Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (511)
他領との社交
「其方等に話しておくことは以上だ」
話を終えたアナスタージウスは立ち上がると、わたしにシュツェーリアの盾を消すように命じ、盗聴防止の魔術具の範囲外へ出て、側近達に魔術具の回収を行うように声をかける。
側近達が動きだし、エーレンフェストの側仕え達がお茶を淹れ替えようとするのをアナスタージウスは「いらぬ」と制止して、養父様に視線を向ける。
「予想以上の収穫であった。礼を言う。私は急ぎ戻らなければならぬ。……あぁ、そうだ。アウブ・エーレンフェスト。中央神殿によると、神事の最中に祭壇に騎士を上げるなどとんでもないことで、神に対して実に不敬であるそうだ。青色神官や巫女を同行させるように、と言っていた。領主候補生でさえ青の衣装をまとえるエーレンフェストならば、問題あるまい」
アナスタージウスの言葉は、護衛騎士に神官服を着せれば好き放題に連れて行けるぞ、ということに違いない。成人している護衛騎士に青色神官や巫女の服を着てもらって護衛をしてもらえ、と言っているのだ。
……わたしの護衛騎士なら、頼んだら着てくれるよね?
そんなことを考えながらわたしは椅子から降りてシュツェーリアの盾を解除する。魔術具の回収を終え、養父様達と挨拶を終えたアナスタージウスはマントを翻してさっさと立ち去ってしまった。
「もうお茶は結構です。わたくし達も失礼しますから。ずいぶんと長い時間お邪魔してしまいましたもの」
第一夫人はそう言って挨拶すると、ハンネローレと一緒に去っていく。青いマントの一群が立ち去ると、次にやって来たのは赤いマントのクラッセンブルクだ。
「アウブ・エーレンフェスト、よろしいか?」
「もちろんです、アウブ・クラッセンブルク」
養父様が挨拶を交わし、わたしも初対面の挨拶をする。
「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許す。……ダンケルフェルガーやアナスタージウス王子とお話している間に共同研究を興味深く見せてもらいました。共同研究とはいえ、ずいぶんと研究内容に差があることに驚きました」
席を勧められ、お茶やお菓子が準備されている間にアウブ・クラッセンブルクは共同研究に参加した文官達からの報告についても教えてくれた。
「本物の神事を経験した、と彼等は口を揃えて言っていました。皆の祈りが一つになり、魔力が引き出され、それによって貴色の柱が立ち上る光景は目の奥が熱くなるほど感動的で見事でございました、と」
礎を支える領主一族、ユルゲンシュミットを支える王族への感謝の念が自然と引き出される衝撃的な儀式だったそうだ。参加したダンケルフェルガーの文官見習いの意見をまとめてくれたクラリッサの報告でも似たような感想があったけれど、いつも大袈裟だから話半分に聞いていた。
……エーレンフェストの上級文官達は魔力が流れ過ぎてへろへろだったし、「あれが神事なのですね」としか言わなかったから知らなかったなぁ。
ヴィルフリートやシャルロッテが祈念式や奉納式で各地を回っている話を聞いているせいだろうか。それとも、フェシュピールを弾きながら祝福をしたり、奉納舞で祝福を漏らさないようにするためにはどうすれば良いかと考えたり、採集地を再生させたり、ディッターの儀式で光の柱がバンバンと立つのを目撃しているせいだろうか。エーレンフェストで参加した上級文官の感想は、自分達の主のこれまでの話に対する納得と共感するものがほとんどだった。
……エーレンフェストの学生は変な意味で祝福に慣れちゃってるからね。……わたしのせいか。
「来年も貴族院で儀式を行うのですか? 文官以外でも経験してみたいという意見は多いのですが……」
「今回の儀式はダンケルフェルガーとの共同研究のために必要だったために行ったものですから、来年の予定はございません。毎年、皆様から貴重な魔力をいただくわけには参りませんもの」
「ずいぶんと効果の高い回復薬をいただいたと伺っています。それがあれば、協力できると存じます。王族を支える一助となるでしょう」
