させた時に知った方法です」
リュエルの実と似たような効果を持つ魔木が採集場所にはあるようだ。
「ただ、面倒なのはタイガネーメの実は一つの属性しか魔力を受け付けないのです。自分の属性の数の実を染める必要があります」
魔力の属性を分けて実を染めていかなければならないので、この方法が使えるのは属性の分離を習う三年生以上でなければできないそうだ。幸いにも名捧げをしなければならない者は全員三年生以上なので、今回は問題ない。
「騎士見習いが弱らせた魔獣に魔力の籠ったタイガネーメの実を食べさせ、巨大化した直後の魔力が馴染んでいない時を狙って止めを刺して魔石を得ます」
「……なるほど。確かに手間がかかりそうだな。私も高品質の魔石が欲しいと思ったのだが、今回は見合わせた方が良いかもしれぬ」
ヴィルフリートが深く頷くのを見ていたレオノーレがヴィルフリートとシャルロッテに視線を向けた。
「タイガネーメの実を染める間の守りも必須になりますし、止めを刺せばよい状態まで魔獣を弱らせる必要もあるので人数が必要になります。ヴィルフリート様とシャルロッテ様はどれだけの護衛騎士をお貸しくださいますか?」
「お姉様はどれだけの護衛騎士を寮に残すのですか?」
シャルロッテがわたしを見てきた。土の日の予定は知らない。わたしはどうするつもりなのか、レオノーレに視線で問いかけた。レオノーレがニコリと笑った。
「ローゼマイン様の護衛騎士は全員同行する予定です。主であるローゼマイン様がご一緒ですから」
「……初耳ですよ、レオノーレ」
「マティアスの説明を聞いて決めましたから、わたくしも初めて言いました」
レオノーレは平然とそう言いながら、わたしを同行させる理由を述べ始めた。
「ローゼマイン様に同行していただきたい理由はいくつもあります。まず、護衛騎士の人数を分散させたくありません。次に、タイガネーメの実を魔力で染めるには時間がかかります。その間の守りとしてローゼマイン様にはシュツェーリアの盾を使っていただきたいのです。いくら騎士見習いがいても、四人を常時守りながら魔獣を狩るのは大変ですから」
確かにわたしがシュツェーリアの盾でその木の周囲を囲めば、騎士見習い達はこちらを気にすることなく魔獣を狩ることができるし、皆は集中して実を染めることができる。リュエルの実を染める時は実に月の光が届かなくなるからという理由でシュツェーリアの盾を使うことができなかったので大変だった。
……一年目は失敗しちゃったしね。
「それから、これだけの人数が採集するのでしたら祝福も必要になるかもしれません。最後に、ローゼマイン様の魔力を減らすという目的もあります。長時間シュツェーリアの盾を使い、採集場所の回復をすれば少しは魔力も減るでしょう」
……うん、最後の理由はとても大事だね。
エーレンフェストから届いた魔石が結構減っていることを思い出し、わたしは大きく頷いた。
「お姉様の盾の中で採集ができるのでしたら、わたくしも同行しようかしら?」
「シャルロッテ様?」
「自分の魔力で染めたタイガネーメの実だけでも十分に貴重な素材なのでしょう?」
「うむ。私も行くとしよう。魔獣に食べさせて魔石を得ることはできなくても、タイガネーメの実だけでも得たいからな」
わたしのシュツェーリアの盾がある安全圏で採集ができて、欲しいだけ採集しても祝福で採集場所が回復するということで、調合の講義がまだ始まらない一年生を除く寮内の全員で採集に向かうことになった。
実技で練習しているもののまだ騎獣が作れず、調合の実技も始まっていない一年生が羨ましそうにこちらを見ている。
「さすがに騎獣がなくては採集場所には向かえませんから一年生はお留守番ですね。来年の楽しみにとっておいてくださいませ」
「ローゼマイン様、私はもう騎獣が作れるようになりました。護衛騎士ですし、どうか連れて行ってください!」
置いて行かれてたまるか、と言わんばかりにテオドールがわたしを見た。本当にユーディットにそっくりだ。
「まだ騎獣を扱い慣れているとは言えませんから、足手まといになる可能性もあるのではございませんか? テオドールはお留守番していた方が良いと思いますよ」
お姉さんらしい顔でユーディットがそう言うのを聞いていると、ちょっと笑いが込み上げてくる。ユーディットが置いて行かれる立場ならば、涙目で「連れて行って」と訴えるのに、と笑いながら許可を出す。
