Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (623)
それぞれの武勇伝 その4
小広間はそれぞれが好きなように会話できるように席順は決められておらず、部屋をぐるりと取り巻くように設置されているテーブルと椅子を好きなように使うことになっている。あまりにも突然の祝宴で、しかも、ダンケルフェルガーから何人が賓客として扱われるのか全くわからず、参加人数が確定しないため席順を決めることもできなかったからだ。
わたしが座っていたところへおじい様がやってきて、おじい様の側仕えが料理を取りに向かう。おじい様からの報告を聞くために養父様が席に着き、ようやく宴に顔を出すことができたお父様が養父様の後ろに立った。もう一つ、空いていた席には当たり前のような顔をしたフェルディナンドが座った。
「イルクナーは遠いであろう?」
おじい様の武勇伝はそんな言葉から始まった。おじい様の言う通り、エーレンフェストの南西の端にあるイルクナーは遠い。行軍を騎獣で行うと一日仕事になる。下級騎士のスピードに合わせなければならないし、速度を出すために魔力を込めすぎて戦場に到着しても戦えないようでは本末転倒だからだ。
「だが、移動にそれだけの時間がかかれば、イルクナーが潰される可能性も高い。アーレンスバッハは大領地だ。旧ベルケシュトックの貴族と合わせれば、戦力は比較にもならぬ」
イルクナーの人口は少しずつ増えつつあるけれど、まだ貴族も平民も少なくて山や森が多い土地だ。守らなければならない土地が多いけれど、守り手は少ない。大領地から攻撃されれば、あっという間に制圧されてしまう。
「故に、アウブにしか使えぬ転移陣で我々はイルクナーの夏の館へ移動した」
せっかくある物だから使わなければ損であろう、とおじい様は言った。人間を転移させるための転移陣は使用するのに結構魔力が必要になるし、アウブでなければ動かせない。あまり安易に使える物ではないのだ。今回イルクナーへ転移陣で騎士を送り込むことができたのは、エーレンフェストがまだ襲撃にあっておらず、魔力回復のための回復薬や回復時間など余裕が多少なりともあったからだ。
「イルクナーへ到着し、戦い始めてすぐにこれが騎士団を呼び寄せるための襲撃だとわかった」
「どうしてですか?」
「騎士の数が想定よりも少なく、ギーベの館を落とすのを目的とした動きではなかったからだ」
イルクナーにいる騎士の数で対処するには難しい数の騎士が送り込まれ、のらりくらりと攻撃を回避しつつ、エーレンフェストから援軍の騎士団が到着するまでイルクナーを潰す必要はないというのがわかるような攻撃がされていたらしい。おまけに、土地の魔力が狙われていて、敵は広範囲で活動している。おじい様にとっては決して強い敵ではないが、かなり面倒くさい相手だったらしい。
「だが、騎士団を呼び寄せるつもりだったので、二日三日は粘るつもりだったのであろう。転移陣で現れた我々に敵はかなり驚いていた」
おじい様がフッと得意そうに笑う。アウブがギーベから要請を受けても、普通はすぐに出発できるわけではない。準備して、移動して……数日はかかるはずだ。だが、襲撃に向けて準備が整っていたこと、転移陣を使用したことで、イルクナーへあっという間に援軍が到着した。
「簡単に言うが、転移陣を動かすためにこちらも相当無理をしたのだぞ」
養父様が不満そうにそう言ったが、おじい様は素知らぬ顔で話を続ける。
