Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (667)
魔力散布祈念式 中編
寝て起きたら魔力が回復していることにこれほど絶望的な気分になるとは思わなかった。せっかく減らしたのに、また増えているのだ。積んでも積んでも鬼にぶち壊される賽の河原の絶望感に似ている気がする。魔力が増えると苦痛も増えることを考えると、地獄の責め苦よりひどいのかもしれない。
……だるい。頭がぼーっとする。
昨日一日外にいて、魔力を垂れ流しながら海や魚に興奮していたのが良くなかったのだろう。朝から体が重い。しかし、ここで寝ていたらまた魔力が回復してしまう。とりあえず起きて魔力の使い道を考えるしかなさそうだ。
朝食を摂るためにのっそりと食堂へ向かうと、フェルディナンドが朝食を摂っていた。いくら広めに作っているとはいえ、わたしやフェルディナンドの部屋も寝台と着替えスペースくらいしかないので、食事は必然的に食堂で行うことになる。
わたしは席に着いて、差し出された野菜と果物のジュースをちびちびと飲み始める。回復薬が使えない今、体力を回復させるためには食事は大事なので食べなければならない。頭ではわかっていても食は進まなかった。
食事を終えたフェルディナンドが立ち上がり、わたしの隣に立つ。これ幸いとわたしは食事の手を止めた。
「一目で不調が伝わってくるが、体調はどのような感じだ?」
「……お魚の罪深さに震えています」
「カンナヴィッツではしゃぎすぎて熱を出し、寒気がしていると正しく報告しなさい」
この馬鹿者、と叱られながらフェルディナンドが額や首筋に触れるのを受け入れる。熱がある時はひやりとした手の感触がとても心地良い。
「魔力と体力の均衡を見定めながら領地に魔力を効率良く注ぐ計画が早くも頓挫するとは思わなかったな。今日はどうするべきか……」
「申し訳ございません。でも、午前中くらいなら……」
「この状態で外出するつもりか? それとも、回復薬を使うのか?」
ものすごい目で睨まれて、わたしは即座に首を横に振った。普通に寝ただけの回復量で絶望的な気分になっているのに、今の状態で回復薬を飲んで魔力が回復したら、それこそ魔力枯渇への道が遠のきすぎて人目も憚らず泣きたくなるだろう。
「……わたくしが外出するのではなく、レッサーくんを移動させるくらいはできると言いたかったのです」
「移動してどうするつもりだ? 騎獣を動かすくらいでは今の君の魔力は減らぬであろう? 魔力を使うためには君が動かねばなるまい」
わたしは必死で頭を動かす。自分が動かなくても魔力を使う方法が必要だ。自分でできない時にはどうすればいいか。答えは簡単だ。自分の代わりに、誰かにしてもらえば良い。
「わたくしが神々の御力を込めた神具があるでしょう? 祝詞さえ唱えれば神具を使うことは誰にでもできることですから、あれを皆に使ってもらうのはどうでしょう?」
「神具を?」
フェルディナンドが片方の眉を上げてわたしを見下ろしている。わたしはゆっくりと頷いた。
「皆には悪いのですが、フリュートレーネの杖で周囲の土地を癒し、ライデンシャフトの槍で魔獣を倒し、シュツェーリアの盾でレッサーくんの周囲を守り、ゲドゥルリーヒの杯を使ってギーベのいないビンデバルトで祈念式を行ってもらうのです。神具の御力が空になればわたくしがまた神々の御力を注ぎます。癒しと魔獣狩りをまとめて行えるような場所に心当たりはございませんか?」
そうすれば、ギリギリ寝たままでも何とか神々の御力を使うことができると思う。わたしは体力を回復させたくても、何もせずに寝ていることさえできないのだ。
「あとは、そうですね……。フェルディナンド様は採集場の癒しの魔法陣を描けますよね? それをあちらこちらに描いていただいて、わたくしが魔力を注ぐというのはどうでしょう? 午前中に寝ていれば、午後は魔法陣に魔力を注ぐだけならばできると思うのですけれど……」