「騎士見習いの人数が必要ですからね。テオドールも同行させましょう」
「恐れ入ります」
テオドールがホッとしたようにわたしに礼を述べた後、ちょっと得意そうに笑った。
同行する騎士見習いの数が確定したので、レオノーレとアレクシスとナターリエを中心にどのようにシュツェーリアの盾を使い、どのように採集を行うのか、どの魔獣を排除し、どの魔獣を弱らせて魔石にするのかなど、具体的な話し合いが始まった。
基本的には騎士見習いの打ち合わせだ。その様子を見ていたフィリーネがポンと手を打った。
「お弁当を準備いたしましょう、ローゼマイン様。採集場所は雪がなくて暖かいのでローゼマイン様の盾があれば、ゆっくりとお弁当を食べることができます」
魔獣が頻繁に出て来るので採集場所でお弁当など食べる余裕がなかったけれど、シュツェーリアの盾があれば採集場所でお弁当が食べられるのではないか、とフィリーネが楽しそうな笑顔で提案する。シャルロッテが「まぁ、素敵」と喜びの声を上げた。
「わたくし、キッシュをいただきたいです」
「温かいお茶も準備しなくてはなりませんね、シャルロッテ様」
わたしとシャルロッテの側近達の間でお弁当を広げることが決まった途端に土の日の採集は一気にピクニックの様相を呈してくる。
「ミートパイもいいですね」
「あら、サンドイッチの方が食べやすいのではなくて?」
「うっ、私もお弁当を準備させるぞ!」
楽しそうに計画を立て始めたわたしとシャルロッテの側近達を見ていたヴィルフリートがピクニックへの参加表明すると、どんどんと参加人数が増えていく。まるで採集ではなく、寮の皆で行く遠足みたいだ。
一年生の顔がとても恨めしそうなものになってきた。フーゴとエラに頼んでおいしいご飯を準備してもらう必要がありそうだ。
「お姉様は料理人に何を準備させますか?」
……お弁当といったらおにぎりだよね。
心の声は隠しつつ、わたしは「これまで出て来た案がどれもおいしそうで迷いますね」と答えた。
そして、土の日。
予めに数人の騎士見習い達が突っ込んで魔獣をある程度駆逐してからわたし達を呼びに来た。安全になった採集場所に皆でワイワイと騒ぎながら向かう。自在に大きさが変えられるわたしのレッサーバスには皆のお弁当が詰まっている。
タイガネーメの木の周辺にシュツェーリアの盾を出して採集の開始だ。盾の外では騎士見習い達が魔石用の魔獣を弱らせている。わたしの側に控えている護衛はテオドールである。
「このタイガネーメの実を握って、魔力を注ぎ込んでいくのです。意識しながら一つの属性の魔力を注がなければなりません。完全に属性の色に変わるまで魔力を注いでくださいね」
皆がそれぞれにタイガネーメの実をつかんで魔力を流していく。わたしも一緒に握ってみた。リュエルの時と同じで、タイガネーメの実には自分の魔力がなかなか流れ込んでいかない。それでも、グッと一気に流し込んでタイガネーメの実を三つ染めた。さすがにここで全部の属性分の実を作るわけにもいかないだろう。
「ローゼマイン様、全然魔力が流れ込んで行かないのですけれど……」
三つの実を採集したわたしを見ながらミュリエラが困ったようにそう言った。同じようなやり取りがあったことを懐かしく思い出しながら、わたしは自分の実を見つめて小さく笑う。
「魔木も生きていますから、抵抗が激しいでしょう? 回復薬を使いながら気長に染めるしかありませんよ」
三つの実を採集した時点で少し疲れたので、わたしはレッサーバスの中で休憩である。ユレーヴェを使ってちょっと丈夫になったからといって無理をすれば、体調が崩れるのは間違いない。ただ、魔力の圧縮を少なくして、薄く広げるようにするようになってから、わたしは体調がちょっと良くなっている気がする。
……そういえば、魔力を溜めこみすぎると体に良くないって、かなり昔に言われたことがあったっけ。
これで体調の良いままに貴族院生活を終えることができればいいなと思いながら、わたしはレッサーバスで読書を始めた。明るい日差しの中、柔らかいレッサーバスの椅子を少し倒して読書。なかなか優雅な休日の過ごし方である。
わたしは本を読みながら盾を維持しているだけだったけれど、名捧げを望む者達の魔石は何とか手に入ったし、皆でワイワイと騒ぎながら食べたお弁当もおいしかった。
楽しい土の日だった。