Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (491)
ちょっとした企み
「姫様、何を考えているのか、じっくりとお話を聞かせていただきとう存じます。他領の領主候補生を神事に参加させるとはどういうことですか? わたくし達は何も聞いていませんよ!」
寮に戻ると同時にリヒャルダが仁王立ちになった。腰に手を当てて眉尻を上げている様子からお説教が始まるのはわかる。だが、まだわたしは何もしていないはずだ。
「……ダンケルフェルガーの許可があれば、のお話ですよ?」
「ダンケルフェルガーの許可があれば、ではございません。そのような重大なことを相談もなく行うことについて、わたくしは意見しているのです」
「貴族院で行われる研究については学生の領分なので特に相談は必要ない、とアウブはおっしゃっていませんでしたか?」
リヒャルダの言葉にわたしはコテリと首を傾げた。何だか認識がずれている気がする。わたしの言葉にリヒャルダはゆっくりと首を振った。
「姫様の場合は報告しておいた方が良いですけれど、それだけではなく、姫様の補助をして動く側近への相談のお話です。せめて、姫様が何を考えていて、何をするつもりなのか、前もってお話くださいませ」
「ダンケルフェルガーとの共同研究の中で神事を行う話はこれまでにもしてきたではありませんか。わたくしは皆様が共同研究に参加したがっているようなので提案しただけです。やることは同じですよ?」
何をすると言われても、神事をするのは決定事項だったはずだ。わたしの言葉にリヒャルダはゆっくりと首を振った。
「そのようなお言葉でわたくしを誤魔化せるとお思いですか? これまでは姫様お一人で行える神事について考えてこられたではありませんか。突然他領の領主候補生を参加させることをお決めになったのは何故ですか?」
わたしを取り巻いている側近達の表情は厳しく、誰もリヒャルダの追究を止めようとしない。わたしは、むぅっと一度唇を尖らせて不満を顔に出した後、殊更ニコリとした笑顔を作った。
「別にお茶会の度に養父様に対する悪意ある噂話ばかりを聴かされ、あまりにも神事が蔑ろにされていて何を言っても聴く耳を持っていないにもかかわらず、利益だけは欲している中小領地への対応が面倒になってきたわけではありませんよ」
「……ずいぶんとご立腹なのですね」
リヒャルダは小さく息を吐いて、「姫様も感情を隠すのがお上手になってきたこと」と言った後、困ったように「今度は上手に感情を発散させることを覚えてくださいませ」と頭を振った。
「では、姫様。神事と言っても何をなさるおつもりですか?」
「ダンケルフェルガーが他の方々の参加に許可をくださったら、貴族院で奉納式を行います」
「奉納式、ですか? いつもこの時期に神殿で行っている神事ですよね?」
ハルトムート達が準備しているのを思い出すようにフィリーネが頬に手を当てる。
「えぇ。エーレンフェストでわたくしが常に行っている神事をダンケルフェルガーに見せるのであれば、奉納式以上に相応しい神事はないでしょう? わたくし一人の魔力で聖杯を満たすのは難しいので、ダンケルフェルガーに何の儀式を見せるのか悩んでいたのですけれど、たくさんの協力者がいれば、簡単に聖杯を満たすことができます」
「……あの、ローゼマイン様。それは他領の領主候補生から魔力を奪うということではございませんか?」
グレーティアが恐る恐るという様子でそう尋ねてきた。他の側近達がさっと顔色を変える。わたしはグレーティアを見つめてフフッと笑った。
「あら、嫌だ。グレーティアったら人聞きが悪いことを言わないでくださいませ。わたくしは強制など全くしていません。皆様、ダンケルフェルガーへ参加をお願いするくらい熱心な善意の協力者でしてよ。自主的に魔力を奉納してくださるのです。そのような言い方は失礼でしょう? それに、協力的な領主候補生が多いことを王族の皆様もきっと喜んでくださるでしょう」
やりたい人だけが参加するのだ。わたしは強制などしていないし、やりたくなければ最初から頼まなければ良い。
