Ascendence of a Bookworm: I'll Stop at Nothing to Become a Librarian RAW novel - Chapter (94)
孤児院の大掃除
昼食を終えたら、早速孤児院の掃除に取り掛かることになった。ただし、掃除するのは孤児院にいる人達だ。
今は灰色神官が余り気味で、数年前までは午前中の早くに洗濯し、午後から掃除していたスケジュールが、今では午前中にほとんど終わってしまっているらしい。午後なら、予定のない神官達がたくさんいるだろうということで、午後からの大掃除が決行されることになった。
大掃除の名目は、青色巫女見習いであるわたしが院長就任の挨拶に出向くので見苦しくないように、というものだ。名目があった方が普段はしない孤児院の掃除という大仕事を孤児院の面々が受け入れやすいらしい。
今回の大掃除の目的は孤児院を綺麗にすることはもちろんだが、「仕事を頑張れば、報酬がもらえる」ということを知ってもらうことだ。そのために掃除した者を労うためのスープを料理人に作ってもらっているし、率先して掃除してくれた上位30名にはじゃがバターならぬ、カルフェバターをプレゼントする予定になっている。
孤児院の掃除は、暖かい時間に子供達を洗う係、洗礼前の子供達がいた女子棟の地階を掃除する係、女子棟の他の部分を掃除する係、男子棟の地階を掃除して、工房の道具を搬入する係、男子棟のその他を掃除する係に分けて、作業してもらう。
わたしやベンノがそう提案したところ、フランやギルにはものすごく驚かれた。神殿の下働きの仕事は、洗濯と掃除とお祈りなので、午前中は全員で洗濯、全員でお祈り、というように、基本的に全員が同じ作業をするらしく、班分けをしてそれぞれ動く事はないと言う。
掃除する範囲が広範囲であることと、工房の整備では力仕事もあるので、適任者に振り分けた方が早く終わると説得して、今回は班分けを行うことにした。
「班分けしても、ちゃんと言うこと聞いて、掃除してくれるのかしら?」
「大丈夫だって。フランは神官長の側仕えとして、孤児院のヤツらに認識されているからな」
孤児院にいる灰色神官や見習いからすれば、神官長の信頼厚いフランはかなり上位の存在になる。フランが指揮をとれば、孤児達は多少の不満を抱えつつも動いてくれるだろう、とギルが説明してくれる。
「言っても聞かない子が少数ですけれど……います」
フランがそう言いながら、ギルをちらりと見た。指摘されたギルはすいっと視線を逸らす。今は真面目にお仕事してくれているギルは、以前かなりの問題児で監督役の灰色神官をとても困らせていたらしい。
ギルとフランは巡回して、掃除がきちんとできているか、誰が頑張っているか、掃除せずに逃げ出したか、チェックして掃除の進度と合わせて報告してくれることになっている。
ルッツはこれからマイン工房の作業場になる男子棟の地階の掃除の監視とマイン工房から道具の搬入をする。そして、その場でカルフェバターを作るのだ。
デリアは料理人の見張りを兼ねて、一階の掃除もしてもらうことになった。
「わたくしも巡回に……」
「マインは留守番な。どっかで倒れられたら困るから」
行きたいと言うより先に、ルッツからのストップが出た。うぐっ、と言葉に詰まるわたしを、ギルが呆れたような目で見る。
「あのさ、マイン様。青色巫女見習いを迎え入れるための掃除だから、掃除が終わるまでは孤児院に入られたら困るんだけど」
「そうだったね……」
フランがいないので図書室にも行けないわたしはハァと溜息を吐いた。そんなわたしの前にフランは慈愛に満ちた笑みを浮かべて、一枚の紙をそっと置いた。フランの几帳面さがよく出た字でびっしりと書き込まれた紙だ。
「マイン様には覚えることがたくさんございます。まず、本日の夕方、孤児院に赴き、就任の挨拶をする以上、こちらの挨拶文を全て暗記しておいて頂きたい。特に神々の名前を間違えないように気を付けてください」
