Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (549)
祠巡り
祠の位置はわかったけれど、地下書庫と寮の往復しかできないわたしが祠に行けるわけがない。さて、どうすれば良いのだろうか。先日のようにハンネローレやヒルデブラントと散歩に出ることができれば話は早いのだが、外をうろうろしないように言われているわたし達では無理だ。
良い考えが浮かばないまま、わたしは地下書庫へ向かう。今日も午前中はアナスタージウスとエグランティーヌがいるらしい。いつも通りの一日になりそうで、ほぅほぅ、と頷きながらわたしは筆記用具を抱えた。
「ローゼマイン様、少しお待ちになってくださいませ」
「何でしょう、エグランティーヌ様?」
呼び止められて、わたしは振り返る。穏やかに微笑んだエグランティーヌの隣には、少し苦い顔をしたアナスタージウスがいた。
「今日はわたくし達と祠へ参りましょう」
「はい?」
「広域魔術で祠を洗浄する様子を一度見てみたいですし……試してみてほしいのです」
ふわりと花が開くような可憐な笑顔で、エグランティーヌはわたしにそう言った。アナスタージウスが仕方なさそうな顔で「広域魔術で祠を洗浄できるのは其方くらいだからな」と言うのを見れば、それが王族の意志なのだと理解するしかない。
……こういう方法で来たか。
お茶会でわたしが祠に入れたことを曖昧にしたせいだろう。王族の監視下で確実にわたしが祠に入る状況を作るつもりのようだ。
……エグランティーヌ様やアナスタージウス王子がこういう強引な方法を取るとは考えたくなかったんだけどな。
わたしは石でも呑み込んだかのような重い気分になって、やや項垂れながら側近を伴い、二人と一緒に図書館を出た。速度を王族に合わせられるようにレッサーバスに乗って動く。アナスタージウスが目指す先は文官棟の向こうにある祠のようだ。
「ローゼマイン、これを」
盗聴防止の魔術具を渡され、わたしはアナスタージウスを見上げる。不機嫌そうなグレイの瞳に睨まれた。
「其方、私を排してまで行った相談で、エグランティーヌに隠し事をしたらしいな。昨夜、エグランティーヌが落ち込んでいたぞ」
「……わたくしの立場では答えようのないことを尋ねるエグランティーヌ様が意地悪なのですよ」
わたしが「祠に入れません」と言えば、「王族に嘘を吐くのか」と言われるだろうし、「祠に入って、すでに石板はゲット済みですよ」なんて答えたら「反逆罪だ」と言われても仕方がない。口先だけのディートリンデ以上に不敬なのだ。
……だから、黙ってたのに隠し事をすると言われるなんて。
そのうえで、こうして祠に同行することを命じられ、祠に入れるか試してみろと言われれば、わたしには逃れようがない。王族の命令には従うしかないのだが、この二人に強要されるのだから気分は沈む。できるだけ貴族らしい対応をしたのに強制的に暴かれるのだから、落ち込みたいのはわたしの方だ。
「ごめんなさいね、ローゼマイン様。けれど、わたくしも譲れないのです」
可愛らしく謝られても心の重さは晴れない。エグランティーヌは争いを防ぐためにジギスヴァルトが祠に入るための裏技がほしかったのかもしれないけれど、知らないものは教えようがない。石板をどんどん読んでいけば、もしかしたら何かあるかもしれないと言う以外にないだろう。
「だいたい神殿でお祈りをして、御加護を増やしていた其方ならばあの祠に入れるはずだ。あれだけの神具を操り、神事を行うのだ。隠す意味などなかろう」
「……何でもかんでも話すな。情報の価値を知れ、とわたくしにおっしゃったのはアナスタージウス王子ではありませんか。よくできるようになったと褒めてくださっても良いのですよ?」
わたしが少し茶化したように言うと、「ローゼマイン」と睨まれた。
「全て話せ、とわたくしに命令するのですか?」
「あぁ、其方に隠されると、とんでもないことが裏で進行している気になる。私と其方の間では全てを詳らかにすることで物事が上手くいっていたはずだ。妙な隠し事をするな。あれだけの神事を軽々と行い、神具を扱う其方が祠に入れぬはずがない」
