Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (522)
帰還と周囲の状況
「おおぉぉっ! ローゼマイン、帰ってきたか!」
転移陣で戻ったわたしをビックリするような大声で迎えてくれたのはおじい様だった。ドドドと音がするような勢いで突進してくる様子にわたしがビクッとした途端、「少し落ち着いてください!」とアンゲリカとコルネリウス兄様がガシッとおじい様の腕をつかみ、ダームエルが「ローゼマイン様に怖がられています!」とマントをつかんで突進を阻止してくれた。
「こ、怖くはないぞ。なぁ、ローゼマイン?」
「勢いに驚いてしまっただけです、おじい様。ただいま戻りました」
挨拶をしながら、辺りを見回す。例年ならば、アウブ一家やお父様やお母様の出迎えがあったけれど、今日は出迎えの場にいるのは、おじい様と領主候補生の護衛騎士達と騎士団の者が数人だ。今年は帰還の順番も例年とは少し変えられていて、「学年に関係なく、領主候補生はまとめて移動するように」と養父様から指示が出ていた。いつもとは違う状態が何だか不安でならない。
「ローゼマイン、シャルロッテが戻って来られぬから、早く魔法陣から出た方が良いぞ」
少し離れたところで自分の護衛騎士に囲まれているヴィルフリートがそう言った。わたしはコクリと頷いてリヒャルダと共に移動する。ヴィルフリートと同じように、わたしもすぐに自分の護衛騎士達に囲まれた。
「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」
「ダームエル、コルネリウス、アンゲリカ。ただいま戻りました。……ハルトムートの姿が見えませんね」
「ハルトムートは文官ですから、お部屋で待機しています。こちらに来たがったのですが、オティーリエが監視してくれています」
今日の出迎えは騎士だけだと通達されているらしい。物々しい雰囲気を感じながら、わたしが護衛騎士達から「ハルトムートを簡単に抑えられるオティーリエはやはり母親だ」という話を聞いているうちに、シャルロッテと側仕えが移動してくる。
シャルロッテが護衛騎士達に囲まれるのを確認したおじい様が軽く手を挙げた。
「うむ。では、部屋に戻るぞ。其方等が北の離れに入るまでは私がしっかり守るので安心せよ」
おじい様の号令で護衛騎士に囲まれた領主候補生が移動を始める。わたしも同じように移動しようとして、おじい様が手を大きく開いて待っているのに気付いた。「領主候補生をしっかり守る」と言っていたのに、手を塞いでしまっても良いのだろうか。
「心配はいりません。おじい様からは私達が守るので安心して手を繋いでください、ローゼマイン様」
「コルネリウス!」
おじい様に睨まれてもコルネリウス兄様は怯まずに肩を竦めた。
わたしは「そういう心配はしていないのですけれど」と呟きながら、去年と同じようにおじい様の指を握って歩き始める。
「わたくし、今年は初めて最優秀として表彰されたのです。壇に上がってツェントからお褒めの言葉を賜ったのですよ」
表彰された話をすれば、おじい様は自分のことのように喜んでくれたけれど、去年とは違ってわたしだけを見ているのではなく、周囲をかなり警戒しているのがわかった。
「……おじい様、もしかしてかなり危険なのですか?」
「最近は落ち着いてきていたが、学生が一気に戻って来るのだ。減刑を願う貴族が直訴してきたり、直訴と見せかけて襲い掛かってきたりする可能性もないわけではない。狙われるのは、連座を回避しようと奮闘した其方達になる。警戒は必要だ」
「わたくし、フェルディナンド様からいただいた図書館へ行きたいと思っていたのですけれど……」
エーレンフェストに戻ったらすぐにでもわたしの図書館へ行こうと思っていたのだけれど、おじい様は厳しい顔で首を振った。
