From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (150)
第150話 新潟のダンジョン
千葉の会社から帰ってきた悠真は、ネットでニュースを検索していた。
当然‶黒鎧″に関するものだ。
「なになに、‶凶悪な魔物が逃亡″、‶政府の失態″、‶エルシードやファメールでも手に負えず″か……」
どれもネガティブなものばかりだ。ネット記事のコメント欄を確認すると、こちらはさらに辛辣だった。
「完全に悪い魔物扱いだな。しかも日に日に悪感情が膨らんでいるような……」
黒い魔物がなかなか見つからないことに、世間のストレスは増しているようだ。
すぐに見つけて、さっさと殺せという意見も散見される。
「社長からも金属化はしないように言われてるしな。ほとぼりが冷めるまで大人しくしてよう」
翌日―― 悠真は田中と共に『青のダンジョン』に来ていた。
田中には詳しい事情を話していたため、「社長と一緒に全力で守るからね!」と言われていた。
悠真からすれば心強い味方だ。
「今日は十五階層まで進もう。悠真君も、もう少し‶水魔法″が使えるようになった方がいいからね」
「分かりました」
二人で十五階層まで潜り、両生類とも爬虫類とも思える魔物をしこたま倒して魔宝石を回収する。
「ひい、ふう、みい……七つか。大きさはそこそこだし、今日はこれで帰ろうか?」
「そうですね。カエルの体液で、けっこうベタベタになりましたし」
まだ午後四時前だったが、二人はダンジョンを出ることにした。六時には会社に到着し、神崎に報告する。
「今日は七つか……四つはストックに回して三つは悠真、食っていいぞ」
「いいんですか? 三つも貰って」
悠真は驚いた顔をするが、神崎は手をヒラヒラと動かし「かまやしねえ」と言って読んでいた新聞に目を落とす。今、会社は収入が乏しい状態だ。
値が安いとはいえ『水の魔宝石』も重要な収入源のはずなのに。
そんなことを思いながらチラリと舞香を見ると「いいから、いいから」と明るく言って、飲みやすいように水まで持ってきてくれた。
「じゃあ、遠慮なく」
0.5カラットに満たない‶アイオライト″だったため、悠真は三つまとめて口に放り込み、水を口に含んで飲み込んだ。
ややあって腹が熱くなり、魔宝石が取り込めたことを確認する。
「大丈夫です。ありがとうございます」
悠真からコップを受け取った舞香は「これで水の魔力はどれくらいになったの?」と聞いてきた。
「確かこの前もらったものを合わせると、420くらいになってると思いますよ」
「そっか、それだけあれば『赤のダンジョン』でも活躍できたと思うけど……タイミング悪いよね」
舞香は残念そうに、コップを洗面台まで持っていく。
赤のダンジョンが立入禁止なっている以上、水の魔力がいくらあっても使う場面がない。
――早くシェルターができて、入れるようにならないかな。
悠真がそんなことを考えていると、奥のデスクに座っていた神崎がおもむろに立ち上がり、オフィスの中央までやってくる。
「みんな集まってくれ」
悠真と舞香が歩み寄り、座っていた田中は立ち上がって神崎の元へと来る。
「田中さんに申請を頼んでた新潟のダンジョンだが、入場の許可が今週末には出そうだ。それで来週の月曜に新潟に行こうと思う」
「いよいよですね」
悠真は新しいダンジョンに行けることに胸を高鳴らせた。そんな悠真を見て田中が微笑む。
「でも気をつけないとダメだよ、悠真君。『緑のダンジョン』は青のダンジョンより危険性が高いって言われてるからね」
田中の話に悠真は「そうなんですか?」と顔をしかめる。
それを見て神崎は口を開いた。
「まあ、危険て言っても『赤のダンジョン』ほどじゃねえ。虫ばっかりで気持ち悪いのと、深い階層に行くと‶風魔法″を使う魔物がいるぐらいか」
「風魔法ですか……いまいちイメージしにくいですね」
風魔法の使い手は
探索者
の中でも少ないため、悠真はいま一つピンときていない。そんな悠真に喜んで説明したのは田中だった。
「風魔法は凄いんだよ! 上位の使い手になれば鋼鉄でも切断できる‶風の刃″を放てるし、竜巻を起こして相手を吹き飛ばすことだってできるからね」
楽しそうに話す田中に、悠真は苦笑する。
「まあ、そうは言ってもそこまで強い‶風魔法″を使える魔物は相当深い階層にしかいないから、僕らが出会うことはないと思うよ」
「そうですか……でも緑の魔宝石って、そんなに高くないですよね?」
悠真が尋ねると、神崎は「まあな」と言って頷く。
「日本には‶黄色のダンジョン″がねえからな。雷属性の魔物に有効な‶風魔法″が必要とされてねえんだ。だから緑の魔宝石の価格も安い」
日本とは違い黄色のダンジョンが多い国では、緑の魔宝石も高値で取引されているらしいが、日本ではどうしても安くなってしまう。
それでも採取しようとするのは、D-マイナーの経営状態が良くないからだろう。
そんなことを考えていた時、悠真がふと閃く。
「あ! だったら輸出したらどうです? 『緑の魔宝石』がたくさん使われてる国に持っていけば儲かるんじゃないですか!?」
神崎は苦笑いして首を振る。
「魔宝石の輸出入は厳しく規制されてるからな。簡単な話じゃねえ」
「規制があるんですか」
悠真はガッカリした顔をするが、神崎は明るく話す。
「なに陰気な話をしてんだ! 単価は安くても『青のダンジョン』より深く潜れるんだ。とにかく‶数″を取って稼ぎにするぞ!」
その言葉を聞いて、舞香も「そうね。一回の遠征で稼げるだけ稼いじゃおう!」と言い。田中も「色んな魔物が見られるから、きっと楽しいよ!」と斜め上の角度から励ましてくる。
「そうですね……俺もがんばって魔宝石をたくさん取ります!」
「おう、その意気だ。月曜には新潟に行って、一週間は滞在するからな。しっかり準備しておけよ」
「「はい!」」
悠真はやる気満々でテンションを上げ、月曜の遠征に備えた。