貴族として成長したな、とは褒めてくれず、隠すな、と言われてしまった。今までの自分の行動が招いたことなので自業自得ではあるけれど、今のわたしはエグランティーヌが望むような都合の良い解決方法を持っていない。
ジギスヴァルト王子が祠に入れないのは、シュタープを取る時に全属性でなかったからだし、全属性になるための裏技が地下書庫にあるのを知らなかったのは情報断絶がひどい王族のせいだし、シュタープを取れるのが一度だけだと決めたのもわたしではないし、それを変更するような力はないのだ。
馬鹿正直に「メスティオノーラの書を手に入れて、わたしが読んでから、フェルディナンド様の連座回避の交渉に使って、王族に譲りたいです」なんて言えるわけがない。祠に入れたことがわかった時点で、次期ツェント候補なので王族に取り込むという話になるはずだ。グルトリスハイトを手に入れることができそうな者を王族が野放しにしておくはずがないではないか。
「……わたくしが祠に入れることを確認して、王族がその後どうするつもりなのか考えれば、黙りたくもなりますよ。家族のいるエーレンフェストを離れて、つい先日、自分が星結びの儀式を行って祝福を与えたばかりの夫婦のところに第三夫人として入るなど、わたくしは全く望んでいませんから」
隠すな、と言われたので、わたしは自分の気持ちをそのまま口にした。アナスタージウスは「なるほど。少しは考えるようになったのか」と呟き、エグランティーヌは「あら、今日は隠し事なく、お言葉をくださるのですね」とクスクス笑う。二人ともわたしの言葉を否定しない。
「ローゼマイン様のおっしゃることもわかりますけれど、ようやくまとまってきた中央で争いが起こるのは何としても回避しなければなりません。それに、ローゼマイン様がおっしゃったようにグルトリスハイトは早急に必要ですもの。ローゼマイン様はわたくし達に協力してくださるでしょう?」
エグランティーヌがいつもと変わらない柔らかな笑みを浮かべ、わたしはそっと視線を逸らす。ここで「嫌です」と言わずにおけるだけの分別はある。
笑顔で無言の催促を受けているうちに、わたし達は祠に到着した。
盗聴防止の魔術具をアナスタージウスに返し、わたしは広域魔術のヴァッシェンで祠を丸洗いする。その様子を、エグランティーヌが感心したように見つめ、「素晴らしいですね」と微笑んだ。
「ローゼマイン、この祠も鍵がかかっているか確認してくれ」
アナスタージウスの言葉に、わたしは重い気分で扉に手を伸ばす。扉の中に取り込まれる感覚がした次の瞬間、わたしは祠の中にいた。円い盾を左に、右に黄色の石板を持った女神を中心に、女神がずらりと並んでいる。
「……風の女神の祠だ」
わたしは神々の名を唱えながらお祈りをして、すでに完成している石板を手に取った。
「其方の祈りは我に届いた。其方を認め、シュツェーリアよりメスティオノーラの書を手に入れるための言葉を与える……」
刻まれた文字は定例文のように同じだった。違いは与えられる言葉だけだ。石板が自分の中のシュタープと同化し、石板の文字が頭に刻み込まれる感覚の中、わたしは口を開く。
「タイディヒンダ」
その直後、わたしは祠の外にいた。祠に入れたのか否か、じっとわたしの様子を見下ろしているアナスタージウスとエグランティーヌの視線とぶつかった。ここで「入れませんでした」と嘘を吐いたところでどうにもならない。
「……黄色の線が増えましたね」
「何?」
祠の上を走る変な線は青だけではなく黄色が増えていた。わたしの視線の先を振り返った二人が不可解そうに顔を見合わせているのを見て、わたしは曖昧な笑みを浮かべる。
「他の祠にも行きますか?」
わたしが問いかけると、エグランティーヌは信じられないと言いたげに瞬きをした後、心配そうにわたしを見つめる。
「お体の方は何ともありませんの?」
「えぇ。平気です」
アナスタージウスは一度目をきつく閉じた後、「次へ行くぞ」と歩き出した。
「騎獣に乗れ、ローゼマイン。其方は遅すぎる」
一人用のレッサーバスに乗って、わたしは森の中を動く。わたしがほぼ等間隔に祠があると言ったからだろう。アナスタージウスも祠の位置を確認していたらしい。迷いなく歩いていく。
