Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (482)
お返事 前編
疲れが出たのか、ダンケルフェルガーとのお茶会の後にわたしは熱を出して少し寝込んだ。久し振りに熱が出た感覚に懐かしさを覚えるほど、わたしは丈夫になったようだ。ベッドの中でそう喜んでいたら、「寝込みながら丈夫になったと喜ぶのはどうでしょうね」とリヒャルダに呆れられた。
お茶会の報告は文官達に任せて、わたしはベッドでゴロゴロしながら本を読む。アナスタージウス、ソランジュ、オルタンシアの三人から借りた本がこの部屋の中にある。まだ読んだことがない本がたくさんあるのは幸せだ。
「この辺りがシュバルツ達の研究についての記述みたい。フェルディナンド様は読んだことがある本なのかな?」
閉架書庫にあった古い本らしいので読んでいないかもしれないし、昔の司書と仲が良かったようだから出してもらって読んでいるかもしれない。
「……これは絶対に読んでないよね。フェルディナンド様の資料に命の属性の入った部分はなかったもの」
シュバルツ達を作成するのに命属性の入った魔法陣が必要になるのではないか、という議論が領地対抗戦で交わされていたが、結局どのような魔法陣が組み込まれていくのかは判明していなかったはずだ。その命に関する魔法陣が組み込まれ、別の部分が穴開きの魔法陣が「ここまでは判明したのだが、この先がわからない。後世に託す」という書置きと共に描かれている。所々にフェルディナンドの研究結果と被るところがあるので、この資料と合わせるとかなり研究が進むかもしれない。急いでフェルディナンドに知らせなければ。
「リーゼレータ、これから隠し部屋でお手紙を……」
「ローゼマイン様、お手紙はお熱が下がってからです」
「でも、急ぎで……。シュバルツ達の作成方法がわかるかもしれないのです」
シュミル好きなリーゼレータを懐柔できないか、とわたしは自分の図書館にシュバルツ達のようなシュミルを置くつもりであることを一生懸命に説明した。リーゼレータが「シュミルの作成」と呟いて一瞬止まる。わたしが勝利を確信した次の瞬間、リーゼレータは一つ息を吐いてニコリと笑った。
「まず体調を整えてくださいませ。そうしなければお手紙を書いてもライムントに渡せませんし、大きなシュミルを作るための研究もできませんもの」
ベッドに戻ってくださいませ、とリーゼレータに再度ベッドに押し込まれた。
仕方がないので手紙を書くのは後回しである。わたしがゴロゴロしながら本を読んでいると、天幕の向こうから機嫌の良さそうなリーゼレータの鼻歌が聞こえてきた。仕事中に感情を表に出すことがないリーゼレータにしては珍しい。よほどシュミル研究が進みそうなのが嬉しいようだ。
……リーゼレータ、すごく楽しみにしてるみたい。
一応熱が下がったものの、まだ様子見ということで外出を禁じられているわたしが向かっても良い場所は食堂と多目的ホールの暖炉の前だけである。今は自室に本があるので、ずっと部屋の中でいても良いのだが、男性の側近と連絡が取りにくいので、一日に一度は多目的ホールに顔を出してほしいと言われている。夕食の後に顔を出して、一日の報告を聞くのだ。
「こちらがエーレンフェストからのお返事です。すでにヴィルフリート様とシャルロッテ様は目を通しています」
ローデリヒに手渡されたエーレンフェストからの返事に目を通していく。
「全ての共同研究の許可が出たのですね」
貴族院の研究は学生の領分なので、よほどのことがない限り許可しないということはないようだ。三つの大領地との共同研究は構わないと書かれている。
ダンケルフェルガーとの共同研究は王族からも指示があったので断りようがないし、ドレヴァンヒェルとの研究はエーレンフェストにとって価値がある。そして、アーレンスバッハとの共同研究は元々わたしがする予定だったので、止めるようなことではないそうだ。
そして、ドレヴァンヒェルとの共同研究をヴィルフリートとシャルロッテの側近に振ったことが褒められていた。三つの研究を同時進行させるのは難しいため、部下の功績を全て主が取り上げているように疑われる可能性が高くなるらしい。
「そして、こちらがエーレンフェストから届けられた紙です」
研究に必要な素材としてイルクナーから買い取った魔木から作られている紙が届いた。けれど、それぞれの箱にはエイフォン紙、ナンセーブ紙のように名前しか書かれていないので、どのような紙なのかわからないらしい。
