Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (534)
加護の再取得 後編
「儀式の初めに最高神と五柱の大神の名を呼ぶと、最初から全ての属性が光りました」
加護の再取得を終えたマティアスは盗聴防止の魔術具を握って話し始めた。儀式を始めると眷属の名を呼ぶ前に全属性の光の柱が立ったらしい。ローデリヒから聞いた話と同じ感じで儀式は進んだようだ。
「元々は火と風と土の適性だったので、最初から全ての属性が光るとは思っていませんでした」
中級貴族は二つの適性を持つ者がほとんどだが、マティアスは三つの適性を持っている。名を受けた時はマティアスの石が三色だったことに驚いたものだ。アーレンスバッハからガブリエーレと共にエーレンフェストへやってきた上級側仕えがマティアスの祖母なので、そちらの影響が強いらしい。上級並みの力を持っていてもライゼガングに頭を押さえられていて、ギーベ・ゲルラッハには色々と思うところがあったそうだ。
「……私個人としては卒業時に貴族院で再取得をすればよいと考えていたのですが、名捧げ組全員に再取得をさせるということは、ローゼマイン様への名捧げが全属性の原因ですか?」
「えぇ、おそらく。ローデリヒがそうだったので、確証を得たいと思ったのです。この後、ミュリエラに名捧げの変更をしてもらって、もう一度儀式をしてもらえば確証が得られると思っています」
マティアスが「名捧げの変更は大変ですね」と呟いた。確かにミュリエラへの負担は大きいと思うけれど、例外的な変更を認められたのは彼女しかいない。主によって属性に変化があるかどうかは、孤児院や子供部屋の子供達に大きく関わってくることだ。
「ローデリヒはわたくしに名捧げをしてから調合などの成功率が上がったなどの小さな上乗せの変化を感じていたようですけれど、マティアスはどうでした?」
「今思い返せば、適性のなかった属性の調合では確かに、というくらいでしょうか……」
名捧げで得られる属性の影響はそれほど大きくはないようだ。ローデリヒのように下級に近い中級貴族ならば、その恩恵を大きく感じられるみたいだけれど、マティアスのように上級貴族に近い中級貴族は自分の適性が多くて魔力が多いので、少しの上乗せではほとんど感じ取れないらしい。
「ところで、マティアスは眷属からの御加護を得られたのですか?」
ローデリヒは名捧げの影響で全属性を得ていたことを確認しただけで、新しく眷属を得ることはなかった。マティアスはどうだったのだろうか。わたしの質問にマティアスが少しだけ嬉しそうにはにかんだ。
「武勇の神 アングリーフと退魔の神 フェアドレーオスの加護を得ました」
マティアスと話をしている途中で、グレーティアが扉のところに来ているフランに気付いた。フランの話を聞いたグレーティアが戻ってきて四の鐘が鳴ったことを教えてくれる。
「お昼の準備を始めるので、お話が終わったら工房から出てきてください、とフランが言っていますよ」
マティアスとの話を終えて工房を出ると、ちょうどラウレンツとミュリエラが礼拝室から戻って来たところだった。
「私が儀式を終えて回復薬を飲んでいる時に四の鐘が鳴ったので、ミュリエラは午後からにしました」
「わかりました。ラウレンツの結果は午後に工房で聴きます。儀式はミュリエラから開始で、その後はグレーティアが儀式を行うので、工房に案内する係はフィリーネにお願いしますね」
フランとモニカが食事の準備を整えている間に午後の段取りを話し合っていると、オルドナンツが飛びこんできた。白い鳥はわたしの前に降り立って口を開く。
「レオノーレです。ボニファティウス様がエルヴィーラ様と一緒に神殿へ向かうとおっしゃいました」
……お、おじい様が!?
