From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (125)
第125話 名刺交換
「おお! すげーな。これなら全部、倒せるんじゃねーのか!?」
喜ぶ神崎とは裏腹に、悠真は顔を曇らせる。
「ダメですね。広げられる液体金属に限界がありますから、あんまり効率的に倒せません」
悠真の言う通り、液体金属が広げられる範囲はせいぜい悠真の周囲五メートル程度。しかもサラマンダーたちは警戒を強め、黒い水溜まりには近づいてこなくなっていた。
「仕方ない」
悠真はシュルシュルと液体金属を回収し、おもむろに立ち上がる。
「どうする悠真? 今は誰もいないが、モタモタしてると自衛隊がやって来るぞ。田中さんにはああ言ったが、自衛隊だけで大量の魔物を倒すのは無理だ」
「そうですね」
悠真は辺りを見渡す。サラマンダーの数はザッと見て五百匹ほどか。神崎が言う通り、倒すのに時間をかけてはいられない。
「‶金属鎧″になって一気に全滅させます!!」
体に力を込める。体内のマナを液体金属に変え、全身を覆う鎧へと変化させる。
悠真の体は二回りほど大きくなり、頭部には角が生える。盛り上がった筋肉と黒い甲冑、スパイクのついたショルダーアーマーと拳。
‶金属鎧″の姿になった悠真は静かに口を開く。
「リミッター解除……
血塗られた
鉱石
……全開!!」
黒い体表に赤い筋が走る。筋は全身を巡って不気味に輝き出した。
悠真の体からは湯気が立ち昇り、口からは蒸気を吐き出す。近くにある小石は、カタカタと揺れ始める。
それまで地上に出ようと走り続けていたサラマンダーの群れが、ピタリと動きを止めた。
なにかに怯えるように、一歩、二歩と後ろに下がるものまでいる。
「社長!」
「お、おう」
「全力でいきます!!」
「ああ、頼んだ!」
悠真が地面を蹴る。瞬間、爆発したように大地が吹き飛び、驚いた神崎は反射的に腕で顔をガードする。
そこからの出来事はあっと言う間だった。
悠真が蹴り上げれば魔物は上空まで飛ばされ砂となる。
踏み潰せば問答無用で砂となる。
腕から伸びる剣で斬りつければ何匹もの魔物は一瞬でまっぷたつとなった。
抵抗するものなどいない。
逃げ出すものなどいない。
ただ一方的な暴力が嵐のように吹き荒れる。
殴りつけ、蹴り飛ばし、斬り裂いて叩き潰す。五百匹のサラマンダーを倒すのに、時間は三分とかからなかった。
◇◇◇
「大丈夫ですか!?」
十分ほどして小銃を構えた自衛隊が地上から下りてきた。一個小隊ほどの人数だ。
辺りを警戒しながら神崎と悠真に近づいてくる。
「魔物はどうしました?」
「あ~下の階層に逃げていったみたいだ。とりあえず、この辺にはいねーよ」
神崎が鷹揚に答えると、自衛隊員はホッと息をつき、銃を下ろして姿勢を正す。
「ここは我々が見回ります。お二人は地上に上がって治療を受けて下さい。治療後は
探索者
と自衛隊が協力して一層を守ることになりましたので」
「お~そうかい。分かったよ」
神崎と悠真は一階層に自衛隊員を残し、二人で地上に続く階段を上り始める。
「やったな、悠真!」
「そうですね」
神崎は嬉しそうに胸の内ポケットから小さなケースを取り出す。パカッと開くと、そこには赤い宝石が無数に入っていた。
「ルビーだぜ、ルビー! こんだけありゃ、結構な値段になるぜ」
「やっぱり、あれだけサラマンダーを倒せば魔宝石も落としますよね」
「ああ、これでしばらく会社は潰さずに済むな。悠真! 帰ったら特別ボーナス出すから期待してろよ」
「ホントですか!? あざーーーっす!」
二人は大喜びで地上へと歩いていった。
◇◇◇
赤のダンジョン十三階層――
十二階層に繋がる洞窟の前、ゴツゴツとした大きな岩が並ぶ場所に‶雷獣の咆哮″の姿があった。