「少々自分の体力を過信しすぎだと思わなくもないが、騎獣に同乗して一日外にいるよりは体力の消耗も少ないであろう。……だが、それだけ色々な方法を思いつくということは、かなり状況は良くないな」
「どういう意味ですか?」
フェルディナンドが難しい顔になって、腰に下げている薬入れに手を伸ばす。試験管のような細長い筒を手に取って、朝食のために並べられているスプーンにほんの一滴を垂らした。
「君の癖だが、直そうとしたり隠されたりすると面倒なので、君が自覚する必要はない。それより、これを……」
わたしの癖なのに教えてくれず、フェルディナンドはスプーンを差し出した。金属のスプーンの上にほんのりと赤い液体が見える。わたしはスプーンを手に取って、一滴だけ落とされた薬をなめてみた。苦みが強くて、舌の先にピリピリとした刺激を感じる。ほんの一滴でこれほど苦みと刺激が強いのだ。薬として出されても、とても飲めない。
「ものすごく苦いですけれど何ですか? 魔力が回復する薬ですか? 舌が痺れそうな味なら、先にそう言ってくださいませ。全く心の準備ができませんでしたよ」
わたしがフェルディナンドを見上げると、フェルディナンドの方が苦い薬を飲まされたように眉間に深い皺を刻み込んでいた。
「これくらいならばほぼ影響はない。ハルトムート、聖杯以外の神具はどこにある? 神殿へ返したのか?」
「いいえ。ローゼマイン様の神事に神具は不可欠ですから私の荷物として持参し、聖杯と共に保管しています」
得意顔でハルトムートが胸を張る。さすがハルトムート、と感心したところでコルネリウス兄様がわざとらしく肩を竦めるのが見えた。
「神殿へ神具を返しに行っていたら置いて行かれるから仕方がなく持参した、と聞いた気がするのですが?」
「おや、私がローゼマイン様の御力が籠った神具を他人に託す、と?」
ハルトムートがコルネリウス兄様に圧力のある笑顔を向けていると、フェルディナンドが「裏事情はどうでも良いから黙りなさい」と手を振る。
「神具に魔力を流すのは効率的なのか?」
「少なくとも壊れる確率が低いですし、全ての神具に注いだ時は少し減った実感がありました。全ての神具の魔力を何度か使っていただくのが理想ですが、ただ寝ているだけという状態よりは魔力が増えない分、安心できます」
わたしの言葉にフェルディナンドが「そうか」と頷き、何度かこめかみを軽く叩く。何を考えているのか知らないけれど、色々なことをまとめて考えている時の癖だ。
「よろしい。朝食後は君の提案通りに動くとしよう。側近達には朝食が終わり次第、神具を使って土地の癒し、魔獣狩り、祈念式を手分けして行ってもらう。私は一度転移陣で城へ戻り、いくつか用件を終わらせてくる。午後からは癒しと魔獣狩りをまとめて行えるザイツェンの西側かヴルカタークへこの騎獣ごと移動してもらうので、転移陣を稼働させた後はお昼まで君は休んでいなさい」
フェルディナンドはそれだけ言うと、踵を返した。ユストクスがゼルギウスの手に片付け途中のお皿を置くと、フェルディナンドの背中を追う。わたしも一緒に立ち上がろうとした途端、リーゼレータにそっと肩を押さえられた。
「ローゼマイン様のお食事はまだ終わっていらっしゃいませんよ」
リーゼレータに見張られながらの朝食を終えると、わたしはフェルディナンドが城へ戻るために使う転移陣へ魔力を注ぎ込んで送り出す。フェルディナンドが連れて戻ったのはエックハルト兄様とユストクスと護衛騎士を数人だ。片付けや昼食の準備のために必要な側仕えのゼルギウスや、レッサーくんの周囲の警戒やわたしの側近達に同行する騎士達は残されている。
わたしはまず自分の側近達に指示を出した。わたしの部屋を守る護衛騎士はアンゲリカで、扉の外に待機。レッサーくんを守るためにシュツェーリアの盾を外で展開するのがレオノーレだ。それ以外の護衛騎士達は魔獣狩りと、ビンデバルトの祈念式に赴くハルトムートの護衛に分かれてもらう。クラリッサは神事に携わる絶好の機会だからハルトムートの祈念式に同行したいと言った。
