Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (626)
仮縫い
「ハンネローレ様、時の女神 ドレッファングーアの糸紡ぎはとても円滑に行われたようです。今日の午後にはアーレンスバッハへ移動して、そのままダンケルフェルガーへ戻ることになります。これから出発の時間までお部屋でゆっくりとお休みくださいませ」
「……今日は髪飾りの注文のためにお招きを受けていたと思うのですけれど?」
ハンネローレがわたしの方を向いて不思議そうな顔になった。わたしはニコリと笑って首を横に振る。一緒にお祈りをして、死者を悼んで弔ったことでハンネローレは少し気が落ち着いたらしい。体からは力が抜けているし、少し眠そうに見える。
「髪飾りの注文を受けるだけならばいつでもできます。ハンネローレ様の体調の方が大事ですから、ゆっくり体を休める方を優先させてください」
「お心遣いは大変嬉しいので、今はローゼマイン様のお言葉通りにお部屋へ下がりますけれど、ローゼマイン様の専属に髪飾りを注文できるのをとても楽しみにしているのですよ」
ハンネローレは悪戯っぽく笑うと、「三の鐘にはドレッファングーアの糸が交わるでしょう」と挨拶をして本館の客間へ下がっていく。
ハンネローレとその側近達を見送り、わたしも自室へ戻ろうかとしたところでダームエルが不意にシュタープを出して警戒の体勢になった。ユーディットも同じようにシュタープを構えた。わたしも視力を強化してみる。騎獣が近付いてくるのが見えた。後ろから追いかけてくる騎獣もいる。高速で近付いてくる白いライオンのような騎獣はフェルディナンドに違いない。
「あら、フェルディナンド様。おはようございます。ずいぶんと早いのですね」
わたしが手を振って声をかけると、騎獣の上のフェルディナンドが苦虫を噛み潰したような顔で、バルコニーに降り立ってわたしと側近達を見回した。
「夜勤の者に疲れが出てくる夜明けを狙った襲撃でもあったのかと思えば、このような時間に馬鹿みたいな量の魔力を放ったのは君か?」
「ハンネローレ様と一緒に死者を悼んでいたのです。イルクナーやゲルラッハ、それから、このエーレンフェストでなくなった方々はこの夜明けと共に最高神とはるか高みへ向かいますから。……その、フェルディナンド様が休んでいたところを叩き起こすつもりはなかったのです。申し訳ありません」
休息が一番必要なのはきっとフェルディナンドなのに、わたし達の祈りを襲撃かもしれないと警戒して飛び出してきたのだろう。騎士団には護衛騎士達が連絡していても、さすがに城外の図書館にいるフェルディナンドにまで「これから弔いのお祈りをします」なんて連絡は入れていない。
「いや、ちょうど薬が切れたところだったので特に問題はない。……君も必要か? 鐘一つ分は夢も見ずに死んだように眠れるぞ。時間がない時には重宝する」
「夢も見ずというのは少し心惹かれますけれど、また二日くらい起きられなくなったらと考えると躊躇いますね」
短時間で体調を整えなければならないのは、神殿や下町の様子を見て回りたいわたしも同じだ。けれど、アーレンスバッハで置き去りにされた記憶が鮮明な今、フェルディナンドの薬はちょっと警戒してしまう。
「嫌でも短時間で起きられる物だ。……三の鐘には図書館でギルベルタ商会の者と顔を合わせることになるはずだが、そのような寝不足の顔で針子達に会うつもりか?」
寝不足の顔と言われて、わたしは自分の顔を押さえた。エーレンフェストでも戦闘があって、父さんが西門で無茶をしていたと聞いている。話を聞いたトゥーリは心配しているだろうし、わたしのことでまでトゥーリや家族に心配をかけることはできない。
薬漬けのフェルディナンドと同じことをするのはちょっと不本意ではあるけれど、わたしはフェルディナンドが重宝しているらしい睡眠薬をもらって眠ることにした。
「ローゼマイン、体調に異常はないか?……あぁ、私がすべき質問ではなかったか」