「このナンセーブ紙は勘合紙と呼ばれていて、エーレンフェストが取引を許可した領地に配っている物と同じです。実際に配る時にはそれぞれの領地のマントと同じ色で染めています。大きい破片に集まる習性があります。こちらはエイフォンという魔木から作られた物ですから、多分、音を出すのに向いていると思います」
わたしはその魔木の特性を説明しながら研究班に渡していく。イグナーツとマリアンネが真剣な顔でメモを取っていた。
「わからないことがあれば聞いてください。ドレヴァンヒェルへの情報漏れを防ぐため、わたくしはグンドルフ先生の研究室には近付かないようにするので」
「かしこまりました」
すでに挨拶と顔合わせは済ませている。研究素材を持って行けば、グンドルフはそちらに夢中になるだろう。
「ローゼマイン様、こちらは星結びに関するお返事です。神殿長として前に出るのは中央神殿との関係や身の安全を考えると、以前と同じように遠隔から祝福をした方が良いのではないか、と書かれています」
フィリーネに渡されたエーレンフェストからのお返事には、ジギスヴァルトとアドルフィーネ様の星結びの儀式ではなるべく人前に姿を晒さずにした方が良いのではないか、と書かれていた。
「確かに、人前に出ることなく祝福ができるのが一番かもしれませんけれど、正直なところ無理だと思うのです」
「そうなのですか?」
「だって、わたくし、今まで意図的に遠隔の祝福をしたことがないのですもの」
何度か遠隔の祝福をやらかしたことはあるけれど、感情がぶわっと溢れて祝福になって勝手にやってしまった分である。意識的に遠隔の祝福をしたことはないのだ。貴族院で練習してあちらこちらに祝福を飛ばしていたら、貴族院では祝福を受けるのは珍しいことではなくなってありがたみも何もないだろうし、練習せずに失敗するのもまずい。
だいたい、顔さえ定かではなく、何の思い入れもないジギスヴァルトにアナスタージウスやエグランティーヌより多めの祝福を注がなくてはならないのだ。一緒にいるアドルフィーネに偏るくらいならばまだマシで、下手するとジギスヴァルトを素通りしかねない。祝福の有無や偏りが問題になっているのに、成功するかどうかわからなくて、タイミングも計れないのは怖い。今回も偶然上手くいくとは思えない。
「遠隔の祝福は今まで勝手に飛んで行っただけで意図的にしたことがないので、失敗を避けたいならばその場にいないと無理です、とお答えしてください」
ジギスヴァルトを認識できるところから祝福を贈るならば、神殿長の立場に立つのが一番だろう。中央神殿の神殿長が前にいるのに、違った方向から祝福を贈る方が完全に喧嘩を売っているように見えるはずだ。大勢の貴族の前で中央神殿の神殿長の面目を潰すよりは、王族からの依頼で祝福することを周知する方がまだ穏便だと思う。
わたしはエーレンフェスト側の心配を書き連ね、「中央神殿との関係の調整は提案者であるアナスタージウス王子に一任するので、これ以上エーレンフェストに不利益がないようにしてくださいね」という主旨の手紙をブリュンヒルデに渡す。
「こちらをエグランティーヌ先生に渡してくださいませ」
星結びの案件の他に書かれていたのは、図書委員活動の内容が鍵の管理者に変更になったことだが、「王族の要求に粛々と従うように」としか書かれていなかった。業務内容がよくわからないので、とりあえず従っておけ、というのがよくわかる返事である。
「呼び出しがあるまでは関わらない、という方針で問題なさそうですね」
「それから、ローゼマイン様の要望通り、フェルネスティーネ物語の二巻を大急ぎで印刷してくださるそうです」
奉納式のために魔石を神殿に運ぶ必要があるため、魔石と一緒に原稿も神殿に運び込まれることになったそうだ。これが届けば、少しはフェルネスティーネがわたしであるという誤解も解けるだろう。わたしはホッと胸を撫で下ろした。
そして、その次の日にはミュリエラとグレーティアが名捧げの石を持って来た。わたしは別室でそれを受けることにする。今回は女の子二人の名捧げなので、護衛も立会人も女の子ばかりだ。
「レオノーレ、これで大丈夫かしら? 問題がなければミュリエラを呼んでくださいませ、フィリーネ」
「はい」
フィリーネが連れて来てくれたミュリエラから名を受ける。なるべく苦しくないように一気に魔力を流し込んで石を魔力で縛ったけれど、やはりかなり苦しそうだった。