「新ツェントへのグルトリスハイト授与で嫌でも神事に対する見方が変わりましたし、これからどんどんと変えていくのですからローゼマイン様の臣下であるわたくしが神事に参加するのは当然だと思うのです」
神殿への出入りは世間体を盾に禁じられたけれど、貴族院での神事はダンケルフェルガーでも行っているので問題ない、とクラリッサが主張する。確かに聖典の鍵と礎の関係を暴露する領主会議以降は、他領でも領主一族が神殿への出入りをすることになる。外で行う神事に参加するのは、特に問題ないだろう。
……もう完全に祝詞を覚えてるくらい張り切ってるし……。
ちょっとぶっ飛んだ言動に惑わされがちだが、クラリッサも優秀なのである。優秀だからこそ残念な感じが拭えないのだが、ハルトムートとはお似合いだ。
「コルネリウスとマティアスはアーレンスバッハの騎士達と魔獣狩りですか……」
アンゲリカが羨ましそうにコルネリウス兄様を見ている。体を動かすのが好きなアンゲリカはお留守番より魔獣狩りが魅力的に思えるのだろう。だが、今回はただの魔獣狩りではない。目的が魔獣狩りではなく神具を使用して魔力を空にすることだ。
「アンゲリカがすぐに祝詞を覚えられるならば行っても構わないのですよ」
ライデンシャフトの槍も空の状態から全ての魔力を込めた本人が使うのであれば祝詞は必要ないが、別人の魔力も混じっている場合は祝詞が必要だ。シュタープで出した神具や自分の魔力で完全に染まっている魔石を使った場合は祝詞を簡略化できるが、他の者も魔力を奉納する神殿の神具を使う時は正式な祝詞が必要になる。
「祝詞……。わたくしには向きませんね」
あっさりとアンゲリカは祝詞を覚えるより、部屋の護衛を選んだ。予想通りだ。むしろ、「頑張って覚えます」と言われた方が驚く。
わたしの護衛騎士達が神具を使うための祝詞を確認して何度か唱えて練習している間に、シュトラールに頼んで騎士達も班分けをしてもらい、魔獣狩り、祈念式、レッサーくんの警備に就いてもらう。
「では、いってまいります。ローゼマイン様はお休みください」
ハルトムートが管理していた神具を抱えて出発した。
布団の中でうつらうつらしている間に四の鐘が鳴った。熱っぽさは少しマシになったけれど、魔力回復で神々の御力が膨れていて気持ち悪い。
……寝るのが嫌いになりそうだよ。
どんよりとした気分で起き上がると、リーゼレータが心配そうにわたしを覗き込んでいて、昼食のために皆が戻ってきたことを教えてくれた。
「神具の魔力は全て空にしたそうです。……先にお持ちいたしましょうか?」
「お願いしてもいいかしら?」
リーゼレータとクラリッサが神具をハルトムートから預かって持ってきてくれ、わたしはそれに魔力を込めていく。眠る前くらいに戻って不快感が減り、ホッと安堵の息を吐いた。
「少しお顔の色が良くなりましたね。グレーティアが準備をしていますから昼食にいたしましょうか? 寝台の上でお食事していただくことになるので恐縮ですけれど、時間を短縮するためにお部屋で昼食を摂ってほしいそうです」
「フェルディナンド様もお戻りになったのですね」
効率重視の指示が誰から出されたものか、すぐにわかる。わたし達が食堂で食べれば側近達は順番を待たなければならないが、わたし達が部屋で食べれば目に触れないところで大半の側近が昼食を摂ることができる。優雅ではないので、普段は使わない裏技だ。
リーゼレータが出ていくと、代わりに、お盆の上に食事を載せたグレーティアが入って来る。寝台の上で食べられるように準備がされ、グレーティアが給仕してくれた。
「フェルディナンド様の昼食を準備するユストクスから伺いましたが、ザイツェンとヴルカタークのギーベに通達を出したり、エーレンフェストと連絡を取ったり、新ツェントとのやり取りを行ったり、午前中は非常に忙しかったようですよ」