またもや盗聴防止の魔術具を渡され、握りこむと同時に、アナスタージウスから「其方には兄上の第三夫人として嫁いでもらう」と宣言された。
「そうすれば、全てが丸く収まる」
「全然丸くないですよ。女神の本を読むのは望むところですけれど、ジギスヴァルト王子の第三夫人なんて嫌ですもの」
それで丸く収まるのは王族だけだ。わたしはちっとも納得できない。
「……エグランティーヌは自分を中心にした争いを望んでおらず、次期ツェントになることを恐れている。エグランティーヌがグルトリスハイトを手に入れれば、クラッセンブルクを始めとした上位領地が一気に動くからな」
エグランティーヌの望みを叶えることしか考えていないアナスタージウスにわたしはムッとした。
「わたくしに争いの種を押し付けて、何かあった時には周囲の領地の不満をエーレンフェストに向ければ中央や王族は丸く収まるでしょう。けれど、それにエーレンフェストが頷くとお思いですか? わたくしは婚約者もいますし、エーレンフェストにいることを望んでいるのですけれど」
「あぁ、ダンケルフェルガーとのやり取りでもそのようなことを言っていたな」
だからといって、どうする気もなさそうなアナスタージウスの態度に、わたしは唇を尖らせる。
「……アナスタージウス王子もエグランティーヌ様もエーレンフェストのことは何も考えていないのですね」
「何もとは言いませんけれど、中央の争いを未然に防ぐことに比べると然程重要ではございませんね。エーレンフェストのことはエーレンフェストの者が考えれば良いのですから」
わたしが中央の事情をあまりよく知らず、身近に考えられないのと同じようにエグランティーヌもエーレンフェストのことを考えることはできないらしい。
「私が考えるのは王族のこと、中央のこと、ユルゲンシュミットのこと。それから、エグランティーヌのことだ。エグランティーヌの不安と憂いを払うためならば仕方がなかろう」
自分が優先すべきことのために、わたしの気持ちやエーレンフェストの現状は切り捨てるとアナスタージウスは言う。今まで王族に協力してきたつもりなのに、わたしの気持ちは全く考慮してくれないことにひどく苦い気持ちになった。
「エーレンフェストのことはエーレンフェストの者で何とかしろ、と本気でおっしゃっているのでしたら、中央のことは中央で何とかすれば良いではありませんか。エグランティーヌ様がグルトリスハイトを持てば、クラッセンブルクが後ろ盾になりますし、中央神殿も否は唱えないでしょう。王族でもないわたくしがグルトリスハイトを手に入れるより、よほど影響は小さいですよ。エーレンフェストの領主候補生を次々と奪うようなことはしないでくださいませ」
「口が過ぎるぞ、ローゼマイン」
アナスタージウスに睨まれたけれど、わたしは睨み返す。
「隠さずに言っているだけです。わたくしを王命でジギスヴァルト王子の第三夫人にするおつもりでしたら、せめてフェルディナンド様をエーレンフェストに返してください。フェルディナンド様がいなくなってエーレンフェストは大変なのです」
「無理だ。アーレンスバッハが潰れる」
わたしの願いは呆気なく却下された。エーレンフェストのことはエーレンフェストで何とかしろ、と言うのに、ずいぶんと対応が違うではないか。
「エーレンフェストとアーレンスバッハでずいぶんと扱いが違うのですね。この領主会議から勝ち組領地として扱うとお約束くださったのは何だったのでしょう? エーレンフェストやわたくしの王族に対する貢献はそれほどに軽いものなのですか?」
それが王族のやり方だと言われればそれまでだろう。けれど、思わず奥歯を噛みしめてしまう程に悔しい。エグランティーヌがまるで我儘を言う困った子供を見るような目で微笑んだ。
「ローゼマイン様の貢献は決して軽くなどございません。けれど、緊急度と重要度ではエーレンフェストよりアーレンスバッハが上になります」
アーレンスバッハは勝ち組の大領地なので、ベルケシュトックの半分を管理している。土地の広さ、人口、唯一開いている国境門など、重要性がエーレンフェストとは段違いだそうだ。それなのに、成人している領主一族が二人しかいない。フェルディナンドを入れてやっと三人だ。
