From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (199)
第199話 抑圧
会議室に沈黙が降りる。
「緑の王と……緑のダンジョンの攻略」
悠真が噛みしめるようにつぶやく。どんな魔物か分からないが、【赤の王】と同じぐらい強いんだろう。
ダンジョンの攻略も、どれほど大変か分からない。
だが、選択の余地はない。
悠真が承諾しようとした時、話を聞いて神崎が噛みつく。
「さすがに無茶なんじゃねーのか!? バカ強ええ【
王
】と、最大級のダンジョンの攻略……割に合うとは思えねが、どれぐらいの魔宝石が手に入るんだ?」
「インドからは、マナ指数16000ほどの”白の魔宝石”を用意すると言っています。どうしますか? 断ることもできますが」
芹沢の答えに三人は黙り込む。それが妥当な報酬なのかどうか、誰も判断できなかったからだ。
もしかしたら、もっと効率的に魔宝石を集める方法があるのかもしれない。
それでも――
「やります! すぐに進めてもらえますか?」
悠真が前のめりに言うと、神崎が驚いた顔になる。
「いいのか? お前は【赤の王】と戦って死にかけたんだぞ。次は無事じゃあ済まないかもしれん」
心配する神崎に、悠真は力強く答える。
「楓を助けるためなら、どんなに危険でも行きます! あいつは俺のために命をかけてくれた……今度は俺が命をかける番です」
楓のことはアイシャに頼んでいたが、完全な保存はできないと言われていた。蘇生の魔法が使えたとしても、楓の体の状態によっては意味がなくなるかもしれない。
なるべく早く魔宝石を集めないと……。
悠真の言葉を聞いて、神崎は頬を緩める。
「かっこいいこと言うようになったじゃねえか! それでこそ男だ。俺は全力で協力するぜ」
神崎に続いて、ルイも口を切る。
「僕も賛成だ。僕にできることがあるならなんでも言ってほしい。楓を助けたい気持ちは、悠真とかわらないからね」
神崎とルイの言葉を聞いて、悠真は心強く感じた。
金属スライムの力を使えば、どんな魔物にもそうそう負けないだろう。自信を持って討伐依頼を受けると芹沢に伝えたが、彼は浮かない表情をした。
「分かりました。三鷹さんの意思は総理に伝えます。インドに行く準備は進められると思いますが、ただ一つ問題がありまして……」
「問題?」
悠真は怪訝な顔をする。
「私や総理は、三鷹さんが海外に行くことを容認しようと考えています。しかし一部の議員からは、出国に難色を示す者もおりまして……」
「どうしてですか?」
「三鷹さんが日本の防衛に不可欠だと考えているようです。今後、【赤の王】のような魔物が来た場合、対抗する手段がありませんから」
神崎が怒り交じりに「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「そんなことは、国や自衛隊がなんとかすることだろうが! なんで悠真がそんなもんに付き合わなくちゃいけねえんだ!?」
「もちろん、分かっております。議員の説得は我々の仕事ですので、支障がないよう話を進めています。ただ政権が発足して間もないため基盤が安定しておらず、少し時間がかかることをご了承ください」
少々不安な情報もあったが、芹沢との話し合いは終わり、悠真たちは席を立つ。
今後のスケジュールは調整したうえで、追って伝えるとのこと。白の魔宝石集めは政府が全力でサポートしてくれるようだ。
悠真は芹沢にお礼を言い、取りあえずホッと息をつく。
楓を助ける道筋が、おぼろげながら見えてきた。四人は会議室の扉を出て、正面玄関へと向かう。
その時、背後から大きな声が聞こえてきた。
「三鷹悠真と言うのは君か?」
