Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (572)
養父様の帰還
わたしは神殿や印刷業の引継ぎをしつつ、貴族院の勉強のおさらいをしたり、孤児院の子供達の勉強を見たりして日々を過ごしていた。魔術具を持っていてこの冬に洗礼式を受ける歳の子は、秋に養父様との面談がある。アウブが後見して貴族にすることが相応しいかどうか確認されるのだ。そのため、子供達は色々な勉強を必死にしているし、生活態度に問題があると言われないように気をつけているらしい。孤児院の皆の頑張りに負けないようにメルヒオールや収穫祭に向かわなければならない青色見習い達も頑張っている。
そして、自分の魔術具を得たディルクは、わたしがローデリヒやフィリーネに作らせた回復薬を使いながら必死に魔力を溜めているようだ。貴族院へ行くまでにはまだ三年以上あるけれど、できるだけ早く魔力を溜めておかなければならない。
そんな日々を送っていると、城のオティーリエからオルドナンツが届いた。アーレンスバッハへ葬儀に行っていた養父様達が帰還するらしい。
「フェルディナンド様からのお土産がたくさんあるそうです。それから、夕食を一緒に摂れるように城へ戻ってくるように、ということでした」
わたしはうきうきしながらメルヒオールや側近達と一緒に城へ戻る。お土産が楽しみで仕方がない。時を止める魔術具においしいお魚はいっぱい詰まっているだろうか。
「おかえりなさいませ」
養父様が馬車から降りてきた。護衛騎士であるお父様も一緒だ。養父様達が降りると、今度は下働きの者が馬車に積まれていた荷物を下ろし始める。養父様達が乗っていた馬車の後ろに側近達の馬車があり、その後ろにはたくさんの荷物を載せた馬車が連なっていた。行く時も荷物がいっぱいだったけれど、帰りもいっぱいだ。
……行く時より荷物が増えてるよ。馬車の数が多いもん。
「すごく荷物が多いのですね。まるでフェルディナンド様がお婿に行った時のような荷物の量ではありませんか」
帰ってきた養父様に挨拶をして、ぞろぞろと連なっている馬車を見ながらそう言うと、養父様はものすごく嫌そうな顔でわたしを見下ろした。
「誰のせいだと思っているのだ? 其方等は二人とも私を荷運びの下働きか何かと勘違いしていないか?」
わたしは別に養父様を荷物運びだと思ったことはないし、フェルディナンドに頼まれた物を運んでもらっただけである。つまり、犯人は一人しかいない。
「あぁ、なるほど。フェルディナンド様のせいということですか。人遣いの荒い弟がいると、養父様も大変ですね」
わたしは養父様を労ったはずなのに、何故かさりげなく長い袖に隠されてチョップを食らった。解せぬ。
「其方、とんでもない物を送りつけたらしいな。準備していた素材では足りぬ、とアレが頭を抱えていたぞ」
「何のことでしょう?」
「私が知るものか。とりあえず、後ろから馬車三つ分の荷物は其方の物だ。アーレンスバッハでの話は夕食時にする。それまでに何が入っているのか確認して片付けさせよ」
養父様はそう言いながら「あっちへいけ」というように手を振る。わたしは「馬車三つ分」という言葉に驚いて馬車と養父様を見比べた。養父様達、人が乗っていた馬車を除いて、荷物だけを積んだ馬車が五台並んでいる。そのうちの三台がわたしの荷物らしい。
「ローゼマイン様、急いで確認をしましょう。夕食に間に合いません」
オティーリエがリーゼレータとグレーティアを呼んで馬車へ向かう。荷物の確認と仕分けをすることになったのだが、最初の馬車の荷物を見ただけで嫌になってしまった。多すぎる。
「これは食べ終えた食器や鍋ですね。ヴァッシェンで洗浄されているので、神殿の厨房へ……あぁ、領地対抗戦の時にお母様に準備していただいた物もありましたね。どれがどこの食器だったかしら?」