「大丈夫ですか、ミュリエラ?」
「平気です。まだ少し苦しいですけれど、とても嬉しいのです。わたくし、ローゼマイン様に名捧げをする決意をしたおかげでダンケルフェルガーのお茶会に同行することができました。ハンネローレ様の感想を聞くことができたのです」
「ハンネローレ様の感想、ですか?」
「はい」
ダンケルフェルガーのお茶会でハンネローレが語っていた恋物語に対する感想は、全力で同意して夜を徹して語り合いたくなるようなものだったらしい。
魔力で縛らせたせいで苦しそうな息をしているのに、どの部分に感動したのか、ときめいたのか、緑の瞳を輝かせて語るミュリエラはハンネローレよりもお母様を彷彿とさせる。
……本人が名を捧げたいと言うだけあって、ミュリエラはお母様とすごく相性が良さそう。
「ですから、わたくし、ローゼマイン様とエルヴィーラ様に捧げるために貴族院で恋物語を精一杯集めたいと存じます」
お母様と同じように恋物語を前にすると暴走しそうなミュリエラにわたしはストップをかけた。
「お話集めはフィリーネの仕事なので、ミュリエラにはまず製紙業や印刷業の知識を身につけてもらいます。お母様の部下になった時にすぐに働けるようになっていなければ困りますから」
「そうですね」
……うん、どこからどう見てもお母様の部下に向いているよね。
「フィリーネ、製紙業や印刷業についてミュリエラに教えてあげてちょうだい。それから、エーレンフェストに向けて書く報告書についても、ね。余裕があればお話集めの方針ややり方を伝えて、二人で集めてくださいませ」
領主候補生の文官見習いはフェルディナンド基準で合格がもらえるレベルの報告書が書けなければならない。フィリーネはフェルディナンドとハルトムートの両方から二年以上指導を受けているので、まだ日が浅いローデリヒより文官仕事に慣れている。
「ミュリエラ、わたくしの側近は階級によって上下が決まっているわけではありません。貴族院では上級貴族のレオノーレを中心にしていますが、城へ戻ると下級騎士のダームエルが中心になって仕事を振り分けるようになります。文官見習いはハルトムートが中心ですが、貴族院では仕事の慣れと的確さからローデリヒよりもフィリーネの方が指導役に向いていると判断して貴女に付けることにしました。これまでのやり方とずいぶん違うでしょうけれど、これがわたくしのやり方です。慣れてください」
「かしこまりました」
フィリーネにミュリエラの指導をお願いした後、わたしはリーゼレータとグレーティアを呼んでもらい、今度はグレーティアの名を受ける。
同じように苦しかったはずだが、グレーティアは少し顔をしかめるだけで呻き声を上げることなく名捧げを終えた。
「苦しかったでしょう? 大丈夫かしら?」
「ご心配ありがとう存じます。この程度ならば平気です。わたくしの名を受けてくださったのですから、ローゼマイン様にとって居心地の良いお部屋を維持できるように全力を尽くしたいと思います」
グレーティアが目元を少し隠すくらいの前髪を揺らし、その向こうの青緑の目を嬉しそうに細めた。
「グレーティアの指導はリーゼレータが行います」
ブリュンヒルデは上位領地とのやり取りの調整に忙しいため、リーゼレータが全面的にグレーティアの指導に当たることになっている。好みのお茶の入れ方や部屋の整え方などの細かいことを教えていくらしい。そして、上位領地との交渉には出なくても、お茶会で裏方に徹することは求められるので、その辺りのことも説明するようだ。リーゼレータが進み出てニコリと微笑んだ。
「ローゼマイン様の側仕えはヒルシュール先生の研究室のお掃除もお仕事の範囲に入ります。やり方を教えますから、よく覚えてくださいませ」
「ヒルシュール先生の研究室ですか?」
予想していなかったのか、グレーティアが目を丸くする。
「あの研究室に出入りする者はほとんどが中級貴族ですし、見知らぬ者が出入りすることは少ないですから内向きの仕事です。それに、ローゼマイン様はこれからシュバルツ達の研究で忙しくなるので、出入りする頻度が高くなります。主の向かう先を清めるのは側仕えの仕事ですから、グレーティアにも慣れていただかなくては」
グレーティアが少し顎を引いた後、コクリと頷いた。
……あれ? わたし、シュバルツ達の研究より先にやらなきゃいけない共同研究があるんだけど?
