From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (185)
第185話 竜の進撃
日本の海域に入った竜の群れは、専門家の予想通り一路茨城へと向かった。
航空自衛隊と在日米軍の戦闘機がスクランブルで発進し、竜を迎え撃つ。しかし、戦闘機から発射された空対空ミサイルは竜の体表まで届かず、空中で全て爆発した。
竜たちから発せられる超高温の【魔法障壁】によって阻まれたのだ。
さらにエンシェント・ドラゴンが放つ”炎の
息吹
“は数百メートル先まで放射され、避けきれなかった戦闘機は炎に巻かれて撃墜された。
何人
も竜の進路を阻むことはできない。
巨躯を駆る【赤の王】を先頭に、茨城にある”探索者の街”の上空に差しかかると、竜の王は空中で動きを止めた。
大きな翼で羽ばたきながら、眼下の街を見下ろしている。
数百匹のエンシェント・ドラゴンも周囲に展開し、【赤の王】の動向を見守っていた。竜王の視線の先には、白いドームがそびえ立つ。
その中にあるのは、世界で二番目に大きな『赤のダンジョン』。
真紅の竜王は凶悪な顎を開き、口内に炎の魔力を集める。圧縮された魔力は灼熱の火球へと変わっていった。
火を爆発させる【第二階層魔法】、火の形を自由自在に操る【第三階層魔法】。
この二つの火魔法による攻撃の究極形。
口から吐き出された火球は猛スピードでドームに向かう。
建物の屋根を突き破り、ダンジョンの入口に直撃すると、激しい光と共に大爆発を巻き起こす。
その威力は一瞬で”探索者の街”を吹き飛ばすほど。
巻き上げられた粉塵と煙は高々と立ち昇った。煙が徐々に収まると、ダンジョンに大穴が空いていることが分かる。
赤き竜王はさらに魔力を集め、口から火球を吐き出す。
炎の玉は大穴へと吸い込まれ、轟音と共に巨大な火柱を立ち上げた。
その後も【赤の王】は手を緩めない。穴に向かって何度も火球を撃ち込み、大穴に対する攻撃を繰り返す。
北関東の大地は揺れ、地震として観測された。
七度撃ち込まれた火球によって、ダンジョンには底が見えないほど深い縦穴が空いていた。
空気中のマナ濃度が上がり、地上に魔物が出てくるようになっても、
上
が
っ
て
く
る
こ
と
が
で
き
な
い
魔
物
も
い
る
。
それは大型の魔物だ。ダンジョンの階層と階層を繋ぐ出入口はそれほど大きくないため、そこを通ることができるのは小型から中型の魔物だけ。
例外は
ダ
ン
ジ
ョ
ン
そ
の
も
の
を
破
壊
で
き
る
魔
物
の
み
。
そしてダンジョンを破壊できれば、深層にいる大型の魔物たちも外に出すことができる。
大穴が空いた『赤のダンジョン』から、かすかに声が聞こえる。
徐々に大きくなるけたたましい鳴き声と無数の羽音。現れたのは百匹以上の竜の群れ、エンシェント・ドラゴンの大群だ。
解き放たれた竜たちは仲間の竜と合流し、上空で輪を描くように回り始める。
雲が垂れ込め、台風の目の如く渦巻き出した。太陽の光は遮られ、周囲は薄暗くなる。
大気は震え、竜の体から放たれる赤い光だけが不気味に輝く。
茨城に設置された定点カメラがその光景を捉え、光ファイバーを通して東京の首相官邸に送られていた。
「赤のダンジョンに……こんなに多くの竜がいたのか」
大ホールに設置された大型スクリーンを見ながら高倉が呟く。
赤のダンジョンは最奥まで攻略が進んでいなかったため、どんな魔物が
跋扈
しているか分からなかった。
「三百匹以上いる……あんな集団、止められる訳がない」
震える声で吐き捨てたのは、ダンジョン協会の八杉だった。IDRとの会談のあと八杉は明らかに様子がおかしい。
黙り込んだまま、怯えているようにさえ見える。
――それは他の人間も同じか。
高倉は辺りを見渡し、顔ぶれを確認する。
政治家や研究者、官僚が集められていた。今いるのは首相官邸の地下1階にある、官邸危機管理センター。緊急事態に政府の対策本部となる施設だ。
地方に避難する案も出たが、竜がどこに向かうのか分からない以上、地下で指揮を取るのが最善と判断された。
とは言え、核シェルターではないため【赤の王】の火球が直撃すれば、簡単に吹き飛んでしまうだろう。
高倉が振り返ると、大型の会議テーブルに座った総理の岩城が目に入った。
相変わらず頭を抱え、一人うつむいている。
国のリーダーであるからには、こんな時こそ全体を鼓舞してほしいものだが。そんな不満を抱きながら、高倉はもう一度モニターに目を移す。
より大規模な集団となった竜の群れは、瓦礫となった”探索者の街”を離れ、移動し始める。
いまだ避難が終わっていない、関東へと向かって。
◇◇◇
「おい! 全然、車が進まないぞ。どうなってんだ!?」
「警察はなにやってる! 俺たちを助ける気がないのか?」
「もうダメよ! 車を置いていきましょう!!」
東京では道路網が混乱し、動かない車で大渋滞が起こっていた。
政府はインターネットやパトカーによる警告によって住民の避難を促がしていたが、道路だけではなく駅や空港にも人が殺到し、全ての機能がマヒしてしまう。
そんな中――
「おお! アイシャ、お前も出てこれたのか」
留置場の前でアイシャに駆け寄ったのは、すっかり髭面になった神崎だった。
緊急事態が勧告されたことにより留置場にいた人間も一時釈放となり、避難させることになった。
留置場から出られて喜ぶ神崎に、アイシャは眉をひそめる。
「能天気なヤツだ。それになんだ、そのむさ苦しい髭は?」
「うん? これか」
神崎は自分のアゴに手を当て、髭を撫でる。
「ちょっとばかり髭を伸ばそうと思ってな。別にかまわんだろ」
「確かに、お前の顔などどうでもいいが」
二人は警視庁前の国道1号で、逃げ惑う人々を目に止める。
「聞いたか? 【赤の王】ってバケモンがこっちに向かってるらしいぞ」
「ああ、だが昨日は日本を素通りしたと聞いていた……どうなってるんだ?」
「とにかく、俺たちもさっさと逃げるぞ」
「……そうだな」
神崎とアイシャは走って大通りに出る。
「会社に行かねーと。田中さんや舞香と合流できねえ」
D-マイナーは千葉にあるため、行くには車が必要だ。しかし交通渋滞で、とても車が走れそうにない。
「くそっ!」とイラつく神崎の横で、アイシャは逡巡していた。
赤の王が日本を通りすぎたと聞いた時は、悠真くんがいたから戦いを避けたのではないか? と考えた。恐らく間違いはないだろう。
それにも関わらず戻ってきたとしたら……。
「まさか……死んだのか? 悠真くんが」
「なに!?」
深刻な顔でつぶやいたアイシャの言葉に、神崎は驚いて足を止めた。