From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (114)
第114話 合同作業
茨城県石岡市――
赤のダンジョンがある『探索者の街』に、悠真たちを乗せた車が入る。普段よりも物々しく、多くの自衛隊員が小銃を持って巡回していた。
「やっぱり厳戒態勢ですね」
車の窓から周囲を見ていた悠真がつぶやく。
神崎も「ああ」と答え、四輪のラングラーをD-マイナー専用の駐車場に停めて、エンジンを切った。
「じゃあ悠真くん。僕は事務局に到着の報告をしてくるから、社長と一緒に部屋に荷物を運んでおいて」
「分かりました」
事務局に向かった田中を見送り、悠真と神崎は車のリアハッチを開け、荷物を取り出す。
「ほい、悠真」
「はい……おっと」
神崎から大きなボストンバッグを渡され、よろけながらもいくつかの荷物を手に持つ。神崎も武器の入ったドラムバッグを肩に担ぎ、キーレスキーで車の鍵を閉める。
「うし! 行くぞ」
「はい」
二人で宿泊施設に行こうとすると、街の出入口の門扉から一台の車が入ってきた。
黒塗りのハイヤーだ。悠真が何気なく見ていると、車はすぐ手前でキキッと音を立てて停車した。
後部座席のドアがガチャリと開くと、見知った顔が降りてくる。
「悠真!」
「え!? ルイ!」
久しぶりに会うルイが、満面の笑みで駆け寄ってきた。
「楓から連絡があったよ。悠真がこっちに来るって聞いてたから会えるかもしれないって思ってたけど、こんなにすぐ会えるなんて!」
「お、おお……俺も来るとは聞いてたけど」
悠真もこんなに早く再会できると思っていなかったため、少し戸惑った。
「なんだ、知り合いか? 悠真」
神崎が聞いてきたので、悠真は「あ、はい」と慌てて答える。
「こいつは俺の幼馴染のルイです。今はエルシード社で働いてて……」
そう言ってルイをチラリと見ると、ルイも姿勢を正し「初めまして、天沢ルイと言います」と挨拶した。
「ああ、君がエルシードの……」
神崎はルイの名前に聞き覚えがあったのか、なにかに納得したように頷いて悠真を見る。
「おい、悠真! お前がエルシードのホープと幼馴染なんて初めて聞いたぞ。なんで言わなかったんだ?」
「す、すいません……言いそびれて」
「まあいい、二人で話したいこともあるだろう。俺は先に行ってるから、悠真、お前は後から来い」
「あ、はい」
神崎はそう言って、自分たちが泊まる宿泊棟へと歩いていった。
「あの人が悠真の働いてる会社の社長さん? ちょっと怖そうだね」
「ん? いや、ああ見えて結構いい人なんだぜ。それよりルイ、こんな高そうな車に乗ってどこ行く気なんだ?」
「ああ、この後中央センターに行って任務の説明を受けるんだよ。他の会社の人たちも午後から説明会に呼ばれると思うよ」
「そうなのか」
なにも聞かされていなかったため、ルイが色々知っていることに感心する。
それ以上に気になったのが――
「ルイ、お前が呼ばれたってことは【雷魔法】が使えるのか?」
火の魔物に有効なのは水魔法と雷魔法の二つ。ルイが水魔法を覚えているとは考えられないため、当然【雷魔法】を覚えているのかと思ったが。
「いや、僕が覚えたのは‶火魔法″だけだよ。一種類の魔法だけを伸ばしていくつもりだからね」
「でも、『赤のダンジョン』だと不利なんじゃ……」
火の属性を持つ魔物に、火魔法はあまり効かない。これは探索者なら誰でも知っている常識だ。だが、ルイは微笑んで否定する。
「僕より弱い魔物なら、問題なく燃やせるよ。それに僕はあくまでサポートだからね。火魔法だけでも、多少は役には立てると思うよ」
「そうか……」
かなり自信があるように見えるな。そんなに‶火の魔力″が強いんだろうか?