どうやらリーゼレータはシュバルツ達の研究のために全力でヒルシュールの研究室をバックアップする予定のようだ。心強いと言えば、心強いと思う。
そして、ようやく回復したわたしはやっとヒルシュールの研究室へ通えるようになった。ライムントにはダンケルフェルガーのお茶会の模様とシュバルツ達の研究が進むことになる魔法陣について書いたお手紙第三弾を渡し、代わりに、フェルディナンドからのお返事を受け取った。
ライムントからリーゼレータに渡され、色々とチェックされた手紙がわたしの手に届く。
「結構厚みがありますね」
「二回分まとめてのお返事だそうです」
わたしがライムントと話をしている間、グレーティアは手紙の受け渡しの手順についてリーゼレータから説明を受け、護衛騎士であるラウレンツも一緒に毒の確認の手順を習っている。
わたしの護衛として付いているのはユーディットだ。
「私もようやく録音の魔術具の合格が出ました。ローゼマイン様が試作に協力してくださったおかげです」
「録音の魔術具の設計図は買い取らせてくださいませ。わたくし、自分で作りたいのです。今は手持ちがありませんけれど、リヒャルダに頼んで次回は持ってまいります。ですから、他の方に売ってはダメですよ。わたくしが予約しましたから」
わたしがそう言うと、ライムントが「誰も欲しがりませんよ」と苦笑した。そんなはずはない。他の人がまだライムントの価値に気付いていないだけだ。
「わたくし、お部屋に戻ってフェルディナンド様のお返事を読みたいので、今日は失礼します。ヒルシュール先生とライムントの分のお食事は置いておくので、必ず食べてから研究を始めてくださいね。それから、フェルディナンド様へのお手紙、忘れないでくださいませ」
「かしこまりました」
ライムントの前に食事セットを置くと、わたしは側近達を引き連れて寮に戻る。
自分が光るインクを使って手紙を書いたのだ。フェルディナンドからの返事も光るインクで書かれている可能性が高い。人目につくところで開くのは止めておいた方が良いだろう。わたしは自室に戻ると、手紙を持って隠し部屋へ飛び込んだ。
「わーい、お返事、お返事」
魔術具で手元を明るく照らせば光る文字はほとんど見えず、普通の文字が読める。さっと目を通して、わたしは首を傾げた。
「……何だか表にもお小言が多いね。なんで?」
光るインクでお小言が書かれることはわかっていたけれど、普通の文面にもお小言が多い。そんなに怒られることはしていないと思うのに、どういうことだろうか。
ヒルシュールの研究室を掃除したり、フェルディナンドの体調を心配したりしていただけなのに「あまり余計なことはしないように」と書かれているのは納得がいかない。あの部屋を掃除するのも、フェルディナンドの体調を気遣うのも余計なことではないはずだ。
「ちょっと待って。お小言で問題をすり替えてるよね、これ。こちらは問題ないので余計な心配をするなってことは、不健康な生活を送ってるってことじゃないの?」
つらつらと並ぶお小言の裏を読もうとじっくり見ていると、初日合格したことに関しては「大変結構」と褒め言葉があった。
「やった! 大変結構、だよ!」
うふふん、と鼻歌混じりに明かりを消した。すると、光る文字が浮かび上がって来る。
「こっちもお小言……何々? よくこの短時間でここまで次々と問題を起こせるものだ……。別に起こしたくて起こしたわけじゃないんだけど、ごめんなさい」
加護を得る儀式で高みに上るという表現は止めなさい。君の場合は本当にあり得るので困る、と書かれていた。そして、フェルディナンド自身は加護を得る儀式の後でシュタープを得たため、魔力が扱えなくなって困るということはなかったらしい。むしろ、シュタープを得て、魔力がとても扱いやすくなったそうだ。シュタープを得る前の魔力の扱いに苦労していた頃の対処法が書かれていたが、それは養父様に聞いたのと同じだった。