カンニングもできるように紙に書いてもらったのだが、基本的には暗記しなければならないらしい。つらつらと書かれた文を見て、軽く溜息を吐く。そんなわたしを見て、フランはにこりと笑ったまま、次々と木札を取り出す。
「時間があれば、この部屋に準備されているお茶とミルクの産地や種類をこちらに控えておりますので、覚えておいてください。これはマイン様が好まれる組み合わせ。これはベンノ様、これがルッツ様、これが神官長の分になっております」
「え? え?」
「よくいらっしゃる方の好みは覚えておくものです」
神官長は来ないと思うけど、とは言えなかった。一緒に仕事をする上司の好みは覚えておいた方が良いかもしれない、と何となく思ったからだ。
ルッツは大笑いするのを必死で堪えながら、グッと親指を立てた。
「よかったな、マイン。読む物がいっぱいあって」
「読むのは好きだけど、覚えるのは苦手なんだよ……」
よほど興味があること以外、
心太
のように、次を読めば前に読んだ物をつるんと忘れていく頭のできが憎い。しょぼんと肩を落としながら、わたしはフランがまとめてくれた書類を手に取った。
5の鐘が鳴った後、フランが一度戻ってきて、木札にガリガリと名前を書いていく。率先して頑張っている子達の名前と姿をくらましている子供達の名前だ。
「マイン様が一番懸念されていた洗礼前の子供達の丸洗いですが、準備してあった石鹸とタオルで温かい時間帯に無事洗い終わりました。今は中古の安い服を着て、シーツの中に新しい干し草を詰め込む作業をしております」
安いところで買ったので継ぎ接ぎだらけだが、洗濯はされているシーツと農家から買ってきた干し草で自分達の布団を作っているようだ。
「病気の子やぐったりしている子はいない?」
「えぇ、問題ありません。しばらくの間、ギルが食事を運んでいたおかげでしょう。ギルはまるで救世主のように子供達に慕われていますよ。ギルがマイン様の命令だったと言っていたので、おそらくマイン様も」
そう言われると何だか面映ゆい。あの子達が少しでも元気になれたならよかったと心底思う。
「子供達を洗う係だった巫女や巫女見習いは数人だけ布団作りに置いて、残りは掃除の手伝いに振り分け直しました。では、また巡回に行ってまいります」
「ありがとう、フラン。よろしくお願いします」
フランは軽く頷くと、また孤児院の方へと戻って行く。
少しすると、ルッツが戻ってきた。
「マイン、男子棟の地階の掃除が終わったから、これからマイン工房の道具を搬入するな」
「わかった。よろしくね、ルッツ」
「あいつら、すげぇ。掃除し慣れてる。めっちゃ速かったぞ」
そんな一言を添えて、ルッツは足取り軽く出て行く。
ルッツが行ったと思ったら、すぐにフランが戻ってきて、ギルから聞いた名前をガリガリと木札に書き足して、また足早に出て行った。
みんなが忙しい中、わたしは数日前に届いたばかりの執務机で、フランの字と睨めっこしていた。神様の名前が長い。しかも、人数が多い。いっそ、親しみやすい愛称を付けるのはどうだろう、と神官長に提案したい。
一階で掃除するデリアが厨房の様子を見るために、厨房の扉を開けているせいで、厨房で煮込まれているご褒美用のスープのいい匂いが漂い始めた。
わたしが阿呆な事を考えている間に、掃除は順調に終わっているようだ。
「マイン様、男子棟の掃除は全て終わりました」
「ギルもお疲れ様。あとは女子棟ね?」
「そう。でも、女子棟は食堂以外の場所に男は入っちゃダメだからなぁ」
「じゃあ、食堂でスープが飲めるように準備を始めてくれるかしら?」
「わかった」
ギルがうきうきで出て行くと、ルッツが入ってきた。
「なぁ、マイン。工房の設置も完了したし、カルフェ芋を蒸し始めたんだけど、いいか?」
「いいか……って、もう始めちゃったんでしょ? ギルが食堂の準備を始めてくれたから、ちょうどいい頃合いになるんじゃない?」
わたしがクスクス笑っていると、ルッツが近付いてきて声を潜めた。
