From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (17)
第17話 期待のルーキー
探索者の一人が、倒れたサラマンダーに近づき、傷口を確認する。
会社から貸与された『水脈の短剣』が、魔物の急所を的確に貫いていた。その鮮やかな手並に、ベテランの探索者も感心する。
魔物の体が崩れ始め、やがて砂となって消えてゆく。
何もかもが無くなった場所に、キラリと光る物が残った。
「これは……」
ベテランの探索者はそれを拾い上げ、バイタルチェックを受けている高校生に視線を移す。
どこにでもいそうな普通の高校生。
探索者の男は拾った物を持って、高校生の元へと向かった。
◇◇◇
「本当に大丈夫か? 特にバイタルに異常はないが……」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
天沢ルイは自分のことを気にかけてくれる探索者の男性にお礼を言って立ち上がる。気づくとサラマンダーは消えていたが、その場所から別の探索者がやってくる。
ルイの目の前に来た男は、身長180以上ある大柄で、大きなリュックを担ぎナイフやハンマー、大型の電磁警棒など体の至る所に仕込んでいた。
見た目だけなら軍人といった様相だ。
「天沢ルイ君だったね。私はこの体験会の責任者で、五人の探索者のリーダーでもある石川だ。まず女性を助けてもらったこと、感謝する。ありがとう」
「いえ、そんな。当然のことをしただけです」
「それにしても見事なものだ。サラマンダーの急所である首の動脈を的確に貫いている。あれは狙ってやったのか?」
「あ、はい……ダンジョンの魔物については調べているので、知っている魔物であれば急所の場所も記憶しています」
「そうか……」
石川は手に持った小さな石をルイの前に差し出す。それはキラキラと輝く赤い石、魔宝石の【ルビー】だった。
「これは君が倒したサラマンダーが落とした物だ。君が手にする権利がある」
「え!? いいんですか」
ルイは驚くが、周りにいた石川以外の探索者もギョっとする。
「い、石川さん、いいんですか!? そのルビー、0.7カラットはありますよ!」
苦言を言ってくる仲間の探索者に、石川はフンッと鼻を鳴らす。
「この体験会では倒した魔物の‶魔宝石″は、倒した者が持ち帰れるとハッキリ書いてある。だからこれは君の物だ。持っていきなさい」
「は、はい! ありがとうございます」
ルイは石川からルビーを受け取ると、まじまじと見つめた。0.7カラットの魔宝石【ルビー】のマナ指数は700。
それは市場の取引価格で、1400万を超える物だった。
◇◇◇
「あ~眠い」
秋口に差し掛かり、次第に肌寒くなってきた朝の通学路。悠真が
欠伸
をしながら、いつものように学校へ行くと校門の前が騒がしくなっていた。
「なんだ?」
見ればワゴン車が何台も止まり、色々な機材を持った人たちがいる。
「悠真、おはよ!」
「お、おお、楓か」
後ろから声をかけてきたのは幼馴染の楓だった。
「これ、なんの騒ぎだ? 知ってるか?」
「あーこれね。これは多分……あれだよ!」
楓が指差したのは学校の玄関前。たくさんの人たちが集まっている。カメラやマイクを持った人たちが、誰かを取り囲んでいるようだ。
目を凝らしてよく見ると、少し茶色がかったサラサラの髪に、爽やかな笑顔で応答している見知った顔があった。
「あれは―― ルイ!?」
「昨日連絡があったんだけど、ルイがダンジョンで珍しい魔宝石を見つけたんだって。その時女の人も助けたとかで、ネットではちょっとしたニュースになってたよ」
「へ、へ~」
ルイが注目されるのも驚きだが、楓と連絡を取り合っていることに悠真は少し複雑な気持ちになる。
二人は近くまで行き、取材の様子を見ることにした。
「魔物に襲われた女性を助けたそうですね。怖くはなかったんですか?」
マイクを向ける女性リポーターに戸惑いながら、ルイは
含羞
んでポリポリと頬を掻く。
「い、いえ、その時は無我夢中で……でも女の人に怪我がなくて良かったです」
「強い魔物だったんですよね! エルシード社の
探索者
も高校生のあなたが強い魔物を倒したことに驚いていましたよ」
「ま、まあ、確かにサラマンダーは本来十階層にいる強い魔物ですが、倒すことができたのはエルシード社が貸してくれたダンジョン用の武器があったからですよ」
「そうは言いますが、倒した魔物からルビーの‶魔宝石″がドロップしたんですよね。1400万円以上する物だとか! 売る気はあるんでしょうか?」
――1400万円!? 悠真は絶句する。
そんな物をルイは手に入れたのか、と。
「いえ、僕は将来‶
探索者
″なりたいので、魔宝石は自分で使おうと思います」
売らないのか? 1400万の物を? それを聞いて悠真は更に衝撃を受ける。
ルイの隣で話を聞いていた校長が、ニコニコした笑顔で口を挟んできた。
「いやいや、天沢君は成績も優秀で難関の大学へ進学することも可能ですが、本人が世の中の役に立ちたいと強い希望を持っておりまして――」
「校長先生に取っても、ご自慢の生徒さんと言うことですね!」
「ええ、もちろん! なんといっても、あのエルシード社に就職が決まったんですから、喜びはひとしおですよ!」
悠真は校長の話を聞いて眉をひそめる。
「なんだ? エルシード社って?」
悠真が聞くと、楓は呆れた顔をする。
「知らないの? 日本最大手のダンジョン関連企業だよ! ルイが一番入りたがってた会社だけど、そこにスカウトされて就職が決まるなんて凄いよね~」
「そ、そうなんだ」
笑顔で話しているルイを見て、悠真は胸が苦しくなってくる。アイツは真っ直ぐに努力して自分の夢を叶えたのか。それに比べて俺は、と。
楓を残し、悠真はバツが悪そうにそそくさと校舎へと入っていった。