From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (11)
第11話 マナ指数測定器
電気店から家に帰り、自分の部屋でマナ測定器の箱を開ける。
付属している説明書を読みながら、単三電池を二本セットし電源を入れた。
まずはこの黒い‶魔鉱石″からだ。
ドライヤー型測定器の先端を石に向け、銃を構えるような体勢でスイッチを押す。こうして見ると、ドライヤーというより野球で使うスピードガンのようだ。
数値を示す表示窓を覗く。説明書を読む限り、ここに『マナ指数』が表示されると書いてあった。
弱い魔物の魔宝石なら一桁台、少し強い魔物の魔宝石になると数十から数百することがあるらしく、今まで発見された魔宝石で、最も強力なものは二千を超えていたという。
珍しい金属スライムが生み出した『魔鉱石』、マナ指数はどれくらいなんだ? と興味津々だった悠真だが、いくら待っても数字は表記されない。
デジタル数字のゼロが点滅してるだけだ。
「あれ? おっかしいな」
もう一度マナ測定器を魔鉱石に向け、スイッチを入れるが結果は変わらない。
なんでだ? と思いながら、今度は測定器を自分に向けてスイッチを押した。
だが、やはりマナ指数が表示されなかった。
説明書を読み返し、何度も試すが結果は同じだ。
「――んだよ、コレ! 壊れてんじゃねーか!!」
頭にきた悠真は保証書を手に取り、マナ測定器をバックに詰め込んで家を出た。自転車に跨り、再び家電量販店へと向かう。
◇◇◇
「え? 故障ですか?」
先ほど対応してくれた小太りの店員が、目を丸くする。
「そうですよ! 何回やっても全然計れないんですよ」
「それは、それは、大変申し訳ありません。すぐに不備がないか調べてまいります」
店員はそう言うと、測定器を持って店のバックヤードに引っ込んでいった。
――まったく、中古とはいえ壊れてる物を買わせるなんて。
憤りを覚える悠真だったが、数分もすると店員が戻ってきた。
「お客様、お待たせしました」
額に汗をかきながらも、穏やかな笑顔を向けてくる。
「調べましたが、特に故障等はありませんでした」
「え?」
故障じゃない? 困惑する悠真の前で、店員はカウンターの上にいくつかの宝石を並べる。青に黄色に緑。色とりどりの宝石だ。
「これは本物の魔宝石です。これはアクアマリンの1カラット、こっちはトパーズの2カラット、そしてこれはペリドットの3カラットで、マナ指数は左から1、2、3となります」
店員は悠真が買った『マナ指数測定器』を手に取って、その先端をアクアマリンに向けた。スイッチを押して二秒ほど待つと、ピッと音がする。
店員が見せてくれた表示窓には、確かに『1』と表記させていた。
更にトパーズ、ペリドットと次々に測定し、その結果を確認する。マナ指数は『2』と『3』。店員が言った通りの数値が出た。
「ご覧のように正確に測定できています。お客様、失礼ですがどのような物を測定されたのでしょうか?」
「え? ああ、魔鉱石を測ったんですよ。これくらいの大きさの」
悠真が指で大きさを示すと、店員は「ああ」と言って納得する。
「なるほど、なるほど……私は魔鉱石に詳しい訳ではありませんが、魔鉱石は総じてマナ指数が低いと聞いたことがあります」
「え!? じゃあ指数が低いと表示されないってことですか?」
「その可能性はありますね。この測定器は1以上の単位でしか計れませんから、1以下の場合は表示されないこともあるんですよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 自分のマナ指数も計ろうとしたんですけど、やっぱりゼロだったんですよ。それもマナ指数が低いからですか?」
「失礼ですが、お客様はダンジョンで魔物を倒されたのでしょうか?」
「ま、まあ、100匹以上は倒してますね」
悠真はちょっとだけ誇らし気に答えた。
「それは凄い! どんな魔物を倒されたんですか?」
「スライムですよ。ちょっと強めのスライム」
倒した魔物がスライムだと聞いた途端、店員は軽く笑ったように見えた。
「ああ、そうですか~。いや、これはちょっと誤解されてるかもしれません」
「なんですか?」
「魔物を倒すと必ずマナ指数が上がると思われてる方が多いんですが、必ずしもそうではないんですよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ、マナっていうのは倒した魔物の一部しか取り込めないんですよ。つまりマナ指数100の魔物を倒すと、倒した人間のマナ指数が1上がるといった感じですね」
「そんな少ないんですか!?」
「そうなんです。なのでスライムをいくら倒してもマナ指数が上がらないっていうのは、よくあることでして……」
全然知らなかった。あんなに毎日金属スライムを倒してたのに。
「じゃあ、どっちにしろ、この測定器じゃ計れないのか……」
「ええ、残念ながら……今回は故障ではありませんので、交換や返品には応じられません。ご了承ください」
店員は申し訳なさそうに頭を下げたが、その穏和な顔には‶商品には問題ありませんから、さっさと帰って下さい″と書いてあるように見えた。
なにか言いたかったが、これ以上反論する言葉が見つからない。
悠真は「分かりました。すいません」と言い、肩を落として家へと帰った。