「ちょ、ここのヤツら、カルフェも見たことねぇって。料理された物しか知らねぇって言ってんだけど。並べて蒸すだけなのに、興味津々の神官や見習いに囲まれて覗きこまれていて、やりにくいったらねぇよ」
「……あぁ、神の恵みしか知らないし、この孤児院では料理なんてしないからね。材料見たことがなくても仕方ないかも?」
そういえば、日本でもスーパーに売っている人参はわかっても畑の人参は見たことがないから、畑の葉っぱを見てもわからない子供がたくさんいるって何かの雑誌に載っていた。情報伝達手段がたくさんある日本でさえ、そうだったのだから、今の生活では自分の経験したこと以外は全く知らなくても不思議ではない。
「じゃあ、バターの挟み方も教えてやるか」
バターとナイフを持って、笑いながらルッツがまた出て行く。
その後、フランがやってきた。
「女子棟は予想通り洗礼前の子供達がいた地階の掃除が難航していて、現在は女子棟を掃除していた者達が総出で取りかかっています。間もなく終わるでしょう。それから、男子棟と違って、女子棟は今人数が少ないので、洗礼前の子供も一階の小部屋に上げることになりました。今、干し草の詰まった布団や着替えを運びこんでいます」
フランの報告にホッと安堵の息を吐く。子供達の寝床も決まったようで、何よりだ。
「マイン様、挨拶文の暗記は終わりましたか?」
「……一応は。でも、やはり不安だから、この紙を持って行っても良いでしょう?」
「えぇ。では、準備が整い次第、呼びに参ります。デリア、マイン様の支度を頼む」
フランが下に降りて行くと、デリアが髪を整えにやってきた。鏡台の前に座らされ、するりと簪を抜かれる。櫛を持ったデリアが悲しそうな苦しそうな表情で鏡越しにじっと見つめてきた。
「……助かったんですか?」
「えぇ、自分達の布団を作るのに干し草を詰める元気があるくらいですって」
「そう」
助けられたと報告したのに、デリアの顔は晴れない。苦い物を呑みこんだように、眉を寄せて視線を逸らす。
「……デリア、浮かない顔ですよ? 嬉しくなかった?」
「嬉しいけど、悔しい。なんで……あたしの時は助けてくれなかったのよ」
「まだいなかったから、それはさすがに無茶……」
「わかってるわよ! わかってるけど……」
八つ当たりだとわかっていても止められないというように、デリアが怒鳴った。薄い水色の目には今にも零れそうな涙が浮かんでいる。
洗礼前のデリアがどれだけ辛い思いを我慢してきたか、どれだけ助けてほしいと願っていたかがわかって、胸が痛くなった。
「デリアの時には間に合わなかったけれど、今度デリアが困ったら、助けるから。ちゃんと助けるから……泣かないで」
「泣いてないっ!」
「ご、ごめ……」
「側仕えに謝らないっ!」
「……はい」
ぐしぐしと乱暴に目元を擦って否定された。デリアはプライドが高そうだから、泣いているなんて指摘されたくなかったのだろう。
……でも、わたし、デリアちゃんはちょっと理不尽だと思います。
初めて孤児院の院長として挨拶するハレの場ということで、髪飾りは洗礼式の時に使った藤の花のような簪を使うことにした。
「珍しい飾りですね」
「洗礼式用に作った簪なの。最近、ギルベルタ商会で売り出しているのよ」
「……作った? ご自分で?」
「手伝ってもらったけれど、自分でも作れるわ。材料があれば」
「材料……」
獲物を見つけた肉食獣のような目で簪を見つめるデリアに髪を梳いてもらって、自分で簪を挿した。デリアはまだ簪を扱えないので、仕方ない。
「マイン様、こちらの準備は整いました」
できたてのスープがいくつかの鍋に分けられて、ワゴンに乗せられている。初めて見る灰色神官が数人、フランの後ろにいた。
「マイン様、スープを運んだり、配ったりするのを手伝ってくれる神官達です」
「助かります。ありがとう」
「いいえ、こちらこそありがたく存じます。最近は神の恵みが少なかったもので、みな喜ぶでしょう」
「あら、これは神の恵みではなく、わたくしからのご褒美ですわ」