「あの、ローゼマイン様。王族が何故関係してくるのですか?」
とても不吉な言葉を聞いたというような顔でラウレンツが質問する。テオドールが逃げ腰でコクコクと頷いているところを見ると、テオドールも王族は苦手なようだ。
「貴族院の祭壇を使わせていただこうと思えば、王族の許可は必要でしょう? それに、自主的に参加してくださったとはいえ、この魔力不足のご時世に奉納された皆様の魔力をわたくしが個人的に使うと角が立ちますから、王族に有効利用していただくつもりなのです」
たくさんの領主候補生が魔力を奉納してくれれば、魔力不足の王族はきっと喜んでくれると思う。そして、王族からお礼の一言でもあれば、彼等は何も言えないだろう。
わたしの言葉を吟味するように難しい顔をしていたマティアスが「ふむ」と言いながら、静かに青の瞳を向けてきた。
「これまで共同研究に他領が参加してくることをお断りしていたダンケルフェルガーから許可をいただくことは可能だとお考えですか?」
簡単に姿勢を変えるのは上位領地にとって難しいはずです、というマティアスの指摘にわたしはにんまりと唇の端を上げる。
「参加希望者を受け入れる条件としてダンケルフェルガーと彼等がディッターを行うことを提案すれば、きっと喜んでいただけると思うのです。儀式の検証もしたいでしょうし、ディッターがしたいと熱望していらっしゃいましたから」
「善意の参加者をダンケルフェルガーの生贄に差し出すのですか……」
唖然とした顔でマティアスがそう言った。
「マティアスも人聞きが悪いことを……。参加したくてたまらない人達がダンケルフェルガーに対して熱意を見せるだけの話ではありませんか。わたくしは別にそうすればエーレンフェストが儀式の検証やディッターに付き合う必要がなくなるので負担が減って助かるなどと考えてはいませんよ」
「ダンケルフェルガーの儀式の検証もお手伝いしていただけるなんて、とても熱心で素晴らしい協力者ではありませんか。わたくしはローゼマイン様のお考えを支持いたします」
レオノーレが微笑んでそう言った。マティアスも軽く息を吐きながら「確かに何度もダンケルフェルガーの検証に付き合わされるのは困りますね」と呟く。
大領地で人数が多いダンケルフェルガーとディッターをしようと思えば、エーレンフェストは騎士見習い全員で対応しなければならない。一度ならまだしも、条件を変えて何度も行うだろう検証に付き合うのは難しい。ヴィルフリートやシャルロッテの護衛騎士も動員することになるからだ。
「ダンケルフェルガーも儀式の検証とディッターができ、わたくしの神事に必要な人数を集めることができ、王族は集まった魔力を使うことができ、そして、中小領地は共同研究に参加することができるのです。……ちょっとだけダンケルフェルガーは皆の対応に追われて忙しくなり、王族も対応が大変で、参加者は講義以外で魔力をたくさん使うことになりますけれど、皆に利点がある良い案だと思いませんか?」
ニコリと笑ってそう言うと、側近達は何とも言えない顔になった。賛成とも反対とも言えないような微妙な顔だ。
「その提案にローゼマイン様の利点はあるのですか? 周囲の皆様の利点ばかりを挙げられましたけれど、ローゼマイン様の利点が見えません」
「エーレンフェストがディッターに付き合う必要がなくなるだけで十分……と言いたいところですけれど、欲しい物があります。でも、今はまだ秘密です。王族が許してくださったらわたくしの利点ができる、とお答えしておきましょう」
そして、わたしはダンケルフェルガーとヒルデブラントに手紙を書いた。ヒルデブラントにしたのは、貴族院内の施設の使用のことだし、アナスタージウスよりも許可が取りやすそうだと思ったからだ。
ダンケルフェルガーとの共同研究に参加したい者がたくさんいること、エーレンフェストの儀式である奉納式を見せるためには人数がいる方が良いこと、ディッターをすれば許可すると言えばダンケルフェルガーにとっても利点があること、奉納式で得た魔力は王族に譲ること、祭壇のある最奥の間を儀式で使わせてほしいことを書いて、早速届けさせた。
