From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (112)
第112話 空を飛べるかも
「これがキマイラの力……【変身能力】か」
手を開いたり、握ったり、顔を触ったりしてみた。自分が母親の姿になれるのは凄いけど、強烈な違和感がある。
服を触ってみると、弾力があって柔らかい。まるで手で形を変えられる金属『
錫
』のようだ。
「服まで再現できるのか……色も付いてるしスゲーな」
完璧なまでの変身能力に感心したが、自分の母親の姿でずっといたくはない。
「これ、どうやって戻るんだ?」
元に戻ろうと四苦八苦しながら色々と試してみた。結局、左手のガラス玉に意識を集中し「戻れ! 戻れ!」と念じることで‶金属化″状態へと戻る。
「ふぅ~良かった。あのままだったらどうしようかと思った」
悠真は『金属化』が解けると、部屋を出て階段を下りる。
――たぶん母さんに変身できたのは、さっき母さんの肘が俺に触れたからだ。だとしたらキマイラの魔鉱石は触れた『生き物』に変身する能力。だったら――
悠真はそのままベランダから外に出て、マメゾウの元まで行く。
「マメゾウ! ちょっと触らせてくれ」
「わんっ!」
マメゾウをひとしきり撫でると、悠真は自分の部屋に戻り、もう一度『金属化』の能力を発動した。
「マメゾウの前で金属化すると、アイツ怒り出すからな」
自分の左手を確認する。するとガラス玉の一つになにか映っている。よく見れば、モフモフで茶色い毛並みのマメゾウだ。
「やっぱり! 触れた生き物に変身できる能力で間違いない!」
悠真は左手のガラス玉に触れ「マメゾウになれ! マメゾウになれ!」と念じてみた。体は徐々に小さくなり、四足歩行の動物へと変化する。
「こ、これは!!」
自分の目線が低くなり、二本の前足が目の前にある。右の前足を持ち上げクルリと手の平を見ると、ハッキリと肉球が見えた。
「おおおおおお! すげえ!! ほんとにマメゾウになったぞ」
小さな豆柴になった悠真は嬉しくなり、部屋の中を駆け回った。
バタバタと音を立てたせいか、下から「うるさいわよ! なにしてるの?」と母親に叱られてしまう。
悠真は「ごめん、なんでもない!」と謝るが、犬の姿のまま声を出したことに自分で驚いていた。
◇◇◇
翌日、出社した悠真は神崎だけをビルの二階にある倉庫に連れ出した。
「なんだ、どうした悠真?」
怪訝な顔をする神崎に、「まあまあ、見せたいものがあるんですよ!」ともったいぶって答える。
「社長、握手してもらえますか?」
「握手? なんでだ?」
「説明は後からしますから、お願いします」
神崎は困惑しながらも右手を差し出す。悠真はがっしりと握手を交わすと、「見てて下さい」と言って『金属化』の能力を発動した。
左手の甲にあるガラス玉を触り、意識を集中させる。
メタルグレーの体表が波打つようにうねり出す。ほんの数秒時間が経つと、悠真の体が変化した。
大きく厳つい体躯。ボサボサの髪に無精ひげ。ブルーバイカーのダメージジーンズに、黒のジャケットを着た神崎そのもの。
悠真が自分になったことに、神崎は目を丸くして口をあんぐりと開けた。
「どうですか社長、これがキマイラの落とした魔鉱石の能力ですよ」
「キマイラ!? なんでキマイラの魔鉱石なんて持ってんだ?」
神崎は訳が分からず悠真を凝視する。
「アイシャさんが拾ってたんです」
「アイシャが!?」
「昨日、研究所に行って来たんですよ。元気はなさそうでしたけど、デカスライムや俺の能力について知ってる範囲で教えてくれました。それで帰ろうとしたら魔鉱石を持っていくように言われたんです」
「それで使ってみたのか?」
「はい。迷いましたが、使ってみることにしました」
神崎は「そうか……」と納得はするが、自分がもう一人いるのが落ち着かないのか「一旦、元に戻ってくれ」と悠真に頼む。
悠真が変身を解除すると、神崎はハァ~と溜息を吐き、頭をボリボリと掻きだした。
「しかし、その能力はすげーな! 誰にでも変身できるのか?」