「残念ながら、其方等が勝手にうろついても良いのは北の離れの中だけだ。……せめて、春を寿ぐ宴を終えて、貴族が減るまでは我慢してくれ。メルヒオールは冬の間ずっと我慢していたのだ。姉であるローゼマインにもできるであろう?」
粛清が始まるとどうしても危険が多くなるので、メルヒオールは北の離れから勝手に出てはならないと言われていたらしい。子供部屋に向かうのも禁止されて、北の離れに幽閉状態だったそうだ。
「メルヒオールに構ってやると良い、ローゼマイン。私は今夜の夕食を楽しみにしているからな」
おじい様がそう言って北の離れの方を指差す。出てはならないと言われている北の離れのギリギリでメルヒオールが自分の側近と共にわたし達の帰りを待ちわびていた。
「おかえりなさい、兄上、姉上!」
「一人で北の離れに籠っているのはとてもつまらなかったです。本館にいた頃と違って、お父様やお母様の姿を見ることも滅多にありませんし、子供部屋も楽しみにしていたのですが、親が捕えられた子供達が感情的になって何をするのかわからないので接触しないように、と言われて行けませんでした」
貴族院から持ち帰った荷物を側仕え達が整えている間、わたし達はメルヒオールの招待を受けてお茶をしながらメルヒオールの冬の話を聞いていた。
本来ならば粛清が起こるのは冬の半ばだったが、マティアス達の情報によって冬の初めに前倒しにされた。そのため、メルヒオールは学生達が貴族院へ行ってしまうと、すぐに北の離れに閉じ込められることになったらしい。
洗礼式を終えた一年目の冬に一人で離れに籠っているように言われたメルヒオールはとても寂しかったそうだ。養母様は忙しい合間を縫って時々面会に来てくれたようだけれど、毎日のように顔を合わせていた洗礼前とは同じようにはいかない。毎日、側近達と勉強して過ごすのだが、気が塞いでいたようだ。
「ですから、兄上達が帰って来てくれて嬉しいです」
「春を寿ぐ宴までは北の離れから出られぬが、兄弟で仲良く過ごせばよかろう」
その後は夕食準備のために側仕え達が呼びに来るまで、皆でカルタをしたり、トランプをしたりして遊んだ。
その日の夕食は領主一族が揃い、貴族院であったことを話し合う。メルヒオールは久し振りの賑やかな食事に大喜びで、エーレンフェストの本が学生達の間で広がってきている話や祈りによって得られる加護が増えることなどからエーレンフェストの重要性が増した話を聞いて、目を輝かせていた。
「今年は去年よりも優秀な成績を収める者が多かったですものね。いくつもの共同研究を同時に行い、それらが評価されたことは素晴らしいことですよ」
「私としては分裂するだろうと予測されていた寮内を上手くまとめ上げられたことに感心したぞ。よくやった」
養母様とおじい様の褒め言葉に、養父様も頷く。
「エーレンフェストの領主候補生として其方等はこちらの期待以上の仕事をした。それは父として、領主として誇らしく思う。その手腕を、今度は粛清で荒れる内部を治めるために使ってほしい」
「はい!」
基本的に褒められただけの夕食だったが、最後に養父様は厳しい深緑の目でぐるりと皆の顔を見回した。
「久し振りに皆が揃う夕食だ。今日は食事を楽しむために話題を選んだが、明後日の三の鐘には領主一族の会議を行う。気分の良くない話題も出るであろうが、これは皆で乗り越えなければならぬ」
……明後日の三の鐘。
養父様の厳しい表情に城の内部にあるピリピリとした雰囲気と同じものを感じて、わたしはゴクリと息を呑んだ。
次の日の朝食後、わたしは貴族院から戻ってきた新しい側近達をエーレンフェストに残っていた側近達に紹介することにした。貴族院から戻って来たのでもうテオドールの姿はないけれど、側近が全員集合している。
「マティアス、ラウレンツ、ミュリエラ、グレーティアの四人がわたくしに名捧げをして、側近となりました。いずれ、ミュリエラはわたくしのお母様エルヴィーラに名を捧げ直す予定ですけれど」
「ギーベ・ゲルラッハの息子マティアスに、ギーベ・ヴィルトルの息子ラウレンツか」