「フェルディナンド様、後程ご相談しようと思っていたのですが、ローゼマイン様は魔石から戦いの様子を連想するようで、騎獣を出すのにも難儀しています」
何と話をすれば良いのか、言葉が思い浮かばなくて一瞬口籠ったわたしの代わりにダームエルが答えると、フェルディナンドが「予想以上にひどいな」と難しい顔になった。
「魔石を恐れるのであれば、日常生活にどれほどの支障があるかわからぬ。……今の神殿はメルヒオールの側近達によって仕掛けられた魔術具の罠がまだ撤去されていないので、あまり良い環境とは言えぬ。どうしても神殿内に入りたいならば、神殿の清めが終わった午後の方が良さそうだ」
少し移動時間を遅らせれば何とかなるか、と呟くフェルディナンドを見上げて、わたしは首を傾げた。
「……フェルディナンド様はもう神殿の様子を見てきたのですか?」
「いや。私は報告を受けたに過ぎぬ」
メルヒオールやその側近達からフィリーネやハルトムートが話を聞いている様子をユストクスは見ていたらしい。聞いていたではなく、見ていたというところがユストクスらしい。
「罠の撤収や清めが終わってからで構いません。自分の目で神殿の様子を確認したいです」
「メルヒオールの側近達に罠を撤収しておくように伝えておけ、ダームエル」
「はっ!」
フェルディナンドと話をして、少しホッとした気分で薬を飲んで寝た。夢も見ずに眠れたのは本当に鐘一つ分で、その後は悪夢がやって来て飛び起きざるを得ない薬だった。嫌でも短時間で起きられるという言葉の意味を、わたしは身を以て知った。鐘一つ分でも熟睡できたので体調はマシになったけれど、寝起きの気分は最悪だ。
「ローゼマイン様、どうされましたか?」
不寝番のグレーティアと交代し、部屋を整えていたらしいオティーリエが飛び起きたわたしに気付いて天幕の中へ入ってきた。
「ひどい目覚めです……。時間がない時には重宝するとフェルディナンド様はおっしゃいましたけれど、このような薬を重宝する生活なんて……」
フェルディナンドには一度注意が必要かもしれない。そう思った直後、外聞が良くないのであまり近付くな、と皆に言われていたことを思い出す。
……あぁ、貴族って面倒くさい。
もう少し寝ていた方が……と言うオティーリエに朝食の準備を始めてもらい、ベルティルデが戦いの間どのように過ごしていたのか話を聞きながら着替えを手伝ってもらった。後方支援に徹していたシャルロッテとブリュンヒルデについていて、一番大変だったのは宴やダンケルフェルガーの客室準備だったそうだ。
……アウブの命令による騎士団の遠征の時は、転移陣で城から食事を送るなんて初めて知ったよ。
朝食を摂りながら、わたしはオティーリエから今の側近達の動きについて報告を受けた。
「宴の後でハルトムートが持ち帰ってきた命令ですけれど、数日間は問題なくアーレンスバッハで過ごせる程度の準備をするように、とフェルディナンド様から命じられています。ローゼマイン様が一度は必ずアーレンスバッハへ赴かなければならないそうですね」
やっと戻られたのに、また危険なところへ向かうなんて……とオティーリエが気遣わしそうに微笑んだ。アーレンスバッハへ同行する側近は一緒にアーレンスバッハへ向かった者に加えて、側仕えのリーゼレータとグレーティアが指名されているらしい。
「側近達も交代で出発準備を整えているようですから、午前中は誰も彼も忙しないようです。わたくしもベルティルデと共に午後までにはローゼマイン様の出発準備を整えておきますね」
「図書館へ向かう馬車の準備が整うまで、こちらの本を読んでお過ごしくださいませ。ローゼマイン様がまだ目を通していない本をリーゼレータとグレーティアが準備していました。エルヴィーラ様はローゼマイン様がお嫁入りする前にできるだけ多くの本を作るのだとおっしゃいましたよ」