他の
探索者集団
には先に階を上がってもらい、天王寺たちは身を屈め、魔物の様子を窺っていた。
「どうですか?」
ルイが双眼鏡を覗く天王寺に声をかける。
「報告通りだ……ゴブリンやオークがさらに数を増している。それに――」
天王寺は一度言葉を切り、双眼鏡を外して彼方を睨む。
「ヘル・ガルムも増えてる。三十匹近くはいるな」
「さ、三十匹!?」
隣にいた石川が目を見開く。
「一匹でも苦戦する魔物だぞ! それが三十匹も……」
その場にいた
探索者集団
のメンバーは、誰もが険しい顔になる。
「やはり早めに叩いておくべきじゃなかったのか?」
後ろに控えていた‶電磁砲″こと泰前彰が苦言を言うが、天王寺は「いや」と首を横に振った。
「仮に下層で魔物を倒せても、俺たちは魔力を使い果たし、浅くはない傷を負ってただろう。そうなれば後ろから追いついて来た魔物に皆殺しにされていた」
メンバー全員が黙り込む。確かにダンジョンの下層でそんな状況になれば、救助は見込めない。
「やっぱり……地上近くまで誘導するしかないですね」
ルイが強張った表情で言うと、天王寺は「ああ、そうだな」と言って頷く。
「地上付近であれば、後先考えずに全力で戦える。一匹残らず滅殺してやるさ」
天王寺の言葉に、石川はフッと笑みを浮かべる。
「俺たちも上へ行くとしよう」
探索者集団のメンバーは立ち上がり、上階へ続く洞窟へと向かう。全員が洞窟に入ったのを確認した天王寺は、一人立ち止まり、後ろを振り返る。
遥か視線の先、魔物の群れの中に
そ
い
つ
はいた。
「…………赤いオーガ、お前は必ず俺が倒す!」
天王寺は踵を返し、洞窟内へ入っていった。
◇◇◇
地上にあるドーム内施設は、負傷した
探索者
たちでごった返していた。
それでも重症の者は数人しかおらず、多くの者は軽傷だ。神崎と悠真が辺りを見回しながら歩いていると、広い廊下の一角に田中とサクラポート社の
探索者
たちが座っていた。
「田中さん!」
「あっ! 社長!!」
田中はがばっと立ち上がり、こちらに向かってドタドタと走って来る。
「あー良かった……二人がどうなったか心配で……」
田中は両手を膝に付け、ハァハァと息を切らして肩を上下させる。
「すまん、すまん。田中さん、俺たちは大丈夫だ。そっちはどうだ?」
「サクラポートの人たちは全員軽傷でした。すこし休めば、また戦えると思いますよ」
「そうか……それなら良かった」
二人が話していると、それに気づいて水無月が近づいてきた。左腕に包帯が巻かれ、顔にガーゼが当てられているが、大きな怪我ではなさそうだ。
「先ほどは助かりました。あなたが来てくれなければ
探索者集団
が壊滅していたかもしれません。クランを率いるリーダーとしてお礼を言います」
「なんだ、改まって……共闘してんだから助けるのは当然だろ!」
神崎は照れ臭そうに頬を掻く。人から褒められるは苦手のようだ。
「D-マイナーという会社だそうですね。さっき田中さんから聞きました。恥ずかしながら初めて聞く社名でした」
「まあ、そりゃ仕方ない。完全な零細企業だからな」
「しかし、あなたといい、そちらの若い
探索者
の方といい、素晴らしい人材がいる会社じゃないですか!」
水無月はそう言って悠真の方を見る。悠真が慌てて目を逸らすと、クスリと笑い、改めて神崎と向き合う。
「是非、今後ともお付き合いのほど、よろしく願いします」
水無月は手に持った名刺を差し出す。神崎は「おお」と名刺を受け取り、ゴソゴソとポケットをまさぐって自分の名刺を探す。
出てきたクシャクシャの名刺を「じゃあ、これで」と水無月に渡した。
その様子を見ていた悠真と田中は、社会人としてどうだろう? と神崎に冷たい目を向けた。