From Slaying Metal Slimes to Being Called the King of Black Steel e RAW novel - Chapter (203)
第203話 火の魔法
悠真たちは車でモジョケルト市内に入る。都市と聞いていたので、ビル群などを想像していたが、目に入ってくるのは自然豊かな街並みだ。
日本で言えば、かなり田舎の方に近いだろう。
住宅街を抜けて、周りとは違う立派な建物に到着した。政府の庁舎のようだ。
車は鉄の門扉をくぐり、正面口の前で止まる。
リムジンから降りた三人の前に、何人かの職員を従える女性が話しかけてきた。
「ようこそお越しくださいました。私は東ジャワ州の州知事、ディアン・ミラと申します」
「あ、どうも」
丁寧な出迎えに、悠真はかしこまる。ディアンと名乗ったのは白いヒジャブを頭にかぶった五十代ぐらいの女性だ。
いきなりお偉いさんに会ったことも驚いたが、それ以上に驚いたのが――
「すごい! このイヤホン、本当に言葉が分かる」
「ほんまやで、ほとんどタイムラグなしで聞こえてくるやん」
悠真と明人はイヤホンの性能に感動する。どうやらディアンも同じイヤホンをしているようで、会話に支障はなかった。
ディアンは笑みを零す。
「長旅でお疲れでしょう。ホテルを用意していますので、そちらでお休み下さい」
どうやら歓迎されているようだ。悠真は「ありがとうございます」とお礼を言い、リムジンに再び乗り込んでホテルに向かう。
詳しい話はそこでするようだ。
明人は、「あ~ホテルで休めるのはありがたいで~」と肩を揉みながら零す。
悠真も疲れていたため、ホテルを取ってもらったのはありがたかった。しかしそれ以上に、一刻も早くダンジョンを攻略したいという想いが募っていく。
◇◇◇
政府が用意してくれたホテルは、思いのほか立派な建物だった。
外の風景とは一線を画す、近代的な外観。聞けば三ツ星のホテルらしい。
悠真たちは連れ立って中に入り、ラウンジのソファーに腰かける。対面には政府職員の男性が座った。
「初めまして、皆さんの活動をサポートさせて頂く、ヘンドリと申します。以後、お見知りおきを」
「お、お願いします」
悠真は緊張して答える。彼の耳にも翻訳用のイヤホンがあった。かなり活用されているようだ。
「こんな時期に海外から来てくれるなんて、とてもありがたいです! 役所の人間はみんな感謝してますよ」
ヘンドリと名乗った役人は二十代後半くらいで、とても明るい性格に見える。
丸っこい顔に褐色の肌。笑った時にこぼれる白い歯が、とても印象に残った。
「海外から応援に来てるのは、僕たちだけですか?」
悠真の隣に座るルイが、ヘンドリに尋ねる。
「もちろんです。今は世界中、自国を守るのに精いっぱいですからね。他国に
探索者
を派遣する余裕なんてありませんよ」
ルイは「そうですよね」と納得して頷く。するとヘンドリは辺りを見回してから前のめりになり、小声で話し始めた。
「ところで、あの噂は本当なんですか?」
「噂? 噂ってなんですか?」
悠真が怪訝な顔で聞くと、ヘンドリは目を見開き、「決まってるじゃないですか!」と声を大きくした。
「【赤の王】を撃退したって話ですよ。世界で日本だけがやってのけたって、もっぱらの噂ですからね」
悠真は「ああ」と声を出す。正確には”撃退”ではなく、”討伐”なのだが……国際的には、ちゃんと伝わっていないようだ。
「まあ、そうですね」
「やっぱりそうなんですね! そんなすごい国の
探索者
が応援に来てくれるなんて、めちゃくちゃ心強いですよ!」
ヘンドリは嬉しそうに顔を
綻
ばす。こちらは魔宝石が欲しくて助勢しているだけなのだが、これだけ喜んでもらえれば悪い気はしない。
「俺たち早くダンジョンを攻略したいんで、すぐに連れてってもらえますか?」
悠真の言葉にヘンドリは驚く。
「いえいえ、今【白のダンジョン】の攻略計画が進んでいますので、皆さんにはそれに参加して頂きたいんですよ。皆さんだけダンジョンに送るなんて、そんなことは考えていません」
「その計画はいつ実行されるんですか?」
ルイが尋ねる。
「二日後です。インドネシアの
探索者集団
が多くそろいますので、その時一緒に参加して頂きたいです」
「二日後か……」
悠真は口に手を当て考え込む。すぐにでもダンジョン攻略に取りかかりたかったが、政府の方針に逆らう訳にもいかない。
仕方なく悠真は納得し、ヘンドリに二日後の攻略に参加することを伝えた。
笑顔でお礼を言うヘンドリと別れ、悠真たちは宿泊する部屋に向かう。とても綺麗で広い部屋だったが、相部屋だったことに明人が不満を漏らした。
「なんや! 個室ちゃうんか、ちょっとセコないか?」
ルイが苦笑し、「まあ、いいじゃない。タダで泊まらせてもらえるんだから、ありがたいよ」とたしなめる。
悠真はベッドに大の字に寝転がり、「二日は長いよ」と不満気につぶやいた。
ルイと明人は顔を見合わせる。悠真が一刻も早く”白の魔宝石”を集めようとしていることは、もちろん二人も分かっていた。
だが、ここで文句を言っても仕方ない。
「しゃーないやないか悠真。この二日の間に、やるべきことをやるしかないやろ」
「やるべきこと?」
明人の言葉に、悠真は眉を寄せた。
「あるやろ! お前、火魔法の練習、まったくしとらんのとちゃうか? 魔宝石飲み込んだからって、すぐに魔法が使える訳ちゃうで」
「あ……そういえばそうだな」
確かに【赤の王】の魔宝石を飲んでから、まだ一度も火魔法を使っていない。
それに魔法付与武装である”可変式ピッケル”も、どのくらい威力が出るのか試していなかった。
どちらもダンジョン攻略前に調整しておかないと。
「強力な魔法ほど、コントロールが難しいんや。火魔法の扱い方なら、ルイに聞いた方がええやろ」
「うん、そうだね。僕が教えるよ」
ルイはバスルームから湯桶を持ってきて、ローテーブルの上に置く。
桶には水を張り、火事が起こらない対策をした。
「じゃあ悠真、この桶の上で指を出して」
「お、おう……」
悠真はローテーブルの前で座り、桶の上で人差し指を立てる。
「意識を集中して、指先に小さな火球を作ってみようか」
「分かった」
悠真は意識を集中する。これは水魔法を使うためにした練習と同じだ。
ここでうまくコントロールできれば、実際の戦闘でも使うことはできるだろう。悠真は目を閉じ、指先に力を込める。
するとパッと明るくなるのを感じた。
水魔法の時はけっこう苦戦したが、今回は簡単に発動したようだ。
悠真は嬉しくなって瞼を開いた。目に映ったのは意外な光景。
自分の手が燃えていた。それも高い火柱を上げて。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああああ!?」
「ええええええええええええええええ!?」
三人とも絶叫した。