普段から自分で料理をするわけではないので、専属料理人達に聞いてみなければどこの鍋かもわからない。空になった鍋がいくつもあるので、一応食事を摂っていることが確認できて一安心だが、後片付けが思いのほか大変だ。
「どうしたら良いかしら?」
「ひとまず神殿の厨房に運んで、フーゴやニコラに選別してもらい、エルヴィーラ様にお返しする時に新しいお料理やお菓子を詰めるのはいかがでしょう?」
「フィリーネの意見を採用します」
わたしはフィリーネの言った通り、神殿の厨房に食器類を運んでもらうことにした。神殿に向かわせるための馬車に載せてもらう。
「こちらは何でしょう?……アーレンスバッハの布?」
アーレンスバッハは暑いのか、ずいぶんと薄い生地がたくさん入った箱があった。布を取り出したグレーティアが少し広げて首を傾げる。
「ずいぶんと薄いですね。エーレンフェストでは真夏以外に使えないのではございませんか?」
「上から薄く重ねればデザインに幅を出すことができますし、アウレーリアに一つ贈れば故郷の布ですから喜んでくれるかもしれません」
染めた布を選んでいた時の選択から好みが似ているようだ、とブリュンヒルデが言っていた。息子であるジークレヒトの夏服を仕立てるのにも使えるかもしれない。
「このようにいただいた布は知り合いの女性に配る物ですから、全てローゼマイン様のお部屋に運ばせましょう。他領の布は珍しいですから喜ばれますよ」
オティーリエがどの布を誰に渡すのか考えなければ、と楽しそうに言いながら下働き達に運ぶように命じる。わたしは布の木箱は全てオティーリエに預けて、他の箱を開けることにした。時を止める魔術具の箱がまだあるのだ。
「フェルディナンド様は一体どれだけ時を止める魔術具を持っていらっしゃるのかしら?」
「まぁ、ローゼマイン様。フェルディナンド様がアーレンスバッハへ向かう時や衣装を届ける時など、何度かお料理を届けたではありませんか。フェルディナンド様はあちらに溜まっていた分をお返しくださっただけですよ」
リーゼレータがクスクスと笑ってそう言った。
……そうか。こんなに送ってたのか、わたし。
「こちらから送るばかりで、戻ってくることが今まではありませんでしたから、今回は箱が多いのでしょう。けれど、フェルディナンド様はお返しを詰めるのも大変だったでしょうね」
リーゼレータの言葉に、フェルディナンドが料理のお返しに何を返そうか悩んでいる姿が思い浮かんで、ちょっとおかしくなった。直後に、考えるのを放棄してユストクスに任せそうだと思い直す。
……ユストクス、ファイト!
そんなことを考えながら時を止める魔術具を開けると、そこには見たことがない変な物が小分けにされていっぱい詰まっていた。一緒に見ていたハルトムートとクラリッサが感嘆の声を上げる。
「まぁ! アーレンスバッハの素材ですね。多分、とても珍しい物ですよ。こちらはローゼマイン様が送った素材や調合道具に対するお返しではございませんか?」
「何が入っているのかメモもついているので、それはそのまま図書館の工房へ運び込んでもらうのが一番だと思います」
二人の指示で素材箱は図書館の工房へ運び込まれることになった。
わたしは次の箱を開ける。ぷぅんと鼻に届いたのはちょっと生臭さが混じった海の匂い。即座にわたしは大きく蓋を開けた。小さいシュプレッシュが一角に大量に詰まっていて、レーギッシュも見える。その他は知らない魚もたくさんあるし、すでに切り身にされている物もあるけれど、名前と捌き方が書かれたメモが載せられていた。
「きゃあっ! お魚です! たっぷり詰まっていますよ」
「ローゼマイン様、魚が動き出すのですぐに閉めてください!」
ダームエルにバンと閉められたので、一瞬で魚の姿はわたしの視界から消えてしまったけれど、箱にいっぱい詰まった魚のおかげでわたしの胸も喜びでいっぱいになった。
……フェルディナンド様、ありがとうっ! わたし、今、マジ幸せです!