「戦っている途中でゲルラッハも襲われたという情報が入った。まるでそちらが本命だと言わんばかりに敵の数が多いから救援を出せないか、と。行かねばならぬと思ったが、心置きなくゲルラッハに向かうためには一刻も早くイルクナーの戦いを終わらせねばならなかった」
できるだけ早くイルクナーの敵を片付けてゲルラッハへ向かうぞ、とおじい様は騎士達を叱咤し、ブリギッテの案内の下、イルクナーの土地を騎獣で駆けまわり、敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍を始めたらしい。
「何故父上はゲルラッハへ行かねばならぬと思ったのですか?」
騎士団長の顔をしたお父様が尋ねると、おじい様も孫娘に自慢話をする祖父の顔から真剣な眼差しになる。
「ゲルラッハの方は危険な臭いがした。少しでも早く行かねばならぬ、と思ったのだ」
「危険な臭い、ですか?」
「うむ。かなり苦戦するだろうと思われる強敵がいる気配がした」
「気配……」
何というか、おじい様はとてもワイルドな気がする。本能的に動いているというか、嗅覚が鋭いというか。グラオザムが一番におじい様対策を練るはずである。
「おじい様、ブリギッテに怪我はありませんでしたか? わたくしの護衛騎士だったので、様子が気になります。今回の戦いでブリギッテは、敵が船を使ってやってくるというエーレンフェストにとって非常に有益な情報を送ってくれましたし……」
ダームエルが受け取ったオルドナンツの話をすると、おじい様は何とも複雑そうな顔で「ブリギッテはイルクナーにいてもローゼマインの側近なのだな」と呟いた。
「騎士団に送れば良い情報だというのに、受け取り手がいないと文句を言いながらも、ローゼマインの側近を通じて送ろうとする思考回路は主に手柄を立てさせたい側近のものだ」
「……遠く離れてもそう思ってくれているというのは、とても嬉しいものですね」
わたしが喜ぶと、おじい様は「ローゼマインは良い臣下を持っている」と頷く。
「おじい様、ブリギッテの様子はいかがでしたか?」
「む……。騎士としての腕は少し鈍っていたな。女性騎士は結婚と出産でどうしても訓練から遠ざかるから仕方がないが、少々惜しいと思う」
騎士としての能力ではなく、近況などを聞きたかったのだが、とてもおじい様らしい答えだとも思う。
「少々腕が鈍ったとはいえ、イルクナーの土地を守る騎士としてならば十分な働きをしていたぞ。ローゼマインの作った工房や紙作りに必要になる山林は何としても守らなければならないと奮闘していた。ギーベの妹としてしっかりと土地や民を守っていたと思う」
そうして、おじい様はブリギッテと共にイルクナーに入り込んで土地の魔力を奪っていた旧ベルケシュトックのギーベ達を捕らえていったらしい。
「途中でローゼマインとフェルディナンドがダンケルフェルガーの騎士を率いてゲルラッハに向かったというオルドナンツが飛んで来た時は心底驚いたぞ。ローゼマインは勇ましい啖呵を切っていたが、これほどの短時間で本当にフェルディナンドを救出して戻ってくるとは思わなかったからな。……よくやったな、ローゼマイン」
「ありがとう存じます、おじい様」
救助に向かうのは無駄だとか諦めろと言っていたおじい様が認めてくれて褒めてくれたことで胸の中がほわっと温かくなった。
「ローゼマイン、其方も様々なものをよく守ったと思う。私がゲルラッハに到着するまで持ちこたえて欲しいと思っていたら、イルクナーを出発する直前にゲルラッハが片付いたという報告が入ったのだ。オルドナンツが壊れたのかと思って、思わず何度か叩いてしまった」
……おじい様がそんなことをしたら、逆にオルドナンツが壊れちゃうよ!
