Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (492)
儀式の準備
貴族院の祭壇の前で奉納式を行うことは決まったのだが、すぐに行えるわけではない。まず、レスティラウトの講義と、エーレンフェストの奉納式が終わらなければならない。その間に、他領に声をかけたダンケルフェルガーがディッターをして、参加者を選別することになる。
「ミュリエラ、同じ儀式を行う時に魔力差がありすぎると少ない方に負担が大きいですから、参加者は上級貴族か領主候補生に限らせてください。それから、魔力圧縮を覚えたばかりの一年生も参加できません、とオルドナンツでダンケルフェルガーに伝えてくださいませ」
わたしの魔力が籠った魔石を持って儀式をしていたヴィルフリートやシャルロッテも慣れるまで大変だったし、他領では貴族院で魔力圧縮を習ってから礎の魔術に供給することが多いらしい。初心者全員に大人の補助を付けることができない以上、全く供給したことがない人は危険だ。
「ローゼマイン様、オルドナンツが戻ってまいりました。参加基準は了承していただけました。ダンケルフェルガーではディッターの準備が整っているようです。中小領地が合同チームを組むのを待機中だそうです」
……中小領地の皆様、ご愁傷様です。
心の中でそっと手を合わせつつ、わたしは借りている本に手を伸ばす。
「こちらの準備は神殿の奉納式が終わってからですね。ゆっくりと本でも読みながら待っていましょうか」
わたしは他領から借りた本を読んだり、ヒルシュールの研究室へ向かったりしてゆったりとした時間を過ごしていた。お茶会にも出たけれど、基本的には参加要件のディッターに対する苦情が話題のほとんどである。
どうやらわたしが速さを競うディッターに逃げたのがよほど悔しかったのか、宝盗りディッターをするように言われたらしい。座学では学んでいても、実技では練習していない宝盗りディッターだったため、合同チームを組んでも完膚なきまでに叩きのめされたそうだ。回復薬がいくつあっても足りない状態だ、という苦情にわたしは小さく笑った。
「ダンケルフェルガーとの共同研究にディッターは必須だそうですよ。エーレンフェストも以前行いました」
……宝盗りディッターをしたのは一年生の時だったけどね。嘘は言ってないよ。うん。
養父様に対する悪い噂ではなく、共同研究やダンケルフェルガーのディッターに対する話題で終始するお茶会は精神的な負担も少なく、わたしは初めてダンケルフェルガーのディッター好きに感謝した。
他には、ドレヴァンヒェルとの共同研究を行っている文官見習い達から経過報告もあった。グンドルフがかなり熱心に研究していて、魔木それぞれの特徴をより強く出すために紙を素材として色々と調合を行っているらしい。
どうやら勘合紙として使っているナンセーブ紙は動きが速くなったり、これまでより距離があっても動きを見せるようになったりと少し変化しているそうだ。
「性能が上がったということですが、図書館の本を移動させるのに使いたいので、本の重さに耐えられるくらいまで性能を上げてくださいませ。最終的には魔法陣を組み込むことも考えていますが、できるだけ素材の品質を上げてほしいのです」
エイフォン紙は楽譜を書いて、魔石を滑らせればオルゴールのように曲を奏でることができるようになったそうだが、まだまだ研究の余地があるらしい。
「魔石を滑らせて音を奏でられるのであれば、楽器とくっつけて自動演奏ができるようになれば良いのですけれどね」
麗乃時代に聴いたことがある自動演奏用のロール紙をセットしたパイプオルガンの音色を頭に思い浮かべる。あれはとても素晴らしかった。
わたしは何となく呟いただけだが、マリアンネはしっかり聞いていたらしい。
「グンドルフ先生に提案させてくださいませ。エーレンフェストは面白い着眼点が少ないとお叱りを受けたところなのです」
「……マリアンネ本人ではなく、わたくしの着眼点で良いのでしたら」