どう料理してもらおう、と頭の中で魚料理のレシピがぐるぐると回り始める。煮付けができないのは残念だけれど、シュプレッシュのつみれは絶対に作ってもらおう。
「ローゼマイン様、このお魚はどこに運びますか?」
「半分は城の調理場で、もう半分は神殿にしましょう。皆にも幸せのお裾分けです」
他の荷物にはレティーツィアからのお菓子のお礼として細々としたアーレンスバッハの小物や料理に使えそうな珍しい調味料や香辛料が入っている。手紙も何通か入っていた。
「この辺りの細かい仕分けは図書館で素材の仕分けをするときに一緒に行いましょう」
「かしこまりました」
大まかに分けると、馬車を図書館と神殿に向かわせることにする。ラザファムにはオルドナンツで、フランには飛んでいく手紙で大量の荷物が届くことを知らせた。
「すでにお疲れのご様子ですけれど、この後はお部屋で細かい仕分けが残っていますよ、ローゼマイン様」
リーゼレータにそう言われて、わたしはコクリと頷いた。布や小物を誰にどのような順番で何を配るのかも大事なのだ。こういう細かい社交がわたしは苦手でげんなりしながら、北の離れの部屋に向かう。
北の離れに向かうのはヴィルフリート、シャルロッテ、メルヒオールも一緒だ。三人とも養父様からのお土産を抱えている。
「叔父上からの荷物は本当に其方の分だけだったな」
ヴィルフリートが呆れたような顔でそう言った。わたしはムッと唇を尖らせる。
「お兄様には養父様からのお土産があるでしょう? わたくしの分はフェルディナンド様が大量に準備していたのでないのですよ」
「あれだけあってもまだ足りないのか!?」
「フェルディナンド様の荷物と養父様からのお土産は別ですよ」
フェルディナンドがわたしの分だけしか準備していないので急遽子供達の分を準備しなければならなくなった、と養父様に愚痴まで言われたけれど、それはわたしのせいじゃないと思う。
「叔父様にお料理や素材を送ったのはお姉様だけですもの。叔父様からお返しが届くのもお姉様だけなのは当たり前ではありませんか」
シャルロッテの言う通り、フェルディナンドからのお土産はわたしが送った物に対するお返しなので、わたしの分だけでもおかしくはないのだが、本当にわたしの分だけで、他の兄弟達への贈り物は全くない。清々しい程に一つもない。フェルディナンドは社交上で失礼にならない必要最低限しかしないのだ。
フェルディナンドが婿としてアーレンスバッハへ行く時に、わたしはディートリンデの分だけではなく、レティーツィアの分もプレゼントを用意していたのだが、「そんな物が必要か?」と言われたことがある。ディートリンデに渡せば、ディートリンデからレティーツィアに下げ渡しがあるだろう、とフェルディナンドは言ったのだ。
「兄妹がいることはわかっているのだから、普通はもう少し配慮するものではないのか?」
「ちょっと寂しいですよね」
ヴィルフリートとメルヒオールがそう言いあっているのを見て、わたしは言うべきか言わずに胸に秘めておくほうが良いのか一瞬悩んだ後、口を開いた。
「ヴィルフリート兄様、フェルディナンド様はヴェローニカ様にそういう普通の気配りをされたことがないので、誰か一人に贈る時は他の兄妹にも送った方が良いという意識がないのですよ。フェルディナンド様にとってお土産や贈り物というのは、多分、養父様から下げ渡される物なのです」
フェルディナンド様の言葉の端々から推測しただけですけれど、と付け加えながらそう言うと、ヴィルフリートが驚いたように軽く目を瞬いた。けれど、シャルロッテは納得の表情で頷く。
「わかります。わたくしもおばあ様から何かいただいたことはございませんもの。おばあ様からの物はお兄様から下げ渡されていましたから」
「そうなのか?」
「えぇ。わたくし、おばあ様に何かいただいたことは一度もございません。洗礼前のお兄様は東の離れでおばあ様に大事にされていて、本館に遊びにくればお父様やお母様が可愛がるので、昔はお兄様が羨ましかったものです」