「今のアーレンスバッハを実質支えているのはフェルディナンドだ。グルトリスハイトを持ったツェントがいなければ動かせぬ」
「……どういう意味ですか?」
「グルトリスハイトを持つツェントが領地の境界線を引き直し、アーレンスバッハの土地を切り分け、小領地を作って各領地の領主候補生をアウブにして管理を任せることができるようにならなければフェルディナンドをエーレンフェストに戻すことなどできぬということだ」
アナスタージウスの言葉にエグランティーヌが頷いた。
「中央を始め、大領地はグルトリスハイトのないままで、すでに政変の負け領地を管理しています。今アーレンスバッハが潰れた場合、他に負担を振り分けることができないのです。お隣のエーレンフェストでアーレンスバッハの全てを負うことができますか?」
粛清で貴族の数が減っているエーレンフェストは自領を支えるだけで手いっぱいだ。他の管理までする余裕などない。
「魔力的にこれほど困窮している状態でなければ、ディートリンデ様のあのような振る舞いが見逃されているはずがございません」
先日の来訪でマグダレーナ様がずいぶんと腹を立てていらっしゃいましたもの、とエグランティーヌは教えてくれる。その場で処刑されても文句を言えないレベルで失礼だったらしい。
それはつまり、王族に魔力的な余裕が出てきたらディートリンデが一番に処分されるということではないだろうか。冷たい水を頭からかぶせられたような気分になった。
「……では、せめて、フェルディナンド様をディートリンデ様の連座にはしないと約束してくださいませ。兄を追い落とすか、アーレンスバッハで薬漬けになって仕事をしながら望んでもいない相手と結婚することを選べと王命で命じられているのですよ。アナスタージウス王子がジギスヴァルト王子を追い落とすか、ディートリンデ様との結婚を強要されたらどのように思うのですか? その挙句、ディートリンデ様の不敬な言動で連座になどなれば……」
アナスタージウスはものすごく嫌な顔をした後、挑発するようにグレイの瞳をわたしに向ける。
「フェルディナンドが正式に夫になってしまえば連座は免れぬ。フェルディナンドを連座から救いたければ、星結びの儀式が延期された一年以内にグルトリスハイトを手に入れよ」
わたしを利用することを躊躇わない者の目に身震いしつつ、わたしはアナスタージウス王子を見返した。
「……わたくしがグルトリスハイトを手に入れれば、フェルディナンド様をエーレンフェストに返してくださるのですか?」
「フェルディナンドをアーレンスバッハから取り上げて、エーレンフェストに戻すことで起こる様々なことを予測し、対策を立てながら実行できるならばすれば良い。……ほら、着いたぞ」
話を切り上げるようにアナスタージウスが先を示す。アナスタージウスが指差す先にあったのは、水の祠だった。わたしは緑の石板を手に入れた。
……フェルディナンド様を助けるためなら、すぐにでも手に入れるよ。
祠にはすでに石板ができているのだ。石板を手に入れた後にどうしなければならないのかわからないけれど、わたしは全力を尽くすつもりだ。フェルディナンドをディートリンデの連座になどさせない。
命の祠は石板ができていなかったけれど、中で祈って魔力を奉納すれば完成した。石板ができていない祠では魔力を奉納し、次々と石板を完成させて取り込んでいく。全ての石板を手に入れた時には、魔力がかなり減っていたので、腰につけている優しさ入りの回復薬を飲んだ。
わたしが回復薬に手を伸ばしたことにオティーリエが顔色を変えた。
「ローゼマイン様、ヴァッシェンでお体に負担がかかりすぎたのではございませんか? それでなくても、今日は少し移動距離が長いように思えますけれど……」
「案ずるな。これで終わりだ。ローゼマインが回復したらもう戻る」
アナスタージウスの声を聞きながら、わたしはオティーリエに「魔力が回復すれば大丈夫ですよ」と手を振る。オティーリエの気遣う視線に笑顔を返しながら、わたしは回復を待った。
……あれ?