研究に力を注ぎ込んでいるドレヴァンヒェルの文官見習い達と一緒に研究するには、エーレンフェストの文官見習い達ではまだちょっと実力不足のようだ。共同研究をしている文官見習い達は少し自信をなくしているように見える。
「貴族院を卒業してエーレンフェストに戻ると、ドレヴァンヒェルとの共同研究ほどレベルの高い研究に参加できる機会は多くありません。周囲のレベルや叱責など、気にかかるところはあるでしょうけれど、気を落とさずに研究を続けてくださいませ」
「恐れ入ります」
そうこうしているうちに、クラリッサからレスティラウトの講義が終わったという報告とアンケートの集計結果が届けられた。ダンケルフェルガーでは武よりの文官や側仕えにも加護を得ている者が多いようだ。
「何というか、ディッターのためにあり、ディッターと共に繁栄してきた領地のようですね」
フィリーネの感想にわたしは深く頷いた。
「お茶会でのお話によると、今もディッター勝負に騎士見習い達が一丸となっているようですよ。ダンケルフェルガーだけが生き生きしていて、他領はぐったりして終わるようです」
「目に浮かびますね。それから、こちらは儀式の参加者の名簿です。ご覧くださいませ」
フィリーネから木札を受け取り、目を通す。神事への参加が決定した領地と参加者の名前が書かれている。過半数の領地が参加することになっていて、大領地と小領地では参加人数に差があるけれど三名から八名の名前が書かれている。学生の参加者だけで六十人を超えるようだ。
「大領地も参加するのですね」
「共同研究に参加できる絶好の機会ですし、神々の御加護を増やす研究は領地対抗戦で皆様の興味が最も集まるでしょうから」
大っぴらに参加できる機会は活かすということらしい。クラッセンブルク、ドレヴァンヒェル、アーレンスバッハの名前がある。ドレヴァンヒェルからは領主候補生が全員参加するようだが、アーレンスバッハは領主候補生のディートリンデではなく、文官見習いが参加することになっている。
「……あら? お茶会であれほど参加したいと言っていたのに、インメルディンクの名前がありませんね」
「中小領地ではディッターを行う余裕のある領地は少ないですから。特に他の領地が叩きのめされた話や回復薬などの素材がどれだけ必要で負担だったのかを聴くと、尻込みした領地も多いようです」
……うーん、尻込みする気持ちはわかるな。わたしも面倒だから他の領地に回したんだし。
ディッターの時点で回復薬を大量消費しているならば、奉納式を行うと大変なことになるのではないだろうか。エーレンフェストの採集場所は高品質の素材が豊富に採れるけれど、他領の採集場所はそうではないはずだ。
……回復薬、配った方が良いかも?
「ローゼマイン様、参加者が決定したのですから、神事の注意事項を説明しなければなりませんね」
フィリーネに声をかけられて、参加人数と準備しなければならない回復薬の素材について考えていたわたしはハッとして顔を上げる。
「そうですね。……当日の朝は身を清めること、回復薬を準備しておくこと、お祈りの言葉を覚えておくこと……くらいでしょうか?」
自分が神殿でさせられたことを思い出しながら、わたしは注意事項を指折り数えていく。儀式用の服がないのはどうしようもない。
「注意事項をオルドナンツで送って、お祈りの言葉が詳しく必要な領地は文官見習いに教えてあげてください。こちらの木札に書いてあるので、各自写してもらってください」
「かしこまりました」
わたしの文官見習い達が揃って頷くと、不安そうにヴィルフリートが声をかけてきた。
「ローゼマイン、私も奉納式のお祈りの言葉は知らぬぞ。私が参加してきたのは祈念式と収穫祭だからな」
「奉納式のお祈りの言葉は礎の魔術に魔力を供給する時と同じですよ。一応見直しますか?」
祈りの言葉を書いた木札を渡すと、さっと目を通したヴィルフリートがホッとしたように肩の力を抜いた。その様子を見ていたシャルロッテも木札に目を通し、「これならば大丈夫ですね」と微笑む。