今年はディッターをけしかけたし、自分達の研究に協力してもらうためだったから魔力回復薬も準備したけれど、あれを恒例行事にするつもりはない。儀式の準備に一体どれだけ読書の時間を削られただろうか。研究のためでもないのに、どうしてわたしがそんな手のかかることをしなければならないのか。余計なことはくれぐれもするな、と保護者だけではなく、王族にまで言われているのだ。
「各地の神殿で集めた魔力があれば、王族もさぞお喜びでしょう。わたくしが儀式を行った目的には、各地の神殿の在り様を見直してほしいという望みもあったのです。アウブ・クラッセンブルクにご理解いただけて嬉しいです」
儀式をやりたかったら神殿はあるんだから好きなようにしてください、というわたしの言葉は通じたようだ。アウブ・クラッセンブルクは軽く眉を上げて、養父様に視線を向けた。多分「娘を少しは説得しろ」と目で訴えているのだろう。養父様は引きつり気味の笑みを浮かべつつ、コホンと咳払いした。
「今回の儀式は共同研究、すなわち、学生の行動なので親である私は基本的に口を出してはならないのです。それに、最奥の間は中央神殿の管轄なので、研究のための一度限りならばまだしも、何度も貴族院で儀式を行っては王族と中央神殿の溝が深まる可能性が高くなります。エグランティーヌ様が王族に嫁がれている今、クラッセンブルクにとってもあまり歓迎できることではないと思われませんか?」
養父様は貴族院の行動に親は基本的に口を出さないという建前と、中央神殿と王族の関係悪化を盾にアウブ・クラッセンブルクの要請を退ける。全く受け入れる気がないことを悟ったらしいアウブ・クラッセンブルクが憮然とした面持ちで話題を変えた。
「今年取引を行った商人からの報告によると、エーレンフェストにはずいぶんと珍しい物が多くあると聞いています。貴族院で流行している新しい本は遠く離れたギーベの土地で作らせているそうですが、街でもずいぶんと目新しい物があるそうですね」
商人達が宿で見つけたポンプや乗り心地の良い馬車の話が出た。一年目はほとんど普及していなかったので、目に付かなかったのかもしれないけれど、二年目はポンプも結構広範囲に普及していたので、一年で大きく変わったことに商人達が驚いたのだろう。
「特に、井戸から水を汲み上げるポンプが画期的だそうだ。ぜひ、クラッセンブルクにも取り入れたいと要望がありました」
要求された養父様が背後にいる文官を振り返る。一歩前に出て養父様に答えたのはハルトムートだった。ハルトムートはわたしと下町の商人達との会合には必ず顔を出しているので、下町の状況にも詳しい。
「残念ながら、ポンプはまだ量産できる態勢が整っていません。大変恐れ入りますが、しばらくの間、お売りする予定はございません。ポンプにはとても細かい部品が必要ですが、それを作ることができる職人が少ないのです」
ポンプは細かい部品をヨハンが制作しなければならず、量産がまだ難しい。何より、他領に普及させるよりもエーレンフェストの下町に普及させたいのだ。街の南側まで普及させようと思えば、まだ他領には売り出せない。
ハルトムートの言葉に養父様が軽く頷いて、アウブ・クラッセンブルクに答えを返すと、「ふぅむ」とアウブ・クラッセンブルクが唸るような声を出した。
「エーレンフェストの職人には難しくとも、クラッセンブルクの職人には可能かもしれません」
アウブ・クラッセンブルクの背後にいる文官がアウブにそう声をかける。
「カトルカールのレシピを売りだしたように、ポンプの設計図を売るのならば、受け入れてもらえるであろうか?」
養父様が考え込むように腕を組む後ろでハルトムートが「難しいかもしれません」と言いながらわたしに視線を向ける。
「エーレンフェストでは一つ作られる度に設計者であるローゼマイン様と鍛冶職人に一定の設計図の使用料が払われるように鍛冶協会によって設計図が管理されています。クラッセンブルクの鍛冶協会に設計図を売り出すことは可能でしょうが、エーレンフェストの鍛冶協会と同じように管理できなければお譲りすることはできません」
ハルトムートはクラッセンブルクのアウブや文官達を見ながらニコリと微笑んだ。
「クラッセンブルクの鍛冶協会に管理できるか否か……。難しいところでしょう。大領地が平民まで目を行き届かせるのは」
……ハルトムート! すでに商人が結構勝手なことをしちゃってるからクラッセンブルクは信用できないよ、って言ってるのも同じ! 間違ってないけど。
