From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (162)
第162話 異質な雷撃
明人の周囲にバチバチと稲妻が迸る。黄金に輝く光は、徐々に黒く染まっていく。
それは見たこともない異様な光景。
「黒い……稲妻?」
「ハッハッハー、驚いとるようやな! これが雷の第二階層魔法【黒雷】や!!」
明人は駆け出し、躊躇の無い踏み込みから槍撃を放つ。
悠真は一瞬たじろいだ。
「くっ!」
突き出された矛先を両腕でガードする。黒い稲妻が腕に触れた瞬間、バチッと音が鳴り響き、体が弾かれた。
衝撃が強すぎて、意識が持っていかれそうになる。
体は跳ね飛ばされ、通りの向こうにある飲食店のガラス扉を突き破って店内に転がり込む。
「あ……うぅ」
今までで一番痛い。なんとか起き上がるが、右手を見るとプルプルと痙攣するように震えていた。
――これが雷の魔法!? こんな威力の強いものがあるのか? だとしたら水魔法では防げないぞ……。
悠真は歯を食いしばって立ち上がり、店の外へと出ていく。
「マジか!? あの一撃喰らって死なんとは……どんだけ丈夫やねん!」
明人はすぐに槍を構え直し、戦闘態勢に入る。他の
探索者
もこちらに走ってきていた。このまま戦うのはマズい。
悠真は‶ブラッディ・オア″を発動し、痙攣していない左手に力を込める。
「こいつで終わりや!!」
さらに激しい稲妻を纏った槍が目前に迫る。その刹那――
悠真は足元の地面に、全力で拳を叩き込んだ。衝撃でコンクリートが砕け、破片と煙が巻き上がった。
「おおっ!?」
明人は爆風で後ろに飛ばされるも、ととと、と言いながらなんとか踏み止まる。
顔を上げれば、煙が辺りを包み、黒鎧の姿は見えない。
「天王寺! どうなった!?」
ファメールの探索者たちが駆けつけ、明人の周りに集まった。
「いやーすんません。逃がしてもーたみたいですわ」
飄々
と言う明人に探索者集団のリーダーは舌打ちし、「追いかけるぞ!」と部下に指示を出して走っていった。
明人もついて行こうとしたが、ふと煙の収まった地面に目を向ける。
そこには想像以上に大きく、深い穴が空いていた。
「いやいや、マジか」
もしこんなものを喰らっていたら……明人はゾッとして身をすくめた。
◇◇◇
「やばい、やばい! さらに増えてる。どこ行っても
探索者
だらけだ!」
悠真は狭いビルの隙間に隠れたが、すぐに見つかって逃げ出した。建物内に潜伏しようとしても、建物が破壊され、中から叩き出される。
「確か‶マナ″を感知できる
探索者
がいるんだっけ……」
悠真はうんざりした気持ちになった。それなら『金属化』を解かない限り、ずっと追いかけられる。
五分経てば『金属化』は解除できるが、攻撃されてる時に解除したら死んでしまうかもしれない。
どうしようかと迷っていると、路上のマンホールに目が止まった。
「なんか汚そうだから嫌だけど……仕方ない!」
悠真はドロリと体を溶かし、マンホールの蓋を押し上げ、隙間に入り込む。
垂直梯子をウネウネと下り、下水道の通路に辿り着いたので、人型に戻って辺りを見回す。
「暗いな……慎重に進まないと」
水は下水道管の中央を流れているが、思いのほか少ない。悠真は通路の端を、小走りで進んで行った。
◇◇◇
「地下に下りたようだね」
商業ビルの屋上に立ったアルベルトは、遠くを眺めながら小さく微笑む。
「予想通りです。対策はしてありますから、すぐに上がってくるでしょう」
傍
らに控えるミアが自信ありげに断言した。
「まあ、それは心配してないよ。ところで準備にはどれくらいかかりそうかな?」
アルベルトは屋上の端に立ち、地上を見下ろす。そこにはなにかの作業をするプロメテウスのメンバーがいた。
「すぐに終わります。問題は
こ
こ
に黒鎧を誘い込めるかどうかです」
ミアは厳しい表情で言うが、アルベルトは
淡々
と答える。
「それに関しては他の
探索者集団
や、日本政府を信じるしかない。我々はできることをやるだけだよ」
アルベルトはフフと笑い、膨大なマナを感じる方向を
一瞥
した。
◇◇◇
「いたぞ! 黒鎧だ!!」
「逃がすな!」
探索者
が集団で襲いかかってくる。
「ひいいいい! 下水の中にもいるのかよ!? やりすぎだろ!」
炎や風、雷が乱れ飛ぶ。水魔法を使う
探索者
は下水の水を利用して攻撃してきた。
「汚っ! 最悪だ、やめてくれ!!」
悠真は慌てふためいて、マンホールの蓋を探す。見つけると垂直梯子を上って地上へと出た。
「こっちだ!」
「一斉に仕掛けろ!!」
ここにも大量の
探索者
がいる。数発の魔法がぶつかるが、特に痛くはない。
――でも、いつ耐性を突破する攻撃がくるか分からねーしな。
数十人の探索者が進路を塞いで襲いかかってくる。ビルの上からも数人が飛び降りてきた。
――四方八方かよ、仕方ねえ!
悠真の左手の甲が光りだす。次の瞬間、
探索者
たちの顔が青ざめた。黒い魔物はドロリと形を無くし、赤い犬へと変化する。
犬は包囲網を力づくで突破した。
「うわああああ! ヘル・ガルムだ!!」
「黒鎧が変化したぞ!!」
探索者
たちを置き去りにしたヘル・ガルムは、そのまま公道へ飛び出した。
「おお! さすがに速いな。これならいけそうだ!」
走っていく先にも
探索者
がいたが、悠真は意識を集中して‶ブラッディ・オア″を発動する。
犬の足はさらに回転を上げ、恐ろしい速度で
探索者
たちの脇を抜けていった。
「なんだ!? ヘル・ガルム?」
「通常のものより遥かに速いぞ!!」
みんな戸惑っているようだ。悠真はシシシと笑いながら市街地を駆け抜ける。魔犬の走力と‶ブラッディ・オア″の筋力アップがあれば逃げ切ることは可能だろう。
しばらく走ると
探索者
たちが道を封鎖していた。
ムリヤリ突破すると怪我人が出そうだと思った悠真は、大きく右に迂回する。さらに走っていると、また道を封鎖している集団がいた。
ビルの上にも人員を配置し、バリケードの奥にもたくさんの
探索者
がいるようだ。
なにがなんでも通さない気なんだろう。
悠真は仕方ないと思い、今度は左に曲がって足を速めた。そのまま真っ直ぐ大きな通りを進んでいると、何人かの
探索者
が目に入る。
だが完全に道を塞いでいる訳ではなく、道の端に数人がいるだけだ。
――なんだ? バリケードが間に合わなかったのか?
それならそれで好都合と、悠真は全速力で突破を試みる。
探索者
たちが邪魔をする様子はない。
よし! 逃げ切れたと思った瞬間。
「うわっ!?」
目の前に炎の壁が立ち昇る。普通の炎ではない。荒々しく激しい業火。
――まさか……アルベルトの火魔法!?
悠真は急ブレーキをかけ足を止める。すぐ別方向に行こうとするが、後ろや横からも火柱が立ち上がった。