レオノーレは少しだけ困ったような声で「申し訳ございません。ボニファティウス様が神殿に向かう良い機会だと思ったのです」とわたしに突然の予定変更を謝罪した。再取得の儀式をしている今は貴族にとっての利益が目に見えてわかりやすいので、神殿への偏見を消す絶好の機会だと思ったらしい。
アンゲリカに自慢してほしいとは言ったけれど、こんなに早く反応が来ると思わなかった。お母様がいらっしゃるので、お菓子やお茶の準備は問題なくできているけれど、心の準備はできていない。
……頑張って神殿の良いところをアピールしなくちゃ。
神殿に思うところがあるおじい様に、今の神殿がそんなに悪いところではないことをわかってもらわなければならない。おじい様の見方が変われば、同じ世代の貴族達にも影響があるはずだ。
……うむぅ、ちょっとプレッシャーだよ。
「では、ラウレンツが得た御加護について話してくださいませ。おじい様とお母様がいらっしゃったら、わたくし、そちらにかかりきりになるのでゆっくりとお話できませんから」
昼食を終えると、わたしはフィリーネとラウレンツを連れて工房に入った。ラウレンツが盗聴防止の魔術具を握って、からかうように笑う。
「それは私との時間はゆっくり取りたいということですか、ローゼマイン様?」
「……ハァ、ラウレンツと話をするのが午後で良かったと思います」
グレーティアではなくフィリーネがいる工房を見て、わたしはそう言った。意味がわからない、というように眉を上げたラウレンツを見上げる。
「グレーティアは男の子にからかわれるのが苦手なのです。グレーティアにはそのような軽い口調で近付かないでくださいね」
リーゼレータからグレーティアは男が苦手で男性の側近達と距離を取りたがっていることは報告されている。多分、グレーティアが一番苦手なのは軽い調子でからかってくるラウレンツではないだろうか。
わたしの注意にラウレンツが一度言葉に詰まった後、溜息を吐いて真面目な顔になった。
「気を付けます」
ラウレンツが得たのはマティアスと全く同じ、全属性に加えて、武勇の神 アングリーフと退魔の神 フェアドレーオスの加護だった。フェアドレーオスの加護はコルネリウス兄様、マティアス、ラウレンツで三人目である。
……レオノーレは得ていないけど、もしかしたら闇の属性の中でも騎士がもらいやすい加護なのかな? いや、でも、わたしももらったんだよね。共通点がわからないなぁ。
皆が得た加護を見つめながら唸っていると、ラウレンツがポツリと呟いた。
「お祈りで加護が増えることが広がれば、親がいない状態でアウブを後見人に洗礼式を迎える弟達も少しは生きやすくなるかもしれません」
「すぐには難しいでしょうけれど、そのうち貴族達の見方も変わりますよ。ベルトラムにお祈りで眷属から御加護を得たことを話してあげてくださいませ。お兄様の言葉ならば素直に信じられるでしょう」
ラウレンツを孤児院へ送り出していると、フィリーネに案内されたミュリエラがやってきた。少しばかりオロオロとした様子で盗聴防止の魔術具を握るなり、「ローゼマイン様、あの、わたくし……」と口を開く。
「全属性を得たのでしょう? 名捧げの影響なのです」
「そうだったのですか。……それから、芽吹きの女神 ブルーアンファの御加護も賜りました。リュールラディ様と一緒にお祈りをしていたので嬉しいです」
奉納式でお祈りについて聞かされた後に祈り始めた他領の三年生で唯一加護を得たのが、ヨースブレンナーのリュールラディだったはずだ。ミュリエラとは本当に仲良しらしい。恋物語によく登場する神様から御加護を得たいと思っているようで、手首にいくつか下げているお守りを見せてくれる。
「たくさんの御加護が得られるように頑張ってくださいませ。それから、ミュリエラにはお母様がいらっしゃったら名捧げの変更をして、もう一度儀式をしてもらうことになります。大変でしょうけれど、よろしくお願いします」
「……はい」
少し緊張した面持ちでミュリエラは頷いた。