「そういえば、エーレンフェストから報告が届いたぞ。神殿の奉納式が終わったらしい。必要な道具を準備しているところだそうだ。雪の中、神殿から城へ運ぶのに難儀しているらしい」
わたしのレッサーバスがあれば荷物を運ぶのは楽に終わるのだが、騎獣で運ぶのは大変である。特に今はまだ冬の主を倒せていなくて、吹雪が一番ひどい時期だ。少しずつ騎獣で運ぶのにハルトムートやコルネリウス兄様達が何往復もして苦労しているらしい。
「それから、王族に話をして、成人しているハルトムートが儀式に参加するための許可を取るように、と書かれていた」
神事に必要な道具を運ぶには管理者が必要で、それは去年フェルディナンドが聖典を持ち込んだ時にやって来たのと同じだ、というようなことをハルトムートが主張しているらしい。
「ただ、ローゼマイン様の儀式を見たいだけ、という気もしますけれど」
ユーディットの声にレオノーレが「間違いないでしょう」と頷いたけれど、ローデリヒとフィリーネは顔を見合わせて仕方がなさそうに微笑んだ。
「ユーディットの言葉が本心であることに間違いはないでしょうけれど、儀式の準備を行える灰色神官達も貴族院にはいませんから、神事について知っているハルトムートは必要だと思いますよ。ローゼマイン様が全て準備するわけにもいかないでしょう?」
神殿でハルトムートが神官長になるために教えられていた様々な事を間近で見てきた二人は神事の準備にも細かい決まりが多いことを知っている。知っているだけで覚えていないし、実際に儀式をする場には神官以外立ち入り禁止なので見たこともない。エーレンフェストの寮内の者だけでは奉納式の準備をするのも大変である。全体の指揮を執れる者が必要だ。
「……ハルトムートを呼ぶしかなさそうですね」
わたしはすぐにお手紙を書いて、エグランティーヌに届けてもらった。誰に向けて質問やお願いをしてもアナスタージウスから返答があるのだから、最初からそちらに手紙を届けた方が手間は省けるだろう。
そして、エグランティーヌ経由でアナスタージウスにお手紙は無事に届いたようだ。オルドナンツで返事がやって来た。白い鳥がアナスタージウスの声でハルトムートの立ち入りを許可し、更に言葉を続ける。
「父上も儀式に参加するので、儀式の手順を詳しく書いた物、それから、参加者の名簿を送るように。大人数から大量の魔力を得る故、直々に礼を言わねばならぬそうだ」
王族も儀式を経験しておいた方が良いと思っていたけれど、どうやら王も参加することにしたらしい。
……本当に切実に神々の御加護が必要なんだろうな。
これに参加して、お祈りの仕方を覚えればユルゲンシュミットのために大量の魔力を注いでいる王族はきっとたくさんの御加護を得ることができるだろう。そうなって、少しでも王族が楽になればいいな、と考えていたわたしと違って、ヴィルフリートとシャルロッテを始めとした周囲の者達は顔色をなくしていた。
「ちょっと待て! 王が参加するだと!? あまりにも大変なことになっていないか!?」
「……予想外の事態ですけれど、今更中止にはできませんよ、お兄様」
シャルロッテが少し遠い目でそう言った。
「……皆様に協力していただいて魔力を奉納してもらうだけなのですけれどね」
わたしの言葉にシャルロッテがとても困った笑顔でわたしを見た。
「お姉様は魔力が豊富で、神々の御加護を賜ってからはどのように使えば良いのか思案していたくらいなので、魔力をそれほど重視していないのかもしれませんけれど、今の魔力不足の世界では王様が直々にお礼を述べなければならないと考えるほど重要な物なのですよ」
「王から直々にお言葉を賜るのは最優秀になった者だけだ。それを参加者全員に行おうとおっしゃるのだぞ。其方が行おうとしている儀式はそのくらい大変な事態なのだ」
自分が垂れ流し状態なのであまり重視していなかったけれど、たくさんの領地から魔力を搾り取ってやろうというわたしの計画はとても大変なものらしい。