グレーティアがユストクスから聞いた情報を流してくれる。城で精力的に動いていたらしいフェルディナンドは大量の仕事道具と一緒に戻ってきたそうだ。
「ヴルカタークのギーベからの報告によると、旧ベルケシュトック方面から魔獣がアレキサンドリア側へ移動しているそうです。こちらが神々の御力に満たされ始めたので、魔力を求めて移動しているのではないか、ということでした」
最も神々の御力に満ちていて、魔力に飢えた魔獣に狙われるのはわたしなので、厳重な警戒が必要であること。せっかく癒した土地を荒らされないように、なるべく早くザイツェンやヴルカタークの方面へ向かうことが告げられた。
「やりすぎ注意ではあるが、ライデンシャフトの槍を何度も使う好機……だそうです。神々の御力を蓄えたライデンシャフトの槍を使った後は、フリュートレーネの杖がなければ土地が大変なことになるので、きっとローゼマイン様の魔力を大幅に減らすことができるでしょう」
……うん、本当にそうだったらいいんだけどね。
「ギーベへの通達は済んだ。これからザイツェンとヴルカタークの境界付近へ移動する」
ザイツェンはエーレンフェストとの境界門があるグリーベルやガルドゥーンの南側にあり、ヴルカタークはザイツェンの西隣の土地で、グリーベルの南西とイルクナーの南側に隣接している。
ザイツェンの西からヴルカタークの辺りは、わたしがユレーヴェの素材を採集する時にリーズファルケの卵を得たローエンベルクの山がある山岳地帯と繋がっているそうだ。簡単に言うと、火山もある山岳地帯ということだ。山が多くて木が多いので、アレキサンドリアで製紙業をするならば、この辺りが適しているといえる。
……イルクナーと隣接してるってことは、似たような魔木も多いと思うんだよね。
「さすがに何の連絡もなく、魔力を振り撒き、魔獣狩りを行うわけにはいかぬからな」
海の様子が一変する様子からもわかるように、神々の御力は強力すぎる。これまでの魔力が乏しい土地には影響が強すぎるので、ギーベとのやり取りが必要不可欠になるらしい。
……ただ土地を癒せばいいってものじゃないところが面倒だよね。
わたしはフェルディナンドから説明を受けた後、レッサーくんを運転してフェルディナンドとその護衛騎士達の先導について行く。二階建ての家が飛んでいるような今の状況は外から見ると非常にシュールなようで、農民達が目を剥いてこちらを指差して騒いでいるそうだ。外の見回りから戻ってきたレオノーレから聞いた。今、外に出ているのはアンゲリカだ。
「魔獣です、レオノーレ!」
アンゲリカがそう言いながら助手席の外側をココンと叩く。うみょんと出入り口を開けば、レオノーレが「守りを司る風の女神 シュツェーリアよ 側に仕える眷属たる十二の女神よ……」と祝詞唱えながらシュツェーリアの盾を持って飛び出し、アンゲリカが代わりに中へ入ってきた。
「強い魔獣が多いです。土地の魔力がないので共食いをしていたのだろう、と誰かが言っていました」
アンゲリカのキリッとした報告にわたしは頷きながら一度空中で停止する。戦いが終わるまでは勝手に動かないように言われているのだ。
昼食時に報告があった通り、魔力が乏しいところで神々の御力で光りながら移動しているレッサーくんは絶好の獲物に見えるようで、すでに何度か強い魔獣に襲われていた。普段ならば強そうな魔獣が出たらギャーギャー騒いでいるわたしだが、今日は「よし、カモン!」という気分で魔獣を迎えてあげられる。
「またライデンシャフトの槍とフリュートレーネの杖が使用できそうですね」
敵の接近を封じるためにレオノーレがシュツェーリアの盾を展開してレッサーくんを守り、コルネリウス兄様やマティアスが交代でライデンシャフトの槍を使って攻撃する。魔獣を倒した後、クレーターのように抉られた跡はフリュートレーネの杖で癒すのだ。わたしが魔力を込めた神具が大活躍である。
……一度使ったら魔力が完全になくなるところが素晴らしく思えるなんて初めてだよ。ライデンシャフト、ありがとう!