「詳しい話を聞かねばならぬ。明日の午後に私の離宮に来い」
……ヒルデブラント王子にお手紙を出したのに、何故かアナスタージウス王子から返事が来たよ。解せぬ。
わたしはまたもやアナスタージウスの離宮に呼び出されることになってしまった。祭壇を借りたいという話だけなので、たいしたことではないだろうと離宮へ向かうと、アナスタージウスの離宮にはハンネローレとその側近に加えて、寮監の二人も呼ばれている。学生の領分である共同研究の話なのに何だか大事になっているようだ。
「さて、ローゼマイン。一体何をするつもりなのか、包み隠さずに言え」
ずいぶんと警戒しているらしいアナスタージウスに睨まれながら、わたしは共同研究のあらましとこれから行うエーレンフェストの儀式について答えた。側近達に語ったのと同じように、王族にとっての利点もしっかり強調した。
話を聞き終えたアナスタージウスは額を押さえ、わたしとハンネローレを交互に見る。
「……どうして其方達は大事にしたがる?」
「其方達とはどういうことですか?」
わたしが首を傾げると、ハンネローレが恥ずかしそうに俯いた。
「ダンケルフェルガーが、その、少し騒ぎを起こしてご迷惑をかけてしまったのです」
ダンケルフェルガーが儀式の検証を行ったことで光の柱が立ち上り、かなりたくさんの問い合わせが王族に向かったらしい。だが、光の柱が立ち上がった儀式は先日わたしが行ったダンケルフェルガーの真似事ではないだろうか。
「……それはわたくしのせいではございませんか?」
「いいえ。ローゼマイン様を真似て魔力の奉納付きで儀式をしてみたり、槍の形を変えられないか試したりした結果、ダンケルフェルガーの寮でも光の柱が立ち上がったので、完全にダンケルフェルガーのせいなのです」
寮と隣接して作られている訓練場で儀式をしては、二チームに分かれてディッターを行っていたらしい。何とも大領地の余裕を感じさせる話である。
……さすがダンケルフェルガー。強くなるためには手間暇も魔力も惜しまないね。
「昨日は共同研究に参加したいと訴える領地が突然増えたことに驚き、対応に追われていましたが……」
寮監であるルーフェンはそう言った後、とてもイイ笑顔になった。
「ディッター物語と本当の祝福が得られる儀式で皆のディッター熱が高まっているところにディッターの相手を作り出してくれるとは、さすがローゼマイン様ですね。寮内では評判が一気に高まっています。昨夜は大盛り上がりでした」
……そんな評判はいらなかったよ。
ちょっとだけダンケルフェルガーが忙しくなればいいと思っていたけれど、わたしからの手紙を読んだ直後から参加者大歓迎でディッターの受付をするようになったため、ダンケルフェルガーには何のダメージもなかったようだ。むしろ、色々な領地に「ディッターをして儀式に参加しないか?」と声をかけることにしたらしい。
「儀式によって神々の祝福を得て戦うのでしたら、いくつかの領地の合同チーム対ダンケルフェルガーとした方が良いかもしれませんね。そして、神々の祝福を得るところを見せてあげれば、彼等も今後は真剣に神事を行うようになるでしょう」
「ふむ」
「敵も強くなければダンケルフェルガーは燃えないのでしょう?」
「その通りです!」
ルーフェンが張り切っているし、実際に祝福を得るところを見れば、騎士見習い達は真剣に儀式を行うようになると思う。エーレンフェストの騎士見習い達に「今後はダンケルフェルガーを見習って自力で祝福を得てください」と言った時と同じように。
ルーフェンとの話が一区切りつくと、ハンネローレがおずおずとした様子で口を開いた。
「ダンケルフェルガーには利点があるので、参加の許可をするのは構いませんけれど、共同研究に名を連ねるのは、やりすぎではございませんか? それほどの貢献度ではないと思われます、とお兄様がおっしゃいました」
ダンケルフェルガーとのディッターと奉納式への参加をしてもらうのだから、わたしとしては十分な貢献だと思うけれど、ダンケルフェルガーにとっては貢献度が低いらしい。