ちょっとした企みが予想以上に大事になってしまったようだ。わたしはすぐに儀式の手順と参加者名簿を木札に書き、アナスタージウスの離宮に届けさせる。
「……魔力を得ることがそれほど重要視されているのでしたら、参加賞に回復薬が必要かもしれませんね」
「参加賞、ですか?」
目を瞬くシャルロッテにわたしはコクリと頷く。
「儀式に参加するためにダンケルフェルガーとディッターをするだけでも回復薬がたくさん必要だったようなのです。今回の儀式でも魔力だけではなく、回復薬も必ず必要になるでしょう?」
魔力も回復薬も必要では中小領地の負担が大きすぎるのではないか、とちょっと考えたことを述べる。すぐに魔力を回復させることができれば、魔力を奪われた不満を逸らせるかもしれない。
「皆様から魔力を大量にいただくのですから、魔力回復のためにフェルディナンド様の優しさ入りの回復薬を配るのはどうかしら?」
「お姉様、差し出口かもしれませんけれど、あのお薬はいただいても嫌がらせだと受けとられる心配もございます。もう少し飲みやすくて魔力を回復させるお薬はございませんか?」
ブレンリュースの実があれば、かなり飲みやすい回復薬になるけれど、あれはハルデンツェルでしか採れない物だ。貴族院にはない。
「……魔力だけを大幅に回復させるお薬があるのですけれど、疲労感は抜けませんよ?」
儀式に慣れていない者は多分ものすごくぐったりとすると思う。魔力が回復するだけで疲労感は抜けないのだ。
「魔力が回復すれば十分でしょう。それよりも味はいかがですか?」
「それほど悪くないと思います」
「あの叔父上の薬を平然と飲めるローゼマインの悪くないはあまり信用できぬ。先に我々が味見してみた方が良いのではないか?」
ヴィルフリートの提案にシャルロッテが何度も頷いたので、わたしは寮の調合室で魔力だけを回復させる薬を作ってみた。
多目的ホールに持って行き、試飲してもらう。実験台になったのは、素材採集を行った騎士見習い達と味見役のヴィルフリートとシャルロッテである。
「……味はそれほど悪くないな。普通の回復薬とさほど変わらぬ」
「回復力や回復の速度がかなり違うのです。やはり、優しさ入りの回復薬の方が良いですよ」
せっかく他領に配るのならば、効力が高い物を配った方が良いと思う。しかし、それは普段から優しさ入りの回復薬を飲んでいるわたしだけの意見だったようだ。講義で習う普通の回復薬を常用している騎士見習い達は首を振った。
「普通の回復薬を使用している我々には回復の速度も十分速く感じられますし、たった一本ですごく回復しますよ」
「味や臭いで敬遠されるよりは、普通に飲める物を配った方が良いのではございませんか?」
騎士見習い達やシャルロッテの主張に、わたしは魔力だけ回復する薬を配ることにした。この回復薬ならば、採集場所で簡単に採れる素材から簡単に作れるので、素材採集にも困らない。
「では、これを参加者分、作成しますね」
レシピを漏らして良いのかどうかフェルディナンドに確認が取れないので、わたしは名捧げをしたローデリヒとミュリエラに「口外法度」と命じた上で手伝ってもらった。
「ローゼマイン様、お一人で行っても大して違いがないように思います」
素材を切るのも、調合にも時間がかかったローデリヒは疲れ切った様子で「大して役に立ちませんでした」と項垂れ、ミュリエラは「ローゼマイン様お一人で調合室に籠るわけにはまいりませんからね」と微笑みながら薬の入った箱を調合室から運び始めた。
そして、儀式当日の朝。わたし達領主候補生が朝食を終え、多目的ホールで最終確認をしているとハルトムートがやって来た。
「ローゼマイン様、神事の道具を運んでまいりました。儀式用の衣装もこちらにございます」
「リヒャルダ、グレーティア。儀式用の衣装を部屋に運んで、着替えられるように準備をお願いします」
リヒャルダとグレーティアが動き始めると、ヴィルフリートとシャルロッテの側仕え達も動き始める。