ベルティルデがそう言って持ってきてくれたのは、戦い準備に忙しくて読む暇がなかったエーレンフェストの新作だ。わたしが不在だった冬の間に印刷された本が二冊もある。わたしはベルティルデにお礼を言って、すぐに読み始めた。嫌なこと、怖いことを忘れるには本を読むのが一番だ。
「あぁ、来たか。ギルベルタ商会の者はすでに到着しているぞ」
三の鐘が鳴り、わたしはハンネローレやハイスヒッツェ達と一緒に馬車で図書館へ移動した。よほど訪問を知られたくないような間柄や気安くて仲の良い者でなければ、貴族の館を訪問する時は馬車を使用するのだ。今回はダンケルフェルガーの者達が一緒なので、騎獣は使わない。
「ハイスヒッツェ、行くぞ」
「はっ! では、ハンネローレ様。お買い物をお楽しみください」
ハイスヒッツェはわたし達を図書館まで護衛として送った後、フェルディナンドと騎士の訓練場へ行くことになっている。ハイスヒッツェやフェルディナンド達だけではない。わたしの護衛騎士達も男性は図書館へ立ち入り禁止だ。未婚の女性が仮縫いを行う時に同じ館の中にいるのは外聞が良くないらしい。
わたし達が乗ってきた馬車にフェルディナンドとその側近達、ハイスヒッツェを始めとしたダンケルフェルガーの男性達が乗り込んで、また城へ戻っていく。
「ラザファムも一緒でしたけれど、騎士の訓練をするのかしら?」
「客人へのお茶の準備などを行うだけだと思いますよ。戦闘訓練はしないでしょう」
レオノーレがクスッと笑ってそう答えながら、図書館へ入るように促した。
「ローゼマイン様、ハンネローレ様。お待ちしておりました」
リーゼレータとグレーティアが一足先に移動して、ギルベルタ商会の針子達と仮縫いのための準備を整えていたようだ。館の応接室は布でいっぱいである。部屋には何人もの針子達が並んで跪いていた。その中にはトゥーリの姿もある。図書館に避難していたという話は聞いていたけれど、やはりこうして無事な姿を確認できると非常に安心できた。
「こちらにいらっしゃるのはダンケルフェルガーの領主候補生であるハンネローレ様で、わたくしの大事なお友達です。今回の戦いはダンケルフェルガーの協力がなければ、エーレンフェストは敗北していてもおかしくありませんでした。せめてものお礼に最高の髪飾りを贈りたいと思い、この場にお招きしました。トゥーリ、ハンネローレ様の髪飾りをお願いします」
「かしこまりました、ローゼマイン様」
わたしは青いマントをつけている者がダンケルフェルガーの貴族だと紹介し、トゥーリにハンネローレの髪飾りを作るようにお願いする。視線を交わしたトゥーリもわたしを見て安心したように表情を綻ばせた。
「トゥーリは以前にダンケルフェルガーから髪飾りの注文を受けたでしょう? 彼女のお兄様の依頼だったのですよ」
「あの依頼はよく覚えています。素晴らしいデザインでした」
珍しい花のスケッチと共に注文を受けたため、トゥーリの記憶にも鮮明に残っていたようだ。トゥーリはハンネローレにどのような髪飾りが好みなのか質問を始める。
「やはり貴族院でつけられるように冬の貴色を使った髪飾りが良いかしら? お兄様が婚約者に贈った髪飾りも素敵でしたし、ローゼマイン様が普段つけている飾りも綺麗なので悩みますね」
「ローゼマイン様とハンネローレ様がお友達でしたら、お二人の髪飾りを似た雰囲気で揃えることもできますよ。それぞれに合う色の糸を使うので、全く同じにはなりませんけれど……」
「まぁ、素敵ですね! わたくし、そういうのに憧れていたのです」
ハンネローレが赤い瞳を輝かせて手を打った後、「あ」と小さく声を上げて恐る恐るという様子でわたしを見た。
「あの、ローゼマイン様はわたくしとお揃いでも嫌ではありませんか?」
「嬉しいです。わたくしに似合う飾りはトゥーリが一番よく知っています。ハンネローレ様はトゥーリと相談して決めてくださいませ」
髪飾りの注文をトゥーリに任せると、わたしは気合いの入っている針子達と向き合った。グレーティアとリーゼレータによって衣装を脱がされ、肌着状態になる。