悠真が振り返ると、そこにいたのは背広を着た四十代ぐらいの男性。後ろには取り巻きのような人たちもいる。
「小笠原先生!」
芹沢が驚いたように声を上げる。悠真は改めて男の顔を見た。
小笠原……テレビで見たことがある。確か若手の政治家で、人気があるんじゃなかったかな。
悠真がそんなことを思い出していると、小笠原はツカツカと歩いてくる。
「君が三鷹くんだね。私は官房長官を務めている小笠原と言う者だ。総理やそこの芹沢がなんと言ったか知らないが、君には出国制限がかかっている。これは政府与党の総意だ。従ってもらうよ」
目の前にきた小笠原は存外大きく、180以上はあるだろうか。
威圧的な強い眼差しで見下ろしてくる。
「小笠原先生、その話は後日行う予定です。先走った発言はおやめください」
芹沢の言葉に、小笠原は鼻で笑う。
「我々の派閥が高倉総理を支えてるんだぞ。分かっているだろう、芹沢」
「それは、もちろん……」
芹沢は明らかに動揺していた。小笠原がいかに立場の強い政治家なのか、容易に想像できる。
「おい! なんなんだ、あんた? 急に出てきて偉そうに」
神崎が一歩前に出る。政治家相手でも物怖じする様子はない。
「君こそ誰だね? これは決定事項だ。異論は認めない」
高圧的な態度でものを言う小笠原に、神崎は青筋を立てた。そして悠真も。
「俺は行きます。誰がなんと言おうと」
神崎の隣に立ち、毅然と言った悠真に、小笠原は顔をしかめる。
「自分の立場が分かっていないようだな。君は東京を破壊した罪を棚上げされているだけなんだよ。もし言うことを聞かないというなら、力ずくで拘束する」
「なんだとお!?」
神崎がギリッと歯を噛み、小笠原に詰め寄ろうとする。それを悠真は腕を掴んで止めた。
「邪魔すんな、悠真! こいつは一発ぶん殴ってやる」
鼻息荒い神崎に、悠真は静かに言う。
「大丈夫です、社長。俺がやりますから」
「なに?」
悠真が神崎の前に出て、小笠原と向かい合う。睨んでくる鷹揚な政治家に対し、悠真はまっすぐに視線を返した。
「力づくで止める?」
悠真の皮膚が黒く染まってゆく。体が徐々に大きくなり、服が液体に取り込まれ、全身が筋肉と鎧に包まれる。
額から長い角が伸び、鋭い瞳が眼前を見下ろす。
自分より大きい体躯になった怪物に、小笠原の顔が恐怖に染まる。
「やれるもんならやってみろ!!」
悠真は左の拳で、軽く壁を殴りつけた。激しい衝撃音と共に壁に大穴が空き、何本もの長い亀裂が四方に走る。
小笠原は「ひいっ」と情けない声を上げて尻もちをついた。
ぶるぶると震え、もう文句を言ってくる気力はなさそうだ。
「やめろ、悠真!」
ルイが苦言を言ってくるが、これ以上なにもする気はない。悠真は「帰ろうか」と
踵
を返す。
芹沢がなにか言いたそうに立ち尽くす中、三人は正面玄関に向かって歩く。
「それにしても、その姿は目立つよ。元に戻れないの?」
ルイに聞かれ、「五分経たないと無理だな」と答える。
神崎は「まあ、いいじゃねえか」と気軽に言うが、官邸にいる職員は【黒鎧】の姿を見て恐れ
戦
いていた。
やっぱり、この姿は怖いようだ。
悠真は体を溶かして、小さく丸い金属スライムの形になった。
ルイは「そんな姿にもなれるの!?」と驚いた表情を見せる。
「まあな、これなら目立たないだろ? ピョンピョン飛び跳ねると驚かれるから、お前が運んでくれよ」
「え? うん、いいけど」
ルイは戸惑いながらも了承してくれた。悠真は丸っこい金属スライムの姿のまま、ルイの胸元までピョンッと、飛び上がる。
キャッチしたルイの両腕が、ガクンッと下がった。
「重っつ!! 悠真、こんなに重いの!?」
「まあ、金属だからな」
「そういうの最初に言ってよ。腰をやっちゃうよ」
「悪い、悪い」
そんな会話をしながら、三人は正面玄関を出て官邸を後にした。