シャルロッテの言葉にヴィルフリートは衝撃を受けた顔になった。けれど、シャルロッテはそれ以上ヴェローニカの話題には触れず、フェルディナンドの生い立ちに同情する。
「わたくしはお母様からの贈り物がありましたけれど、叔父様はお母様もいらっしゃいませんから、そういうところがわからなくても仕方がないかもしれませんね」
「えぇ。フェルディナンド様はわたくしが皆に配ればそれで良いと考えているのでしょう。仕方がないと割り切って布やお魚をお裾分けしますから、フェルディナンド様からのお土産がないことについては我慢してくださいませ」
わたしがそう言うと、メルヒオールは「楽しみにしています」と素直に喜んだ。
部屋で土産物の仕分けをするうちにすぐに夕食の時間になる。わたしはアーレンスバッハの土産話を楽しみに食堂へ行った。
「アーレンスバッハはいかがでした? フェルディナンド様に隠し部屋は与えられていましたか? きちんとご飯を食べていましたか?」
「西の離れではあったが、隠し部屋を得ていた。ジギスヴァルト王子と共に確認してきたので間違いない」
「これで一安心ですね」
懸念材料が一つ減って、わたしはホッと安堵の息を吐く。しかし、養父様にはジロリと睨まれた。
「ランツェナーヴェの使者が来た上に、アーレンスバッハの葬儀の準備で死ぬほど忙しい時に西の離れの一室に移れと言われて大変だった、とフェルディナンドの側近から遠回しに文句を言われたぞ」
側近達は部屋の確認や洗浄が大変だったそうだけれど、フェルディナンドは喜んでいたらしい。
「おまけに、其方から預かった素材を渡したら朝まで隠し部屋から出てこない。葬儀の期間中は連日徹夜をしていたのか、ひどい顔色になっていた。あれは多分日中に寝ていたな。朝より夕方の方が元気だった」
「いくら何でも浮かれすぎではありませんか!?」
「そのくらいは予測して隠し部屋と素材と回復薬を与えたのではなかったのか?」
……そんな生活のために隠し部屋をお願いしたんじゃないのに! フェルディナンド様のバカバカ!
「まぁ、そういう意味でフェルディナンドは元気そうだったので問題なかろう。葬儀で気になったのは、ランツェナーヴェや中央騎士団だ」
養父様はフェルディナンドの話題を終わらせた。それまで黙って聞いていた養母様が「……何かございましたの?」と心配そうに尋ねる。
「襲撃というか、反乱というか、混乱というか……葬儀の場で中央騎士団の一部が突然暴れ出したのだ」
「はい?」
養父様によると、本当に突然のことだったそうだ。葬儀の最中に中央騎士団の一部が暴れ始めたらしい。すぐにアーレンスバッハの護衛騎士達や中央騎士団長が動いて、暴れ出した騎士達を取り押さえたそうだ。
「五人が暴れて、その内の二人は死亡。三人は縛られて中央へ即座に送り返された。誰にも怪我はなく、すぐに鎮圧された」
暴れ始める者がいて、何だ、何だと皆の注目が向いた時には周囲の騎士達が取り押さえに動いていたらしい。何が起こったのかよく理解できなかった者もいただろう。そんな一瞬の騒ぎだったそうだ。実際、葬儀は何事もなかったかのように続けられたようだ。
けれど、翌日には王族の命を受けた中央騎士団がアーレンスバッハの次期アウブに切りかかったという事件になっていた。なんでも、「中央騎士団から、王族から武器を向けられた」と夕食時にディートリンデが大きく騒いだことで、その場にいない者には大事件が起こったように印象付けられたらしい。
「誰が何を狙って起こした事件なのか、全くわからぬ。だが、中央騎士団に対する不信感が出席者の胸に植え付けられたと思う」
「フェルディナンド様は何と……?」
「そのように騒ぎ立てることではない、とディートリンデ様を諫めて、逆に、何故自分の心配をして王族に抗議しないのか、と責め立てられていた」
養父様は、フェルディナンドも王族や中央騎士団との話し合いで大変そうだったのだが、と言って溜息を吐いた。ディートリンデの側にはランツェナーヴェの王の孫がいて、しきりに心配していたらしい。フェルディナンドよりもよほど婚約者らしかったそうだ。
「ディートリンデ様は愛人でも……」
