From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (122)
第122話 中小企業の探索者たち
「なんだ、緊急の用って? 俺たちゃ地上で待機だろ?」
神崎はボリボリと頭を掻きながら不満を漏らす。D-マイナーの三人はドーム内の警備に就いていたが、急遽『中央管理センター』の四階ホールに呼ばれていた。
ビルのエントランスを抜け、エレベーターで四階まで上がると、そこには多くの
探索者
やその関係者がたむろしていた。
「こんなにいんのかよ。全員、呼ばれてんじゃねーのか?」
「なにかあったってことですよね」
悠真も不思議そうに辺りを見回す。ホールに入れば、さらに多くの人ごみ。
その場にいる人たちは何も聞かされていないらしく、誰もが困惑した表情を浮かべていた。
「あ! 社長、あれ……」
田中が指差す方向に神崎が目をやると、そこにはステージに上がるエルシード社の統括本部長、本田の姿があった。
本田は演台の前に立ち、マイクを調整してコホンッと咳払いする。
「皆様。お集まり頂き、ありがとうございます。すでにご承知おきの方もいらっしゃると思いますが、百階層を目指していた
探索者集団
から緊急の連絡があり、急ぎ対応することになりました」
ホールに集まった人々がザワつき始める。わざわざ自分たちが呼ばれたということは、上位
探索者集団
だけでは対処できなかったということ。
ホール内に不安が広がるのを感じたのか、本田は笑みを浮かべて話を続ける。
「ご心配には及びません。トラブルと言っても、魔物が当初想定したよりも多かっただけです。充分、大手の
探索者集団
で対処可能ですが、念のため警戒レベルを上げようと考えております」
「具体的になにすんだ!?」
参加者の一人が声を上げる。本田はニッコリと微笑み、それに答えた。
「皆様にはダンジョンの一階層で待機して頂きたい。今すぐではありませんよ。明日の朝、魔物が浅い階層に上がってくると報告を受けております。明朝七時にダンジョンの入口にお集まり下さい。万が一にも魔物を逃がさないよう、自衛隊にも増援を要請しております。万全の態勢を整えておりますので、ご安心下さい」
柔らかな表情のまま本田は壇上を下り、代わりに演台に立ったエルシード社の社員によって詳しいスケジュールが告げられ、その場は解散となった。
◇◇◇
「――ったく! 石川のヤツはなにやってんだ!?」
中央センタービルを出て宿泊棟に戻る道すがら、神崎は「めんどくせぇ!」と悪態をつく。
「だいたい上位の
探索者
が百人以上いるんだぜ? 俺たちの出番なんかねーだろ! こっちは無理矢理招集されてんのに、朝早くから出てこいだぁ? うるせえっつうんだよ!」
文句が止まらない様子の神崎に、田中は「まあまあ」と声をかけ落ち着かせようとする。
「聞いた話だとゴブリンやオークの数が多くて、上位
探索者集団
が強い魔物に集中できないのが問題みたいですよ」
「ゴブリンやオークか……」
田中の話を聞いて、神崎はあからさまに嫌そうな顔をする。
「そんなに強い魔物なんですか?」
不安になった悠真が尋ねる。
「いや……一匹一匹の力は大したことねぇ。だが頭のいい魔物でな。集団になって連携を取りながら襲ってくる。普段は七十層あたりにいる魔物だ。一階層まで上がってくるなんてこと、本来ねえんだが……」
明日の朝にはその魔物たちと戦うのかと心配になる悠真だが、それ以上に頭をもたげるのはルイのことだ。
――ダンジョンの中でトラブルにあったなら、あいつはそれに直面してるはずだ。大丈夫だろうか?