二人が話をしていると、ハイヤーの運転席から五十代くらいのドライバーが声をかけてきた。
「天沢様、そろそろお時間が」
「あ、はい。そうですね」
ルイが車内を覗き込み運転手に詫びた後、振り返って悠真を見る。
「ごめん、悠真。もう行かないと。また後で会おう」
「お、おう、そうだな」
ルイは車に乗り込み、後部座席の窓から顔を出して「じゃあ後で」と言ってきたので、悠真も「ああ、後で」と返す。
街の中心にそびえ立つ中央センターに向かうハイヤーを見送って、悠真も宿泊棟に向かって歩き出した。
◇◇◇
『赤のダンジョン』中央管理センター。
ダンジョンを内包するドームの隣にある施設で、地上二十階建てのオフィスビルとして、様々な行事に活用されている。
その十八階にある会議室に、全国から駆け付けた多くの
探索者
たちが、用意された椅子に座っていた。
「思ったより、いっぱいいますね」
悠真は辺りを見回しながら呟くと、隣に座っていた田中が頷く。
「そうだね。ざっと見て百五十人はいるみたいだ。エルシード社の
探索者
はまた別だろうから、実際の数はもっと多くなるだろうね」
「ええ~これ以上ですか?」
驚きの声を上げる悠真と神崎、田中の三人は会議室の左端、一番後ろの席に並んで座っていた。
神崎は来ている探索者の顔ぶれを見て、フンッと鼻を鳴らす。
「後ろの方にいるのは中小の会社ばっかりだな。見てみろ! 前の席に陣取ってるのはエルシードに次ぐ大手『アイザス』『ファーメル』『神楽坂医薬』の三社だ」
悠真が中腰で席を立ち、首を伸ばして前を見ると、確かに雰囲気の違うスーツ姿の集団がいる。
対して後ろの列にいる探索者は作業着であったり、ラフな私服であったり、てんでまとまりが無い人たちが多い。
かく言う自分たちも私服だなと思いながら、悠真は苦笑して席に座り直す。
「席順でも差を付けられるんですか……それにしても大手の会社はやる気が違うように見えますね」
「まあ、今回は政府からの直接要請だからな。功績を上げて目立ちたいのさ。今はエルシードが国の仕事を独占してるから、少しでもアピールして公的な仕事を受注したいんだろう」
「へ~」
色々あるんだなと思いつつ、悠真は目を走らせる。
――ルイは説明を先に受けるって言ってたな……。この会場にはいないみたいだ。にしても、まだ始まらないのか? 安物のパイプ椅子に座ってるせいでケツが痛くなってきた。
悠真がそんなことを考えていると会議室の扉が開き、数人の男たちが入ってきた。
全員身なりが良く、貫禄のある表情をしている。どうやらお偉いさんのようだ。
男たちは足早に移動し、前方のステージに登る。六十代くらいの厳しい
面持
ちをした男性が演台の前に立つ。
目の前にある備え付けマイクの位置を調整し、コホンッと咳払いしてから正面を見る。
「たいへんお待たせしました。私は防衛省防衛審議官の芹沢です。本日は我々の要請により、全国から集まって頂き感謝します」
芹沢が
恭
しく挨拶すると、その後は探索者を招集した経緯や『赤のダンジョン』の状況などが説明された。
だが具体的な仕事の内容が、なかなか出てこない。
悠真が横を見れば、神崎が小刻みに足を動かしている。どうやら苛ついて貧乏ゆすりが止まらないようだ。
「それでは今後の作業について、エルシードの本田統括本部長から詳しい説明をしてもらいます」
芹沢が一礼し、脇に控えていた男性と入れ替わったのを見て、神崎は「やっとか」と不機嫌そうに呟く。
演台の前に立ったのは、ロマンスグレーの髪をオールバックにまとめた男。
先ほどの芹沢より柔和な表情をした人物だが、目に力強さがあり、仕事のできる『切れ者』という印象を受けた。
「エルシード社の本田です。今回の合同作業における総括責任者を任されております。どうぞよろしくお願いします」
本田は微笑み、居並ぶ
探索者
たちを見渡した。