「領主会議の前には全て仕上げてもらわなければなりませんけれど、ローゼマイン様はまだお疲れが取れていないご様子です」
「心得ています。迅速に終わらせましょう」
コリンナを始め、針子達が次々と作りかけの衣装を着せて調整しては脱がせて、次を着せていく。
「本日、来られなかった領主一族の専属針子達からも衣装の仮縫いを頼まれています」
前日の夜に仮縫いの予定を入れるのは無理だったようで、この場に来ているのはギルベルタ商会の者ばかりだけれど、持ち込まれている衣装には他の工房で作られている物もあるらしい。
「この衣装から、他の衣装も作るそうです」
ここまで衣装作りを急がなければならないのは急成長したせいだけれど、アーレンスバッハへ向かう予定がなければもっとゆっくりできたはずだ。急かされる針子達は気の毒だけれど、衣装がないのは本当に困るので頑張ってほしい。
「……エーレンフェストにいられる時間が短くなってしまって、皆に迷惑をかけていますね」
「特急料金をいただきますから、こちらのことはお気になさらず」
コリンナがほんのりとベンノに似た商人の顔を覗かせる。懐かしい雰囲気に、わたしは思わず口元を緩めた。
「王族と会う時にまとう衣装ですから、高級感や品格を大事に仕上げてくださいませ」
「かしこまりました。最高の物を作り上げてみせます」
いつもはおっとりとした柔らかな雰囲気のコリンナの瞳が目標を見据えて光を強くした。赤褐色と銀に近いグレイの瞳で色彩は違うけれど、こういう挑戦的な表情になると、コリンナはベンノの妹だとよくわかる。
ベンノやルッツ達にも会いたいな、と思いながら仮縫いをこなしていると、ハンネローレがこちらを見ていることに気が付いた。トゥーリは持参していたらしい糸の見本とハンネローレを見比べながら、一番似合う色を探している。
「ハンネローレ様、髪飾りの注文は終わりましたか?」
「はい。……ずいぶんとたくさんの衣装を一度に誂えるのですね。それに、あまりに見ない雰囲気の衣装です」
「エーレンフェストで新しく作り始めた染めの布に、フェルディナンド様が贈ってくださったアーレンスバッハの薄布を重ねてみました。エーレンフェストではあまりヴェールを用いる文化がありませんから」
わたしはスカート部分の薄布を少し持ち上げて見せる。ハンネローレは頬に手を当てて、不思議そうにわたしを見つめた。
「あの、ローゼマイン様。わたくし、とても気になっていることがあるので質問したいのですけれど、よろしいでしょうか? 不躾で失礼だと思えば、お答えいただかなくてもよいのですけれど……」
「何でしょう?」
「ローゼマイン様はエーレンフェストの領主候補生、アウブ・アーレンスバッハ、次期ツェント候補……。どの立場を選ぶこともできると思うのですけれど、どの立場を選ばれるのですか?」
ハンネローレの言葉にわたしは目を瞬いた。考えもしなかった質問だったので、すぐには答えが出てこない。
「……ハンネローレ様、わたくしは選べる立場ではございませんよ?」
礎を染めていてもツェントの承認を受けていない未成年のわたしはアウブとは言えない。メスティオノーラの書を持っていても実際に使える部分が少なすぎて次期ツェントを名乗れない。消去法で考えると、今のわたしはエーレンフェストの領主候補生でしかない。
「わたくし、ローゼマイン様が憧れだったのです。貴族院で誰よりも幼い容貌の一年生でありながらダンケルフェルガーの領主候補生であるお兄様の要求を退け、アナスタージウス王子にご自分の意見をしっかりと述べられ、ご自分の望みを貫くお姿はとても眩しく映りました」
周囲の顔色を窺って少しでも叱られないように立ち回ろうとしていたハンネローレから、貴族院のわたしはそんなふうに映ったようだ。
ハンネローレの言葉にトゥーリの手が止まった。ハンネローレは生粋の領主候補生なので、平民である針子達はおそらく気にする対象に入っていないのだろう。わたしとしてはギルベルタ商会の者は身内枠なので、トゥーリやコリンナの反応が気になって仕方がない。