「いずれにせよ、取りまとめができるか否か、一度話し合わねばならないでしょう。詳しいお話はまた領主会議でいたしましょう」
養父様がそう言ってアウブ・クラッセンブルクとの話を終わらせた。
クラッセンブルクとの話が終わったら、次はドレヴァンヒェル。その次はハウフレッツェで、それから、ギレッセンマイヤーのアウブだ。次から次へとやって来るアウブ達は取引枠を増やしてほしい、と言ってくる。「今年はまだ難しいかもしれませんね」と判を押したような答えを返しているうちに、四の鐘が鳴って昼食の時間になった。
昼食のために寮へ戻った時にはもうぐったりだ。昼食に寮へ戻るのは騎獣で帰りたい、と養父様に願い出て、わたしは騎獣で寮に戻った。
「疲れました……」
「次から次へと上位領地がやって来るからな。だが、其方とハルトムートがいて私は助かったぞ」
印刷業や新しく売り出してく本に関する情報は養父様も文官達も持っているけれど、商人が下町で見ただけのポンプや馬車にはそれほど詳しくない。わたしは上手くサポートしてくれたハルトムートにお礼を言う。
「ローゼマイン様のお役に立てて何よりです。ですが、アウブの文官にこそ必要な知識ですよね?」
「うむ。其方だけに任せるわけにはいかぬし、今の下町の状況を知るために私もまた下町に行ってみなければならぬ、と思わぬか? フェルディナンドがいなくなったら下町の情報も手に入らぬ」
わたしからの報告やユストクスが集めてきた情報を流してくれていたフェルディナンドはもういない。養父様は自分で下町の状況を知るための伝手を作らなければならないのだ。
「下町の視察は養父様が行うのではなく、わたくしの側近を付けた上で文官達にさせるのが良いでしょう。視察に向かった文官が下町で余計なことをしたら、わたくし、許せませんから。それよりも、グレッシェルを整えて、商人を入れられるように整える方が先ではございませんか?」
「今年は其方の魔力があるから、できなくはないであろう。では、取引枠を増やしても……」
「ダメですよ。グレッシェルが下町を美しく保てるかどうかは、一年ほど様子を見てみなければわかりませんし、宿を整えたり、接客の仕方を教え込んだりしなければなりませんから、準備期間は絶対に必要です」
エーレンフェストの下町はグーテンベルク達や兵士達などが積極的に街を保つために活躍してくれた。けれど、グレッシェルにそのような繋がりはない。ギーベに任せるしかないけれど、ギーベも下町には命じるだけで相手の意見を聞くという姿勢がなかった。少しは改善されていると思いたいけれど、ギーベの無茶ぶりに平民が絶対に苦労する。
「商業ギルドやプランタン商会に任せたように、グレッシェルの商人達に任せれば良かろう」
「養父様。グレッシェルですぐに他領の商人を迎え入れろ、と命じるのは、全てのアウブをエーレンフェストの城ですぐに迎え入れて完璧に持て成せという王命を受けるのと同じようなものですよ。困りませんか?」
今のエーレンフェストでたくさんの領地を相手に完璧なもてなしができるのか、と問えば、養父様はもちろん、側近達も押し黙った。
「エーレンフェストが変わらなければならないのは事実です。グレッシェルには準備期間を与え、受け入れ態勢を整えていきましょう」
ひとまず早めにグレッシェルの下町を整えて、商人達を受け入れられるように整えていこうとギーベ・グレッシェルと話を進めていくことになった。
そして、昼食を摂りながら、養父様はヴィルフリートに契約書の話をし始めた。署名をする時には気を付けなければ騙される、と諭し、必ず署名をする前に文官に問題がないか確認するように、と。
「嫁取りディッターでこちらが勝利すれば神に誓って手出しをしない、とレスティラウト様がおっしゃったので、無条件に婚約解消を諦めるものだと思っていました」
「わたくしも同じですよ、ヴィルフリート兄様」
けれど、貴族院における子供同士の口約束と、しっかりとある契約書ではどちらが信用されるのかすぐにわかる。
「改めて条件の確認をしなかったことについては今度から気を付けます。ですが、あれは契約書ではないので何の問題もありません」
「わたくしにも一見契約書には見えませんでしたけれど、嫁取りディッターには必須の契約書だそうですよ?」
ディッターの条件や参加人数などが書かれた報告書にしか見えない紙だったけれど、署名がある以上は契約書になってしまう。レスティラウトに良いようにされたのだ。養父様とわたしの言葉にヴィルフリートとその側近達が顔を見合わせて首を振った。