グレーティアが礼拝室から戻って来るよりも先に、お母様とおじい様とレオノーレがやって来た。おじい様の側近達が一緒なので、予想以上に人数が多いことに戸惑いながら「おじい様、お母様。お待ちしていました」と二人を迎え入れる。
フランにお茶を淹れてもらい、ニコラにお菓子を運んでもらう様子をおじい様が硬い表情で見ている横で、お母様はクスクスと笑いを零す。
「レオノーレから連絡があった時は本当に驚きましてよ、ボニファティウス様」
「せっかくだからエルヴィーラの護衛がわりに同行しようと思ったのだ。神殿に女性が一人で向かうものではなかろう」
「あら、わたくしは平気ですよ。ローゼマインやコルネリウスが常に出入りしているところですし、このお部屋を整えたのはカルステッド様ですもの」
先に神殿へ出入りしていたお父様やエックハルト兄様から情報を得ていたので、お母様は最初から神殿へ出入りすることに特に躊躇いはなかったらしい。
「灰色神官達がよく清めてくれているし、わたくしの側仕えは優秀なので、特に不快感はないでしょう?」
わたしが尋ねると、フランの淹れたお茶を飲んで、ニコラの運んできたクッキーを食べたおじい様が一つ頷いた。城にいるのと大して変わらない生活をしていることをわかってくれたようだ。
「これから神殿にはメルヒオールを始め、子供部屋の子供達が増えることになっています。神殿で座学の勉強はできても、身体を鍛えることができないので、もしよろしかったら子供達を鍛えてあげてくださいませ」
「旧ヴェローニカ派の子供を、か?」
「えぇ。彼等の大半は領主一族に名捧げをしなければ生きていけません。名を捧げ、命を懸けて領主一族の側近になる者ですもの。教育は必要でしょう?」
神殿で生活をするのだ。わたしやメルヒオールの側近になる率が高いと思う。わたしがユレーヴェで眠っていた時に、わたしの側近を確保するのが難しかったのは子供達と接していなかったせいだ。最終的に本人の意思が重要になるので、接する頻度は大事なのである。
「いずれわたくしに仕えるようになるかもしれません。……それに、おじい様にとって孫であるニコラウスも青色神官見習いとして神殿に入ります。騎士になりたいという望みを叶えてあげてくださいませ」
「……考慮しよう」
「ありがとうございます、おじい様」
時折でもおじい様に鍛えてもらうことができれば、騎士志望の子供達も自分の進路を諦めずに済む。それに、おじい様が鍛えてくれる姿を見ていれば、わたしやメルヒオールの護衛騎士に交代で訓練を見てもらうこともできるかもしれない。
「ねぇ、おじい様。御加護を得たアンゲリカは強くなっていましたか?」
「そうだな。少しだが、速さやシュティンルークの刀身に差があった。ほんの少しのことだが、その少しがアンゲリカ程の技量になると大きいのだ。今回も私が勝ったが、少し苦戦したぞ」
自分の中で想定していたよりも少し速い動きをするし、少し間合いが変わっているので、相手をするのが大変だったようだ。まだまだ負けぬ、と言っているけれど、わたしの協力によって神殿で新たな加護を得たことを自慢され、わたしの側近が着々と強化されていることが気になったらしい。
「せっかく検証の時に来てくださったのですから、おじい様やお母様も御加護の再取得をされませんか? 特におじい様は領主一族として礎の魔術に魔力を供給しているので、きっとたくさんの御加護を賜ると思うのです」
わたしが誘うと、おじい様は苦虫を噛み潰したような凶悪な顔で「いや……」と言った。神殿に来るのも躊躇っていたくらいだ。儀式はそんなに嫌だったのか、と思わずわたしがビクッとすると、お母様が執り成すように苦笑した。
「ローゼマイン、試してみたいのは山々ですけれど、もう何十年も前に講義で覚えただけのお祈りの言葉なんて、物語で神々の名を書くわたくしでも完全には覚えていませんよ。儀式を行う前に復習の時間が必要です。ねぇ、ボニファティウス様?」
「うむ。ローゼマインが魔力供給によって御加護を得ることができると言うならば興味はある。覚えてから挑戦しよう」