……ハンネローレ様、ちょっと今は間が悪いです。
そんなわたしの心の声は通じていないようで、ハンネローレは更に続ける。
「ダンケルフェルガーを本物のディッターに誘い、国境門に現れたローゼマイン様はまさしく次期ツェントの輝きに満ちていました。礎を染めた後、捨て置くこともできるアーレンスバッハの貴族を救うためにランツェナーヴェと戦うローゼマイン様はアウブに見えました。祝勝の宴でアウブの定めた不本意な結婚とフェルディナンド様との別離を受け入れるローゼマイン様はエーレンフェストの領主候補生なのに、わたくしが今まで見た中で一番ローゼマイン様らしくないように思えました。不思議ですね」
ハンネローレは静かにわたしを見ながら近付いてくる。わたしはだらだらと冷や汗が流れそうな気分でトゥーリを見た。心配そうな顔と「どういうこと?」という表情が混ざっている感じだ。
「ローゼマイン様、今ならば間に合います」
「な、何がでしょう?」
「正式な発表が行われる領主会議はまだですもの。わたくし、全力で協力します。アウブかツェントを目指しましょう」
ハンネローレの言葉が理解できない。何に間に合うというのだろうか。ハンネローレがわたしの図書館都市計画を知っているとは思えない。
わたしの側近達はハンネローレを止めるのではなく、むしろ、わたしがどのような答えを出すのか待っているようだ。皆がわたしの反応を注視している。
「ハンネローレ様、わたくしがアウブかツェントになれば、何に間に合うのでしょう?」
ダンケルフェルガーの協力は非常に強力すぎて怖い。簡単に乗ってはならないことをわたしはすでに知っている。ハンネローレが何を考えて、わたしをアウブかツェントにしようとしているのか。それが何よりも重要だ。
「幼い頃からの想い人であるフェルディナンド様との恋を成就に決まっているではありませんか!」
フェルディナンドの名前が出た瞬間、トゥーリの目が丸くなった。「神官長が好きだったの!?」というビックリ顔になっている。仮縫いの手は止めていないけれど、コリンナの目が「まぁまぁ、そういうお年頃なのね」という生温かいものになった。居た堪れない。あまり馴染みのない貴族達に勘違いされるのとは全く違う。
……ちょ、ちょっと待って。ここ、実は身内ばっかりだから!
「ハンネローレ様、ままま、待ってください。深呼吸して落ち着いて……。わたくし、フェルディナンド様のことは……」
「ローゼマイン様、わたくしにまで隠さなくても良いのですよ。婚約者以外に想う方がいると教えてくださったではありませんか。洗礼式前の幼い頃からローゼマイン様はずっと寄り添い、歩み、支えてくださった方……」
……そういえば、そんな作り話をしたことがあったね。思い出したよ、うん。でも、ハンネローレ様、マジ間が悪いです!
「その条件に当てはまるのはフェルディナンド様しかいらっしゃらないとヴィルフリート様がおっしゃいました。もしかして、どなたか他にいらっしゃるのですか?」
……大変だ! フランやルッツを思い浮かべてたはずなのに、貴族基準で考えたらフェルディナンド様しか該当者がいなかった! 勘違いされるはずだよ! のおおぉぉぉっ!
頭を抱えつつ、どうやって訂正するか考えている間にもハンネローレは熱弁を振るう。
「わたくし、悲恋は物語でも嫌なのです。今朝読んだ物語があまりにも切なくて、悲しくて、辛くて……。今の王族にグルトリスハイトをもたらすために不本意な結婚に同意し、魔力の釣り合わない王族に嫁いでローゼマイン様があのような悲しい思いをするなんて想像するだけでも耐えられません。正式発表はまだですもの。親兄弟に文句を言わせないように、自分の結婚相手は自分で勝ち取りましょう。ローゼマイン様の恋を成就させるためならば、わたくし、全力で協力いたします。ね?」
……ね? って言い方は可愛いけど、ハンネローレ様、マジでダンケルフェルガー!