コルネリウス兄様の顔が微妙に歪んだ。マティアスとラウレンツはゲオルギーネに名捧げをしていた貴族の中心人物の子供達である。
「コルネリウス兄様、すでに名捧げをしているのですから、そのように睨まないでくださいませ」
わたしがムッとしながらコルネリウス兄様から三人を庇うように立つと、コルネリウス兄様は軽く息を吐いて、わたしの頭を軽く叩いた。
「貴族院で見た限り、彼等が直接的にローゼマインを害することがないのはわかっている。でも、連座を望む貴族の声は依然大きく、彼等が救われるならばこちらにも減刑を、と望む声も多いんだ」
「コルネリウスは彼等に向けられるはずだった怒りや不満を、主であるローゼマイン様が受けることになるのでは、と心配しているだけです。忠誠心を疑っているとか、彼等が危害を加えることを危惧しているわけではありません」
ダームエルの言葉にわたしは「コルネリウス兄様、ありがとう」と囁く。エーレンフェストに戻ると、貴族院と同じようにはいかないと思っていたが、どうやらかなり前途多難のようだ。
「ハルトムートは儀式のために貴族院へ来たので知っているでしょう? こちらのダームエル、コルネリウス、アンゲリカは護衛騎士です。騎士の仕事についてはダームエルの指示に従ってください。ダームエル、マティアスとラウレンツも含めて神殿へ向かう護衛騎士の当番を決めてください。文官達は去年と同じように情報の振り分けを、側仕え達には片付けの続きをお願いします」
わたしは側近達に仕事を振り分けると、自分の大事な荷物からフェルディナンドにもらった魔術具を取り出した。魔力を通さない革袋に入った極秘任務っぽい手紙と魔術具がずっと気になっていたのだ。
「わたくし、これを隠し部屋で聴いてきますね」
「聴いた後は、魔術具をこちらに渡してくださいませ。シュミルのぬいぐるみにいたしますから」
リーゼレータに笑顔で頷き、わたしは魔術具の入った袋を抱えて隠し部屋に入った。そして、革袋の方は置いて、先に卒業式の朝にフェルディナンドから貰った魔術具を再生していく。
「あの時はお小言から始まったけど、最後に一つくらいは褒め言葉を入れていてくれるはず! わたし、フェルディナンド様を信じてるよ!」
フェルディナンドを信じて再生していったけれど、信じてもダメだったらしい。悲しいことに最初から最後まで延々とお小言が詰まっているだけの側仕え用のお小言魔術具だった。
「ひどいよ、フェルディナンド様。一つくらい褒め言葉があってもよかったのに。大変結構じゃなくても、悪くないくらいの褒め言葉でもよかったんだよ……」
延々とお小言を繰り返す魔術具に悲しくなりながら、わたしは魔力を通さない革袋を開けた。そして、もう一つの録音の魔術具と手紙を取り出す。
「……あれ?」
革の袋の中身が空っぽになったはずなのに、まだ何かが入っているような重みがあった。手を入れて中を探ってみれば、そこに何か入っているような形があるのに取り出せないようになっている。
「二重底?」
今までは魔術具の重みや形で気付かなかったが、革の袋は二重底になっていて、他に何かが入っているようだ。わたしは手紙を開いた。見慣れたフェルディナンドの字が並んでいる。
「こちらの魔術具には君の要望通りに褒め言葉を入れてある。他の者には聞かれぬように、常に革袋に入れておくこと。それから、図書館の隠し部屋でのみ使用すること。守れぬ場合は底に隠した魔術具によって褒め言葉は自動で消滅することになる」
「えぇ!? ちょ、ちょっと待って! いつの間にそんな研究を!?」
録音した声が自動で消える魔術具を作っているなんて聞いていない。わたしは手紙を何度も読み返し、録音の魔術具を革袋に戻す。手紙を先に読まずに、魔術具を作動させていたら貴重な褒め言葉が消えてしまっているところだった。
「セーフ。先に魔術具に触らなくて良かった。声と文字だったら文字を優先する子でよかった、わたし」