そんな悠真の気持ちを知ってか、知らずか――
「まあ、うだうだ言っても仕方ねえ。明日は早えーんだ、さっさと寝るぞ!」
神崎がそう言うと、悠真と田中は顔を見合わせ「はい」と言って宿泊棟に戻った。
◇◇◇
翌朝六時―― 多くの
探索者
がダンジョンの入口付近と一階層に集まった。
本田はエルシード社に
探索者
の増援を依頼したが、さすがに間に合いそうにない。代わりにドーム施設の外では、陸上自衛隊土浦駐屯地や勝田駐屯地から自衛官と戦闘車両が増援として駆けつけて来た。
そして‶探索者の街″の周囲にも戦力が配備され、マナが薄くなった場所で魔物を迎撃する準備も整った。
絶対に魔物を外に逃がさない――
それがエルシード社や自衛隊、そして政府の共通した考えだ。
ダンジョン一階層で待機を命じられたD-マイナーの三人も、その緊張感と覚悟はひしひしと伝わってきていた。
「一層だけで四十人ぐらいの
探索者
はいそうだな」
日が照り付ける灼熱の大地。神崎はしゃがみ込み、六角棍を肩に乗せ「あぢぃ~」と、くだを巻く。
見渡せば様々な会社の
探索者集団
が、集結していた。
むさ苦しい男ばかりの
探索者集団
もあれば、若い女性のみで構成された
探索者集団
もある。
中にはヒョロヒョロの研究者のような集団もいるため、本当に
探索者
だろうか? と疑いたくなってしまう。
悠真がそんなことを考えていると、神崎が舌打ちして立ち上がる。
「あいつらも来てやがんのか……」
「あいつら?」
なんのことだろうと思い、悠真が振り向くと、五人の男女がこちらに向かって歩いてくる。
中小企業の
探索者
は、私服や作業着の者が多い。しかし、この男女のグループは、それぞれがバトルスーツと呼ばれる既存のプロテクターを着込み、魔法付与武装を装備しているため、それなりの
探索者集団
だろうと悠真は思った。
先頭を歩く男はまっすぐに神崎を見て、薄ら笑いを浮かべる。
「なんだ、D-マイナーも来てたのか。大変だな神崎。大した
探索者
もいないのに、こんな所まで呼ばれるんだから」
「ああ!?
大河原
、ケンカ売りに来たのか? いつでも買ってやるぞ!」
神崎が睨みつけると、大河原はやれやれといった表情で両手を上げる。
「そうカッカしなさんな。俺は心配してるんだよ。そっちには‶魔力″の低い水魔法の使い手しかいないだろ?」
「だからなんだ?」
「うちにはマナ指数が1000を超える水魔法の使い手が二人、それに雷魔法を使う
探索者
も二人いるんだ」
大河原は後ろを見て、顎でしゃくる。
そこにいた男女は、フンッと鼻で笑うような仕草をみせた。
よく見れば、くちゃくちゃとガムを噛む男に、メンチを切ってくる男。指先で金髪をクルクルと巻く女に、スマホをいじりながらニヤニヤと笑う女。
お世辞にも品が良さそうには見えない。
かく言う大河原自身も神崎と同じくらいの年齢なのに、ビジュアル系ロックバンドのような髪型をしている。
なかなかにパンチのある見た目だ。
「だから何かあったら助けてやろうと思って声をかけたんじゃないか、それをずいぶんケンカ腰な物言いだな」
「余計なお世話だ! お前らに助けられることなんてねえよ。とっとと失せろ!」
神崎がシッシと手で払うような仕草を見せると、大河原は「はいはい分かったよ」と言ってメンバーと共に
踵
を返した。
「社長、知り合いですか?」
悠真が尋ねると、神崎はあからさまに嫌そうな顔をする。
「まあな。大河原は『IBI』っていう会社の社長だ。昔は一緒に
探索者集団
を組んでたこともある」
「へ~、『IBI』って大きな会社なんですか?」
「いーや! ただの中小企業だよ。うちの会社より少し大きいぐらいだ!」
神崎はイラつきながら胸ポケットに入っているタバコを取り出し、ジッポで火を付け吸い始めた。