「魔力を体に溜め込みすぎると成長が遅くなると言われている。君の魔力はシュタープで扱える範囲内で十分なので、他の対処方法が見つかるまでは魔力圧縮を薄めて体の成長を優先した方が良いのではないか?」
「そっか。ユレーヴェで体もちょっと丈夫になったし、魔力を薄めにしたら成長しやすくなるんだ」
周囲との体格の違いに悩まされていたわたしは、魔力の伸びよりも身長の伸びを優先したい。魔力不足の情勢の中、できるだけ魔力を圧縮して魔力を伸ばすのが貴族院で行うことだという雰囲気があるため、魔力を薄めていなければならなかったことに少し焦りがあったのだけれど、「今の魔力でも十分」という言葉ですごく気が楽になった。
加護を得る儀式についてダンケルフェルガーと共同研究を行うことになったことと、エーレンフェストで成人相手に行ってみることも書いたのだが、それに関しては「成人しても増える。私は神殿に入ってから増えた」とすでに実験済みであることが書かれていた。ついでに、実験する際の注意点も書かれている。
……どれだけ神殿で実験してたんですか、フェルディナンド様!?
ただし、被験者が自分だけだったので、名捧げで全属性を得たローデリヒのような結果をユストクスやエックハルト兄様から得ることはできていないらしい。「私もエーレンフェストで実験がしたい」と珍しく素直な言葉が書かれていた。さらっと書かれているけれど、これはマッドサイエンティストの魂の叫びに違いない。
そして、ヒルシュールと養父様が話し合い、歩み寄ったことには少し安心したというようなことが回りくどく書かれていて、粛清の結果には「終わったとしてもまだ気を抜くべきではない。エーレンフェストに戻った後こそ気を付けるように」と注意が書かれていた。
ドレヴァンヒェルとの共同研究に関しては「領地対抗戦で発表される結果を楽しみにしている」ということが書かれていて、アーレンスバッハとの共同研究に関しては「ライムントからの手紙で知ったが、まだフラウレルムからの手紙は届いていない」と書かれていた。
……やっぱり届くのにすごく時間がかかるか、何か企んでいるか、どっちかなのかな?
共同研究についてはもっと詳しく書くように、と書かれているけれど、「フェルディナンド様は貴族院でヒルシュール先生が何もかもを受け流すようになるようなことをしていたようですが、何をしていたのですか?」という質問に対する答えは「君ほどのことはしていない」という一文しかなかった。
「ふんふん。つまり、フェルディナンド様も色々やらかしたってことだね。……あれ? ちょっと待って。二人が私の弟子として共同研究をするならば、もう少しレベルを上げる必要がある……って、一体フェルディナンド様は何をライバル視してるの!? ダンケルフェルガー? それとも、ドレヴァンヒェル!?」
三つの大領地との共同研究に加えて、わたしとライムントが「あのフェルディナンド様の弟子」という看板を背負って研究発表するということで、フェルディナンドの負けず嫌いに火が点いたらしい。これからの研究はこれまでよりずっとスパルタになるはずだ。
「……わたしは慣れてるけど、ライムントは大丈夫かな? まぁ、フェルディナンド様の弟子だし、大丈夫だよね」
そして、返事の最後の最後に小さく「そういえば、ゲドゥルリーヒの歌は恋歌と思わせておきなさい。その方が面倒は少ない」と書かれていた。
……うわぁ、ものすごくどうでもよさそう。
光る文字を目で追って、目の前がチカチカし始めた頃にようやく第一弾の返事が終わった。