……儀式を行う以上、ディッターは義務ってお土地柄だからね。
共同研究の貢献には足りないと言うダンケルフェルガーと共同研究に名を残したい他領の間を取るような提案が必要だ。でも、考えてみれば、わたしは「儀式に参加しませんか?」とお誘いしただけで「共同研究に名を連ねます」と約束したわけではない。勝手に向こうが思い込んでいるだけだ。
少し考えて、ピッと人差し指を立てると、ニコリと笑う。
「では、研究の最後に協力者として名を並べるということであればどうでしょう? 聞き取り調査に協力してくれた騎士見習い、そして、儀式に協力してくれた領主候補生や上級貴族の名を載せるだけで、共同研究はあくまでダンケルフェルガーとエーレンフェストのものということにすれば、ダンケルフェルガーもこれから参加される皆様も納得してくださるかしら?」
「……え、えぇ。それならば結構です。お兄様も納得してくださるでしょう」
ハンネローレがしばらくわたしをじっと見つめていた後、ゆっくりと頷いた。
「では、儀式はレスティラウト様が講義を終えてからになるので、頑張ってくださいませ、とお伝えくださいませ」
「直に終わるようです。ローゼマイン様を驚かせようと意気込んでいましたから」
ハンネローレがものすごい勢いで講義を終えていくレスティラウトの様子を苦笑しながら語った。最終学年だけれど、去年と同じ頃合いには講義を全て終えることができるようだ。予想以上の巻き返しに、素直に驚いた。
「……驚きました。では、参加者とのディッターが終わって、参加者が確定したらお知らせくださいね」
わたしの言葉に「お任せください!」と答えたのはルーフェンだ。わたしとハンネローレはちらりとルーフェンを見て、軽く肩を竦め合った。
「ローゼマイン」
コホン、とアナスタージウスが咳払いした。
「何でしょう?」
「其方から要請があった最奥の間の祭壇を使用する件だが……」
「はい」
「あの祭壇は中央神殿の管轄になる」
そういえば、領主会議の時に行う星結びの儀式や貴族院の成人式は中央神殿が行うものだったはずだ。
「ここの神具を使うには中央神殿の許可と采配が必要だが、彼等は今多忙だそうだ」
「奉納式の時期ですものね」
色々な領地から魔力が多めの青色神官や巫女を掻き集めているので、エーレンフェストほど大変ではないだろうが、そもそも小聖杯の数が違う可能性もある。
「では、エーレンフェストから神事に必要な物を取り寄せるので、祭壇のあるお部屋だけお貸しいただけますか? 皆に神に祈るということを教えたいのです」
「……祭壇に触れぬならばよかろう」
「恐れ入ります」
アナスタージウスの許可に礼を述べながら、わたしははたと気が付いた。
「あ、あの、祭壇に触れなければ、魔力を奉納するための聖杯を下ろすこともできませんよね? どうしましょう? 聖杯を下ろすだけならば許可は出ますか?」
魔力を流すための敷物はエーレンフェストから送ってもらうこともできるけれど、聖杯を下ろさなければ魔力を奉納するところがない。
「いや。どうにもできないならば、仕方がないな」
「わたくしがシュタープで作れば良いだけなので、聖杯の準備はできるのですけれど……」
「できるのか!?」
大きく目を見開いたアナスタージウスにわたしは軽く頷いた。先日、三本の鍵が必要な書庫で見つけた呪文があるので、聖杯を作ることはできる。
「けれど、わたくしの聖杯を中央に持って行くのは無理です。ですから、王族の方がシュタープで聖杯を作れるようになるか、皆の魔力を持ち帰るために空の魔石をたくさん準備するか、どちらかお願いいたします」
王族がシュタープで聖杯を作れれば一番話は早いのだが、神具はよく触れて魔力を流してみなければ作ることができない。祭壇に触れられなければ、聖杯を作るのも不可能だろうし、維持するのに非常に魔力が必要になる。王族に余計な魔力を使う余地はないだろう。
空の魔石を準備して、わたしのユレーヴェからエーレンフェストが魔力を得ていたように聖杯に魔石を漬け込むのが、魔力の持ち運びには一番手っ取り早いと思う。