褒め言葉はものすごく気になるけれど、他の人には聞かれないようにわざわざフェルディナンドが魔術具を分けたのだ。図書館に行けるようになるまで我慢しなければ、褒め言葉が消えて、後で自分が悲しいことになる。
わたしは他の人が不用意に魔術具に触って褒め言葉が消滅しないように、革袋は置いたまま、お小言の魔術具だけを持って隠し部屋を出た。
「リーゼレータ、これはフェルディナンド様のお小言ばかりが入った魔術具でした。シュミルのぬいぐるみにすると、フェルディナンド様の声でお小言が延々と流れてくるのですけれど、本当にシュミルにしますか?」
リーゼレータは「もちろんです」と嬉しそうに笑いながら魔術具を手に取った。シュミルのぬいぐるみからフェルディナンドの声でお小言が流れても、リーゼレータは可愛いと思えるらしい。
……リーゼレータのシュミル愛はすごいね。
「ローゼマイン様、先程の革の袋はどうされました?」
「隠し部屋に置いています。もう一つの魔術具にフェルディナンド様が褒め言葉を入れてくださったそうですけれど、聞く場所を間違えると褒め言葉が消滅してしまうという危険な罠が一緒に入っていたのです」
わたしの言葉を聞いたリヒャルダが「褒め言葉を送るのは照れくさいのでしょう。フェルディナンド様らしいこと」とクスクス笑った。
……いくら照れくさいからって消滅の罠を仕掛ける必要はなかったと思うよ!
隠し部屋を出た後は情報の仕分けを文官達と一緒にやり、三の鐘が鳴った後は他の兄弟達とフェシュピールの練習をしたり、借りてきた本を読んだりしていた。一人で過ごすのが寂しかったというメルヒオールのためである。
「ローゼマイン様、大変申し訳ございませんが、午後から少しお時間をいただけますか? お話しておきたいことがいくつかあるのです」
珍しくランプレヒト兄様から声をかけられて、わたしは目を瞬いた。北の離れから出られない今は面会室を予約することもできないのだ。どうすれば良いのか、わたしはリヒャルダを振り返った。
「リヒャルダ」
「ランプレヒト様が声をかけるのです。お急ぎなのでしょう? 今日の午後は特に予定がございませんから、お話をしても構いません。姫様のお部屋を使ってください。ただし、レオノーレとアンゲリカを同席させてくださいませ」
婚約者であるため、身内に数えられるレオノーレとアンゲリカを同席させるように言われて、わたしはランプレヒト兄様を見上げた。
「恐れ入ります。では、午後に」
昼食を終えると、すぐにランプレヒト兄様がやってきた。お茶を淹れると、側仕え達が退室して行く。
「ランプレヒト兄様から声がかかるなんて珍しくて驚きました」
「……これは自分の口で報告するべきだからな」
少し頬を掻いた後、ランプレヒト兄様がフッと笑った。大事なものを思う優しい笑みにピンときた。
「赤ちゃんが生まれたのですね?」
「あぁ。冬の初めに生まれたよ。秋の終わりには生まれているだろう、と言われていたのに、ずいぶんとのんびりとした子のようで、生まれたのは冬になってからだった」
「おめでとうございます。早速お祝いを……」
「ローゼマインはそう言って暴走すると思ったから、今まで黙っていたのだ」
コルネリウス兄様が呆れたような顔で、お祝いは大仰にしないように、と言った。
「どうしてですか? 同母の繋がりだったら、お祝いしても良いのですよね?」
養母様も妊娠しているけれど、養母様の子は異母の関係になるので、わたしは洗礼式まで面会もできないのである。わたしは同母の繋がりであるランプレヒト兄様の赤ちゃんに会えるのを楽しみにしていたのだ。
「お祝いしてもらえるのは嬉しいが、しばらくは家族以外に生まれたことを漏らすつもりはない。だから、お祝いをしてもらうのも少し困る」
「どうしてですか?」
子供が生まれたら、周囲に生まれたことを述べて皆の記憶に残すのが平民のお祝いだった。貴族の場合は洗礼式までは親しい人にしか言わないけれど、わざわざ広げないだけで、祝い自体をしないという風習はなかったはずだ。