お母様も恋物語を書くために必要な神様の名前は忘れていないけれど、マイナーな神々の名前を全て覚えているわけではないし、お祈りの言葉や順番も曖昧だそうだ。
……それもそうだよね。
ダームエルも再取得のために覚え直したと言っていたくらいだ。何十年も前に覚えて、その後は使わなかった神々の名前など全ては覚えていないだろう。
「ローゼマイン、こちらはアウブからの書状です。再取得の儀式に協力する許可を得ましたし、ミュリエラの扱いを任せるというお言葉もいただいています」
お母様がそう言って書状をフィリーネに渡した。わたしはフィリーネから受け取った書状に目を通す。要約すれば「ミュリエラに関しては融通を利かせるので、代わりに儀式の結果を早急に知らせて自分にも再取得をさせろ」と書かれていた。
……消費魔力が減ると助かるだろうし、早くした方がいいんだろうね。
領主一族が使える魔力量を増やすことは急務である。できれば養父様だけではなく、おじい様にも儀式をしてもらい、加護を得てほしい。
「養父様が再取得の儀式を行う時におじい様もいらっしゃいますか? 急いでお祈りの言葉や神々の名前を覚えなければなりませんけれど……」
「うむ。そうしよう。それにしても、ジルヴェスターは神殿に来ることを何とも思っておらぬのだな。これも年の差というやつか……」
結果が出たらすぐに行く、と書かれているような養父様の書状を見て、おじい様が渋い顔をした。違う! と声を大にして言いたい。言わないけれど。
……年の差とか全く関係ないと思うよ。だって、養父様って青色神官の服を着て、祈念式に同行する人だから。ついでに、下町の森で生き生きと狩りをしてたんだよ。
わたしと養父様の初めての出会いが神殿の祈念式だなんて、口が裂けても言えないけれど、皆がものすごく驚くことだと思う。祈念式にこっそり参加する領主なんてあり得ない。貴族の常識を知れば、尚更そう思う。
「では、少しでも早く養父様に報告できるようにミュリエラの主を変更いたしましょう、お母様。……おじい様はこちらでお待ちいただいてもよろしいですか?」
名捧げは大っぴらにするようなものではない。工房で行うつもりだ。わたしの言葉におじい様が「儀式を見てみたいと思うのだが、見学をしても良いか?」と厳めしい顔で尋ねた。まだ神殿や儀式には多少身構えるものがあるようだが、興味は持ってくれている。
「これからダームエルが儀式を行う予定なので、ダームエルが良いと言えば良いですよ」
ダームエルに断れるわけがないことをわかっていながら、わたしはそう返事をした。男を苦手に思っているグレーティアの儀式に乱入されるよりはマシだ。先に一言あれば、ダームエルも心の準備ができるだろう。
「儀式はあまり他の者に見せるような物ではありませんし、いくらおじい様でも女性と二人だけで礼拝室へ入るわけにはいかないでしょう? まだ再取得を行っていない男の側近がダームエルしかいないのです。ですから、ダームエルに頼んでみてください」
神殿で男女二人だけになるのがあまり歓迎されないことだとわかっている。わたしの言葉におじい様は「わかった」と頷く。
「コルネリウス兄様、おじい様を礼拝室に案内してくださいませ。ダームエルの儀式に同席するのはおじい様だけにしてあげてくださいね。あまりにもたくさんの方がいると、ダームエルが集中できませんから」
「わかった。側近は礼拝室の外で待たせておくことにする。行くぞ、コルネリウス」
コルネリウス兄様を引っ張るようにして、おじい様と側近達が退室して行くのを見送り、わたしはお母様とミュリエラと護衛兼見届け役のレオノーレを連れて工房へ入る。わたしは工房の棚に置かれている箱の鍵を開けて、並んでいる名捧げ石の中からミュリエラの石を取り出した。
「ミュリエラ、貴女の名前を返します」
名捧げの時に石を魔力で包み込んだのとは逆に、わたしは自分の魔力を取り戻すように吸収していく。白い繭のようになっていた名捧げの石は白い箱に包まれた状態に戻った。箱を開けると、確かにミュリエラの名前が刻まれている。
「恐れ入ります」