「え? ご褒美?」
意味がわからないというように目を瞬く神官に、ニッコリと笑って話を終える。
わたしはフランに抱き上げられた状態で、回廊をぐるりと回って孤児院の前へと到着した。大回りするので、意外と距離があり、ワゴンを押す神官がわたしの速度には合わせていられないというのが理由だ。
扉の前でわたしは下ろされ、髪の乱れや服の乱れがないか、フランが確認して軽く整える。それを確認した灰色神官がギッと扉を開け、よく通る声で中の人達に呼びかけた。
「みな、高く亭亭たる大空を司る、最高神 広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神の加護を受け、新しく孤児院の院長となられた巫女がいらっしゃいました」
扉を開けたそこが孤児院の食堂だった。扉を開けた瞬間に見えるのが、ずらりと並んだ長いテーブルであるということに少し驚いたけれど、毎回、神の恵みを運ばなければならないし、食堂のみ男子が入っても良いという点を考えても、合理的だとは思う。
食堂にはずらりと灰色の服が並んで座っていたが、紹介の声に合わせて全員が一斉に立ち上がり、こちらを向いた。視線の多さと値踏みするような視線もあり、俯いて視線を避けてしまいたくなった次の瞬間。
「神に祈りを捧げ、迎えましょう。神に祈りを!」
突然の集団グ○コに俯くどころか、思わず凝視してしまうことになった。
「マイン様、こちらへ」
フランがわたしの手を取って、カーペットの敷かれた台があるところへと誘導する。わたしが見やすい前の方にいる年かさの神官達はビシッと祈りのポーズを決めていたが、後ろの方にいる小さい子達は、うまくバランスが取れていなかった。わたしといい勝負だ。
祈りを終えた全員の視線が集まる中、ふわりとわたしを抱き上げて台の上に立たせながら、フランが小さく囁いた。
「貴族らしくお願いいたします」
灰色神官を従わせるには、最初が肝心らしい。ギルが最初から知っていたように、灰色神官や巫女の間で青色巫女見習いとして入ったわたしが平民であることは、当たり前のように知られている。ここでわたしが自信なさそうな態度を取ると、完全になめられるので、貴族らしい威厳を出すように、と注意されていた。
胸を張って絶対に俯かない。笑顔で余裕のある振りをする。注意事項はベンノと一緒に寄付金を納める時に言われたものと同じだ。
フランは「どうしようもなかったら、魔力で軽く威圧するといいと思われます。嫌でも立場の差がわかりますから」とニッコリと笑った。妙な恐れられ方をするのは嫌なので、魔力を使わずに終われたらいいと思っている。
挨拶文は何とか覚えたけれど、こんな大勢の前で話すのは、麗乃の小学校時代に何かの賞に入った読書感想文を全校生徒の前で読まされるという恥辱行事や卒論の発表くらいしか経験がない。
大勢の視線を向けられたわたしは、緊張に震えながらゆっくりと呼吸し、そろりと揺れる飾りに触れた。家族みんなで作った簪があれば、少しは心強い気がする。
「みなさん、はじめまして。火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神官長より院長の任を命じられましたマインと申します。わたくしの願いを快く聞き入れ、歓迎頂きましたこと、心より嬉しく存じます」
歓迎に関する感謝と今後の抱負を飾られた綺麗な言葉で述べて、最後は神への祈りと感謝で締める。
「高く亭亭たる大空を司る、最高神 広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神 水の女神 フリュートレーネ 火の神 ライデンシャフト 風の女神 シュツェーリア 土の女神 ゲドゥルリーヒ 命の神 エーヴィリーベに祈りと感謝を捧げましょう」
フランが書いてくれた挨拶文は、この神殿内では定型の挨拶だったようだ。わたしの言葉に反応して、ざっと灰色神官達が構えた。
「神に祈りを! 神に感謝を!」
