From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (126)
第126話 魔物の軍勢
その後、D-マイナーの三人は、サクラポート社の
探索者
と一緒に自衛隊の招集に応じる。
ダンジョンの入口があるホールの隣、白い広間に五十人ばかりの
探索者
が立ち並ぶ。手傷を負っている者も多く、どこか不安気な表情をしていた。
そんな人ごみの中、部屋の端の方でこちらを睨んでいたのは、IBI社の大河原だ。
恨めしそうな顔をしていたが、神崎は無視して前を見る。
「
探索者
の皆さん! 私は陸上自衛隊、陸将の柿谷です。地上での作戦指揮にあたっております。皆さんを襲ったサラマンダーですが、調査の結果、一階層では確認されませんでした」
その言葉に、探索者たちはザワつき始める。あれだけいたサラマンダーが、急に消えることなど有り得ないと。
「皆さん、落ち着いて下さい! 原因は分かりませんが、一階層に魔物がいないのは間違いありません」
誰もが納得できない様子だったが、悠真と神崎だけは「――でしょうね」と思っていた。
「今後についてですが、上ってきている魔物の進行が早まっているとの報告を受けております。今から三十分後には一階層に辿り着くでしょう。皆さんには、もう一度一階層に下りてもらい、我々自衛隊の第一小隊と共にゴブリンやオークの掃討に尽力をお願いします! そして――」
柿谷は眉間に皺を寄せ、真剣な眼差しで辺りを見る。
「万が一の場合は、魔物を地上で迎え撃ちます。そのため地上には陸上自衛隊の大隊を控えさせ、射線を確保するため隔壁扉などは全て開けることになりました。皆さんも無理はなさらず、低層の魔物であれば地上に寄越してもらってかまいません。以上が本作戦の概要になりますが、なにか質問があれば――」
何人かが手を上げ質問するが、
概
ね
探索者
たちは納得し、一階層に下りることになった。
◇◇◇
ダンジョン一階層。地上へ続く洞窟を背にして、
探索者
五十二名、自衛隊員四十名が、すぐに来るであろう魔物を待ち構えていた。
後ろで寡黙に控える自衛隊員を見ながら、悠真は隣に立つ神崎に尋ねる。
「社長、地上にいっぱい自衛隊がいるんだから、もっとこっちに送ってくれてもいいんじゃないですか? その方が魔物を倒せそうですけど」
悠真の話を聞いて、神崎はハア~と溜息をつく。
「あのなぁ悠真。自衛隊の銃と、
探索者
の戦い方は相性最悪なんだよ」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ!
探索者
が魔物と戦ってる時、後ろから援護射撃なんかされてみろ、ヘタしたら流れ弾に当たって死んじまうじゃねーか!」
「ああ、確かに……」
「低層の魔物なら自衛隊でも倒すことはできる。実際、今までも魔物の討伐はしてきた。だが今回のように【深層の魔物】と【低層の魔物】が一緒に出てくる場合は話が違ってくる」
神崎はポケットからタバコを取り出し、口に咥えて火をつけた。
一口吸い込み、うまそうに煙をくゆらす。時間的にはこれが最後の一服になるだろう……そんなことを考えながら、神崎は口を開く。
「深層の魔物は
探索者
が使う‶魔法″でしか倒せない。その
探索者
を間違って死なせちまったら自衛隊も全滅だ。だから今回の戦い、お偉いさんも慎重になってんだよ」
「なるほど……でも上位
探索者
なら弾丸でも防げるんじゃ……」
「確かに魔力が高い
探索者
が使う‶魔法障壁″だったら弾丸でも弾けるだろう。だが、常に展開してる訳じゃねえ。意表を突いた攻撃だと防げねえな。まあ咄嗟に対応できるとすれば、エルシードの天王寺ぐらいか」
だから自衛隊は最低限の人数しか来てないのかと、悠真は頷き納得する。
「とは言え、地上の隔壁扉まで開けて大丈夫ですか?」
「まあ、深層の魔物の炎だと、隔壁扉も溶かされるらしいからな。守りより攻撃しやすい形を選んだんだろう。それが正解かどうかは、やってみなきゃ分からねえが」
神崎は咥えていたタバコを足元に投げ捨て、つま先で踏み潰す。
「来やがった」
その言葉を聞いて、悠真は遥か前方に視線を向ける。そこには何十人もの
探索者
が、こちらに向かって走って来ていた。
中層まで行っていたBランクの
探索者集団
だ。
その先から、揃ったバトルスーツを着込んだ
探索者
も足早にやってきた。エルシードを始めとする大手の
探索者集団
だろう。
そして――
土煙が舞い上がる。空気が淀み、鳴声とも叫び声とも取れる雑多な‶音″が聞こえてきた。
控えていた
探索者
たちに緊張が伝う。
まず見えたのは小柄な緑の魔物、ゴブリン。数は多く、わらわらと溢れ出し、一斉に走って来る。
次に見えたのは大柄で豚のような魔物。あれがオークだろうと悠真は思った。
群れとなって押し寄せてくるが、当初聞いていたより、明らかに数が多い。そしてその後から白い煙が立ち上る。
蒸気の向こう、四足歩行の魔物が姿を現す。
踏みしめた大地は溶解し、ただ歩くだけで大気が揺らめく。悠真はその赤黒い魔物に見覚えがあった。
「――あの犬だ!」
三十匹近くが連れ立って向かって来る。
深層の魔物がこれだけ上がって来たことに、
探索者
たちはゴクリと喉を鳴らす。
だが、それ以上に気になったのはヘル・ガルムの後ろからやって来る人型の魔物。全身は赤く、一際大きい。
燃えるように髪は逆立ち、肩や腕からはメラメラと炎が立ち昇る。
その魔物から放たれる禍々しい空気は、マナを感じ取ることのできない悠真や神崎にも伝わってきた。
「なんだありゃ? あれも‶深層の魔物″なのか?」
神崎が魔物を睨みながら呟く。それに答えるように田中が口を開いた。
「あれ……オーガじゃないですか」
「「オーガ?」」
神崎と悠真の声が揃う。赤のダンジョンでは、まず聞かない名前だった。
「僕は色々な魔物が載ってる【ダンジョン魔物図鑑】を持ってるんですけど、そこに掲載されてる‶オーガ″って魔物によく似てるんですよ!」
「しかし、それは――」
神崎が片眉を上げる。
「ええ、『白のダンジョン』の話です。オーガが赤のダンジョンにいた例はありませんから、もしかしたら変異種の魔物かもしれませんね!」
田中はふんすと鼻を鳴らし、自慢げに話す。相変わらず魔物に関する知識は凄いなと、悠真は改めて感心した。
「なんにせよ、アイツがボスと見て間違いないようだ」
神崎は六角棍を両手で持ち、力を込める。
「全員、戦闘態勢を取って広がって下さい!」
サクラポートの水無月が叫んだ。Cランクの
探索者
たちが扇状に展開し、その前にBランクの
探索者集団
が立ち並ぶ。
中央に上位探索者が陣取り、魔物を迎え撃つ態勢が整う。
先頭に立つ天王寺は、眼前の敵を睨みつけた。
「さあ、始めよう」