ミュリエラは自分の手に戻って来た名前を一度じっと見つめ、ゆっくりと深呼吸してから、お母様の前に跪いた。
「エルヴィーラ様、どうかわたくしの名を受け取ってくださいませ。わたくしは貴女の物語にブルーアンファの訪れを感じている日々をすごしています。共に美しい物語を紡ぎ、広げ、たくさんの者と共有することを心から望んでいるのです」
「ミュリエラ、わたくしの同志。貴女の名を受けましょう」
お母様がミュリエラの差し出す白い箱を手に取って、事前に説明していたように一気に魔力を流す。わたしが名を受けた時ほどは苦しそうな様子も見せず、苦痛に身構えていたミュリエラは少し拍子抜けしたようにお母様を見上げた。
「これで名捧げは終わりです。ミュリエラ、もう一度儀式をしてもらってもよろしいですか?」
「はい」
工房から出ると、グレーティアが儀式を終えて待っていた。礼拝室から出ると、おじい様達がずらっと並んでいて、ものすごく驚いたらしい。
「ローゼマイン様が許可を出したと聞いたダームエルはとても困った顔になっていましたよ」
「グレーティアの儀式に乱入されるよりは良いと判断しました。ダームエルは尊い犠牲なのです」
自分の儀式の途中でおじい様に乱入されることを想像したグレーティアはホッとしたように豊かな胸元を押さえた。
「後でダームエルにお礼を申し上げなくてはなりませんね」
「ダームエルのお嫁さん候補に立候補してあげると泣いて喜びますよ」
わたしがクスッと笑ってそう言うと、グレーティアは真顔で首を横に振った。
「わたくし、殿方が苦手ですから、どなたとも結婚したいと思いません。ローゼマイン様のご命令でない限りはお断りします」
……残念。ダームエル、真顔で断られちゃったよ。
「ミュリエラの協力のおかげで、名捧げによる主の影響も確信が持てましたし、それぞれに御加護が得られました。属性の増えた者も多いです。今回の検証は良い結果に終わったのではないでしょうか」
わたしは名前だけを伏せた儀式の結果と所感をまとめたレポートをローデリヒに渡し、城に戻ったら養父様に届けてもらうように言づける。
いくつもの眷属から加護を得て、命の属性が増えたハルトムート。戦い系の神を中心に加護を得て、闇の眷属が増えたコルネリウス兄様。名捧げをしたことで薄い全属性がついたマティアス達。グレーティアは全属性に加えて、隠蔽の神 フェアベルッケンの加護を得た。
ミュリエラは名捧げをし直したことで、全属性ではなく、お母様の属性の影響を受けることになった。それに加えて芽吹きの女神 ブルーアンファの加護である。
「うむ。なかなか興味深い儀式であった。私も祈りの言葉と神々の名前を覚えるとするか」
「えぇ、わたくしもお祈りを頑張る気になりました。ブルーアンファやグラマラトゥーアの御加護を得たいですからね」
ダームエルの儀式を見学したおじい様も、ミュリエラという臣下を得たり、コルネリウス兄様に闇の属性が付いた報告を聞いたりしたお母様も満足した顔をしている。お母様は言語を司る言葉の女神 グラマラトゥーアの加護も得たいそうだ。
神殿を忌避する年代の二人が儀式に対して前向きになってくれたことが嬉しい。これで少しは貴族の意識改革が進むだろう。
「属性が増えるとは、この目で見ても信じられぬ」
おじい様の視線の先には肩を落としているダームエルがいる。儀式に同席したので、ダームエルが何の加護を得たのか、おじい様は知っている。わたしも結果を尋ねてまとめたので知っている。
……とてもダームエルらしいと思うよ。うん。
ダームエルは縁結びの女神 リーベスクヒルフェの加護を得て、新しく光の属性を得た。そして、それまで自分で持っていた風の属性から時の女神 ドレッファングーアと別れの女神 ユーゲライゼの加護を得たのだ。
リーベスクヒルフェにはブリギッテと結婚できるように必死に祈っていたらしい。特に祈っていなかったらしいユーゲライゼの加護を得たということは、かなり気に入られているに違いない。
「……結婚は絶望的ですね」
遠い目をしたダームエルの呟きが重かった。