「ヴィルフリート様とシャルロッテ様は冬の貴色の飾り紐などがございません。代わりになりそうな紐や布をそれぞれの側近に準備してもらっています」
城の側仕え達が手持ちの中からちょうど良さそうな物を探してくれたらしい。
「儀式は午後からです。王族に連絡を入れて最奥の間を開けてもらい、午前中に準備を整えなければなりません。領主候補生の文官見習い達や護衛騎士の一部を使っても良いので、準備をお願いしても良いですか?」
「お任せくださいませ。エーレンフェストの聖女であるローゼマイン様の儀式です。完璧にしなければなりません。貴族院で行われる儀式に参加が許されたことを、神に祈り、感謝を捧げましょう!」
青色神官の儀式用の衣装で祈り始めたハルトムートに周囲の視線が集中する。とてもテンションが高いところがちょっと心配だけれど、王族が参加するのだから完璧を目指してくれるのは非常に助かる。
ハルトムートが神々に祈りを捧げているのを横目で見ながら、わたしは神事の準備を行うために最奥の間を開けてほしい、と王族にオルドナンツを飛ばした。祭壇のある最奥の間を開けられる者は王族か領主だけだそうだ。そのためにも貴族院に王族が常駐していることが必要になるらしい。
「着替えの準備はリヒャルダとグレーティアにお願いします。それ以外の側近達は最奥の間に向かいましょう。さすがに王族よりも到着が遅いということになると失礼ですからね」
ヴィルフリートとシャルロッテも儀式服の準備に必要な側仕えだけを置いて、一緒に最奥の間へ向かう。側近達に神事に必要な道具を持ってもらい、講堂で待っていると、すぐにヒルデブラントがやって来た。
「ローゼマイン」
「ヒルデブラント王子、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
長い挨拶を交わした後、ヒルデブラントはアルトゥールに抱き上げてもらい、壁にある魔石に触れて、最奥の間に繋がる扉を開ける。加護を得るための儀式の時と同じように出入りできるようになった。
「いつもは王族の魔力が籠った魔石を先生方にお貸しして開けてもらうのですけれど、今日は私がどうしてもしたいと申し出たのです」
貴族院に入学前のヒルデブラントに今日の儀式への参加資格はない。参加したいと言われたけれど、王族を昏倒させてしまうのは非常にまずいのでアナスタージウスから断ってもらった。
仲間外れ気分なので扉を開ける役だけでもしたい、と願い出て、許可されたそうだ。
扉が開いたのでハルトムートは皆に荷物を運び込ませ、皆に仕事を振りながら準備を整え始めた。一緒に向かおうとしたらブリュンヒルデに軽く袖を引っ張られ、ニコリと微笑まれた。どうやらわたしの仕事はヒルデブラントの相手らしい。
「儀式が始まるまでこちらには準備するエーレンフェストの者以外、誰も入れないように、と父上に命じられたのです」
「ヒルデブラント王子は御自分にできるお仕事を探して、いつも一生懸命なのですね」
与えられた仕事を誇る姿がとても微笑ましくて、わたしは微笑んで頷き、ヒルデブラントに質問されるまま、今日の儀式で行うことを述べていく。
「ローゼマイン、今日は参加者が多いでしょう? 護衛騎士はどの辺りに立つのですか?」
「神事に護衛騎士は入れませんよ。この最奥の間に入れるのは儀式の参加者だけです」
「……え?」
ヒルデブラントが目を瞬くのに、わたしも目を瞬いた。
「神事を行う時、その部屋にいるのは神官だけなのです。中央神殿が行う星結びの儀式でもそうでしょう? わたくしが神殿長をするのであれば護衛騎士を付けたいと申し出ると、とても渋られましたもの。今回も同様で、護衛騎士には講堂で待機していただきます」
「護衛騎士を離すなど、王族の守りはどうするおつもりですか!?」
アルトゥールの声にわたしはニコリと微笑んだ。
「シュツェーリアの盾を使って選別します。王族に悪意や害意を持つ者は最初から入れません」