「そんなはずはなかろう。あれはダンケルフェルガーで寮の予算を使うために必要な書類で、効力が及ぶのはせいぜいダンケルフェルガー内だけだ」
レスティラウトにそう言われたのだろうか。ヴィルフリートはダンケルフェルガー内でしか通用しない、と頑なに言い張る。
「ヴィルフリート、だが、其方の署名がある時点で契約は成立するのだ」
「そんなことはあり得ません。他領であるエーレンフェストとの契約は成立しないはずです。公式の契約にはなりません。……そう、其方が私に教えたではないか、ローゼマイン」
ヴィルフリートは「其方は私に嘘を教えたのか」とムッとしたような顔でわたしを睨んでそう言った。わたしは意味がよくわからなくて首を傾げた。
「わたくしが教えたのですか?」
「そうだ。正式な契約には必ず羊皮紙協会の紙を使わねばならない。安価なエーレンフェスト紙が使えるのは、走り書きや報告書の類くらいだ、と。エーレンフェスト紙での契約は正式な契約と見なされぬから気を付けるように、と言ったであろう?」
「あ!」
わたしと養父様の声が重なり、顔を見合わせる。
……だから、署名があるのに、わたしも養父様も契約書だとは思わなかったんだ。
一見して報告書にしか見えなかったのは、羊皮紙ではなくエーレンフェスト紙を使っていたからだ。
「レスティラウト様は寮内の予算に必要な書類だとおっしゃったし、私も一応確認したのだぞ。なぁ、イグナーツ?」
「はい。この書類で本当に予算を得ることができるのか、確認しました」
問題ない、とレスティラウトは答えたそうだ。あちらはエーレンフェストより優位に契約するつもりだったので、予算を得るため、としか言わなかったのだろう。それに対してヴィルフリートは植物紙で本当に予算が出るのか相手を心配しながらサインしたそうだ。
「一年の時にはエーレンフェストだけが使っていて、図書館で変わった紙を使っているという目で見られていたのに、今はダンケルフェルガーでも愛用されているのか、と嬉しくなっていたのですが……」
イグナーツはそう言って、ヴィルフリートの側近である己の警戒心のなさに少し落ち込んだ。彼を見ながら、ヴィルフリートは心配そうな顔になる。
「ダンケルフェルガーの文官見習いはエーレンフェスト紙しか持っていないようであったが、もしかしたら公式の契約には使えないとは知らないかもしれぬ」
わたし達は自分の文官にどちらの紙も持たせている。いつ羊皮紙が必要になるかわからないからだ。けれど、ダンケルフェルガーでは植物紙しか持っていなかったそうだ。
「……養父様、羊皮紙協会との軋轢を避けるため、安価なエーレンフェスト紙は正式な契約書としては使えない、と領主会議で販売契約の際に注意したはずですよね?」
「あぁ、もちろんだ。相手の羊皮紙協会にとっても大事なことだからな。だが、あちらが契約書として出してきたのならば、ダンケルフェルガーが理解していない可能性も高い」
養父様の言葉にわたしは頷く。もしかしたら、取引のある領地全てにもう一度注意する必要があるかもしれない。
「ダンケルフェルガーには昼食の間にオルドナンツを送っておきましょう」
さすがに紙の用途を間違っていますよ、という指摘の言葉が領地対抗戦の会場で響くのはまずいだろう。
「署名をしたのは私だ。私から送ろう」
ヴィルフリートがイグナーツに命じて、オルドナンツを送らせる。
「私もそこまで考え無しではない。少しは信用しろ」
「申し訳ありません、ヴィルフリート兄様」
しばらくしてオルドナンツが戻って来た。「ヴィルフリート様。わざわざお知らせいただき、ありがとう存じます。以後、注意いたしますね」というハンネローレの声の向こうで「絵を描くのに全て使ったというのはどういうことですか?」という第一夫人の声が聞こえた。
契約書における様々な常識の違いと言動のすれ違いについての話し合いが一段落すると、わたしは共同研究の様子を尋ねた。領主一族は次々とやって来る客人の相手をするだけで精一杯で、とても共同研究の様子を見ることができなかった。
目を輝かせて一番に答えてくれたのはマリアンネだった。ドレヴァンヒェルとの共同研究で、エーレンフェストがどのような研究発表をするのか、グンドルフが見に来たらしい。そして、研究していた内容とは違う展示品があることに驚いていたそうだ。