「ジルヴェスター様」
ニコリと笑って養母様が養父様の言葉を遮る。子供達に聞かせる話ではない、と威圧感のある無言の笑顔で諭されて養父様は口を噤んだ。
……そういえば、貴族院のお茶会で身分違いの恋をしたって話をしていたっけ? 別れたようなことを聞いた気がしたんだけど、続いていたんだ。
大事にしてくれる恋人がいたならば、フェルディナンドの相手はきついだろう。フェルディナンドは一見笑顔で優しいように見えるけれど、親しくなれば扱いがぞんざいになっていくのだ。
「ランツェナーヴェはユルゲンシュミット以外の国ですよね? そちらの方もアウブ・アーレンスバッハの葬儀にいらしたのですか?」
空気を読んだシャルロッテがするりと話題を変える。養母様に睨まれていた養父様はすぐにその話題に乗った。
「国境門があるのでランツェナーヴェとアーレンスバッハは交流がある。春の終わり、領主会議の終わる頃から秋の終わりまでランツェナーヴェの代表者はアーレンスバッハに滞在し、貿易のための船が出入りするそうだ。国境門から船が出てくる様子を初めて見たが、なかなか面白かったぞ。青くて広い海の上に国境門がどんとあるのも面白かったぞ」
そのような交流があるため、ランツェナーヴェの代表者も葬儀に参列していたそうだ。その時にランツェナーヴェの者が着ていた衣装に銀の布が使われていたらしい。
「私は遠くから見ただけだし、エーレンフェストにあったのが小さな切れ端だったので、同じ素材なのかどうかわからないが、銀色というだけでどうしても気になってしまう。ランツェナーヴェならば全く魔力を持たない素材があっても不思議ではないであろう?」
ゲルラッハの夏の館で銀の布を発見したおじい様は難しい顔になりながら養父様の話を聞く。
「警戒は必要だが、魔力攻撃は防げても、それ以外の衝撃などが防げるわけではない。暗殺や初見の者が繰り出す最初の一手を防ぐだけならば効果は大きいであろう。だが、防具として布は大して役に立たぬぞ」
シュタープの剣では切れないけれど、鈍器ならば衝撃はそのまま伝わるし、布で覆われていない部分は普通に魔力が通る。防具としては役に立たない、とおじい様は言った。
「養父様、フェルディナンド様には詳しくお話ししていますよね?」
「あぁ、隠し部屋の確認に行った時に話をした。できれば手に入れて研究してみたいと言っていたぞ」
養父様によると、ランツェナーヴェの人達はユルゲンシュミットの血を引く王族と現地の者で全く見た目が違うらしい。色々と話を聞いたところ、褐色肌で顔立ちから少し違って見えるそうだ。
「初めて見たので少し驚いたな。ランツェナーヴェの大半が現地の者なので、彼等はユルゲンシュミットに来ると不思議な気分になると言っていた」
「ランツェナーヴェはどのようなところなのでしょうね? 一度行ってみたいような気がします。あ、でも、先に他領へ行ってみたいです。貴族院も兄上や姉上のお話を聞いているので、行くのが楽しみです」
メルヒオールの言葉にわたしも大きく頷いた。
「わたくしも同じ思いです、メルヒオール。ランツェナーヴェにはどのような本があるのでしょうね? 一度ランツェナーヴェの図書館へ行きたいです。もちろん、他領の図書館にも興味がありますよ。歴史の長いダンケルフェルガーやクラッセンブルクの図書室には素敵な本がたくさんあるでしょうね」
……想像しただけでうっとりだよ。
わたしがずらりと並ぶ本の数々を思い浮かべてうっとりしていると、シャルロッテが困った顔で笑った。
「……お姉様の図書館へ向ける思いは十分伝わってきましたけれど、メルヒオールと同じ思いではないと思います」
呆れたようなシャルロッテのツッコミを、わたしは笑って誤魔化す。
養父様からアーレンスバッハの話を聞いて、夕食は終わった。フェルディナンドの話を聞こうとしても「詳しくは手紙を読め」で打ち切られたのだ。
「ローゼマイン、フェルディナンドからの手紙が荷物の中にあったであろう? あの中にはレティーツィア様の手紙も入っているらしい。なるべく早めに返事を差し上げるように」
「わかりました」