魔力が溢れて使えなくなるような感覚がなくなっている気がする。わたしは少しずつ魔力を圧縮していく。加護の儀式を行う前のように魔力を圧縮しても問題がない感じだ。自分の手をじっと見つめて首を傾げた。
……わたしのシュタープ、成長してる?
「どうかなさいましたか、ローゼマイン様?」
エグランティーヌが気遣うように声をかけてきた。わたしは周囲を少し見回す。視線を気にする仕草に気付いたらしいエグランティーヌは盗聴防止の魔術具を渡してくれ、内緒話をするつもりなのを目敏く見つけたらしいアナスタージウスがやってきた。
「わたくしのシュタープが成長した気がします」
「は? どういうことだ?」
「感覚的なことなので、自分でもまだよくわからないのですけれど……。一年生の時に手に入れたシュタープが自分に合わなくなったお話はしましたよね?」
アナスタージウスが「あぁ、聞いたな」と頷くのを見て、わたしは自分の手を握ったり開いたりしながら、先を続ける。
「祠で手に入る魔石は神の意志にとてもよく似ているのです。全ての魔石を取り入れたら、魔力の扱いが楽になりました。祠の魔石を手に入れることでシュタープが改良されるのであれば、ジギスヴァルト王子やアナスタージウス王子にも何か方法があるかもしれません」
「ローゼマイン様!」
エグランティーヌが嬉しそうに顔を綻ばせる。そんなふうに喜ばれても、本当にできるかどうかはわからない。何より、小さな祠で延々と奉納を繰り返し、魔石を集めていかなければならないのだ。長い道程になる。
「小さな祠でお祈りをして、加護の再取得で大神の加護を得て、始まりの庭に行ってシュタープを改良することができれば……というくらいに長くて不確定な道程ですよ。本当に改良できるかどうかもわかりません」
「それでも、何も方法がないよりは嬉しいです」
エグランティーヌの輝く笑顔に心が和んでしまったわたしは、慌ててふるふると首を振った。
「ローゼマイン様?」
「祠はめぐりましたけれど、この先はどうすればいいのか、わかりませんね」
「ひとまず地下書庫に戻るぞ。四の鐘までにあまり時間がない」
盗聴防止の魔術具をアナスタージウスに返し、わたしは騎獣に乗りこんだ。アナスタージウスは側近達にも騎獣を使うように命じて、皆で一気に図書館へ駆ける。
……あ!
空を駆けるために森の木々より上に上がったところで、祠と祠を結ぶ何色もの光の線が複雑な形を描き出し、巨大な魔法陣になっているのが見えた。それほど高くは飛んでいないので、魔法陣の全体像が見えず、何の魔法陣なのかわからない。けれど、巨大な魔法陣は貴族院の端まで覆っているように思える。魔法陣の中心は中央棟。多分、最奥の間だ。
何が起こっているのかわからない。けれど、間違いなくとんでもないことが起こっている。
ドクンと胸が嫌な音を立てた。