「はい、相手に触れることができれば」
「だから握手したのか……人間以外でもできるのか?」
「飼い犬で試しましたけど、問題なくなれました」
「そうか……じゃあ、その能力を最大限活用するには――」
神崎は瞼を閉じ、少し考えると「おっ! そうだ」と目を見開く。
「鳥はどうだ? 鳥に変身できれば、空を飛べるんじゃねーか!」
「ああ、そうですね! やってみましょう」
神崎の提案に悠真も乗り気になり、二人で外に出ることにした。会社の周りを歩いていると、神崎が声を上げる。
「おい! あそこにいるの、カラスじゃねーか?」
「カラス?」
悠真が見上げると、電線に一羽のカラスがとまっていた。
「つっても、あれじゃあ触れられねーな。公園にでも行って鳩でも探すか? あっちの方が触りやすそうだ」
そうぼやく神崎に、悠真は「いえ、大丈夫ですよ」と言って微笑む。
「どうすんだ?」
「まあ、見てて下さい」
悠真はパーカーのフードを目深に被ってから、体に力を入れ全身を金属に変える。肌の色が黒くなるが、フードを被っていればそれほど目立つこともない。
右手の人差し指をカラスに向けると、ピッと指を細く長く伸ばす。
指の先はあっと言う間にカラスの元まで届き、チョコンと軽く触れる。カラスも何をされたか分からず、不思議そうに辺りを見回していた。
指を元に戻した悠真は、自分の左手を確認する。
「やりましたよ、社長! これでカラスに変身できます」
「マジか!? さっそく試してみようぜ。そうだな。ここじゃ目立つから一旦、会社に戻るか」
「そうですね」
二人は足早に会社へと戻った。
◇◇◇
会社の倉庫に入った神崎と悠真は、カラスになれるか試してみることにした。
悠真が『金属化』状態から左手の甲に意識を集中し、カラスの姿をイメージする。体は徐々に縮んでいき、真っ黒な鳥へと変貌した。
「おお! 本当にカラスになったな。まあ、ちょっと大きいが……でもカラスだ!」
悠真は鳥になった自分の体を見回す。確かに少し大きい気がする。液体金属の中に服を取り込まなきゃいけないから、小さくなるのには限界があるのかもしれない。
「おーし、飛んでみようぜ!」
「はい! そうですね」
悠真は羽を広げ、バタバタと羽ばたいてみる。慣れない動きなので悪戦苦闘するが、空を飛んでみたいという思いで必死に頑張る。
だが、どれだけやろうと一向に飛ぶ気配はない。
「ハァ……ハァ……ダメです社長。全然飛べません」
「う~ん、なんでだ? やっぱり鳥じゃないから感覚が分からないのか?」
その後も二人で試行錯誤したが、少しも飛ぶことができなかった。
「ダメですね……」
悠真はカラスの姿のまま地べたに座り込み、項垂れる。
「ん? 待てよ、もしかして」
神崎はなにかに気づき、悠真の体を掴んで持ち上げようとする。
「あっ! 重い。めちゃくちゃ重いぞ!」
「え?」
「体重が変わってないんだ! だから飛べねーんだよ」
よく考えれば当然だ。マナを質量に変える能力があっても、質量をマナに変えられる訳じゃない。小さくなったからといって、体重が減るなどありえない。
「せっかく、飛べるかもと思ったのに……」
悠真は肩を落とし、元の姿へと戻った。神崎と悠真は他にもなにかできないかと色々検証してみるが、やはり小さい動物にはなれなかった。
また、神崎になったとしても【水魔法】が使えるようになる訳ではないので、あくまで姿かたちが変わるだけのようだ。
「あんまり役に立たないですね」
悠真がぼやくと、神崎も「う~ん」と唸る。
「茨城の遠征で使えると思ったんだがな。仕方ない」
神崎と悠真は検証を切り上げ、三階のオフィスへと戻ることにした。
そこにいた舞香が「ちょっと! どこ行ってたの?」と不機嫌そうに言ってくる。二人は舞香に謝りつつ、田中も交えて明日の準備と最終確認を行う。
「じゃあ悠真くん、明日は朝七時集合だからね。遅れないように!」
「分かりました」
田中に念を押され、遅刻しないことを約束した悠真は、そのまま会社を後にした。