「ローゼマイン様、魔力の補充をお願いします」
神具に込められた魔力がなくなると、護衛騎士達は神具を持ってレッサーくんの中へ戻ってくる。魔獣に一度襲われると土地の癒しが終わるまでその場に止まるので移動速度はゆっくりしたものだが、魔力が減ると神々の御力による苦痛が減るのでホッとする。予想以上に魔力が減っていて嬉しい。
……これで今夜は落ち着いて眠れそうだよ。
魔獣を狩りながら移動し、ザイツェンとヴルカタークの境界付近にレッサーくんを着地させた。その途端、フェルディナンドから「レオノーレ、すぐにシュツェーリアの盾を展開せよ」と指示が飛ぶ。
「守りを司る風の女神 シュツェーリアよ 側に仕える眷属たる十二の女神よ……」
レオノーレがシュツェーリアの盾を使って周囲の守りを固めると、一旦休憩だ。もう夕食の時間が近付いている。わたしは運転席から後ろ側の大きな家の方へ移動する。外から見ると、今のレッサーくんはレッサーパンダの顔が付いた巨大なゾウガメっぽい。大きな家が甲羅のように見える。
……やっぱり何か可愛くない。居心地は良いんだけど。
一階の食堂の隣にある居間のようなスペースに向かうと、フェルディナンドがこれから先の指示を出しているのが見えた。
「ローゼマイン、体調はどうだ?」
「神具に何度も魔力を奉納したので不快感は結構薄れましたし、午前中寝ていられたので体調も結構いいですよ。……でも、何だかお腹が空きました」
「あら? 少しお元気になられたのですね。朝も昼も量が少なかったので心配していましたが、夕食は多めに準備させましょう」
クスクスと笑いながらリーゼレータが料理人に伝えるために身を翻していく。わたしがグレーティアに示されたソファに座ると、フェルディナンドが近付いてきて健康診断をしていく。
「……午前よりは良くなっているが、決して体調が良いとは言えぬな」
自分ではかなり良くなったと思っていたけれど、ひやりとした手が心地良かったので熱が完全に下がっていないことはフェルディナンドに言われなくてもわかった。でも、フェルディナンドが難しい顔をするほどは悪くない。
「食欲が出たのですから、体調は良好で構わないと思います」
「少し食欲が出たからといって、暴飲暴食は避けるように」
わたしの主張にフェルディナンドが少し考え込むようにこめかみを軽く叩く。また淑女らしくないとか、食欲で体調を決めるなとか考えているのだろうか。フェルディナンドは主治医らしい無表情で淡々と注意をすると、居間を出ていった。
「しませんよ。失礼な……」
暴飲暴食はしなかった。できなかった。お腹が空いているはずなのに体が受け付けず、どうしても少量しか食べられないまま、わたしは夕食を終えた。
側近達が食事を摂る間、食後のお茶を飲むために居間へ向かおうとしたが、フェルディナンドに止められた。
「やはり体調が良くないのであろう。君は食後のお茶を飲むより休んだ方が良い。明日は聖杯で魔力を撒きたいからな」
昨夜と同じように図書館都市計画のお話をしたかったのに、フェルディナンドが城から持って戻ってきた設計図が気になっていたのに、自室へ戻るように促される。
……寝るの嫌だよ。起きたらまた魔力が増えてる。
空いたお腹を押さえながら、わたしは寝台に横になった。