「ゲルラッハの戦いではダンケルフェルガーの騎士達がとても頑張ってくださったのですよ」
わたしは女性貴族達と楽しそうに話をしているハンネローレを示しながら、「わたくしのお友達です」と紹介する。
「だが、ダンケルフェルガーの騎士を率いてきたのはローゼマインであろう?」
「いいえ。アーレンスバッハの礎を奪っただけでは本物のディッターは終わらぬと、ダンケルフェルガーの騎士を煽ってゲルラッハへ率いてくださったのはフェルディナンド様です。フェルディナンド様達が出発した時、わたくしはアーレンスバッハの城で寝込んでいましたから」
毒を受けたのに、ほとんど休憩なしでダンケルフェルガーの騎士達を率いてくれたのだ。「フェルディナンド様はすごいのですよ」と言ったら、おじい様がちょっと拗ねたのか、フェルディナンドを見て、フンと鼻を鳴らした。
「ゲルラッハが片付いたならばエーレンフェストに戻ろうと、アウブに転移陣を動かすように要請したら断られたのだ。ダンケルフェルガーの賓客を祝宴に招き、ローゼマインとフェルディナンドを帰還させるために転移陣を使うので自力で帰ってこい、と」
「優先順位はダンケルフェルガーの賓客だ。それに、転移陣を使う理由がローゼマインに呼ばれているでは許可など出せるか」
戦いが終わったばかりで回復薬もぐっと減った。広範囲で陽動が行われたため、騎士達は疲弊している。文官や側仕えは祝宴の準備に大忙しだ。そんな中、おじい様のために転移陣を使うことはできなかったらしい。
……わたし、別に呼んでないしね。
おじい様はわたしに呼ばれたからと言い張って、他の騎士達を置きざりにして全速力で帰って来たそうだ。そんな本能の訴えから、登場と同時に「助けに来た」という言葉に繋がったらしい。
本能的な動きが多すぎて、頼もしいというか、ちょっと怖いというか、グラオザムがおじい様対策に全力を尽くす理由がよくわかった。敵対するのは怖い。
「それで、こちらの様子はどうだったのだ?」
おじい様が養父様に視線を向けた。今日は皆の武勇伝を聴くだけで、自分のことはあまり話そうとしない養父様が仕方なさそうに口を開く。
「騎士団に届けられたダームエルのオルドナンツ、正確にはブリギッテからの情報が始まりだった。あれは三の鐘の頃だったか……」
西門に敵が到着する可能性が高いという情報が入り、騎士達が動き始めた。色々なところにオルドナンツが飛ばされ、それぞれが決められた配置についていく。敵がいつ現れるか、戦いがいつ始まるかわからない。礎を奪われるわけにはいかないので、養父様はすぐに礎の間に入るように言われたらしい。
「私は礎の間で待機だった。籠らなければならないが、正直なところやることがない。壁にあるオルドナンツ用の穴からオルドナンツが出入りするだけだからな」
礎の間にいるアウブと連絡が取れるように、執務室と礎にはオルドナンツ専用の円いワープ穴があるらしい。そこから白いオルドナンツがぴょこぴょこと顔を出して報告をしてくる以外、養父様にできることがなかったそうだ。
「せっかくなのでローゼマインと考えた罠を礎の間に増設することにした」
めちゃくちゃ暇だった養父様は西門の襲撃が始まるまでの間、ちょこちょことオルドナンツを側仕えに飛ばしては、罠の道具を準備してもらい、それを自分で運び込んで罠を増設していったそうだ。
「アウブが自分で作業しても良いのですか?」
「私しか入れぬのだから仕方があるまい」
時間潰しに始めた罠作成で、階段に鳥もちをつけたり、わたしが提案したように網や盥を設置したりしていたらしい。ちなみに、ここでは普段金属の盥が使われていないため、木の盥で罠が作られたそうだ。
……木の盥って当たったら痛いどころの話じゃないよね? ゲオルギーネ様の致命傷が木の盥だったらどうしよう?
