From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (2)
第2話 庭に穴が空きました
「なんだコレ? 陥没したのかな……」
悠真は吠えているマメゾウを手で制し、ポッカリと開いた穴をしゃがんで覗き込む。丸い縦穴で、深さは一メートルぐらい。奥まった横穴もある。
思ったより深いなと思っていると、穴の中で何かが
蠢
いた。
「ん? なんだ、なにかいるのか?」
更に覗き込むが、暗くてよく見えない。「仕方ない」と言って悠真は家に戻り、タンスの一番上の引き出しから懐中電灯を取り出して庭に戻る。
懐中電灯のスイッチを入れ、穴の中の様子を確認した。
穴の中にある横穴は畳一畳分もない広さで、どこにも通じていない。大人一人が屈んでやっと入れるくらいの空間だ。
そして、
そ
い
つ
は穴の奥にいた。
ハンドボールより少し小さいぐらいだろうか、グレーの体をした生き物でプルプルと震えながら動いている。
「なんだ……こいつ?」
不可思議な生き物だが、どこかで見た記憶があった。悠真は慌てて家に戻り、スマホで検索する。
出てきたのは、ダンジョンの魔物を掲載しているサイトだ。
「あった! これだ」
悠真が見つけたのは『スライム』の項目。ゲームによく出てくる魔物だが、サイトに載っているスライムは、より不気味な感じがする。
大きさも直径が十六センチとあり、穴の中にいるものと同じくらいだ。
だが違う部分もある。本来スライムの体は半透明で『青』『水色』『赤』『緑』などの色をしている。
だが、穴の中にいるのは半透明ではなく、グレーという変わった色だ。
「スライムじゃないのかな?」
悠真はさらにネットを検索してみた。すると一件の記事に目が止まる。
それは、アメリカのダンジョンで目撃された『メタルグレーのスライム』について書かれた記事だ。
「メタルグレーのスライム?」
記事には、アメリカの中西部にある中規模ダンジョン『H211』で、変わったスライムが発見されたというものだ。
そのスライムはメタリックな色で、やたら素早く、あっと言う間にいなくなったと書かれていた。
目撃した探索チームのリーダーエリックは、絶対に新種のスライムだと証言したが証拠映像が不鮮明で詳しいことは分かっていない。
悠真は他にも情報がないか検索を続けると、イタリアでも目撃例があった。
イタリアの探索者ロッシーニは、大規模ダンジョン探索中に金属でできたスライムに出会ったと話している。
ロッシーニは持っていた剣で斬りつけたが、やたら硬く、まったく傷が入らなかったと言う。しかし、こちらも証拠映像や画像がなく、ホラ話だと言う人も多い。
「目撃例は少ないけど、やっぱりスライムみたいだ」
悠真は顔をしかめる。あれがスライムなら、庭にできた穴はダンジョンということになる。
こんな民家にダンジョンができることなんてあるのか? そう思ってスマホで更に検索してみる。分からない事はネットで検索するのが一番だ。
出てきたニュースの記事や書き込みを見ると、民家や民間企業の敷地にできたケースもあるようだ。
「まあ、ダンジョンみたいな超常現象に、誰の土地かなんて関係ないよな」
ダンジョンが民間の敷地内にできた場合、最寄りの警察や自治体に連絡するのが普通らしい。
その後は都道府県の職員が調査に来て、ダンジョン自体は国に接収されるそうだ。
土地を引き渡す際の手続きや、補償に関する記述はない。
「なんか、めんどくさそうだな……」
家の庭に他人がずかずかと入ってきて、立入禁止になるなんて最悪だ。マメゾウも遊ぶ場所が無くなるし。
悠真はもう一度スマホの記事に目を落とす。
目撃された『金属スライム』は討伐された訳じゃない。もし穴の中にいるのが、その金属スライムなら……倒せば世界初の討伐になるんじゃないのか?
悠真の頭に、そんな考えがふと
過
った。