From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (123)
第123話 招かれざるもの
「でも、雷魔法が使えるメンバーがいるなんて凄いよね」
IBI社のメンバーを見送りながら、田中が感嘆の声を漏らす。
悠真が「そうなんですか?」と尋ねると、田中は「もちろんだよ!」と楽しそうに答えた。
「中小企業で‶雷魔法″を覚える人は珍しいんだ。普通は大手に行っちゃうからね。大河原さんが自慢したくなる気持ちも分かるよ」
「へ~」
――確かに雷魔法が使える‶黄色の魔宝石″は、かなり高いって聞いたことがあるからな。俺も使ってみたいけど……。
悠真たちがそんなやり取りをしていると、統一されたバトルスーツを着込んだ十人ほどの集団が近づいてくる。
「みなさん聞いて下さい! 私はサクラポート社の水無月と言います。この一階層の
探索者
のまとめ役を、エルシードの本田さんに頼まれている者です」
前に出て声を上げたのは、二十代後半ぐらいの女性。
ブラウンの長い髪を後ろで束ね、凛々しい眼差しで辺りを見回す。鞘に納めた剣を片手に持ち、スラリとした肢体はモデルのようだ。
「エルシードによれば、対象の魔物が上がってくるのは今から二時間後! 私たちが相手にするゴブリンやオークは数を増やしているようです。各自、気を引き締めて戦いに臨んで下さい!」
水無月は簡単な説明を終えると、自分たちの
探索者集団
へと戻り、メンバーと打ち合わせを始めた。
取りまとめ役と言っても、どうやらエルシードの連絡係といったところか。
神崎は耳の穴を小指でほじりながら、うんざりとした顔をする。
「まだ増えてんのかよ! いくらゴブリンやオークっつっても、数が多過ぎたら手に負えんぞ!」
大河原と話して以来、神崎はご機嫌斜めだ。そんな神崎を刺激しないように、悠真はこっそりと田中に話しかける。
「あの水無月って人、有名な
探索者
なんですか?」
「ああ、水無月さん? いや、有名というほどではないよ。サクラポートっていう会社も中小企業の中では大きい方だけど、実質的にはエルシードの下請けみたいな会社だからね」
「そうなんですか……」
毅然とした立ち姿から、強い
探索者
なのかと思ったが違うようだ。
ブツブツと文句を言っている神崎を横目に、悠真は「二時間も待つのか~」とぼやきながら『迷宮の蜃気楼』でできた太陽を睨みつける。
だが異変が起きたのは、そのすぐ後だった。
下層へ行くための洞窟がある岩場が、にわかに騒がしくなっていた。
百メートル以上離れた場所にいる悠真たちも、その異変に気づく。
「なんだ?」
神崎が手でひさしを作り、怪訝な顔で岩場を見る。
すると何人かの
探索者
が慌てて岩場の洞窟から飛び出してきた。なにかに追いかけられているようだ。
「おかしいですね。魔物が上がって来るまで、まだ時間があるはずですけど……」
悠真が言葉に、神崎も同意する。
「確かにおかしいな」
探索者
たちが洞窟から離れると、小刻みに大地が震えた。
地震? 悠真はハッとして岩場に目を向ける。かすかな地響きが洞窟の方から聞こえてくる。
次の瞬間、洞窟の中から大量の
な
に
か
が一斉に溢れ出す。
地べたを這い、雪崩を打ってこちらに走ってくる。それはトカゲやワニのようにも見えたが――
「サラマンダーだ!!」
神崎が目を見開いて怒声を上げる。赤くゴツゴツした鱗に鋭い爪、体の至る所から炎を噴き出す大きな蜥蜴が向かってきた。
「サラマンダー? 聞いたことはありますけど、あんなに大きい魔物でしたっけ?」
「あれは四十階層から五十階層にいるサラマンダーだよ。深い階層にいる個体は大きいんだ」
悠真の疑問に田中が答える。
「おい! そんな悠長なこと言ってる場合じゃねえ! こっちに来るぞ!!」
洞窟から溢れた数百匹のサラマンダーが、波のように押し寄せてくる。守りについていた
探索者
たちも慌てふためき、どうすべきかと混乱していた。
「落ち着いて! ゴブリンたちが来る前に、より浅い階層の魔物が出てきただけ。各個、撃破していけばいいわ!!」
大声で指示を出したのは、サクラポート社の水無月だ。自ら剣を取り、自分の率いる
探索者集団
と共にサラマンダーに向かってゆく。
彼女が抜いた剣は、青く煌めく水を纏い、飛びかかってくるサラマンダーを斬り裂いていった。
後から駆け付けてきた男女の
探索者
も、剣や槍に水の力を宿し攻撃していく。
全員が水魔法を使う
探索者集団
のようだ。連携が取れており、それぞれが手練れの実力者に見える。
だが、魔物の数が多すぎる。火を吐きながら襲ってくるサラマンダーに徐々に押され始めた。
「社長! 僕たちも加勢しましょう」
田中が悲痛な声で叫ぶが、神崎はかぶりを振る。
「いや、正面からぶつかるのは得策じゃない! 逃げながら追ってくる魔物を仕留めていくぞ!!」
「「はい!」」
二人は神崎の指示通りサラマンダー背を向けて走り出した。悠真は並走する神崎に声をかける。
「社長、『金属化』します!」
「おう! 頼む」
悠真は全身に力を入れ、体を鋼鉄へと変える。目立たないようにパーカーのフードを目深にかぶり、後ろを振り向く。
何十匹ものサラマンダーが追いかけてきていた。
目をギラつかせ、口元から炎を漏らす。
「社長! こいつらって【再生能力】ありますか?」
悠真は走りながら尋ねると、神崎は「いや、ねえ!」とぶっきらぼうに答える。
――だったら‶水魔法″を使うまでもないな。
後ろをドタドタと走る田中。足が速くないせいで、もう追いつかれそうだ。悠真は足から液体金属を影のように伸ばし、三方向へと枝分かれさせる。
影がスルスルとサラマンダーの下に入り込んだ瞬間、液体金属から無数の刃が突き出し、魔物の体を貫く。
串刺しにされたサラマンダーは「グギャッ!」と苦し気な声を上げ、パンッと弾けて砂に変わった。
その様子を息を切らしながら見ていた田中は「ええええ、今のどうやったの!?」と言って目を白黒させていた。
どう説明したものかと悠真が戸惑っていると――
「うわああああああああああああああ!!」
逃げ惑っている集団の中から悲鳴が聞こえてくる。神崎たちが目を向けると、そこにいたのはIBI社の
探索者
と大河原だ。
周りをサラマンダーに囲まれながら、必死で戦っている。
水魔法や雷魔法を使って何匹か倒しているようだが、魔物の数が多すぎるため窮地に陥っていた。
「あいつら……無駄に自信持ってたせいで、逃げ遅れたな!」
神崎がギリッと歯噛みする。
IBI社のメンバーは炎に巻かれ、大河原に至ってはオシャレな髪の毛がチリチリと燃えている。全員が助けを求めながら、魔法付与武装を振り回していた。
「悠真! 頼めるか?」
「分かりました!」
悠真は飛び出して大河原たちの元へと走る。右手には【水脈の棍棒】。だが、水の魔力はまだ使えない。
――俺が持つ‶水の魔力″は少ないからな。こんな所で無駄遣いできない。
「
血塗られた
鉱石
!!」
全身に赤い血脈が流れ、筋肉が膨張する。
脚力が大幅に増した悠真は、一気に大河原の元まで駆け抜けた。