わたしの説明がまずかったせいもあると思うけれど、金属ではなく、木の盥を使うと思わなかった。
「罠を増設している間もオルドナンツは行き来していた。イルクナーはボニファティウスの活躍によって勝利に向かい始めたが、ゲルラッハにさらに多くの敵が現れて救助の要請が飛んできた」
周辺のギーベにギーベ騎士団を少しずつ向かわせるように命じ、おじい様に移動ができないか打診したけれど、あまり色よい返事はもらえない。周辺のギーベ達は自分達が次に襲われるかもしれないのに、騎士団をゲルラッハに向かわせることはできないと言う。ギーベの立場に立てばそうだろう。余所の救援に向かわせて自分の土地を守れないのはギーベ失格だ。
貴族街を守る騎士達も、敵の襲来が近付いているというのに多くを出せるわけではない。ましてや、転移陣を扱うアウブが礎の間に籠っているのだ。イルクナーの時と違って、すぐに騎士達を送れるわけでもない。
「ギーベ・ゲルラッハからどんどんと戦況が悪化する様子がオルドナンツで届き、じっと礎に籠っていることができなくなった。少しでも転移陣で騎士を送ろうとした時に、フェルディナンドから連絡が届いたと文官のオルドナンツがあったのだ」
アーレンスバッハの礎を奪ったわたしが、ゲオルギーネの指示で勝手なことをしている自領の貴族や騎士を収めるために、エーレンフェストとアーレンスバッハの境界門付近へダンケルフェルガーの有志を連れてやってきているという知らせだったそうだ。
「あれには本気で驚いた。これほど神々の配剤を感じたことはない」
「養父様はグリュックリテートに愛されているのですよ」
養父様は「すぐにゲルラッハへ向かってもらえるようにフェルディナンドへ連絡せよ」と文官に命じたらしい。アーレンスバッハの領地内にいるフェルディナンドやわたしにはオルドナンツが届かない。境界門に手紙を送ってもらう必要があるのだ。
そして、ゲルラッハには「ローゼマインとフェルディナンドがダンケルフェルガーの騎士を率いて援軍として駆けつけるのでそれまで耐えろ」とオルドナンツを飛ばしたらしい。
「そんなオルドナンツのやり取りの間にも西門に敵の襲来があり、北門付近で戦いが始まり、神殿が戦場になった。隠し通路を使って誰かがやってくるというフロレンツィアからのオルドナンツも来た。……皆が戦っているというのに、私は礎の間で待っているだけだ」
飛び出したい気持ちを必死で抑えて待っているうちに、養母様からゲオルギーネを捕らえたという知らせがやってきたそうだ。
「自分だけ何もしないうちに、戦いにけりがついてしまった」
少々面白くなくても終わるに越したことはない。白の塔へ向かうために養父様は礎の間から出て、ゲオルギーネを捕らえたという情報を各地に送ったそうだ。
けれど、白い塔へ向かっている途中で「もう一人、ゲオルギーネ様が現れました。天井から降ってきたので転移させられたようです。他にもいるかもしれません。本物のゲオルギーネ様が確定するまで礎の間から出ないでください」と養母様の焦りを含んだ声のオルドナンツが飛んできたらしい。
「フロレンツィアにそう言われて、私は急いで戻った。何重にも罠を張る嫌らしいやり方が実にゲオルギーネらしいと思ったのだ。城にあるアウブの自室に戻り、礎の間に入った。そうしたら、なんと突然大量の水による攻撃に見舞われた」
「え?」
「あの転移の幕を越えた瞬間、礎の間の中には大量の水が渦巻いていて、飛び込んだ私はゴボゴボッと……」
礎の間には本物のゲオルギーネがいて、すでに戦いが仕掛けられていた。養母様のオルドナンツがなければ礎を奪われる展開になるところだったと養父様は血の気が引く思いだったらしい。
「数秒で渦巻く水が消えて、水中に浮いていた体が落ちた。直後、自分の仕掛けた盥も降ってきた」
「え? 盥ですか?」
「仕掛けた罠も水で浮き上がってスコーンと盥が降ってきたのだ。間一髪で回避したが、あれはかなり危険な罠だったぞ」