わたしの提案にアナスタージウスがハァと疲れたような溜息を吐いた。中央神殿の協力が得られないので、大量の魔力が手に入りそうな状況を断念しなければならないだろう、と王族の間では話し合われていたらしい。
「……神具を借りられなければ、聖杯を自分で作ったり、聖杯から空の魔石に魔力を移して運んだりすれば良いのか。其方はずいぶんと妙な裏技をたくさん知っているな」
「師の教えが良かったのでしょう」
フフッと笑うと、アナスタージウスが額を押さえた。
「其方が貴族院で奉納式を行い、集められた魔力を王族が利用できるのは正直なところ、大変助かる」
「そう言っていただけると、わたくしも嬉しいです。できれば、王族の方にも奉納式には参加していただきたいのですけれど、それは可能でしょうか?」
「我々も参加、だと?」
ぎょっとしたように目を見開いたアナスタージウスにわたしは真面目な顔で頷いた。王族が率先して参加してくれれば、参加者達が「やっぱり止めた」とは言えなくなる。それに、神々の御加護を必要としている王族は真剣にお祈りをする機会があった方が良いと思うのだ。
「中央神殿と距離があるのでは、王族は本当の神事を経験したことがないのではございませんか? 共に祈りを捧げると魔力は流れやすくなり、祈りは届きやすくなりますから、一緒にいかがです? もちろん、強制ではございません」
「……考えておこう」
こうして儀式のための根回しを終えたわたしはヒルシュールに「研究の邪魔は止めてくださいませ」と叱られた後、寮に戻ってエーレンフェストへ連絡を入れた。
共同研究で王族を巻き込んだ奉納式を貴族院で行うことになった成り行きを報告し、神殿の奉納式が終わったら、魔力を流すための敷物、神々への供物、わたしの神殿長の儀式用衣装、ヴィルフリートとシャルロッテの儀式用衣装など、奉納式に必要な物を送ってほしい、と。
「私とシャルロッテも貴族院の奉納式に参加するのか?」
「えぇ。皆で同じように儀式を行っているところを見せるのが、妙な噂を消すためには一番早いではありませんか。奉納式は礎の魔術に魔力を込めるのと同じです。ヴィルフリート兄様やシャルロッテならば、初めてでもできることです」
噂を打ち消すために、普段からしているような顔をしていてくださいませ、と言うと、二人とも神妙な顔で頷いた。
「ローゼマイン様、エーレンフェストからお返事が届きました」
その返事にはあまりにも大事になった儀式に養母様が目を回したこと、王族を巻き込んだ以上は絶対に成功させろということが養父様の字で書かれていた。奉納式に必要な一式はちゃんと送ってくれるそうだ。
ついでに、クラリッサの報告書を読んだらしいハルトムートからの「何故、私は卒業してしまったのか」と血の涙でも流していそうなお手紙も一緒に入っていた。怨念が籠っているというか、筆圧とか、字の崩れ方がかなり怖い。
「……これはエーレンフェストに戻った時が怖いですね。ハルトムートがとても面倒くさくなっている気がいたします」
レオノーレが真剣な顔でそんな呟きを零したので、わたしは御加護を得る儀式をエーレンフェストに残っている成人済みの側近達でやり直したいので、少しでも多くの御加護が得られるように日々のお祈りと神々の名の復習をしておくように、とハルトムートがやるべきことを書いた。何かやることがあれば少しは気が紛れるだろう。
これでよし、と思っているとユーディットが「うーん」と首を傾げた。
「それだけではハルトムートはすぐに達成してしまいますよ。アンゲリカに神々の名を覚えさせるように、という命令も入れておけばどうですか? 冬の間はそれにかかりきりになると思います」
「……ユーディット、それではダームエルの負担が増えるだけになる気がするのですけれど」
少し青ざめたフィリーネの言葉にユーディットが「あ」と小さく声を上げて、ニコッと笑った。
「ダームエルなら大丈夫ですよ、きっと」
「ダダダ、ダメですよ!」
フィリーネとユーディットのやり取りを見つめながら、ウチの側近達は仲良しだな、とわたしは久し振りに和やかな気持ちになった。