「ローゼマイン様が出してくださった案で、わたくし達が作った物です、と説明すると驚いていらっしゃいましたよ。元になるアイデアは同じなのに、ここまで魔力を使わない魔術具を作り出すと思わなかった、と」
魔石でエイフォン紙の楽譜をなぞれば音が出ることから、音楽を奏でる魔術具を作るという方向性は同じだが、ドレヴァンヒェルとエーレンフェストでは出来上がりが全く逆方向だった。
「そして、先生の目から隠しつつ、このようなことができるとはエーレンフェストも少しは成長したな、と褒めてくださいました」
研究内容や重要な情報を垂れ流さずに秘匿するのは研究者にとって当然のことだ、と言い、それができて自分を驚かせることに成功したことは素晴らしい、と喜んでくれたらしい。
本が指定の場所に片付く魔術具も、ぜひ自分の研究室にも取り入れたい、と言ってくれたそうだ。イグナーツ達も見に来ていたお客の反応を加えて報告してくれる。
「グンドルフ先生はわたくし達のところでずいぶんとグラフについて質問していました」
フィリーネがそう言いながらグンドルフの様子を思い出して苦笑する。今回の共同研究で使ったグラフはそれほど難しい物を使っていない。小学生レベルなので、見ればわかると思う。けれど、数値を視覚化するということがこれまでなかったようで、研究内容はそっちのけで、グンドルフはグラフに食らいついていたそうだ。
「フィリーネが共同研究、私がグラフの説明をするようになっていました」
ローデリヒはグンドルフの相手を任されて、ずっとグラフについての説明をしていたらしい。そうすると、次から次へと先生方が寄ってきて、先生方や他領の文官を相手に講義をしているような感じになって、とても居心地が悪かったそうだ。
「来年のドレヴァンヒェルの研究内容はグラフを使った物にするそうです。ローゼマイン様とぜひ一緒に研究したい、と言っていましたよ」
「ローデリヒがきちんと説明できてよかったです」
まだグラフにも色々なものがあるので、こちらもじわじわと出していこう。フィリーネとローデリヒが共同研究の説明をしている間、ミュリエラは他領の研究を見て回ってくれていたらしい。
「ダンケルフェルガーの研究発表では、ディッターの最後に儀式の実演が行われるそうですよ。大半の領地の大人がディッターの儀式を知らないので、実際に舞って皆に見せることになった、とクラリッサ様から伺いました」
学生達のディッターが終わった後、ダンケルフェルガーの成人騎士達が実際に儀式をして、速さを競うディッターを行い、最後の魔力の奉納まで見せるのだそうだ。アウブ・ダンケルフェルガーがとても張り切っているらしい。
「それは見栄えがしそうですね」
ダンケルフェルガーの学生達の舞も素晴らしかった。成人騎士達の舞も見事だろう。
「そうそう。ヨースブレンナーのリュールラディ様と少しお話いたしましたよ。御加護を得られたお礼をローゼマイン様にしたかったそうですが、社交がお忙しいので残念がっていらっしゃいました」
十位のヨースブレンナーは前半に動く領地で考えると、最下位といっても過言ではない。王族や上位領地ばかりが群がっているところにはとても入れなかったそうだ。
「わたくしがお教えしたせいもあるのですけれど、アーレンスバッハでシュミルの魔術具を最後まで再生させて、愛の言葉を楽しんでくださったそうです。最後の宣伝を聞いて、本が欲しくて仕方がなくなった、とおっしゃっていました」
もしかしたら、リュールラディがアーレンスバッハで本の宣伝を響かせたのだろうか。大変結構、とフェルディナンドに言われたことを思い出して、わたしも「リュールラディ様、大変結構」と呟いてみる。
「でも、ヨースブレンナーは取引していないので、本を購入することができません。リュールラディ様があまりにも残念がっていたので、お話を書いて、自分で本を作ればどうでしょう? とお勧めしてみました」
やってみます、とリュールラディは乗り気になってくれたらしい。これで新しい本が増えるかもしれません、と言われて、わたしは笑顔でミュリエラを褒めたたえた。
「よくやりました、ミュリエラ」
作家を増やすのは大事なことだ。リュールラディは上級文官らしいので、お母様のような作家になってくれるかもしれない。新しい作家の誕生を感じながら、わたしは昼食を終えた。