部屋中を満たすようなヴァッシェンをした場合、浮かぶのは自分だけではない。わたしはヴァッシェンを覚えた初期に経験済みだ。部屋中の物が浮く。ついでに術者が汚れと認識する物は綺麗に洗われてしまうのである。
「せっかく階段に塗った鳥もちは綺麗に洗われ、コツコツと仕掛けた罠はことごとく水に浮かび、設置した場所から動いてしまった。コゥンコゥンと音を立てながら木の盥が自分の足元で跳ねる中、もう一つの入り口からにゅっと手だけが突き出されているのが見えたのだ。ぞっとした」
手首から先だけ浮かんで見える手にはシュタープが握られている。見てもいないのに確実な攻撃ができるゲオルギーネに、養父様は改めて恐ろしさを実感したらしい。
「手首が宙に浮いているように見えれば、怖いと思うのは当然ですよ」
養父様はすぐさまシュタープを構えた。そこにゲオルギーネが悠然と歩いて入ってくる。灰色巫女の服を着ているけれど、まるで女王のような立ち居振る舞いだったそうだ。
「ゲオルギーネは私を見て、信じられないと目を見張ったのだ」
「あちらこちらで陽動が行われているのだから、アウブが礎の間にいるのは当然ではないか。何か驚くことがあったのか?」
フェルディナンドの言葉に、養父様は少し苦い顔になった。
「アウブが礎の間にいるのは当然だからこそ、ゲオルギーネは即死の毒を放ったのだそうだ」
「……え?」
外では風に流れて効果が薄くなる即死の毒だが、礎の間のような狭い場所では恐ろしい威力を発揮するはずだ。鍵を開けて毒の魔術具を放り込んだ後、自分が入れるように部屋を洗浄する。そうすれば、他に邪魔が入ることなく、ゆっくりと礎を染めるなり、魔力を奪って礎を崩壊させるなり、好きなことができると考えたらしい。
「フロレンツィアに呼ばれて礎の間を出ていなければ、私はすでに死んでいた」
「養父様、本当にグリュックリテートの御加護があるのですね」
「むしろ、ゲオルギーネには神々の御加護がなかったのであろう」
そこまで何重にも罠を張って綿密に計画したのに、相手がただ幸運で避けたとなれば、ゲオルギーネの心情はどうだったのだろうか。
「それでどのようにゲオルギーネを捕らえたのだ?」
「シュタープを構えていたので、すぐに攻撃したに決まっているではないか」
距離があったので、養父様はシュタープを弓に変えて魔力の矢をつがえ、次々と放ったそうだ。
「ゲオルギーネのお守りが一つ弾けた後はゲッティルトで防がれた。矢を射かけながら距離を詰めていたら金属の針のような物を投げられ、私のお守りが一つ弾けた。だが、礎の間に入るためには銀色の布がつけられなかったのか、魔力攻撃が効いたので捕らえること自体はそれほど大変ではなかった」
何だかんだ体を鍛えている男性の養父様と社交を中心にする女性のゲオルギーネでは基礎体力や腕力、戦闘に対する慣れなどに大きな違いがあるだろう。もちろん年齢的にも養父様の方が圧倒的に有利だ。魔力圧縮や加護の再取得によって魔力量や魔力効率も上がっているのだから、直接対決ならば負ける要素がない。
「……だが、人はあそこまで誰かを憎むことができるのだな」
何を言われたのか、養父様は口にしない。けれど、かなり心を抉られる言葉だったのは、顔を見ればわかる。
「まだ名捧げをした貴族が残っているとか、従属契約をした者が自分の望みを継ぎ、エーレンフェストを滅ぼす、と言い出した」
「……名捧げをした貴族は危険だな」
「あぁ。あの粛清で漏れている者がいるかどうかはこちらからはわからぬ。名捧げをした貴族が命じられて何をするのかわからない。戦いの場で暴れ出すのか、あの毒をどこかに撒き散らすのか。被害が拡大する前に止めなければならない。……私はこの手で止めを刺した」
養父様はそう言って自分の手を見つめる。自分と血を分けた姉を、自分の手にかけた。その重さを感じさせる目で、養父様はコトリと魔石を取り出す。
わたしの喉がヒュッと鳴った。