神殿に来てから、フランや神官長に必ず一度は祈りの練習をさせられているので、さすがに祈りのポーズもちょっとだけ慣れてきた。まだ上手にできないけれど、それでも、バランスを崩して転ぶという事はなくなってきた。今日の祈りは我ながら上出来だと思う。
そして、わたしにとって一番の難関だった挨拶を終えたら、ご褒美の配布だ。
「今日はわたくしのために孤児院をとても綺麗に清めてくださいましたね。ご褒美を持ってまいりました。フラン、頑張ってくださったみなさんに配って差し上げて」
「かしこまりました、マイン様」
フランが木札を取り出して、掃除をしなかった者の名前を読み上げると、スープを配るのを手伝ってくれる灰色神官が名前を呼ばれた者を避けてスープを配って歩く。
給食の配膳みたいだ、と思いながら見ていると、配られなかったギルと同じ年頃の少年が怒りで顔を真っ赤にしてわたしを睨んだ。
「ずるい! 平等じゃない! 神の恵みは平等だと決まっている! 平民はそんなことも……」
「えぇ、神の恵みは平等ですわ」
最初にギルが言っていたのと同じ事を言っている少年に、わたしはニコリと笑いかけた。
「でも、これは神の恵みではございません。わたくしが頑張ってくれた子に配るご褒美だと言ったでしょう? 聞いていなかったのかしら? ご褒美は平等ではないの。残念だけれど、仕事もせずにご褒美はもらえないのよ。働かざる者、食うべからず、と言います。みなさん、覚えておいてくださいね」
まさか反論されるとは思っていなかったのか、少年は怒りを忘れ、呆然とした顔でわたしを見つめる。
「……ご、ご褒美?」
「そう、ご褒美ですわ。次回はお仕事を頑張ってちょうだい。それから、特に頑張ってくださった方にはこちらもございます。名前を呼ばれた方はお皿を持って前にいらして」
ルッツが作ってくれたカルフェバターが入った蒸し器の蓋を灰色神官が開けてくれる。ふわりとバターの香りが広がった。
フランが名前を読み上げると、周りを見回しながら恐る恐るという様子で、神官や巫女が皿を持って出てくる。そのお皿に灰色神官の一人がカルフェバターを一つずつ乗せていく。
「一番に子供達のところへ走って行って洗ってくださったと聞いたわ。ありがとう」
「とても手早く掃除なさるのですって? ルッツが褒めていたわ」
「重たい荷物を率先して運んでくださったのでしょう? お疲れ様」
フランとギルが選んだ基準を教えてくれたので、全てメモしてあるのを読み上げただけだが、みんなが感極まったような顔をして、わたしを見た。まるで、初めて褒めてあげた時のギルみたいな顔をしている子もいる。
それと同時に、自分が家族に恵まれている事を深く実感した。ちょっとした事ができるようになっただけで大袈裟に褒めてくれる家族の姿が思い浮かぶ。
わたしが家族にしてもらってきたように、今度はわたしが院長として、みんなの良いところ探しをして褒めてやらなければならない気がした。
「これからも頑張ってくださいね。さぁ、どうぞ召し上がれ」
次の日は午後からスープの作り方を教えるお料理教室をした。
野菜を洗う係、野菜を切る係、鍋に水を入れて火を付ける係に分かれていて、本日のお料理の先生はトゥーリとエラだ。フーゴには一人で夕飯作りを頑張ってもらっている。
エラ&トゥーリ先生が教えるのは野菜の切り方だ。力のある成人は包丁で、まだ持ちかねる見習いはナイフを使う。
できあがったスープがご褒美であり、そのまま夕飯にもなるので、みんな真剣だ。初めて原形を見る野菜や肉に興味津々で、慣れない手つきで野菜を洗い、切っている。
わたしはマイン工房で初めての料理をするみんなを視察した。青色巫女として見るだけなら構わないが、手を出す事は厳禁だとフランに言われている。
何だか視線を感じるなぁ、と思って振り返ると、昨日、食べられなかった少年がちらちらとこちらを見ながら、率先して作っている姿があった。
自己主張の激しい姿が微笑ましかったので、ご褒美の果物を少し多目に盛ってあげた。