「この冬に粛清されたのは、ゲオルギーネに名捧げをしている者やヴェローニカ派の貴族達だ。アーレンスバッハの血を引く者や彼等に贔屓にされていた者を中心に処罰を受けた。そのため、アーレンスバッハ出身のアウレーリアやその赤子はどうしても厳しい視線に晒される。だからこそ、本当に家族にしか生まれたことを言っていない」
コルネリウス兄様も護衛の任務に就いている時のような厳しい顔でわたしを見る。
「貴族院へ同行していない私達は粛清で最前列にいたから、どこで恨みを買っているかもわからない。大仰な祝いをしないでほしいのは、そういう理由だ」
「アウレーリアもアーレンスバッハ系貴族の動きに敏感になっているので、できるだけ穏やかに過ごしてほしいと思っている。アウレーリアと赤子の安全を最優先にするために、ローゼマインもしばらくは秘密にしてほしい」
何となくちょっと頼りないところがあったランプレヒト兄様の表情に「家族を守る」と言っていた父さんに通じるものを感じて、わたしはちょっと嬉しくなった。
「わかりました。秘密にします。家族を守るためですものね。本当は里帰りして、ババーンとお祝いしたかったのですけれど、安全のためです。我慢します。ここで様子を聴くだけならば良いでしょう? 赤ちゃんは元気なのですか?」
わたしが尋ねると、ランプレヒト兄様は相好を崩した。
「アウレーリアは夜中にも授乳があるせいで、何だかずっとぼんやりしているが、赤子はとても元気で、最近は首も据わってきた。危険を避けるために今は二人共離れではなく、本館で過ごしている」
授乳以外は寝てばかりだな、とランプレヒト兄様がアウレーリアをからかったら、「それだけ母親は大変なのです」とお母様に叱られたらしい。赤ちゃんのいる生活を思い描けば、わたしの脳裏に蘇るのは短かったカミルとの生活だ。
「そういえば、コルネリウス兄様はレオノーレといつ頃結婚するのですか?」
エックハルト兄様の館もいただいていたようだし、この夏にも星結びの儀式を行うのだろうか。わたしは並んで座っているコルネリウス兄様とレオノーレを見つめる。コルネリウス兄様が「……そうやってからかおうとする時の顔が、本当に母上にそっくりだ」と言いながら、レオノーレとアイコンタクトを取る。
「普通に一年から二年の準備期間を設けるよ。すでに婚約しているし、星結びの儀式は慌ててすることでもないだろう?」
「そうですね。わたくしもコルネリウスと同じように、エーレンフェストの情勢がもう少し落ち着いてからの方が良いと思っています」
仲が良くて結構なことである。
「コルネリウス兄様とレオノーレの星結びの儀式では、わたくし、張り切って祝福しますから。任せてくださいませ」
「普通で良い! 普通で! ローゼマインが張り切ったら大変なことになりそうだ」
「いえいえ、お兄様の儀式ですもの。王族の星結びにも負けないくらいにたくさんの祝福が降り注ぐように全力で……」
「止めてくれ!」
コルネリウス兄様が必死に手を振って、わたしを止めようとする。慌てるコルネリウス兄様を見て、レオノーレが楽しそうに笑った。
「二人共、楽しい話はここまで。ちょっと真面目な話をしても良いか?」
ランプレヒト兄様がわたしとコルネリウス兄様の間に手を入れて止めると、皆が表情を引き締める。
「ニコラウスのことなのだが……」
お父様の第二夫人トルデリーデの息子だ。異母弟なのだが、トルデリーデがヴェローニカに仕えていたこと、フェルディナンドに良くない感情を持っていたことから接触しないように、と言われていた。
「トルデリーデも捕らえられた。それは知っているだろう?」
「はい。ヴェローニカ様にずいぶんと入れ込んでいて、色々としていたようですからね」
「そして、今、ニコラウスは子供部屋にいる」
ランプレヒト兄様の言葉に、わたしは目を見張った。
「まだ子供部屋にいるのですか? お父様が引き取れば、家に帰ることはできたでしょう?」